| 「All hallow evening」 砂漠と荒野の続く大地を越えて、辿り着いた町は尋常ならざる活気に満ちていた。彼の知るこの町は普通の町、彼女の知る町も普通の町。ならば何故と疑問に思うがそれよりも早く彼等の連れは疑問に思う事もなく目を輝かせる。 物珍しい光景に子供たちは手を取って駆け出そうとした。 「ちょっと、アンタ達!」 慌てて静止の声を上げた彼女の隣から、無言で伸ばされた手が子供たちの首根っこを掴む。 「うわっ! ぐぇ!」 「きゃっ!」 「キュイ?」 首の後ろを掴まれ勢い余った少年は己の襟で首を絞める。隣の少女は掴まれた力に引かれて尻餅を付いた。 その隣では不思議そうな顔で子供たちを見る銀色の小型ゾイド。 「バン! フィーネ! 勝手に行くんじゃないの!」 子供たちを見下ろしながらムンベイはもう何度言ったか分からなくなっている台詞を言う。 「だってさぁ〜」 バンは町の様子を見ながら「祭りみたいで面白そう」だと言う。 「だけどね、待ち合わせも決めずに勝手に行ったら泊まる所が分からなくなるでしょうが!」 その時バンはムンベイの頭上にツノの幻を見てしまいこれ以上の反論を断念する。 「じゃあ、ムンベイ。待ち合わせを決めたら行っても良い?」 こちらも町の様子が気になるのかフィーネはきょろきょろと辺りを見回して、首を傾げながらムンベイに聞いてくる。 「その前に、今日何があるのか聞いてからね」 流石のムンベイもフィーネには甘い。 「おい、ムンベイ。買い物も終ってからだぞ」 ぼそりと言った最年長にしていつの間にか子供たちの保護者となっていたアーバインは、このままバンとフィーネを行かせてしまうとムンベイの買い物に付き合わされるのは自分一人=荷物持ちは自分だけの図式にムンベイへと釘を刺す。 「分かってるわよ」 ムンベイはあっけらかんと手を振って言いながら、アーバインが安堵の溜め息を付いたタイミングで「別にアンタなら一人でも十分なんだけどね」と付け加える事を忘れない。 その顔が冗談ではなく、その眼差しが「それでも良いのよ」と言っていて、アーバインは掴んでいたバンの首根っこを引っ張りながら慌てて歩き出す。 「おわっ! 何すんだよ、アーバイン!」 いきなり掴まれていた襟を引っ張られ、強引に連れて行かれる事となったバンは抗議の声を上げるがアーバインはお構いなしに町の中へと歩いて行く。 「お前も遊びに行くのは買い物に付き合ってからだ」 「ムンベイ! フィーネ!」 バンは引き摺られながら助けを求めて二人へと手を伸ばすが、フィーネの天使の様な無邪気かつ無責任な微笑みと諦めなさいとそのアーバインの行動に満足げなムンベイに伸ばしていた手をがっくりと下ろす羽目になった。 「そう云うこった」 ずりずりとバンを引き擦りながら、ちらりとその様子を見ていたアーバインはバンを憐れに思うが自分とて飛ばっちりは御免だと脱力しているバンを連れて行く。 「とりあえず買い物に行くわよ、フィーネ、ジーク」 「うん、ムンベイ」 アーバインとバンの後に続きながら歩き出したムンベイの後を追う様に、フィーネとジークは続いて町へと繰り出した。 かぼちゃを加工した物や奇妙な置物が町の所々に置かれている。それは何か恐怖を煽るものの様に、それでもどこか和やかな感じで……それらが何を意味しているのか分からないがバンは楽しそうだと思った。フィーネも楽しそうに興味深そうにそれらを見ていた。 「何なんだろうな、これ」 「さぁ……」 顔を模ったかぼちゃを覗き込みながらバンとフィーネは互いに模索していた。 「で、アンタはこれが何か知ってるの?」 ムンベイは荷物持ち……もといアーバインに尋ねてみるが興味が無いのかその反応は素っ気無かった。 「俺が知る訳ないだろうが」 「あっそ」 素っ気無い反応には素っ気無い反応を。ムンベイもまたそれだけの反応でこの会話は打ち切られたがアーバインとムンベイの眼差しはバンとフィーネを暖かく見守っていて、矢張り「何とかしてあげたいなぁ」とか思うのは親心(?)