16から ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   急に、何だかおかしくなってしまって、くすっと笑った。 あのときのゼフェルの顔が、いつもの彼じゃなかったからだ。いつもの彼といっても、ウンチングスタイルのゼフェルしか知らないのだけれど。でも、あの彼は、くしゃみなんかしなかったし。 ましてや、キスなんて。   何で。 さっきから渦をまいていた疑問がまた蒸し返される。自分はゼフェルが好きだ。ゼフェルとキスしても、かまわないと思った。どうしようもなく、好きだ。でも、彼は? 好きなの? 言葉には出せない質問だった。 もし、答えがNOだったら? 何となく、でそんなことする人じゃないとわかっているけれど、でも怖くて聞けない。 好きでもない、嫌いでもない、なんて言われたら、もう会えない。会えないなんて、耐えられない。 あの、”らっしゃい”が聞けないなんて・・・・。 同窓会、行けばよかったかな、と突飛な考えが浮かんでくる。でも、すぐに消えた。 同窓会に行っていたら、ゼフェルはずっとあのまま店番を続けていただろう。アンジェリークがもしゼフェルの体調に気付かなかったら、ずっと。そしたら他の誰かが彼を助けて、運んで、自分と同じようにおかゆを作ったのかも。そして彼は自分ではない誰かに、こう言うのだ。 『うめぇよ』 と。 耐えられなかった。アンジェリークは黙ったまま、くしゃみで顔をゆがめたままの彼を見つめ続けていた。 今日、八百屋に寄って本当によかった、と思ったのだ。 思わぬ展開になってしまったけれど。それでも、自分以外の誰かとゼフェルが食事をしている姿なんて、想像したくなかった。 「ゼフェル」 はっきりと、そう言った。 「ゼフェル、どうもありがとう。ここでいいわ。すぐそこなの・・・」 くるっと左に向き直って。 そうして、いつも八百屋から逃げるように、たったっと駆けていく。 ゼフェルは追いかけようとした。 でも、アンジェリークの背中は、『付いてこないで』と言っていた。   ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   結局ゼフェルは追いかけていけなかった。 そこら辺の電柱を思いっきり蹴る。痛いけれど、心臓はもっと痛い。 走っておいかければよかったのだろうか。 もしかして。 もう、彼女は店に来ないかもしれない。 あんなことをしてしまったのなら、当然だった。 でも、そんなことゼフェルには耐えられない。死んでもいやだ。 『あの〜』が、聞けなくなるなんて。 ずきんずきんずきんずきんずきんずきん・・・・・・ ずっと抑えられていた頭痛が戻ってくる。心臓の鼓動がそのまま頭の中に広がって、ヘンになりそうだ。 頭の中はそれでも、さっきまでのアンジェリークでいっぱいだった。 『あの〜』と言ってきた彼女。 『おかゆ』な彼女。 『ゼフェル』と言った彼女。 そのあとは映像ではなく、感覚がよみがえる。 熱い唇だった。熱い舌だった。 頭が痛い。   頭が痛い。 「クソ!」 どうにもならない頭痛を抱えて、ゼフェルはその場にしゃがみこんだ。   「・・・」   ・・・たったたったたったったったった・・・・・ 足音が聞こえてくる。 聞き覚えのある足音である。 ? 誰だかなんて、今のゼフェルには言うまでもなかったことであった。   ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   アンジェリークはひたすら急いだ。 日頃走ることなどないし、もともと足が遅いから、急いだってそんなに早いわけではない。 要は気持ちの問題である。   元の道に帰ってみれば、ゼフェルはしゃがんでいる。いつものウンチングスタイルで、ぼうっとしているようだった。 よかった。 ここにいてくれてよかったと思った。 「あの〜」 八百屋の時と同じように、声をかける。いつもと何も変わりはない、そういう気持ちで。そうあってほしいという気持ちで。 「・・・・・」 らっしゃい、はなかったけれど、ゼフェルはアンジェリークを見た。その顔色は、随分白い。銀色の髪にまざってしまいそうなほど。普段の浅黒さからは想像もできない白さだった。 「あの、お薬です。渡しそびれちゃったから・・・」 ずばっという音がしそうなほどの勢いで薬を渡す。でもそれに伸ばされる手はない。八百屋では受け取ってくれようとしていた。もうその力も残っていないようだった。 「おうち・・・・・帰りましょ・・・」 よいしょっと、ゼフェルのよこにアンジェリークがしゃがんだ。 「大丈夫ですか?」 にこ、と笑ってみせる。 私は、大丈夫だから。だから、お願いだから、明日もあさっても、私にいつもと同じように接して下さい。 