雨上がりの午後は・・・
僕はいつも彼らを見ていた。
彼らが喜ぶと僕も嬉しくなるから。
彼らが悲しむと僕も悲しくなる。
彼らと離れて立っていると、彼らは大きな声で僕を呼んでくれる。
彼らの後ろに立つと、彼らは振り返って大きな瞳で僕を見る。
見上げるように僕の顔を見ると、彼らは僕に話し掛ける。
仲間・・・
そう言ってくれた彼ら。
僕も・・・そう思っていいんだろうか。
僕は彼らの力になりたい。
そして僕をやさしく見守ってくれている人。
「私のところに来ないかい?」
そう言ってくれた貴方の、
僕は力になれるだろうか?
どうすれば貴方の為になるのだろうか?
〜ある土曜日から〜
朝起きた時、土屋研究所の窓から見た空は雨だった。
朝食後から、僕はマシンのセッティングをしていた。
「今何時だろう・・・」
ふと顔を上げる。
外を見ても太陽が出てないので時間が分からない。
少し殺風景な部屋を見て時計がなかった事を思い出す。
マシンを引き出しに片づけて、僕は部屋を後にした。
ミーティングルームに行けば確か時計があったはず・・・。
廊下を歩きながら窓の外を見る。
雨・・・。
梅雨だから仕方がないけど、やっぱり晴れて欲しい・・・。
あんまり見ていると気分が沈みそうになってくる。
外を見るのを止めかけた時、見覚えがある色彩が走って来た。
「烈くんと・・・豪くん?」
建物の中に入るのを見届けると、
「「博士ー!」」
声変わり前の高い声が二重奏で聞こえてくる。
元気な声が心を少し晴れにしてくれた。
ミーティングルームに行く足取りが少し早くなっていた。
コンコン。
軽くドアを叩く。
カチャ。
ノブをまわす音と共に、彼らの話し声が聞こえてくる。
土屋博士が僕にやさしい眼差しを向ける。
彼らはほとんど同時に振り返る。
「「J(くん)!」」
二重奏が僕の名前を呼ぶ。
「おはよう、今日はどうしたの? 学校は?」
僕は二人に話しかける。
「おはようじゃねーよ! 何時だと思ってんだ」
呆れたように、少し背伸びしながら豪くんが言う。
「今日は土曜日だから、授業は午前中だったんだ」
烈君が豪くんをフォローするようにいつもの笑顔で言う。
僕は入ってきたドアの上にある時計を見る。
「もうこんな時間だったんだ・・・」
時計は2時を過ぎていた。
「Jくん?」
博士が僕を呼ぶ。その声で我にかえって博士を見る。
少しボーっとしてたらしい。
「どうかしたのかね?」
「いえ、なんでもありません」
その言葉は直ぐに出た。博士に余計な心配をかけたくない。
「ふむ」
何か考え込んだ様子・・・、どうかしたんだろうか?
少し考え込んだ後、博士は僕にこう言った。
「Jくん、私は少し用事を思い出したんで代わりに
烈くんと豪くんの相談にのってやってくれないか?」
「博士!」
僕はびっくりして博士を見る。
烈くんと豪くんも顔を見合せている。
「頼んだよ」
博士は僕の返事も聞かず、にっこりと笑って出ていってしまった。
僕は暫く博士の出て行った方を見ていた。
「それじゃあJくん、お願出来るかな?」
おもむろに口を開いたのは烈君だった。
その後、セッティングついて二人と話す事になった。
博士は部屋に篭ったきり夜まで出てこなかった。
〜日曜日と云う次の日〜
まだ雨が降っている。
今日は日曜日だから二人は来るだろうか?
博士・・・今日は朝からどこかへ出かけた。
昨日はどうしたんだろう?
