| 「英雄」 帝国内の小さな村にたどり着いて新しい生活を始めたある日、帝国中に配信されたルドルフ陛下の即位式に少年と共にいた人物が2人映っていて、あの子供達が本当にそうだったのだと知る。しかしそこにあの少年の姿はなかった。 助けられたから助けた。助けたかったから助けた。 それはどんな結果になっていても決して間違いではなかったと自信を持って言える。その力をくれた少年は今どうしているのだろうか? 穏やかな時は終わりまた戦乱の火種が燻り始めた頃、訪れた幸せを守りたいと望んだ。 「君を守りたいから、軍に戻るよ」 そう言って戻った軍で色々な事を知る。 プロイツェンのデスザウラーを倒した英雄の話。 ガーディアンフォースのバン・フライハイト少佐。 後方支援の自分達にはその人物は噂でしか分からない。英雄と一緒に戦いたいから前線へと志願する者達もいるけれど、前線だけが戦いの場所ではないと知っている。 自分の起した行動が誰かの助けになっている事もあるのだと知っている。 だから自分は自分の出来る事を精一杯するだけなのだ、戦争が終わるまで。 「ただいま」 「おかえりなさい」 迎えてくれた優しい笑顔に自分は守れたのだと実感する。 そして本当に戦争は終わったのだと思う。 戦争の爪跡が消えてゆく中で新しい幸せが訪れる。 「幸せな知らせがあるの」 微笑む最愛の人に幸せを感じながら、その知らせは更に彼女を愛しくさせた。 この日に出会えたのは偶然だった。 どちらが先に気付いたのだろうか。 「アンタ……」 言葉が出なかった。大人びてはいたけれど、忘れる事は出来ない顔。 「君は……」 町の中で呆然と佇む自分達に気付いたのは彼の連れだった。その顔触れは見た事のある顔。 「あん時の帝国の!」 ああ、やはり彼等なのだと気付く。 「久しぶりだな」 懐かしい友人にでも会った時のようにするりと言葉が出て来た。 「ああ、久しぶり。名前……聞きそびれてたよな」 言われて、名前を告げる前に彼等の元を離れた事を思い出し、同時に脳裏に刻み込まれた少年だった青年の名前を思い出す。 「ロカイだ。バン……?」 ああ、英雄と同じ名前なのだと思う。 「よく覚えてたな」 そう呼んでいたから、と彼の連れを見る。すると彼は懐かしそうに目を細めて笑った。 「ルドルフも気にしてた」 「陛下が?」 「ああ」 「そう、光栄です、と……」 もし陛下に出会う事があるなら伝えて欲しい、その言葉だけで十分だと胸の奥に仕舞う。彼もきっと分かっているのだろう。 「今何してる?」 「この近くの村で畑を耕しながら、暮らしている」 「そうか」 彼はホッとしたようだった。 「今も旅をしているのだな」 昔の彼を思い出し、懐かしい気持ちに捕らわれながら彼と出会った時の事を思い出す。 後悔する事もあったけれど、自分は彼から教えられた事もあった。 「ずっと俺は変わらない。これからも……」 ずっと旅を続けるのだとその瞳は語っていた。 「アンタは今幸せか?」 「ああ、幸せだ」 そう、幸せが訪れる。 「君のお陰だ」 「俺の?」 彼は訳が分からないという顔をした。分からなくても良い、自分で分かっている事だから。 「君に会って欲しい人がいる」 「俺に?」 「そう。君に会わせたい人がいる」 「そっか……」 彼は微笑んだ。 「俺も会ってみたいよ。あんたが会わせたがっている人に……会わせてくれ」 「ああ」 そして彼等を促して歩き始めた。 小さな家、それでも良いと思う。幸せがここにあるから。 扉を開けて中に入れば迎えてくれる最愛の人たち。 「ただいま」 「おかえりなさい」 それは幸せな言葉だと思う。 「君に、合わせたい人がいるんだ」 彼女は首を傾げた。そして扉の方へと視線を投げかける。 「どうぞ」 声をかけると彼等は家へと入って来る。 「まあ……」 彼女は驚いたようだったけれど、直ぐに微笑んで彼等を迎えた。 「いらっしゃいませ」 見せたかったのはこの笑顔と彼女の腕に眠るぬくもり。 「初めまして」 彼は彼女と腕に眠る子に笑いかけた。 「幸せな風がする」 彼の後ろにいた少女だった彼女、フィーネが言う。 「そうだな」 生まれたての命に、祝福の笑みが彼等から贈られる。 「この子の名前は?」 「まだ……決まっていない」 言うと、フィーネは子供を抱く妻を見た。 「まだなの?」 「ええ」 彼女はフィーネに子供を差し出す。フィーネは受け取ると優しく子供を抱いた。 「君が名付けてくれないか?」 彼に言う。 「英雄と同じ名前の……恩人という英雄に」 彼は困った様な顔をした。 「俺の方こそアンタに助けられたんだぜ?」 「それでも恩人である事に変わらない」 彼の後ろで苦笑が漏れる。 「付けてあげれば?」 「そうまで言われてんだ」 彼は後ろを振り返って彼等を見る。 「だからってなぁ……」 そしてフィーネが抱く子供を見る。 「新しい命……」 「バン……」 彼は差し出された子供を覚束ない手つきで抱く。 「世界を守った英雄でなくても良い、自分にとっての英雄にこの子の名前を付けて欲しいんだ」 彼はその言葉に微笑んだ。 「男の子なのか?」 「そうだ」 「そっか……」 彼は思い出すように目を閉じた。 「ダン……俺の最も尊敬する父ちゃんの名前」 「ダン」 子供の名を呼んでみる。 「ありがとう」 感謝の言葉を述べると彼は照れ臭そうに笑った。 「世界を守るような英雄にならなくても良い。誰かの英雄になれたら……父ちゃんも俺の村を守った、村の、そして俺の英雄なんだ。安直な名前でごめんな」 子供に笑いかける彼の顔はきっと誰よりも英雄らしい顔だろう。 彼はフィーネに子供を渡す。フィーネは嬉しそうに子供を抱いたあと妻に渡した。 「貴女にとっての英雄は彼?」 「ええ。前線で戦わなくても、世界を守ろうと後方で自分の出来る事を精一杯した彼が私の英雄です」 そして尋ねた言葉に、彼女は微笑んで答えていた。 「アンタも誰かの英雄なんだな」 彼は面白そうに笑っていた。 「アンタが守ったこの平和な世界で、この子もいつか誰かの英雄になれば良いな」 「そうだな」 それがこの子への望み。 彼のように、英雄のように生きろとは言わない。唯誰かに誇れる自分でいて欲しい。それがきっと誰かの英雄である事だ。 彼らを見送った時、グスタフの荷台で祝いだとばかりに蒼いゾイドが咆哮した、いつの間にか彼はシールドライガーから乗り換えていた様だ。そして漆黒の機体が隣で佇む。 世界を救った英雄のゾイドも蒼いゾイドだったと言う。そして同じ様に前線で戦ったゾイドはディバイソンと黒い帝国最高機密ゾイドだったと。 世界を守った英雄に感謝をしない訳ではない。 彼が世界を守った英雄でも英雄でなくてもどちらでも良い。 そう、彼は自分にとって大切な事を教えてくれた英雄である事には変わりない。 物語へ戻る |