「駆け出した未来」 〜キリ番リクエスト・600〜


 蒼天色のゾイドはその背に銀色の小型のゾイドを乗せてのんびりと街道を歩いて過ぎてゆく。行き交う人々の物珍し気な眼差しも慣れてしまえば気にならないらしく、寧ろその反応すらも楽しいという顔で機獣を駆りながら時折ゾイドを見て目を輝かせる子供の傍へとゾイドを寄せ、ゾイドと触れ合う事を喜ぶ子供達の様子を笑みを浮かべて見ている。
 後ろに座る連れも同じ様にその様子と笑みを見ては微笑んで、彼らは急ぐ事なく街道を行く。
「フィーネ、今どのあたりかちょっと見てくれないか?」
「分かったわ」
 フィーネは馴れた手つきでモニターへと地図と情報を表示させる。何度か首を傾げながら地図の道を指で辿りモニターに描かれた地形と照らし合わせ、キー操作で周辺情報の絞込みと検索を行う。
「ねえ、バン。このペースで行くの?」
 フィーネは地図から顔を上げ、器用にブレードライガーの前足に子供を乗せているバンを見た。
「急いだ方が良いのか?」
 バンは僅かばかり視線をフィーネへ向けた。それでもブレードライガーの操縦の手を休める事無く子供の相手をしているバンにフィーネは笑みが零れる。
「ううん、このままでも夕方迄には着くわ」
「そうか」
「うん、ゆっくり行きましょう。バン」
「サンキュー、フィーネ」
 この時ばかりは流石のバンもしっかりとフィーネを見て感謝の言葉を言った。

 戦争の終結を迎えた穏やかな惑星を心のままに巡る、晴れ渡る空を時折見上げれば風に流れる雲の向きに行き先を、風の便りに目的を決めてみる。大義名分や目的もない、旅に出たのは単に性分。
 彼を知る人々は行き当たりばったりだりだと言う。そんな旅だから楽しいのだと彼は言う。
 以前は人々の顔も殺伐としていた、でも今は皆が笑顔でいられるそれは彼の望んだ世界。その証は直ぐそこにあって、戦闘ゾイドを見ても怯える人々はもういない。
「もう少しでウィンディーヌレイクが見えるはずだよな」
 バンは周囲の景色と記憶を確認しながら後ろでキャノピー越しに外を見ているフィーネに確認を取った。
「見えるかどうかは分からないけどかなり近いわ、バン」
 フィーネはモニターに映し出された地図をバンのモニターへと転送させ、現在位置とウィンディーヌレイクをマーキングした。バンは自分のモニターへと表示された地図を見てその距離から到着時間を予測する。
「ウィンディーヌレイクって確かもう水が張られたんだよな」
「うん。特に何かを偽装させている訳じゃないけれどもう前の通りの湖になったって聞いたわ」
 バンは少し考えて何かを思いつく。思い浮かんだ考えから嬉しそうな顔になって操縦桿を握り直すと、その仕草からフィーネはバンがブレードライガーのスピードを上げるのだと予想できた。
「フィーネ」
 人の行き交う街道ではそんなにスピードは出せない、それならば街道以外の道を歩めば良い。フィーネは地図データから街道以外の道を検索して表示させる。
「この先に街道が出来る前の山道があるわ」
「分かった。ジーク!」
「キュウ!」
 ブレードライガーの背で寛いでいたジークは呼び声と共にブレードライガーと合体した。そしてブレードライガーは街道から外れた道へと歩んだ時、その速度を上げた。

 街道と違いゾイド1体が精々の細い道をブレードライガーは軽々と駆けて行く。最高速ではないにしてもブレードライガーの通り過ぎた後は風を受けて周囲の木々を大きく揺らす。
「バン?」
 フィーネは呼びかける事でブレードライガーを急がせる理由を尋ねた。バンはその意図を読み取って後ろのフィーネへと向くと悪戯っぽく笑う。
「ちょっと早く行ってウィンディーヌレイクで昼メシにしようぜ!」
「うん」
 湖の傍でピクニックでもしようとその瞳は語る。先程のペースではウィンディーヌレイクに着くのは昼を過ぎるので元々適当な所で昼にしようとしていたのを気が向いたからと急ぐ事にしたのだ。
 フィーネにしても突然なバンの行動は慣れているので笑って同意した。