すがるような願いが、そこにはあった。 「・・・・・・」 相変わらずゼフェルは無言で返す。 すっくと立ち上がって、来た道を戻ろうとする。 アンジェリーク一人を残して。 でもやっぱり頭が痛いのだ。 その場で立ち止まる。 そしてまた、動きだす。 アンジェリークは追いかけていった。 そして、脇の下に肩をいれる。彼を支える。頭の痛みはしかたないけれど、少しでも力になってあげないと、と思ったのだ。 もしかしたら、厭がられるかも。 それでも引く気はない。ゼフェルを無事家まで送り届けなければ、今夜はもう、絶対眠れない。 でも、ゼフェルは抵抗しなかった。 おとなしく、彼女に体重をあずけたのである。 随分弱っているのが見てとれた。   ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   何だかよくわからないうちに自宅に帰っていた。 玄関は開きっぱなしだったから、ゼフェル自ら蹴って開けた。開いた瞬間、カツオの匂いがする。皿は洗ったし、匂いの元は残っていなかったけれど、名残があったのだ。 そのあと自分がしてしまったことを思い出す。あのキスだ。 あ・・・・・ ジン、とする。 今度は痛いんじゃなくて、熱い感覚。 頭は相変わらず痛かったけれど、それよりも何よりも。 横にアンジェリークがいることが、うれしくて、どうしようもない。   「靴、脱げますか?」 その一言で、また今日の思い出がフラッシュバックする。靴を脱がされて、彼女も靴を脱いで・・・・・・・・・ ? あったかい感覚が、もう一つあった。 ・・・・・・・・・・・・・・・   ずきん 胸が痛んだ。 思い出してしまった。 ゼフェルは、アンジェリークを抱きしめたのだ。むりやり、厭がっているのに、ムリヤリ。 オレ・・・・・・・・ 抱きしめたのに、彼女はおかゆを作ってくれいて。 キスしまくったのに、薬を渡すために戻ってきてくれて。 ゼフェルは、どうしようもないバカだった。どうしてそんなことを忘れていたのだろう。 好きが、5倍だとか、10倍だとか、ものすごい量に膨れあがる。もともと1000だったものが、5000にも、10000にもなっていく。きっとすぐに、1億とか、1兆とかいう数字になるのだろう。 胸が痛む。 好きでたまらない女を、こんなに近くに置いて。 それでも、何にもいえないのだ。 好きだとか、何だとか。今はまだ、アンジェリークの「好意」に甘えていたかった。突き放されることなんか、考えたくもないのだ。明日から彼女が来なくなる、なんてことには、したくなかったのである。 ゼフェルはいつもの勢いを失っていた。 恋が、ゼフェルを弱らせ、恋が、アンジェリークを強くしていた。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   はぁ。 アンジェリークはため息をこぼした。 ゼフェルの全体重を支えていたわけではないけれど、やっぱり重たかった。 ゼフェルをベッドまで運んで、毛布をかけてあげる。 幸せな気分だった。 でもそれも一瞬で終わってしまう。 結局お薬は飲んでもらえないまま、アンジェリークが握りっぱなしだ。 どうしようかな。 夜道は暗いし、怖い。もう、11時に近かった。今から帰るなんておそろしいことはできそうになかった。 しょうがなく、台所に行く。冷蔵庫を開ける。 ビニールにいれられたお豆腐。 それから葱はここのを使って。 いりこもあった。 わかめは、台所の近くの棚の中にあった。 ご飯はジャーの中に沢山残っている。 ついでに言うと、シャケも冷凍されていた。   よし。   明日の朝ご飯は、和食に決定した。         気が付いたのは、ゼフェルの方が先だった。いつもの習慣で早起きをしてしまったのだ。たぶん、朝の5時。新聞配達がこの店の前を通り過ぎる時間である。 でも、今日は休みだ。仕事もない。 ゆっくり寝るか。 そう思って、また毛布をひっつかんで肩まで入れてしまおうとした瞬間。 重かったのだ。 何かが毛布の上に乗っている。 ゼフェルの毛布の上に乗るものなんて、タカがしれていた。 あの禁断のブツか、もしくは、目覚まし時計か。 でもそのどちらもこんなに重くはない。 真っ暗だから、よくは見えなかったけれど、何となく。   黄色いような・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   ピタッと、ゼフェルの体は凍りついた。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++     黄色には、覚えがあった。 あんじぇりーく。 それしか、覚えがなかった。 