らしく、ムンベイは持っていた荷物を全部アーバインに持たせるとてくてくと近くにある店へと足を向けた。 「おい! ムンベイ!」 目の前を塞がれかねない勢いの荷物を押し付けられ、それでも目の前の子供たちから目を離すことも出来ず、アーバインは意外にもお人好しな己の性格に頭を抱えたくなったが両手は塞がりそんな事は出来ない。 「はぁ〜」 出来る事と言えば溜め息を吐くくらいだった。 それでも追い討ちをかけるような事は起こるもので。 「コレ、何か分かったわ」 ぽんっとアーバインの背中を叩いたのは戻って来たムンベイ。 「おいっ!」 叩かれた拍子にぐらりと揺れた荷物を落とさないように慌ててバランスを取りながらムンベイへと抗議の声を上げる。 「落としたらコレの代金、アンタに払わせるからね」 ムンベイはいつの間に買っていたのか、持っていた荷物をアーバインへ見せた。 「テメェ……これ以上持てると思ってんのかよ」 ドスを聞かせた低い声で威嚇するように言うがムンベイには効果などない。 「あら、まだ持っても良いって言うのね。じゃあお願いしようかな〜」 「持てるか!」 間髪入れずに帰って来た返事にムンベイは手をひらひらさせてアーバインを宥めた。 「ちょっとした冗談じゃないの。アンタも短気ねぇ」 「短気とか云う問題じゃねぇだろうが」 独り言なのかムンベイへの抗議なのか、アーバインの台詞は微妙な大きさだ。 かくしてムンベイは子供たちの方を見ると、明らかにアーバインの時……その悪魔の笑みとは全く違う優しい微笑みになってバンとフィーネを呼ぶ。 「バン! フィーネ! ジーク!」 彼等は揃って振り返った。 「何だよ、ムンベイ」 「宿に行ったらコイツが何なのか教えてあげるからさ、ちょっとアーバインの荷物を持つのを手伝ってやンな」 ムンベイは「コイツ」とかぼちゃを指差した。 「分かった」 「はーい」 バンとフィーネは2つ返事で答えると素直にアーバインの元へ行った。 「どれを持てば良いんだ?」 わらわらと集まった子供たちとジークに、アーバインは少し屈んで上の物を取るように指示し、視界が十分に開けると立ち上がってムンベイを促す。 「もう買う物は無いんだな?」 「そうね、時間も時間だしそろそろ宿に行くとするわ」 ムンベイは最後に買った荷物を大事そうに抱えながら目的の宿屋へと歩き出した。先導するムンベイの後をアーバイン、バンとフィーネ、ジークが並んで付いて行く。 バンとフィーネは歩きながら「このかぼちゃが何なのか分かるんだな」と嬉しそうに顔を見合わせ、前を歩くムンベイとアーバインは横目でその様子を見ていた。 宿に到着するとムンベイは先ず宿屋に交渉を始める。一番問題になるのは小型のゾイドを連れて泊まれるか、である。 直ぐ様ムンベイは振り返ってバンとフィーネへとOKサインを出した。この条件をクリアしたら大抵ムンベイはさっさとチェックインしてしまう、いつもなら。 なのに今日に限って何やら頼み込んでいるらしくなかなか戻ってこない。 アーバインは「遅い」と言って苛立ち始め、バンとフィーネは頻りにムンベイの方を見て落ち着かない。ジークは尻尾を振りながら首を傾げ「きゅい」と小さく唸った。 「お待たせ〜!」 アーバインが待ち草臥れて死にかけた頃、ムンベイが上機嫌で戻って来た。 「何やってんだ、ムンベイ」 「ムンベイ、遅っせーよ!」 「大丈夫なの? ムンベイ」 アーバインとバンに責められるがフィーネの不安そうな顔を見て「大丈夫よ」とフィーネの頭を撫でてアーバインとバンの抗議は無視。 「さ、早く部屋に行くわよ。アンタも早く町の様子を知りたいでしょ? それとも……」 言いながらバンへの報復か、ムンベイはちらりとバンへと視線を投げかける。バンは慌てて荷物を持って部屋へ行く準備をした。 「アーバインも早くしろよ!」 バンは自分の事を棚上げしてアーバインを急かせば、「何言ってやがる」とアーバインから小突かれる羽目になった。 