 ウィンディーヌレイク、その場所に隠されていた幻獣はもういない。幻獣が立ち上がるまでに行われた戦闘の爪跡を隠すように広大な湖が広がり、湖の周囲には旅人達や行楽を楽しむ人々で活気に溢れている。
 バンとフィーネはその一角にブレードライガーを止めると昼食の準備を始めたが、特に2人でする事でもないのでバンはフィーネに任せると湖の周囲を散歩する。
 湖の所々で釣りをする人々を目にする。
「釣り糸を垂らしても釣れないんだろうな」
 水の無い状態、即ち水生生物の住めない状態と水が入れられ生物を放されたからといってもまだその生態系が整ってない事を知るバンは苦笑が浮かぶ。
 それでも……とブレードライガーへと戻ると積んでいた荷物の中から釣り竿を取り出して湖の傍へ走って行く。
「バン?」
「ちょっと釣って来る」
「もう!」
 見向きもせずに往復しただけのバンにフィーネは膨れっ面でその後姿を見送る。そしてここぞとばかりにフィーネの傍にいたジークがバンの後を付いて行く。
「ジーク!」
 フィーネが諦めた様に、呆れながらも二人(?)を見送って昼食の準備を再開しようとした時、近くで女性の声が聞こえる。
「アンタ達! あんまり遠くまで行くんじゃないわよ!」
「はーい!」
 今よりも幼かった頃いつも聞かされていた台詞と言っていた返事に振り返れば手を繋いだ子供たちが湖に向って走って行くのが見えた。そしてその姿を暖かい眼差しで見つめる女性と後ろでその全てを見守る様に佇む男性の姿に懐かしいものが込み上げる。
「ああ、あたし達の子供なんだけどちょっとやんちゃでね。煩かったかい?」
 フィーネの視線に気付いた女性が申し訳なさそうに苦笑した。
「いいえ。そんな事ないわ」
 フィーネは微笑んで女性に返した。
 そして走って行った子供たちを見ればバンの傍でバケツの中を覗いている。釣り糸を垂らしながらもバンは子供の相手をしている。
「おやおや、あの子たちは釣りの邪魔をして」
「バンなら大丈夫」
 フィーネから見ればむしろ釣りをするよりも嬉しそうに見えた。ついには釣り竿を置いてジークの背中に子供を乗せている。
 子供の相手をしていると言うより子供と一緒に遊んでいると言った方が良い。
「アンタ達もヘリックシティに行くのかい?」
「ええ、皆さんも?」
「そうなんだよ。明日行われる終戦記念式典を見にね」
 終戦と言う言葉に女性は嬉しそうに笑って言った。フィーネも連られる様に笑うとまたバンと子供たちの方を見る。フィーネの視線を追うように女性も子供たちの方を見た。
「あの子達がさ、どうしても英雄が見たいって言って聞かないんだよ」
 苦笑する女性にフィーネは首を傾げた。
「英雄が来るの?」
「さあ、そんな話は聞かないね。でも英雄の像とか何かが出来るって噂だし、行ってみても良いかなって思ってさ」
「そうなんだ」
 何か考える仕草をするフィーネに女性はその背を叩いた。
「何処の田舎から来たのかは知らないけどヘリックシティでは明日の式典の話で持ちきりさ。だから着いてしまえば式典の案内なんて何処にでもあるって」
 田舎から出てきて情報のなさに途方に暮れたと思ったのだろう。盛大に誤解して元気付ける様に言う女性にフィーネは苦笑した。
「そうよね、行ってみれば分かる事だものね」
 フィーネはまたバンと子供たちを見た。バンに釣りを教えてもらっている少年とジークに乗ってその様子を見ている少女。
「お兄ちゃん全然釣れてないもん。絶対に俺の方が上手いって」
「そういう事は釣れてから言うんだな」
 バンが釣り竿を子供に渡すとバンに釣り方を教えられた少年が釣り竿を投げる。
「よーし、良いぞ!」
 張り合っていたかと思えば自分の事のように喜ぶバンの姿。
「頑張れー!」
 ジークと一緒にそれを応援する少女。
 フィーネは昼食の準備を止めてバンの方に歩いて行く。
「バン」
「フィーネ。もう、メシが出来たのか?」
 呼びかけたフィーネにバンは振り返る。聞き返す言葉は昔と何ら変わらず食べる事、次はきっとゾイドの事。
「違うの」
 フィーネは悪戯っぽく笑った。
「じゃあ何かあったのか?」
 少し心配そうな顔で聞き返すバン、ほら、そういう台詞が出る、とフィーネは思う。
「この子たちも明日の式典を見に行くんだって」
「明日の?」
「そう」
 バンとフィーネの会話を聞いて子供たちは顔を輝かせる。
「俺たち英雄に会いに行くんだ!」
 先に言ったのは釣りをしている少年だった。
「英雄を?」
 バンが聞き返すと今度はジークに乗っている少女が言う。
「英雄の像を見に行くんでしょ」
「英雄は絶対に来る!」
「だからって会えるとは限らないもん」
「でも会うの!」
 聞き咎めて訂正すれば即座に反論する。そんな子供たちの様子にバンはどうしたものかと考える。
「どうしてそんなに英雄に会いたいんだ?」
 そして出て来た言葉。
「だって、お父さんとお母さんが言ってたもん。戦争が終ったから好きなだけゾイドに乗って良いって」
「ゾイドに?」
「うん。大きくなってゾイド乗りになるんだって言ったらゾイドは戦争で使われるからゾイド乗りになりたかったら戦争に行かなきゃ駄目なんだって……」
 少年は釣り竿を振り回しながら不貞腐れたように言う。
「でも戦争に行ったら死んじゃうかもしれないから駄目ってお母さんが言ったの」
 バンの横、ジークの上から少女が続きを言う。
「でも戦争が終ってもうゾイドを戦争で使う事はないから、戦争に行かなくても好きなゾイドに好きなだけ乗れるよってお母さんが言ったんだ」
「良かったな」
 バンは少年の頭を撫でてやる。
「うん。だから戦争を終らしてくれた人に『ありがとう』って言いに行くんだ」
「英雄って人が戦争を終らせてくれたって皆言ってるから、英雄に『ありがとう』って言いたいんだもんね。」
「そうか、じゃあ会えると良いな」
「うん!」
 少年の笑顔にバンも微笑んだ。
「ねえ、あの青いゾイドはお兄ちゃんの?」
 少年はブレードライガーを指差してバンに聞いた。
「そうさ、俺の大事な相棒だ」
 バンは自慢気に言った。
「良いな。俺も大きくなったら自分のゾイドを、相棒を持てるかな?」
「ゾイドが好きならきっと出会えるさ」
 少年は自分のゾイドに出会える事を夢見ながらブレードライガーを見ていた。
 フィーネが少女の方を見るとどこかその様子を羨ましそうに見ていて、少女はフィーネの視線に気付いたのかフィーネを見ると仕方がないと言う顔をした。フィーネはいつも少女と同じ様な場所にいてバンを見ていた事を思い出し苦笑すると少女も同じ様に苦笑し、どうやらお互い同じ様な事を思っていたらしいと気付いてしまった。

