JAZZ 43 先に起きたのはゼフェルだった。
抱きしめてキスをしまくった体が横にある。すーすーとおとなしく眠っている。
信じられない幸福感で胸がいっぱいになる。こんな朝が毎日続けばいい。だけどそうはいかないのだろう。手放す気なんてなくても、アンジェリークはゼフェルと一緒に住んでくれるかわからないのだ。ゼフェルが強行突破しても、アンジェリークは彼の手の中から軽く逃げて行ってしまうかもしれない。
何にしても。
もう少しだけ、この柔らかな幸せの中にいることにした。
たぬき寝入りはやがて、本当の眠りに変わって行った。
「ゼフェルー」
声がしたのは右の方から。アンジェリークがさっきまでいた方向ではない。
ダイニングのある方からだ。
「ゼフェルー?」
問いかけるような声がして、ゼフェルはようやく目をあけた。現実はわかっていたつもりでも、いざ目の前にアンジェリークがいるとなるとやはりびっくりしてしまう。アンジェリークは覗きこむようにしてゼフェルの赤い目を待っていた。
アンジェリークは白いワンピースに赤のエプロンをして。
「おはよう」
照れたように笑った。
どうすればいいんだろう。
どうすればこの体をうまく抱きしめてやれるのか。
とりあえず。
起き上がらなくは。
そう思ってゆっくりと起き上がる。シーツにくるまったまま。足元に落ちている衣類をとろうとした。
でも、そこに服はない。
「あ?」
けげんな声があがる。
その眉のゆがみでアンジェリークはゼフェルが変に思っていることを悟った。
「あ、あのね・・・」
は?
アンジェリークは。
ゼフェルの下着とか服とかを。
洗濯している、というのだ。
「どうするんだよーー!!!」
叫んだけれど、聞こえていないのはアンジェリークの後ろ姿。
「もうすぐ朝ごはんできるからね、ちょっと待ってね。洗面所あっちだから」
向こうを向いたままぺらぺらとしゃべる。たぶん照れているのだろう。昨日の様子からして、アンジェリークはあれが初めてだ。そういう次の日にどうしていいのかわからないらしい。
さて。
どうしたものか。
服もない。歩けない。
アンジェリークは声が聞こえないからこっちに来させることができない。
抱きしめられない。
クソー
作戦か?と心の中でつぶやく。
でも、アンジェリークの作戦は違った。アンジェリークは服を洗濯して、もうちょっとだけゼフェルに一緒にいてほしかったのだ。もうすぐ洗濯が終わる。でも服がかわくのは夕方だ。それまで一緒に。
アンジェリークとのリハーサル以外はゼフェルの体は空いているはずだ。だったら、このままアンジェリークと一緒に、彼女とのリハーサルまで一緒にいてくれても。
でもそんなこと言い出せないから、哀しくもゼフェルの服を奪ってほんの24時間のゼフェルを拘束してしまいたかったのだ。
その作戦は見事に当たった。
「ゼフェルー、朝ご飯できたーー」
軽やかに、のほほんと言って。
軽い洋食の朝ご飯を持っていく。ゼフェルがどうやって食べるか、なんてわからない。後先は、もう考えないことにした。たぶんゼフェルはシーツにくるまって来るのだろう。
そしてその予測はその通りになった。
シーツにくるまったゼフェルはアンジェリークの待つちゃぶ台―――を通りこしてアンジェリークのすぐ近くにやって来る。
え?ええ??
そして、つかまえられるのだ。
シーツのままで、本当に身動きがとれなさそうなゼフェルの腕が、アンジェリークの腰をしっかりとつかむ。
「おはよう」
そう言ったみたいだった。何せ、横からだ。見えないし、聞こえない。でも、そう言われた気がした。
うれしくなって、ふふっと微笑む。
「おはよう。朝ご飯さめちゃいますよー」
夫婦みたいな会話が。
ゼフェルの脳味噌をぶっとばした。