その彼女が、今まさにゼフェルの毛布にしがみつくようにして、眠っているのだ。 すー、と規則的な呼吸が聞こえる。 ゼフェルは体中の氷をバリバリとはがして、彼女の肩に触れる。 暖かい。 でも、寒そうだ。   どうすればいいのだろう。 全然わからなかったけれど、アンジェリークを起こさないように、そうっと毛布から出る。 それから、押入をそうっと開けて、もう一枚毛布を出す。きれいなヤツだ。昔母親が使っていた気がするけれど、あまり覚えていない。 それを、ゆっくりとアンジェリークの肩にかけてやる。かなり無理な体制で寝ているようだ。 でも今から起こして布団で寝させるのはやめた。 そしてまた、ゼフェルは毛布の中にもぐりこんだ。そうっと、そうっと。最後に、ちょっとだけ。 ほんの少し、ゼフェルは彼女の髪に触れてみた。 柔らかくて、ふわふわの髪だった。           気が付いたらもう日が昇っていた。 何時だ?と思った瞬間、彼女がいないのに気が付いた。 耳をすませば開いたままの扉の向こうから何かの音がしている。 鼻唄みたいなのも少し。 またしても熱いものが、ゼフェルの頭から爪先まで駆け巡った。 扉の向こうには、アンジェリークがいたのだ。鼻唄なんか歌いながら、ねぎでも切っているようだ。ちょっと無理な姿勢で台所を見る。ベッドから転げ落ちないように気をつけながら。 するとやっぱりアンジェリークが、鍋にさっき切った葱を入れているところだった。 ぁ・・・ 言葉にならない音がゼフェルの中で暴れだす。 好きだ、が、また、10倍になる。 ゼフェルはとりあえず。 アンジェリークが起こしてくれるまで、狸寝入りをしておくことにした。 彼女と一緒の生活を、少しでも楽しみたかったから。 ただそれだけだったけれど、ゼフェルはそれに「眠いんだ」という余計なオプションを付ける。 全く意地っぱりな男だった。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   その狸寝入りも長くは続かなかった。 アンジェリークが、家中を片付け始めたのだ。静かだったけれど、神経を研ぎ澄ましてアンジェリークの様子を伺っているゼフェルの耳は、その音たちを聞きのがさなかった。 たぶん、布を洗面所に持っていっているのだろう。あっちに行ったりこっちに行ったり。 洗濯機はまわさないようだった。 それから、皿を洗い出した。小さな音が聞こえてくる。 ゼフェルはいてもたってもいられなくて、もそっと起き上がる。アンジェリークを見たくてしょうがない気持ちがゼフェルの強情を負かした。 起き上がって、洗面台へいく。 「あっおはようございます」 洗面台へ行こうとした足が、いきなり膝かっくんもいいとこ、という勢いで力を失っていく。 『おはようございます』 家族な会話がゼフェルの膝を曲げた。 よろけて、また膝に力をいれて、何とか洗面台へと移る。 すると、アンジェリークが入って来た。 「洗濯機、まわしていいですか?」 ・・・・・・ もう、次は膝かっくんどころではない勢いだ。 さっきまではゼフェルが起きてはいけないと、回さずにいたのだろう。 ゼフェルは頭から水を被りたい気分になった。 「・・・いい」 それだけを言って、蛇口をひねる。水が一気に流れ出す。古い洗面台は、水が出る蛇口とお湯が出る蛇口が別々なのだ。ゼフェルは水の出る蛇口だけをひねっていた 当然のように冷たい水が両手いっぱいに溢れ出す。 それをはねあげるようにして顔にかける。 少し頭がスッキリしてきた。 顔を洗い終わって、鏡の中の自分の横に、アンジェリークがいるのに気が付く。 手に何か・・・・・・・ タオルを持っていた。 「はい」 と、手渡すのだ。全くもって、ゼフェルの気持ちを考えない女だった。けれど、それにまた凍ったまま動けなくなるゼフェルもまた、バカだった。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   ゼフェルはひったくるようにタオルを受け取るとごしごしと乱暴に拭き、洗濯かごの中に投げ捨てた。ちょっと的がはずれたそれは、かごの端にひっかかる。ゼフェルがそんなことを気にするわけがないのだが。 それを慌ててアンジェリークが拾う。続いてはみがきをした。口を拭くタオルはそこらに捨ててしまったので、腕でぐい、と拭う。 「あの」 洗面所を出ようとしていたゼフェルの動きがピタリと止まる。全くもってペースが乱れる。今まで誰が何と言おうと、随意運動をやめることなどなかったというのに、この女ときたら、それを知らずにゼフェルを急冷凍してしまうのだ。 「何だ。」 吐き捨てるように言って、また洗面所を後にしようとする。朝ご飯が、食べたかったのだ。彼女の作ったそれである。 「お風呂・・・入りません?入れておいたんです。」 