 門番の様にヘリックシティの入り口で人々を向かえているのはウルトラザウルス。バンとフィーネはヘリックシティの手前でブレードライガーを隠すとジークを供に、ホバーボードでウルトラザウルスの横を通りヘリックシティへと入って行く。
 式典の前夜祭の如く遅くまで開けている店の並ぶ通りは復興が済んでいて、復興途中の場所には露店が立ち並んでいる。
「凄い人数だよな」
「そうね、これじゃあ宿なんて取れそうにないわね」
 周囲の様子を楽しみながら人の波の流れるままに歩いて行く、途中目に入ったものに寄っては道草をする。
「ほい、フィーネ」
 露店の1つへと行ったバンは両手に皮の剥かれた果物を持って帰ってきてフィーネへとその片方を渡す。
「ありがとう、バン」
 フィーネは感謝の言葉を言ってそれを受け取った。
「宿はともかく食うには困らねぇよな」
 露店で買い食いすれば良いとバンは言う。
「じゃあ宿はどうするの?」
 フィーネのその質問にはバンも渋面になる。
「折角来たんだし宿に泊まりたかったよな」
「そうね」
 言いつつも、そんな事は思っていないような口調でフィーネが返す。
「軍の基地に行ったら泊めてはくれるんだろうけどさ……それだけはやりたくねぇしな」
 バンは隠密行動という性質上か唯の気分か、ガーディアンフォースの頃から任務行った場所でも特に用がなければ軍の基地へと寄り付かなかった。基地に居続けたのはガーディアンフォースとしていなければならないから、フィーネにはそう思えていた。
 それに旅を始めた頃に砂漠を渡る事になれてしまったから宿は特に気にならないのかもしれない。
「それに軍になんか行ってみろ。明日の式典に引っ張り出されるのがオチだぜ」
「そうね」
 渋面を崩さないバンにフィーネはそれが一番嫌なのだろうと思った。
 