マイペースなアーバインが再度荷物を持ったのを見るとムンベイは部屋の鍵を弄りながらさっさと宿の奥へと行った。バンとフィーネとジークが楽しそうに後を追えば、アーバインは溜め息をついてその後姿を見守った。 とりあえず荷物はアーバインとバンの部屋とムンベイとフィーネの部屋に分けて置かれ、この町の様子の話は食事をしながらと言う事となった。 「で、あのかぼちゃは何なんだよ」 料理が運ばれてくるのを待ちながら、バンは待ちきれずにムンベイに尋ねるとムンベイは得意そうな顔をした。 「よくお聞き、バン、フィーネ」 「うん」 身を乗り出して話すムンベイにバンとフィーネも同じ様に身を乗り出した。まるでそれは内緒事でも話す様な、でもムンベイの声の大きさでは内緒話なんてとても無理。 アーバインは背凭れに体重を預けながら聞こえてくるムンベイの話を興味無さ気に耳を傾けた。 「この辺りではね、昔からの風習でAll hallow eveningと言われる夜、偶然にも今日なんだけど、その夜に悪いもの……悪霊とかを追い払う事が出来るって伝えられてて、その悪霊を模ったものがあのかぼちゃなんだよ」 「「ふ〜ん」」 納得したバンとフォーネの声に、彼等にとって更に嬉しい続きをムンベイは述べた。 「それでね、この後この村の子供たちはあのかぼちゃを持ってお化けになって家々を回るんだよ。それでその家々ではお化けが悪い事をしない様にある事をして追い返すんだよ」 「良いなぁ」 「うん、楽しそう」 羨ましそうに言ったバンとフィーネにムンベイはにっこりと笑った。 「宿の主人に聞いたらさ、宿泊客でも子供なら参加して良いって、お化けの衣装も貸してくれるからアンタたちも行っておいで」 「本当か!」 「わぁ!」 嬉しそうなバンとフィーネに満足気なムンベイは慌てて続きを付け足した。 「その代り、宿に戻ってきたら、宿の人たちの悪霊も追い払って欲しいから……まあこの村の風習を知って欲しいからなんだろうけど、部屋を回って欲しいんだって。宿泊客にはちゃんと言っておくってさ、やってくれるかい?」 「「はーい!」」 聞かなくても分かりそうな事だけれど、一応確認だけしておくムンベイにバンとフィーネは揃って元気良く返事をした。 「じゃあ、早く食べて行っておいで」 「「いただきます」」 頃良く運ばれて来た料理を、バンは大急ぎで口に運んだ。 「バン、慌てなくても料理は逃げねぇよ」 通り過ぎる店員に酒を頼みながら、アーバインはいつも以上に料理を頬張るバンに「喉に詰めんなよ」と忠告した傍からバンは盛大に喉に詰めてむせ返った。 「まったく……」 呆れながらも隣に座った誼かアーバインはバンの背中を撫でてやりながら、丁度運ばれて来た飲み物を手渡してやる。 「ありがと……」 飲み物を受け取りながらバンは飲み物なんて頼んだっけ……と思いつつそれを口に運ぶと、口に広がったのは焼け付くような辛さ、バンは思いっきり顔を顰めるとその様子に事態を悟ったムンベイがアーバインをじろりと睨む。 「子供に酒を勧めんるんじゃない!」 「態とじゃねぇ!」 アーバインとしてもこの程度の酒など水と同じだろうがとムンベイを睨み返す。暫らく睨みあった末、ムンベイはアーバインの言葉を一応信用して事を収めた。 「そう云う事にしておくわ」 「そうなんだ!」 言っている間に隣ではバンが食事を再開していた。 「ガキなんだから仕方ねぇよな……」 一緒に旅をしながら一緒に酒を飲めたら楽しいかもしれないと、まるで父親が大きくなった息子との晩酌を夢見るような事を自覚も無く考えて、アーバインは呟きながら密かに、そのうちバンに酒でも教え込むぞと心の中で誓ったとか誓わなかったとか。 食事が済むとムンベイはバンとフィーネ、そしてジークを宿の主人に紹介してお化けの衣装を借りて着せてやり、かぼちゃをくり貫いたランプを持たせて送り出してやる。 「町の中央の広場に子供たちが集まってるからね!」 