すみません、勝手に。 謝る口ではあるが、顔は「えへっ」てなものである。 またしても、ゼフェル急冷凍が発動した。 しばらくして、 「入る」 という声が聞こえる。蚊の鳴くような小さな声だ。 洗面所にずかずかと戻り、乱暴に服を脱ぎ捨てる。まだそこにアンジェリークがいたが、大急ぎ洗面所を出ていって、扉を閉めた。   はあ・・・・ ため息が出る。 アンジェリークのおせっかいのために、ゼフェルの心臓はもう3回鼓動を止めた。そのたびに、ゼフェル自らが電気をショックを与えるのだ。おせっかいをするのはやめてほしいと思った。思わせぶりなことはするな、と。 クソ! どうして自分はこうなんだろう。手に入れたいのに、気持ちを素直に伝えられなくて、じれったくなって、もうそのころには行動に出てしまうのだ。 抱きしめたり、キスしたり。 順番がバラバラで、間違う度に自分にチッだとか、クソ、だとか言っているのだ。 本当に、バカみたいに好きだった。   風呂につかると、とても熱くて、肌が急に真っ赤になる。 ゼフェルは日頃あんまり熱いお湯にはつからない。アンジェリークは熱いお湯が普通なのだろう。 ちょっと、負けた気がして悔しい。 それにしても、どうしてオンナってのはこうも熱いお湯につかろうとするのだろうか。 ゼフェルは温泉なんかとはトンと縁のない男だ。だから、そういう女たちの存在は認めることはできても、それに同意することはできない。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 長く湯につかっていると、イケナイ考えが次から次へと浮かんでくる。温泉。温泉なのである。温泉といえば、お湯だ。温泉といえば、名物石鹸投げて(笑)である。温泉と言えば。 ハダカってことなのだ。 もわもわもわっと、アンジェリークが浮かんで来る。 記憶の中の彼女はいつも緑色の郵便局の制服を来ているのだけれど、このアンジェリークは・・・・ 要するに、ハダカだ。   ・・・・・・・ ハッ かなり危険な思考を一時停止させ、ゼフェルはザバッとお湯から出た。髪とか体とかを適当に洗う。 適当にお湯をひっかぶって、慌てて風呂から上がった。 何故かというと。あのアブない記憶のせいで、また自分がバカなことをやりそうだったというのと、それからもう一つ理由があった。 愛しいアンジェリークがゼフェルの風呂上がりを待って、朝ご飯のしたくをしているはずだから、だ。 それ以外のオプションの言い訳は、今のゼフェルには考えられなかった。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   慌てて風呂を上がって体を拭くのもままならかったせいで、何だか背中だとかが湿っている。イヤな感覚だ。 そんなことを思いながら、至って冷静を装って、洗面所を後にする。 オレは平気だ。いくら女が朝飯を自分のために用意してくれていたとしても、笑顔で自分をむかえて、「どうぞ」なんて言って箸を出してくれても、ゼッタイ、ゼッタイ、グラつきゃしないん、だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。   ???   ちゃぶ台の上には、お箸と、味噌汁の入ったお碗と、それからシャケののっかった皿と。 それから紙が一枚置いてあった。 女三下り半、というわけではない。そういう関係でもなかったが。 しかし、それを突きつけられた時のような・・・想像であるけれど・・・ひんやりとした厭な汗が背中を伝う。   ゼフェルはふらっと洗面所からちゃぶ台の方に歩いて行って、その紙を掴む。 ゼフェルへ 私は帰ります。 朝ご飯ちゃんと食べて下さいね。 また気分が悪くなったら、お薬を飲んでゆっくり寝て下さい。 それでは、お大事に。   アンジェリーク・リモージュ   そんなことが書いてあった。 アンジェリークは、帰ってしまったのだ。 このあったかそうな朝ご飯と薬を置き去りにして。 この熱くてしかたのないゼフェルの心臓を持っていったまま、帰ってしまったのだ。   あったかい。 ゼフェルはふとそのことを思い出した。朝ご飯はまだ熱々だ。 つまり、そんなに時間が立っていないのだろう。 彼女が出ていってから、おそらくすぐ、ゼフェルは風呂を出た。 とすると。 熱い感覚が戻ってくる。お湯よりも熱くて、ゼフェルをいつも釜の中にぶちこむモノだ。それは、厭な感覚のようで、悪い気もしない、奇妙なものだ。 結局、ゼフェルはおせっかいでも何でもいいからそばにいて欲しいと思う自分に気付いてしまった。どうしようもなく彼女が好きなのは理解できても、そこのところはイマイチだったのだ。 ゼフェルは紙を握りしめたまま、走りだしていた。