 人の流れが緩やかになると建物がなくなり視界が開けた。広場と思われる場所、その向こうに厳かな建物。
「あれが大統領官邸か」
 バンは記憶からその存在を思い出す。
 官邸から続く広場の到る所にゾイドが配置されている。正確にはは配置されているではなく展示されていると居た方が良いだろう。
 シールドライガーやセイバータイガーの数、それは1部隊に匹敵する。アイアンコングやコマンドウルフ、ゴジュラスやレッドホーン、そして……。
「見てみろよフィーネ。ディバイソンとライトニングサイクスまであるぜ」
 広場の入り口からは一番奥、官邸の傍にあの戦いで主力となったゾイドが佇んでいる。
「ジェノブレイカーはない……か」
 バンの声はどこか残念そうに。
「人の事いえるのかしら、バン?」
 そのフィーネの一言にバンは素知らぬ振りをする。
「でもトーマやシュバルツは分かるとしてアーバインも来てるって事か?」
「案外ムンベイもいたりするんじゃない?」
「あははは。ウルトラザウルスをここに運べないのを悔しがってたりしてな」
 懐かしそうにゾイドを見てゆく。それは次第に官邸へと近づく事となるがバンとフィーネは気にする事もなく1つ1つ思い出話をしてゆく。
 そして官邸の前まで来た時、幕の掛けられた巨大な何かを見つける。
「これかな、英雄の像とか言ってたの」
「でも大きさ的には像というよりも壁画みたいじゃない?」
 しばらく訝ってはみるものの見えなくては何も分からない。
「なあフィーネ」
「なあにバン」
 フィーネは経験上バンがこういう言い方をする時は何か企んだ時だと知っている。だから次に出てくるだろう言葉も予測済み、でもいつも同じ様に聞き返した。
 そしてフィーネの予想通りの言葉をバンは紡いだ。

 前夜祭の喧騒も夜中ともなれば静まり返り、広場にある人影は時折巡回してくる警備兵のものばかり。
 バンとフィーネとジークは警備兵から隠れながらその幕の前まで辿り着くと周囲を見回す。巡回の警備兵は通り過ぎて行った後なので当分誰も通らないだろう。
「無用心だなぁ」
「だから、バンが人の事言えないってば」
 改めて幕に隠されたそれを見上げれば何故か心が高揚する。それは一番初めに見れるからなのか悪戯が見つかる事へのスリルなのか。
「じゃあ、さっさと見ようぜ!」
「うん」
 そしてバンとフィーネとジークは幕の下へと潜り込む。吊られた幕と目的の物の間に入り込みライトを取り出して照らす。至近距離から見上げる事になり全体図を見る事が出来ないが触れてみると壁に彫られたようになっている。
「レリーフなのか?」
「そうみたい」
 フィーネも壁に触れてその浮き彫りを確かめる。触れている部分ですら巨大な浮き彫りの一部。
「分っかんねぇ!」
 バンは癇癪を起したように床を踏む。踏んだものは何だったのか。踏んだ拍子に引き攣られる幕と滑る足元にバンは手近にあったものを掴む。
「うわ!」
「バン?」
 振り返ったフィーネの見たもの、それは幕を引っ張っているバンに他ならない。
「バン!」
 フィーネは咄嗟にバンへと手を伸ばすが届く事無く無駄に終り、共に降ってきた幕の下敷きになる。
「もう、バンってば!」
「悪い悪い」
 幕の中から這い出て苦笑するバンに呆れ一息つくとフィーネは再びレリーフを見上げた。
「わぁ……!」
「へぇ……」
 同じ様にバンもレリーフを見上げる。バンとフィーネは暫しその光景に見入っていた。
「良かったわね、バン」
「へへ……」
 そこに描かれていたものに満足するとバンは照れた様に笑った。
「でも、コレどうするの?」
 暖かな雰囲気を吹き飛ばすように次の瞬間フィーネは現実を突きつける。
「さて、どうしたもんだか……な、ビーク」
 何となく状況分析でどうにかならないかとバンは傍で佇んでいるディバイソンのAIに呼びかけた。
「ピーピピ」
 そして反応した電子音にバンとフィーネはぎくりと振り返る。
 ディバイソンのコクピットからは光が漏れて起動準備が整えられた事を告げる。
「あはははは」
 バンは乾いた笑いで、それでも誤魔化しようはなくて。
「バンの馬鹿!」
 フィーネの怒鳴り声を合図にしたかの様に官邸の明かりが次々と灯されて行く。
「誰かいるのか?」
 戻ってきたのだろう警備兵の声。
「フィーネ、ジーク……。逃げろ!」
「バン!」
 フィーネは遅れないようにバンへと呼びかける。バンはフィーネの手を掴むとその手を引っ張って走り出しジークが慌てて後を追う。
「誰か来てくれ!」
 後方では警備兵の声に人が集まり始めていた。
 心の内で詫びながらバンは一目散に逃げていた。