「はーい!」 「うん!」 「きゅい」 元気良く走って行く後ろ姿を見送りながらムンベイは腰に手を当てて振り返る。 「さてと」 ムンベイは荷物の中から目的の物を取り出してアーバインの寛いでいるだろう部屋へと向った。 町の中央の広場に行くと、同じ様な格好をした子供たちが集まっていた。 「俺たちも参加して良いって宿の人に言われて来たんだけど、どうしたら良いか分かんねぇんだよ」 バンは近くにいた同じ年頃の子供に声をかけると子供はバン達を見て笑顔で言った。 「なら一緒に回ろうぜ!」 「ああ!」 「うん」 「きゅい」 子供はバンの手を引っ張ると町の中へと歩き出した。バンもフィーネの手を引っ張って、スキップを踏まんばかりの足取りで楽しそうに付いて回る小型のゾイドと3人の子供たちは楽しそうに町へと繰り出した。 やがて家の前に到着すると子供は家の扉を叩いて家人が出てくるとかぼちゃのランプを向けた。 そして……。 「Trick or Treat?」 「Treat」 そんな会話が交わされ子供に飴が渡された。 「Good Luck!」 子供は飴を受け取るとまたバン達の手を引っ張り家を後にした。 「ねぇ、どう云う事?」 フィーネは手を引かれながら子供に尋ねれば子供は立ち止まって貰った飴をバンとフィーネに渡す。 「俺たちは悪霊なんだけど、俺は『いたずらか? おもてなしか?』って言ったんだ。で俺たち悪霊を追い払うにはおもてなしをすれば良いって事で、今日は俺たち子供がお菓子を貰える日なんだ」 嬉しそうに言った子供は飴を頬張りながら「さあ、次に行くぞー!」っと気合を入れる。 「よーし!」 同じ様に気合を入れたバンを見てフィーネはバンが2人いるみたいと思ってしまった。 「行くぞ、フィーネ!」 バンに手を引かれながら、フィーネはそれでも自分を引っ張ってくれるのはこのバンの手なのだと嬉しくて、思わず。 「頑張る!」 と、フィーネも気合を入れるのだった。 家々を巡り、沢山のお菓子を貰ったバンたちは皆がそろそろ家路へと帰る頃に彼等も別れた。 「またこの村に来いよな!」 「ああ!」 「うん!」 手を振って見送れば時々振り返る子供の姿、角を曲がって見えなくなってからバンとフィーネとジークは宿へと戻って行く。 「そう言えば宿でもって言われたわよね」 「そうだな、じゃあ早く戻ろうぜ!」 バンとフィーネは駆け足で宿へと戻った。 宿へ戻ると、宿の主人が待ちかねたように出迎えてくれた。 「さあ、皆の所のへ行っておいで」 「「はい!」」 優しく言われてバンとフィーネは元気良く揃って返事をした。 ジークを下で待たせて階段を駆け上がって奥の部屋から扉を叩く。出て来た宿泊客に合言葉のように。 「Trick or Treat?」 「Treat」 用意されていたお菓子を手渡され感謝の意味を込めて。 「Good Luck!」 途端に嬉しそうな顔になった宿泊客の顔。町の家を巡った時とは明らかに違う反応にバンは首を傾げるが閉じられた戸からはもうその顔は見れない。 フィーネも気付いたらしく首を傾げるが矢張りその意味は分からない様だ。 気を取り直してバンとフィーネは次の部屋の扉を叩く。同じ様なやり取りの中で、矢張り嬉しそうになる宿泊客の顔。 それでも、喜んでもらえる事に嬉しくなってきて、バンとフィーネは夢中で部屋を回った。 そして最後に残していたとっておきの部屋、先ずはムンベイの部屋から。 どきどきしながら扉を叩いて出てくるムンベイを待つ。そして出て来た人物に驚きながら。 「Trick or Treat?」 「Treat」 ムンベイは用意していた答えと、彼等の為にだけに用意していた特別なおもてなしをした。 甘い匂いが香る。差し出されたものはバンの好物のパパオが乗せられた皿。それを持っているのは自室にいるはずのアーバイン。 「どうして?」 言葉無く立ち尽くしたバンの代わりにフィーネがその質問を投げかける。 