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   髪がべたべたするような気がする。 昨日から風呂に入っていないのだ。化粧も取れていない。歯磨もしていないから、早く家に帰りたかった。 だから、何もいわずに出て来たのだ。 たぶん彼を前にしたら、帰れなくなってしまうだろうから。 今日が土曜日で、明日が日曜日で。あそこの八百屋は日曜日もあいていた。様子を見に、と言って適当に会いに行けばいい。 そう思っていた。 でも、果てしなく、後ろ髪がひかれる。 追いかけて来てくれないかな。 自分でも笑ってしまうほど、ロマンチストになってしまったようだった。そんな都合のいいことなど、早々ありはしないのに、つい期待してしまう。 アンジェリークは頭を振って、その考えを振り払う。 気を取り直して、一歩一歩、歩き出す。   そのうちに、あの街頭の所までやってきていた。 急にあのときの記憶がよみがえって来る。 キスを。 熱烈なキスをされた記憶だ。手首の痛みも、胸の痛みも覚えている。真っ赤な目の動きも。 ・・・・・・・・・・ 胸は痛かった。手首も。どうしてあんなことをされたのか。 すごくつらかった。 それでも、厭じゃなかった自分に気付いた時のこと。 それは、背筋が勝手に伸び上がるような感覚で襲ってきた。寒気がするような、ゾクゾクする感覚。 獲物を追い詰めた時のような・・・そう言われる感覚なんだと思う。 彼の、自分を求める目が、たまらなく好きだ。 キスの合間にとった呼吸も、抱きしめられた時の硬い腕も胸も。らっしゃい、というあの声も、さっきの蚊の鳴くような声も。 もう、何もかも、たまらなく。 好き。   好き。好き。   口にだせなくて、もどかしくて、思い出してまた、ゾクゾクする。 アンジェリークはずっと物思いにふけっていた。 だから、ゼフェルが後ろから近づいているなんて、夢にも思わなかったのである。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   はぁっ   荒く吐く息が聞こえる。心臓もばくばくいっている。 何しろ全速力で走ってきたのだ。アンジェリークを追いかけて、必死でこの道を走って来た。 そして、今目の前に彼女がいる。何故か立ち止まって、うつむいている。 何・・してやがんだ・・・・・ 声に出なくて、変わりに荒い息だけが吐き出される。   ゼフェルは間もなく彼女の肩に手をのせた。 おい、という声はなかったけれど、そういう気持ちで。 「きゃっ」 心底驚いたアンジェリークの目は、飛び出さんばかりに見開かれる。 「どう・・・したんですか?」 アンジェリークはゼフェルの答えを待った。 日頃走るということと縁遠いゼフェルは、まだ息が上がったままだった。ついでに言うと、病み上がりである。無理もない話しだった。 それにしても。 アンジェリークというのは、どうもまぶしい。日差しの中にいる彼女の髪はきらきらしていて・・・それはゼフェルの髪も似たようなものだったけれど、彼女全体を見た時、それは自分のキラキラとは全く違うものだったのだ。そんな光景を見ていると。 好きだ。 勢いに任せて吐き出したかった。 それでも、気弱になってしまう。 もし、と思うのだ。 もし、断わられて、もう八百屋に姿を見せなくなったら。そんなこと、耐えられないのだ。ダメモトでアタックするには、本気になりすぎていたのである。 でも。 それでも。 好きだ。   「・・・朝メシは・・・」 「食べられました?」 にこっと、聞き返してくる。 そんなわけ、ねえだろ。 そう答えたかったが、口の動きがどうもよろしくないようで。 ゼフェルは首を横に振って答えるのだ。まだだ、と。 「冷めちゃいますよ。」 まだ肩にゼフェルの手がのったままだった。アンジェリークはそれをチラと見る。 イヤなのか? むかっとした。アンジェリークにじゃない。自分にでもないこのムカ、は、どこにもやれなくて、ただひたすら中を彷徨っていた。 「おめーも一緒に・・・・・・」 アンジェリークが一瞬びっくりしたような顔をした。 そして、顔を伏せる。何だかとっても厭そうな顔なのだ。 「えっと・・・・・・・」 要するに、厭なのだ。 なら、そう言え。 そんなこと言ってほしくないのに、強情ひねくれゼフェルマインドはそういう気持ちを内側に押し隠した。 「・・・・」 再び沈黙が流れる。   そのときだった。 まさに、そのとき、沈黙を破った者がいたのである。   そいつは。 「ゼフェル」 そう言って、二人の沈黙を破ったのである。 まぎれもなく、ゼフェルの兄であった。   ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   沈黙を破ってくれたのはありがたいが、ハッキリ言って邪魔であった。 