 バンとフィーネとジークは呆気ないほど容易に隠していたホバーボードに乗ってヘリックシティを抜け出す事が出来た。ブレードライガーへ辿り着くとバンはホッとしてフィーネを見た。
「危なかったなぁ」
「バ〜ン?」
 反省の色の見えないバンにフィーネは軽く睨んでみる。
「大丈夫、ちゃんと反省してるって」
 宥めるようにフィーネに言うとバンはブレードライガーのキャノピーを開けると今までキャノピー越しで聞こえ辛かったコクピットの通信システムから通信を知らせる電子音が明確に聞こえてきた。
「あっちゃ〜」
 発信コードはトーマ。
「やっぱりさっきのでバレちゃったみたいね」
「まあ、そうだろうな」
 相手はAIビーク、声紋なりレコーダーなり幾らでも解析は出来るだろう。そして自分がいた事がバレるのは時間の問題だった。
「どうするの?」
「ん……どうしようかなぁ。またトーマにどやされるんだろうなぁ」
 バンは再びキャノピーを閉めた。
「良いの?」
「今は良いや」
「今は?」
「そ、今は」
 バンはそう言うと収納庫から毛布を取り出してフィーネに渡す。
「コクピットで寝れないけど仕方ないよな」
「バン」
「朝になったら教えるからさ」
 バンは自分の分の毛布を被るとその場に寝転がった。結構頑固なバン、今問い詰めてもきっと言わない、朝には言うと言ったのだ。バンが約束を破る事はないから言ってくれるのを信じてフィーネは諦めて同じ様に毛布に包まった。