「別々に迎えるより一緒に迎えてやった方が良いかと思ってさ」 微笑むムンベイの横からアーバインが皿を差し出す。 「ほら、さっさと食べて役目を終らせて戻って来い」 「アーバイン……」 アーバインは柄にも無い事をしている自覚はある様でそっぽを向いている。それでも差し出し続けていて、バンはその食べ易く切られたパパオを皿から取って食べるとフィーネも同じ様にパパオを食べた。 「うまい」 「うん、おいしい」 バンとフィーネは口に入っていたパパオが無くなると、顔を見合わせて声を揃えて最後の一言を言う。 「「Good Luck!」」 そして矢張り嬉しそうな顔になるムンベイと更にそっぽを向いたアーバイン。 バンとフィーネは一番嬉しくなって、駆け足で宿の主人の下へと走って行った。 ムンベイはアーバインを見上げながら呟いた。 「『Good Luck!』か……あの子たちに一番言ってあげたい言葉なのにね」 「戻ってきたら言ってやれ」 アーバインは「バンが食べるだろうからコレは貰っていくぞ」と残ったパパオの皿を持って隣の自室へと戻って行く。 「アンタもね」 ムンベイは自室の扉を開けて入って行くアーバインへと言うと、アーバインは動きを止めてムンベイと見た。そして溜め息をついて部屋の中へと入って行った。 ムンベイは戸を開けたまま暫らくバンとフィーネの戻ってくるのを待った。そして騒がしい声と足音に子供たちが帰って来た事を教える。 「ムンベイ! ただいま!」 「ただいま、ムンベイ」 「きゅい」 「おかえり、ご苦労様」 ムンベイはフィーネとバンを出迎えた。そしてバンに向き直るとバンの肩に手を置いた。 「バン……Good Luck! アタシ達はアンタ達と一緒に旅が出来て嬉しいんだからね」 「ムンベイ」 どうして宿泊客が嬉しそうな顔をしたのか、バンは言われて初めて理解した。それはフィーネも一緒だった。 「ムンベイ!」 フィーネ泣きそうな顔でムンベイを見ていた。 誰かに旅の行く末を、幸運を願って貰える事が嬉しい。 「こらこら、泣くんじゃないよ。泣くのはゾイドイブを見つけてからだ」 ムンベイはフィーネの頭を撫でて部屋の中へと促す。 「バン。アーバインが待ってる、行ってやんなさい」 ムンベイは扉を閉めながら「アイツも素直じゃないからね」と言う声が聞こえ、さっきのムンベイの「アタシ達」にはアーバインの事も含まれているのだと改めて思い出させられる。 バンはアーバインがいるのだろう自分達の部屋へと向かいその扉を開ける。 「ただいま」 「パパオならそこに置いてあるからな」 ベッドに寝転がり扉に背を向けて、顔を見せずにアーバインは帰って来たバンに彼らしい労いの言葉をかけた。 「サンキュー、アーバイン」 バンは添え付けられたテーブルへと、その横にある椅子に座ってアーバインの背中を見る。そして意を決してアーバインへと話し掛ける。 「俺は……こんな祭りの決り文句じゃなくて、いつでもアーバインの幸運を祈ってる」 それはバン達と旅をするまでずっと一人で旅をしてきたアーバインには最高の言葉。 アーバインは体を起してバンへ向く。ベッドから降りてバンの真正面に立つと溜め息を付いた。 「バン、お前はいつも騒ぎを起して俺達を巻き込む。でも俺達は、いや、俺は……お前がどんなに災いや面倒を連れて来てもお前を悪霊の様に追い払ったりしようとは思わない」 「アーバイン……」 バンはアーバインを見上げながら、アーバインが自分の存在を認めてくれた様で嬉しくなる。 「Good Luck……俺もお前の旅の幸運を祈っている」 改めてアーバインから言われて、自分の思いと重ねて、その言葉がどんな意味を持つのかを知る。それはとても優しい願い。 「アーバイン!」 バンは椅子から立って、それでも見上げてしまうアーバインに手を伸ばす。 「バン」 アーバインはその手を掴んで引き寄せる。腕の中に収まる幼子を優しく抱いて願う、旅の幸運を。 それは誰もが誰かの幸せを願う、聖なる夜に捧げられた祈りのひとつ。 戻る |