ゼフェルは自分の兄を「ウドの大木」と呼ぶことにしている。ウドは当然ながら知能はないが、知能のあるウドなのだ、この男は。 要するに、「考えるウド」である。 名前はウド・・・・・・・ではなく、ルヴァという。ただ無駄に長身な上、無駄な言葉の多いヤツだ。ゼフェルとは全く逆である。 笑って◯いとも!の「インパクト兄弟」に参加すれば何らかの商品は貰えるであろうと思われるほど、インパクトな兄弟だ。この市場では有名な話しである。   「あ〜、ゼフェル、こんな所で何してるんですかねえ」 の〜〜〜んびりした口調で尋ねる。 話してるに決まってるだろっ そう叫んでやりたかったが、何だか吹き飛ばされてしまいそうなので兄の前ではあんまり暴れない。 いたって普通の弟らしく 「話ししてんだよ」 と答えたのである。あのゼフェルが兄には弱いというのは市場では有名な事実その2であった。ゼフェルは兄に弱いわけではなくて、弱い者いじめが嫌いなだけであったが。 「あの〜〜〜〜・・・・こちらは?」 あの〜のあと、たぶん200メートルくらいあっただろう。話しをするのもゆっくりなら、首を回すのもゆっくりなのである。ルヴァの視線は200メートルの後にアンジェリークに向いた。 アンジェリークの方はというと、じっとルヴァを見つめている。かなり、らんらんとした目だ。 心底、きれいな目だ。ゼフェルがまだ見たことのないような。 ズキン。 ピ〜〜〜〜〜〜〜〜・・・ それを見てしまったというだけで、またゼフェルは心臓を止めてしまうのだ。重症もいいとこ。はっきり言って、集中治療室、アンジェ面会謝絶にしたほうが、彼自身の心臓にはいいかもしれない。結局彼は今日何度目かの電気ショックを発動させた。 何でそんなルヴァばっか見るんだよ? イラっという音が左の爪先がらはいずり上がってくる。 「ルヴァせんせ・・・・・?」 先に口を開いたのは、アンジェリークの方だった。ちょうど二人は向き会っていて、二人のラブラブワールドのようにも見えてくる。 ムカっとした音が、今度は右の爪先から這いずり上がってきた。 「え?私をご存じなんですか?」 ルヴァはそのあるのかないのかわからないような目を一瞬開いてアンジェリークに尋ねた。 「ええ!私、アンジェリーク・リモージュです。先生に倫理を習っていました!」 アンジェリークはそれはもう嬉しそうにルヴァと話しをしているのである。 ムカもイラ、も、何もかもが頭から爪先までゼフェルの細胞を食いつくしていく。 「アンジェ・・・・ああ!アンジェリーク!随分大人っぽくなりましたねえ。見違えるようにきれいになりましたよ。ああ、アンジェリークでしたか。」 呼び捨て。 ゼフェルはルヴァの発する一語一語がシャクにさわった。呼び捨てだったことも、アンジェリークも昔を知っているような口調も。 ムカムカムカ! イライライラ! 「何なんだよ!!」 ついに、兄に対してどなってしまった。 ルヴァは吹き飛びはしなかった。それどころか、あんまりにも亀な反応のため、動じていないようにすら、見えた。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   「あの、ルヴァ先生は、私の大学時代の恩師で・・・・」 アンジェリークはそんなことを言っていた。 別に、彼等の関係はそれほど問題ではなかった。いや、問題ではあったのだが、もっと厭だったのは、のけ者にされたような気がしたことだったのだ。自分なしでアンジェリークがあんなにも楽しそうにしゃべるのを見てしまうと、やっぱりつらいのだ。ゼフェルなしのアンジェリークという存在を知らない彼は、それを見てみたいような、見てみたくないような。複雑な心境なのである。 違う! オレはお前を! このあとには一体何が続くというのだろう。ゼフェルのいないところで、屈託なく笑うアンジェリーク。その笑顔を、ゼフェルのためにも見せてほしいと思っていた。けれど、そのためにはこの性格をどうにかしたり、彼女に何とか言ったりしなければならないのだ。それはとにかく難しいことだった。 「でも・・・・・ルヴァ先生・・・・・」 「あ〜〜〜、アンジェリーク、ゼフェルはですね、私の〜〜〜〜〜」 「兄貴だ」 吐き捨てるように言った。この場から、逃げ去ってしまいたかった。アンジェリークは、自分ではなく、ルヴァに尋ねた。自分ではなくて。それがどうにも辛いのだ。 心臓がいたい。 肺が。 爪を割る時みたいな痛さとでもいうのだろうか。さわりたくない、想像もしたくないような、痛み。   クソ!   完璧にアンジェリーク狂いと化したゼフェルが、今暴れ出そうとしている。どうしようもない爆弾を抱えて、狭い路地でうろうろしている。行き着く先は、行き止まり。