 大勢の人々の見守る中、記念式典は滞りなく進められてゆく。トーマとアーバインは祝砲の為にそれぞれのゾイドに乗り込んでいた。
「本当にバン達だったんだな?」
 進められていく式次第を横目にトーマとアーバインは通信回線を開いて会話を交わす。トーマは昨晩の騒ぎからずっとディバイソンに乗り込んでバンへと通信を送っている。
「ビークが間違える訳ないだろう!」
 繋がらない事への苛立ちからトーマの口調は怒鳴り気味になる。
「おいバン! 応答しろ! 聞こえないのか、バン!」
 トーマは何度も同じことを繰り返し呼びかける。
「まったく、アイツはこんなに近くに来ていながら!」
 式次第も既に後半へと来ていた。
「おーい、もうじき除幕式だぞ」
 煽るようにアーバインは呑気にトーマへと通信を入れる。除幕式の前、ルイーズ大統領の挨拶へと式次第は来ていた。そしてバルコニーへと進むルイーズ大統領の姿。
「分かっている!」
 トーマがアーバインへと怒鳴った時、ディバイソンへと、そしてアーバインのライトニングサイクスへと通信を知らせる電子音が響く。
 発信者の通信コードはバン・フライハイト。
「「バン!」」
 トーマとアーバインは慌てて通信回線を開く。同時にトーマは式典の本部へとバンからの通信を知らせた。
「バンから通信が来ました!」
 本部に待機していたオコーネルはトーマからの通信を受けてバンからの通信回線を開く。モニターに映ったのはバンとフィーネの姿。
 式典ではルイーズ大統領の挨拶が始まり、その隣でルドルフが並んでいる。二人にも密やかにバンからの通信が来た事、その内容が告げられる。
 ムンベイ、ドクターディ、ハーマン、シュバルツらはモニター前へと集まっていた。
『よっ、皆久しぶり!』
『お久しぶりです』
「久しぶりではない!」
 怒鳴るトーマの声にバンは苦笑した。
『昨日の事は悪かったって』
「そんな事はどうでも良い。今何処にいるんだ?」
 トーマに任せておいては進む話も進まないどころか口喧嘩へと発展しかねないので代わりにアーバインがバン達に尋ねた。
『それなんだけどさ。そこの……式典してる広場から東へ10時方向を見てくれないか?』
「バン?」
 それぞれ言われた方向を見た。そこは広場から見える小高い丘の上、金色のブレードに太陽の光を反射させた蒼いゾイド、ブレードライガーが佇んでいた。
『レリーフ、上手く出来てるよな。で、嬉しかったぜ』
 バンがそう言うとブレードライガーは大きく咆え人々がどよめいた。咆哮の聞こえた方へと人々は振り返る。
「あのお兄ちゃんのゾイドだ!」
 小さな少年は見覚えのあるゾイドを指差していた。
 ルイーズ大統領は人々の視線がブレードライガーへと集まっているのを確認して新たに言葉を続けた。
「皆さん、何故英雄が生まれたのでしょう。戦争があったから英雄が生まれたのではありませんか? 戦争は終りました。もう英雄は必要ないはずです」
 ルイーズ大統領はそこまで言うとルドルフに場所を空けて続きを促す。
「それでも私たちは英雄を覚えているでしょう、戦争を忘れない為に、二度と戦争を起さない為に。ここに彼らの軌跡を残す事は戦争があった記憶を残す事です」
 その言葉とともに覆い隠されていた幕が取り除かれ最終決戦の1シーンを再現した巨大なレリーフが現れる。
 レリーフには誰も描かれていなかった。そこに描かれているのはデスザウラーを倒そうとしているブレードライガーとジェノブレイカー。そして見守るように戦いに参戦していたゾイド達。
 参戦していたゾイドは今広場に佇んでいる。そしてレリーフの中で一際目を引くのは蒼いゾイド。今そこに佇むブレードライガー。
 アーバインとトーマは祝砲を撃った。
 バンは祝砲代わりにもう一度ブレードライガーを咆えさせるとブレードを翻して駆けて行った。
 ざわめきの中、ルドルフは続ける。
「英雄が求められた世界は終り、英雄と呼ばれた彼らは去りました。そして今、去って行く事で彼らは戦争の終わりを告げてくれました」
 人々はそこに英雄が伝説となり、戦争が終結した事を知った。

『……戦争があった記憶を残す事です』
 ブレードライガーの通信からルドルフの声が聞こえていた。
「ルドルフも良い皇帝になったよな」
 嬉しそうなバンの声。
「そうね。でも、もっと良い皇帝になるわ」
 フィーネは悪戯っぽく笑ってバンの言葉に同意した。
「そうだな。これでもうゾイドが戦争に使われる事がなくなるんだよな」
「うん」
 バンとフィーネは嬉しそうに顔を見合わせた。
「さあ行こうぜ。フィーネ! ジーク!」
 バンからフィーネへと呼びかけられた声はいつでもフィーネに差し伸べてくれた手のように、フィーネは迷う事なく返事を返す。
「うん!」
「キュイ!」
 合体したジークがブレードライガーの代わり返事をする。バンは振り返らずにブレードライガーで駆け出した。
 それは新しい世界へと駆け出すように、前を向いて新しい時代へと駆け出した。




葉中剣様
キリ番600ゲットおめでとうございました。
リクエストがバン&フィーネでおもいっきりほのぼの、その後のはずだったのですけれど……リクエストに応えられていましたでしょうか?
ただ、私って奴は精神状態が書いている話影響する人間で、コレを書いている間にアメリカのテロ報復爆撃が始まってしまいこの話では反戦感情がちょこちょこ(?)と出てきているようです。
でも自分的にはほのぼのだと思うのですが、おもいっきりと言われると不安です。
バンとフィーネってどうもバン・フライハイト編の終わりの時のように、2人で旅に出るイメージが強いんです。
そんな旅の途中のお話と云う事で書いてみました。
旅に出る前って云うのは少しだけ「子守唄」で触れたのですが、本当にその後になるといっぱい書きたい事って出てくるものですね。
もっといっぱい書きたくなってしまいました。
また機会があればバンとフィーネのその後を書いてみたいです。




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