「子守唄」

 ウルトラザウルスの甲板に佇むライガーの上からフィーネへと聞こえてきた声と旋律。
「バン?」
 フィーネがライガーを見上げるとバンがジークと一緒にライガーの上で寛いでいた。
「フィーネも上がってくるか?」
「うん」
 バンはフィーネに尋ねるとフィーネは頷いた。バンはフィーネが上がってくるのを助ける為にライガーの操縦席に乗り込んでライガーの姿勢を低くする。
「ジーク」
「きゅい」
 バンがジークに声をかけるとジークはフィーネに尻尾を向けた。そこに掴まれと言う事らしい。
「ありがとう、ジーク」
 フィーネが尻尾に掴まるとジークはフィーネをゆっくりと引き上げる。
 バンはフィーネが昇りきるのを確認するとライガーの姿勢を元に戻した。
「バン」
 バンは操縦席を出ると身軽にひょいひょいとライガーに上ってゆく。
「よっ、フィーネ、ジークお待ちどうさん」
「お待ちどうさま」
「ぎゅい」
 晴れ渡る空の元にやさしい風が甲板の上を過ぎてゆく。
「良い気持ちね」
「ああ、見晴らしならトップブリッジの方が良いんだろうけどさ、あそこには風が吹かないからな」
「そうね」
 風に吹かれながら、暫らく無言で静かに時を過ごしてゆく。
「♪〜」
 また小さく聞こえてきたバンの声と旋律。
「それ……」
 フィーネはどこか複雑そうな顔をしてバンを見た。
「どうかしたのか?」
 バンは歌うのを止めてフィーネの方に向いた。
「バンの歌っていた唄……」
「この子守唄か? ウィンドコロニーの皆なら全員知ってると思うぜ」
「子守唄、多分そんな気がする」
「フィーネ?」
 フィーネは首を傾げて何かを思い出すような仕草をした。
「昔聞いたような気がするの……」
「古代ゾイド人の記憶か?」
 バンは真面目な顔になった。
「多分……。でも歌詞は分からないの、旋律が同じような気がするの、変?」
 フィーネは困ったような顔してバンを見る。バンは安心させるように笑った。
「変じゃないさ。この唄だって誰がいつ作ったのかも分かんねーし、いつからウィンドコロニーで歌われているのかも分かんねー。俺だってよく姉ちゃんが歌ってくれてたから覚えたんだ。姉ちゃんだって母ちゃんが歌ってくれていたのを覚えたって言うぜ」
「そう……」
「だから、もしこの唄がフィーネの知っている子守唄と同じ唄だったら生き残った古代ゾイド人の誰かが伝えたのか、フィーネやリーゼみたいにゾイドエッグから目覚めた誰かがウィンドコロニーの誰かに教えてくれたのかもしれないだろ」
 そうだとしたら遥かなる昔にフィーネが聞いた子守唄と同じ子守唄かもしれないと、バンはそう言った。
「そうね」
 そのバンの言葉にフィーネは安堵していた。だとしたら古代ゾイド人が惑星Ziに残したものはゾイドと遺跡、そして破壊や滅亡の力だけではないのかもしれないと思う。
「この星のどこかにまだ古代ゾイド人がいるかもしれない。もし出会う事があったらさ、この惑星はもう平和になったんだって伝えてやりたいよな」
「うん」
 そしてバンは風に吹かれながら遠い空を見て遥かなる昔の人々に思いを馳せる。彼等の時の中にもこんな穏やかな時間があった筈だと思った。
「覚えているだけで良いからさ、フィーネの覚えている唄を聞かせてくれよ」
「分かった」
 フィーネは覚えている旋律を紡ぐ。その隣でバンは目を閉じてフィーネの唄を聞いた。
 風に乗り子守唄は耳に、心に届けられる。それは誰かを慈しむ心が生んだ優しい旋律、その想いは時を経ても変わる事はない。どこまでも遠く遥な時間にも同じように慈しむ誰かが誰かの為に紡ぐ旋律。
 遠い時代にフィーネを慈しむ誰かからフィーネが聴いた子守唄。
 今は、戦いに疲れた勇者を癒すために優しく紡がれる。












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