後づさりしても、その間に爆弾は爆発してしまうのだ。 クソ!!!   けれどゼフェルはこの場から立ち去ることなどできない。アンジェリークとルヴァを二人っきりになどしておけない。どうしようもなくわがままな嫉妬心が牙を剥く。 「あっ。」 そうこうしているうちに、アンジェリークが突然声を上げた。 何かと思って見れば、口もとに手をあてて驚いた顔をしている。また、見たことのないアンジェリークだった。 「すみません、それでは、私、そろそろ帰らないといけませんので。」 「そうですか〜〜〜、遊びに来て下さいね〜〜〜〜〜」 アンジェリークはぺこりとお辞儀をし、くるっと振り向く。 そうして駆けていこうとするのだ。ゼフェルの爆弾を、彼に抱えさせたままにして。時限爆弾の時間制限は、全くもって、不明であった。 それに今は。 ゼフェルはこの憎き兄に牙を剥く時間だったのである。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   うちに帰ったら、もう完全に味噌汁は冷えていた。ルヴァが、あ〜、ゼフェルが作ったんですか〜?などと言っている。今までゼフェルは味噌汁なんか自分のために作ったことなど一度もないのに、やはり実用的な面で、ルヴァはかなり「ウド」だったのだ。 しかし、ゼフェルがその間違いを訂正するわけではない。アンジェリークがうちに来ていて、昨日泊まって、朝飯まで作っていてくれたなどとは、死んでも口にできない。人には教えたくない事実だったのだ。 クソ またしても、熱いものがドクドクと体中を駆け巡って言った。 頭の中は、さっきまでのアンジェリークでいっぱいだった。初めて声をかけられた瞬間。2度目。それからは似たような映像ばかり。それから、昨日の夕方。夜の。 ビクッ 意味もなく、ゼフェルは背筋を伸ばした。寒気がするような感覚に襲われたのだ。 アンジェリークとのキスを。抱きしめた時の感覚は、もうほとんど残っていない。きっと、熱のせいだろう。けれど、あのキスの時は違った。血がすべて、アンジェリークと触れている部分に集まっていて、確かに熱かったけれど、でも。 ・・・・・・・・・かぁ。 ルヴァは全くもってそんなゼフェルの変化に気付かず、味噌汁を暖め直している。ゼフェルが珍しく真っ赤になっていたとしても、彼はいつもその表情を変えることがない。けれどゼフェルは一人で真っ赤になって、それに恥ずかしくなって、舌打ちをするのだ。恋に溺れた男とは、馬鹿なものである。   無償に、会いたくなった。   「いただきます。・・・食べないんですか?」 たぶん大学教授という職業のせいだけではないだろうが、ルヴァは弟に話しかける時も敬語だ。のろまなうえに、ちんたら敬語でしゃべられては、短気なゼフェルには、もう、あきれるというか何というか、もうあきらめるしかない状態だ。その上、痛いところをついてくる。 さっきからゼフェルは、味噌汁を見つめ続けているのだ。おかゆの時もいくぶんそうだったが、アンジェリークとの家族な会話を思って、体中がカッカするのだ。 アンジェリークがおかゆ、の次はアンジェリークが味噌汁である。次を期待してしまうのも無理はないだろう。 しかし、ルヴァの一言によって、その大切な味噌汁に、つにゼフェルは口をつけた。 味は・・・・・アンジェリークの味がした。 ちょっと薄めの味付けで。 柔らかい・・・・・・舌ざわ・・・・・・・・   そしてまた、お碗に口をつけたまま、ゼフェルは真っ赤になるのだった。   ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++     面白いことがあったものだ。 アンジェリークはうきうきしながらその家路を歩いていた。 あのルヴァが、よりにもよってゼフェルの兄だったからである。あの兄にしてこの弟、とは決して言えない兄弟だ。 そして何よりも。 ゼフェルが、追いかけて来てくれたこと。ご飯まで、誘ってくれたこと。 あの時、胸がすごい音をたてて収縮するのを感じた。すごくうれしくなって、涙が出そうだった。 でも。 あの誘いには、乗ってはいけなかった。もしルヴァがいなかったら、ゼフェルを追いかけて、今度は自分からあの八百屋に行ってしまったかもしれない。でも。 この髪・・・・体も。 顔も。 好きな人には、ゼッタイ、ゼッタイ自分の厭なところなんて見せたくなものなのだ。それを気にしない男であってもだ。 だから、アンジェリークは誘いを断わった。けれど、胸が小さくなりすぎて、決心が鈍ってしまいそうだったのだ。 そんな時、ルヴァが現われた。 助かったと思ったのだ。すごくビックリしたけれど。懐かしい恩師に会えたのである。昨日同窓会を欠席したから、懐かしさは倍増している。 