「寒中見舞い」


 除夜の鐘や初詣と年越しのどんちゃん騒ぎが落ち着いて漸く静かになってき始めた元旦のまだ薄暗い明け方には早い時間、白髪に大柄な体躯のその男は酒瓶を持って同様に大柄で髭面の男を尋ねていた。
「猿飛の小僧よ、お前はアレを口寄せで出来んのかいのォ?」
 それは猿飛アスマが戸を開けて尋ねて来た人物を認識したと同時に自来也が言った言葉である。
「アレってアレですか?」
「アレに決まっとるだろう」
 始めに口寄せと言ったので自分の口寄せ動物を思い浮かべ、わざわざ自来也が自分のところに来て「呼び出せるか?」と確認するレベルに。
「めんどくせぇ……」
 口癖が洩れた。
「と言う事は出来る訳だのォ」
 自来也は揚げ足を取れた様に嬉しそうな顔でアスマの頭を掴むと酒瓶を振り回しながら歩き出す。
「契約はしてるが出来るとは……」
「やってやれん事はないと言うしのォ」
 豪快かつ高らかに笑い声を上げながら寝静まった里の道を歩いて行く。
「それにお前を待っとるのはワシだけじゃない。早く行かんと恐ろしいめに遭うぞ」
「恐ろしいめ?」
 アスマが伝説とまで言われる三忍の一人に引き摺られる事以上に恐ろしいめなどあるものか考えているうちにも自来也は歩いて行く。

 空が明るくなり始めた頃、自来也がアスマを連れて到着したのは里を見下ろす火影岩の下。
「遅かったじゃないか」
「悪い悪い。コイツが素直に来てくれなくてな」
 自来也はアスマを引き摺りながら火影岩の下で待つ人物へ手を振った。アスマは引き摺られながらも火影岩の下で佇む人物を見て呆然とした。
「五代目」
 そこには年末年始は激務で忙しい筈の五代目火影が立っていた。
「アスマ、目上の者の言う事は素直に聞いておくもんだよ」
 綱手に妖艶とも言える笑みで忠告されたアスマはゾクリと背筋に冷や汗が流れた。
「はい……」
「ワシの時とは随分と態度が違うのォ」
 素直に返事を返したアスマに面白くないと自来也が言う。
「そんな事より忙しいんだからさっさと呼び出しな」
 綱手は自来也を黙らせてアスマへ命令した。
「本当に呼び出せなくても知りませんよ」
「大丈夫だ。アタシらのチャクラを分けてやるからね」
 往生際の悪いアスマへ綱手は腕組しながらもチャクラを練り始め、自来也もチャクラを練っていた。
 断る事の出来ない状況と三忍のうちの二人の膨大なチャクラに「めんどくせぇ」と思いつつも「何とかなるか」と気楽な考えが浮かび、自身もチャクラを練り印を組む。
「亥、戌、酉、申、未」
 続けて親指を噛み切り己の血を地面へと付けた。
「口寄せの術!」
 ボンっと白煙が立ち込める。
「呼び出せたか?」
「分からん」
「……」
 三人が見守る中、徐々に白煙が晴れ呼び出されたものはその姿を見せて行く。
「お前が呼び出すなど久しぶりだな、アスマ」
「悪い、猿猴王猿魔。ちょっと用事らしくてな」
 煙の完全に消えた後には木の葉の額当てを巻いた口寄せ動物の中で最強の呼び名を持つ老猿が呼び出したアスマと自来也と綱手を見ていた。
「そして猿飛の教え子か。そんな年なのだな」
 猿魔は三代目火影の良くした慈しむ笑みで昔を思い返す。
「猿飛先生と大蛇丸はいないけど、この年には皆で酒を飲もうと約束したからね」
「悪いが付き合ってくれんかのォ」
 自来也が酒瓶を掲げた。
「約束は約束だ。見上げれば猿飛もいる、それも良いだろう」
「ありがとよ」
「すまんのォ」
 二人は猿魔を伴って火影岩を見上げながら腰を下ろした。
「今年もよろしく」
「今年も、その次の年もその先も元気でいてくれ」
「お前達もな」
 何処に持っていたのか四つの杯を取り出しその一つには酒を注ぎ火影岩の方へと置いた。残った杯で酒を酌み交わす。
「ああ、今年の干支は申だったな」
 始まった酒盛りを遠巻きに眺めていたアスマは里の端から登り始めた朝日に改めて新年であり、干支が代わった事を思い出す。
「めんどくせぇが俺も仲間に入れて貰えませんかねぇ」
 アスマはポーチから年末の酒盛りで使った杯を取り出し、自来也の横から三人の目の前に差し出した。
「構わん」
「お前も加われ」
「扱き使ってやるだけの話しだがな」
 猿魔、自来也、綱手の言葉に苦笑いを浮かべて注がれた酒を飲み干した。
 アスマを見る為に振り返ってその後ろに広がる里の景色と朝日が目に入る。
「朝日だねぇ」
「新しい年の始まりだのォ」
 老猿は朝日を見ながら遠き日の事を思い出す。

『猿飛先生ー!』
『あけましておめでとうございます』
『今年もよろしくお願いします』
『あけましておめでとう』
 あの時も確か干支は申。三代目火影と新年の杯を交わしていた時に乱入してきた猿飛の教え子達。
『猿魔も一緒だのォ』
『お久しぶり』
『猿魔もあけましておめでとう』
『しかも酒飲んでる!』
『ワシも飲みたいのォ』
『……』
『お前達が酒が呑めるようになったら猿魔と一緒に飲もう。約束だ』
 教え子の頭を撫でながら猿飛とした約束。
 それから干支が来るたび呑み、交わしてきた約束。

「アスマよ。これからの子供達を頼むぞ」
「はい」
 呼び出した者が代わったように、火影が代わったように、年が代わるに従い代わってゆくものもある。
 次の年まで自分たちがいるかは分からずとも新しい年はやってくる。
 







閑話小話からの出展です。
もうね、何も言いません。
アスマが猿魔を呼び出せるのかとかツッコミどころ満載ですが、
三代目と同じ猿飛姓だし親戚だと信じて!
ほのぼの書きと言いながらしっとりとしんみりと。
自分のキャラクター関係なく書く性格が如実に現れた話です。