「1周年」


 桜の花が咲くにはまだ少し早くて、先に梅の花が開花する。そんな麗らかな春のアカデミーも卒業試験と終業式が終われば子供達の喧騒が聞こえなくなり、年度末の提出書類と新学期に向けての計画書作成に終れる教師の姿しかない。
 静まった廊下に響く足音。
 雑談を交わしながら作業して行く教師達でその気配に覚えのある者が手を休めて扉を見る。勢い良く駆け込んで来る三人組の嬉しそうな顔にその教師も顔を輝かせる。
「先生! 受かりましたー!」
「そうか、良かったな!」
 教師は三人組の頭を順番に撫でて行く。
 ふと、廊下の端で佇む気配にまた別の教師が辛そうな顔で席を立ち廊下へ出て行く。
 その日の朝から何度か繰り返された光景。
 今年は入学したての幼い子供達を受け持ち、一時アカデミーも休校状態になった事もあり自分の受け持ちの生徒は卒業しなかった。
 それでも去年はかなり一喜一憂した事を思い出し、その時から過ぎた月日の出来事に胸を痛めた事もあった。
 手元の仕事が一段落して窓の外を見る。太陽は中天から傾きその時間を教えてくれる。
「俺、一段落したからそろそろ上がるな」
 トンっトンっと書類を纏めて同僚に声を掛ければ「おう、お疲れ」と労いの声が返ってくる。
「じゃ、お先に」
 職員室を出て目指す先は校門の前。
 待ち合わせをした訳でもないし時間はまだ早い。でも時間なんて直ぐに潰れるだろう、アイツの思い出は並みじゃない。
 会ったらどうしようか?
「やっぱりアレだよなぁ……」
 悩む必要はない、結論は出ている。特別な何かでもきっとそれが一番。


 任務受付や報告書提出の事務室、アカデミーと同じ敷地に並ぶ其処に行くには校門の前を通るから校門の前で腕組しながら思い出に耽っているとまだ声変わりしていない子供の声とそれを宥める低い声。
「何で今日は修行できないんだってばよ!」
「だから今日は何処の演習場も使用中で開いてないの、サスケも諦めて帰ったんだからお前も諦めて帰りなさい」
「何で開いてないんだってばよ!」
「何でって言われてもねぇ……」
 困った様に頭を掻きながら諦めさそうと理由を考えているのか「う〜ん」と唸っている。
「毎年いつもこの時期に演習場が使用中になるんだけど何が理由だったか……」
 カカシさんが思い出そうとしている隣で「早く思い出してくれってば」と喚いているナルトにお前も知っている筈なんだぞと心の中で呟けば溜め息が出た。
「あれ?」
 その溜め息から気付いたのかカカシさんが考える為に上向いていた顔を自分に向ければ隣のナルトも同じ様に向いた。
「イルカ先生!」
 ナルトは嬉しそうにカカシさんの元から駆け出して、その勢いを受け止める為に腕を広げて構えれば思いっきり飛び込んで来る。
「少しは落ち着け、ナルト」
 抱きついてくるナルトの頭を撫でながら抱きついてくる腕に込めた力に、その高さに、長さに、生徒であった頃よりも成長したのだと教えてくれる。
 そして取り残されたカカシさんに頭を下げるとカカシさんもぺこりと頭を下げた。
「任務お疲れ様です」
「ありがとうございます」
 そこでカカシさんは何かに思い当たったのかナルトに向けていた時より幾分真面目な顔をした。
「ところでイルカ先生、今日演習場は……」
 抱きついていたナルトに離れるように促し姿勢を正す。
「時折出会う度に成長している卒業生を見ると思います、良い先生に会えたのだと。下忍認定試験から1年、お疲れ様でした。これからも7班を……ナルトを宜しくお願いします」
 そして心からの感謝と願いを込めれば頭が下がる。
「私は何もしていませんよ。こいつらが頑張っているからです」
 カカシさんはポンっとナルトの頭を撫でて「今日も任務が終ってから修行したいって言うくらいには」とナルトに笑みを向けた。
「当然だってば! 俺ってばまだまだ強くなるんだからな!」
 ナルトはカカシさんの手を外して威張る、それはまだまだ子供の仕草で微笑ましいと言うか何と言うか。
「それじゃ、私は報告書の提出がありますので」
「はい、お疲れ様です」
 そう言って去り際に「この後ナルトを宥める役はお願いします」と言われて苦笑しながらその後ろ姿をナルトと見送った。


 カカシさんが建物内に入ると俺はナルトを呼んだ。
「ナルト」
「何だってばよ」
 呼びかけに込めた真摯な響きにナルトも気付いたのだろう真面目な顔で見上げてくる。
「1年間色々大変だっただろうけど良く頑張ったな。これからも頑張れよ」
「分かってる」
「そうか?」
「そうだってばよ!」
 本当は確認なんてしなくても分かる。成長しているのは外面だけじゃない。
「じゃぁ1年間頑張ったご褒美にこれから一楽に行くぞ」
「やったー!」
 飛び跳ねながら一楽へと続く道を先に進みながら振り向いて「早く早く」と言う。
「そんなに焦らなくても一楽は逃げたりしないぞ」
「でも早く行きたいってばよ!」
 堪えきれなくなったのか終いには手を引っ張り出す。握る手に力を入れてもう一度「頑張れよ」と言えば握り返す手に力が込められた。
 それは無言の返事。
 言葉にしなくても溢れてくる決意。
「だから来年もその次も、ご褒美に一楽奢ってくれってばよ」
「約束だ」
「うん」
 一楽の暖簾はもうすぐそこ。
 手を離して暖簾を潜り注文を、約束の印にチャーシューぐらい追加してやろうか。
「おやじさん。ラーメン2つ、チャーシュー追加で」

 これからも頑張れよ。





参加している同盟の1周年記念に書いた話です。
特に手直ししていません。
同盟の方にも先日UPされたのでこちらにもUPしてみました。
うちの基本的なナルトとイルカ先生です。
ほのぼのと!