ルヴァ先生かぁ。 彼の顔がよみがえってくる。でも、その顔の面影にゼフェルを当てはめようとしたけれど、全然あてはまらないのだ。顔だけじゃなくて、性格も、その雰囲気も。体系も。 やはり、すべてがルヴァとは違っていて。 それが何故か、すごく嬉しかった。       家に帰るとすぐに風呂を沸かした。本当に自分でも熱いと思うほどのお湯だ。でも、それにもかまわず、アンジェリークはざぶんと浸かる。体の表面がじんじんして、痛かった。表面についた汚れがきれいになっていくような気がする。 ざばっとお湯から出ると、ふくらはぎの辺りが何だかかゆい。温度が急に変わったせいだろう。アンジェリークがごしごし体を洗う。まるで、磨くみたいに。それから、顔を真剣に洗った。髪も、これでもか、というほど一生懸命洗った。 はっと気が付いて。 唇を触る。 シャンプーの泡が付きっぱなしの指で、そうっと唇を触った。 暖かい感覚だ。 ゼフェルのは・・・・ 熱かった。 何で、あんなことしたの? 尋ねる相手のいないまま、心の中で。 自分のいいように解釈したかった。 自分の思いたいように・・・・・ ゼフェルは私のことを好きでいてくれている。 アンジェリークは激しく頭を振る。シャンプーが、髪から目に落ちてくる。強く目をつぶった。 そして、この考えがいけないものだと思う。 もし、違ったら。 自分のいいように解釈して、もしも違ったら、どうすればいいのか。どうしようもない寒気が全身を覆った。 アンジェリークは急いで髪を洗うと、もう一度お湯に浸かった。 心拍数が、高かった。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++   ルヴァは結局、洋服を取りに来たらしかった。学校の寮で生活しているのだが、大学にこもりきりなので、街に服を買いにいくこともないらしい。そんなことを朝ご飯のときにちんたら語っていた。 今はもう昼に近いような時間。ルヴァはゼフェルが自分の服を着ていることにも気付かずに、たんすの中からいろんな服を取り出している。   「あ〜〜〜ゼフェル〜〜〜〜?」   男バージョンアンジェリークに脳天気度プラス8すれば、きっとルヴァになるのだろう。ゼフェルはそんなことをぼんやり考えながら、ちゃぶ台の上にバイク雑誌を置き、タバコをくゆらしながら読んでいた。視線だけ、ルヴァの方に向ける。 ルヴァは・・・・・・・・ゼフェルの寝室の、あの、「秘密」を突っ込んだたんすの前にいた。しかも、その「秘密」を見つめているようだった。 「あの〜〜〜〜これ、何ですかねえ〜〜。こんなところに入れておいてもいいものなんでしょうか〜〜」 そう思うならさっさと出せばいいものを、脳天気爆発男は独り言を言っているだけである。そこにゼフェルが飛んで行く。触るな見るな、と大声を出しながら。 ぜぇ、と息をついて、その「秘密」をルヴァの目の前から連れ去るとそれをベッドの脇に置く。 「どうしたんですか〜?そんなものを持ってるなんて珍しいですねえ」 全くルヴァという人間は、トロくさい上、妙に痛い所にツッコミを入れてくる。けれどゼフェルはこの「秘密」についても、アンジェリークとの事情についてもしゃべれないのだ。しゃべったら最後、また妙に刺激されるか、自分で自分を刺激して、アウトだ。そんな馬鹿なことにはなりたくなかった。 でも、それは建て前というヤツだ。 本当は、二人だけの秘密がほしかったのである。     時間の流れというのは自分に合わせて進んでいるのではないというのに、何故か今日に限って自分の意思にそぐわないように進んでいるのではないかと思う。ゆっくり過ぎる時間の流れが、ゼフェルのタバコを消費していった。 このころになると、かなりゼフェルの中はアンジェリークでいっぱいになっているのである。 昨日まではそうではなかった。ゼフェルの中は、アンジェリーク5パーセント、野菜80パーセント、その他(機械関係含む)15パーセントだったのだ。それが今日になってみると、アンジェリークの占める割合は未知数になっているのだ。たぶん。100を、超えている。 あいたい会いたい。 あいたい。 何でもいいから。 切ないというのは、実にこんな状態なのかもしれない。今まで感じたことのない感情だ。哀しいけれど、哀しいとは少し違っている。 クソ・・・・ ゼフェルは乱暴にタバコをもみ消すと、無言で家を飛び出て行った。   ルヴァはそれに気付かず、服を片付けたりしている。 それがすむと、ゼフェルの「秘密」の手入れをしていた・・・・・。 それをゼフェルがしるのは、もう少し後のことになるのだが。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 一度ブラウザの戻るで戻ってください。