昨日の続き、マシンのセッティングをしながら考える。
「今、何時かな・・・?」
声に出してしまった言葉を思う。
少し休憩しよう。
食堂に行ってお水を貰う。
人の姿はない。
時間は2時、昨日と同じぐらい。
また没頭してしまったらしくお昼時間を過ぎている。
おなかはまだ大丈夫かな? もう少しセッティングをしておこう。
食堂を出てミーティングルームの前にさしかかった時、
烈くんと豪くんがいた。
「「J(くん)!」」
こちらに気が付いて駆け寄って来る。
僕は立ち止まって二人を見る。
「どうしたの? こんな所で。博士なら出かけてるけど?」
その瞬間、豪くんの表情が変わった。
「博士に会いに来たんじゃねー!」
噛み付きそうな勢いで言う。僕はちょっとびっくりくした。
「今日は僕たちJくんに会いに来たんだ」
言いながら隣にいる烈くんが豪くんを宥めている。
「僕に・・・?」
僕は首を傾げながら問いかける。
「これ!」
そう言って豪くんは筒状の物を差し出した。
「おい豪、『これ!』じゃないだろう」
烈くんは豪くんの言動にいつもの苦笑いになる。
顔に『困ったやつだ』と書いても、直ぐに豪くんのフォローをする。
相変わらずだなと思って二人を見ているともう一人、
こっちに近づいて来た。
「やあ、3人とも、どうしたんだい? こんな所で・・・」
博士はにっこりっと笑いかけてくれた。
「あ、博士、おかえりなさい」
「「博士!」」
烈くんと豪くんは振り返って博士を見る。
「こんにちは、博士」
「こんにちは!」
「やあ、こんにちは。今日はどうしたんだい?」
やさしい口調で、二人に問いかける。
「今日はJくんに用があって来たんです」
烈くんが博士に言うと、
豪くんは思い出したようにさっきの筒を僕にもう一度差し出す。
「J! これ、お前にやろうと思って・・・」
「僕に・・・?」
なんだろうか?
そう思って烈くんを見る。
「僕たちが作ったカレンダーなんだ」
僕の思いを読み取ったのか烈くんが言う。
「見てもいい?」
僕は豪くんからカレンダーを受け取って広げた。
「!」
いろんな思いが重なって、僕は言葉が出なかった。
「絵の方は豪が描いたから下手だけど、日付は僕が書いたからね」
「きたねーぞ烈兄貴! 兄貴だって俺と変わんねーだろ!」
烈くんと豪くんが何か言っていたけれど僕はずっとそれを見ていた。
絵には烈くんと豪くん、土屋博士、リョウくん、次郎丸くん、
まことくん、黒沢くん、ジュンちゃん、ファイター、
そして・・・僕がいた。
日付は平日は黒で、土曜日が青、そして日曜日が赤。
4月10日に烈と8月1日に豪と書いてある。
「これは?」
僕はカレンダーの印を指す。
「それは僕たちの誕生日。豪が書けってうるさくて・・・」
「兄貴だって喜んで書いてたじゃねーか!」
「Jくんは何月?」
烈くんが聞いてきた。
「僕は・・・12月14日・・・」
そう言うと烈くんはポケットからマジックを取り出した。
「ちょっと貸してくれる?」
烈くんはカレンダーを床に置いて12月14日のところに「J」と書いた。
「出来た!」
烈くんはカレンダーを広げて見せる。
胸の奥から暖かなものが広がって行く。
「ありがとう!」
精いっぱいの笑顔を二人に返す。
そして二人からも嬉しくなる笑顔が返された。
「良かったね」
事の成り行きを見ていた博士が声をかけてきた。
僕は博士を見て大きくうなづく。
「私からも渡したいものがあるんだが・・・」
そう言って白衣のポケットから長細い箱を取り出した。
「Jくん、君にだよ」
僕は箱を受け取って博士を見る。
「開けてみてごらん」
「はい」
そして僕は箱を開ける。
「これは・・・」
僕は博士を見た。
「マシンのセッティングも大切だが、あまり無理をしないように。
たまには時間を見て休憩した方がいい。
君が元気でいてくれる事が私には何よりだからね」
博士の微笑みと共に優しい言葉が心に染みる。
そしてもう一度箱の中の時計を見る。
ぽたりと零れた滴が文字盤を濡らす。
「Jくん?」
博士の心配そうな声がした。
「気に入らなかったかな?」
僕は涙を拭いて博士をみる。
そして心を込めて言う。
「ありがとうございます。大切にします。」
作らなくても自然に笑顔は出ていた。
いつの間にか雨は止んでいた。
雲の間から太陽の光が差し込み廊下を明るくする。
博士は外を見ながら言う。
「Jくん、紅茶を入れてくれるかな?
今日はみんなで外で飲もうか?」
廊下から見える空は、青空が広がっている。
時計は3時をさしていた。
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