FACE



くすっ・・・
いつもの扇越しに聞こえる笑い声。
感情を逆なでする様な眼差し。
そして見下ろすという事と尊大そうな態度。
「くっそー!!! 俺が最速なんだぁぁぁぁぁ!」
日課の様にジャネットに負けたニエミネンの叫びがオーディンズの練習コースにこだまする。

「しかしコースアウトしなければニエミネンが勝っていたかもしれないな」
その言葉に一気に二人の機嫌が入れ替わる。
「そうだろ、そうだろ! 俺の方が速いだろ!」
「コースアウトしなければでしょ? レースにすらなっていない、話にならないわ」
パチンッ
扇をたたんで綺麗な顔をワルデガルドへと向ける。
小学生らしからぬその容姿と不機嫌そうな表情は彼を怯ませた。
「まあな」
二人の物言いにワルデガルドは苦笑しつつ答えた。
「とりあえずニエミネンはコースアウトしない様に気を付ける事、ジャネットは・・・」
「コーナーからの立ち上がりをなんとかすれば良いんでしょ?」
「そうだ、同じマシンの同じ高速セッティングなのにニエミネンはコーナーを無視し過ぎている」
「そんなぁ〜」
情けない声でニエミネンがしょ気ながら「コーナーなんて・・・ストレートで速ければ・・・」とブツブツ何かを言っている。
「幾ら速くてもコースアウトなんかしたら意味ないんだから当然よ」
「何んだとぉ」
食って掛かるニエミネンを無視してツンとそっぽを向いたジャネットの顔はニエミネンからは見えない。
「くそー! 今度こそ俺の方が速いんだって証明してやる!」
相変わらず無視のジャネットに一方的に言い放ちコースへ走っていく。
「ジャネットはコーナーを気にし過ぎだ」
「分かっているわ、コーナーを重視してもこのマシンのトップスピードが今のニエミネン程じゃなくてもまだ速い事ぐらい・・・」
「コーナーからの立ち上がりよりコーナーでのスピードの減速の方が問題だと分かっているんだな」
「だから?」
それ以上の問答は無用と睨み付ける。
「コースアウトするよりは良いわ」
バサリ
扇を広げて口元を隠す。眼差しだけでも意志が伝わる瞳に、
「その分ストレートで取り返せば文句無いでしょ?」
扇で遮られて篭もった声だけ残してスタスタとコースへと歩いて行く。
後ろ姿を見送りながら苦笑するしかなかった。
「ストレートが速ければ良いって言うのは二人共通なのに・・・」
コーナーに対する考え・・・気持ちがここまで極端なのも珍しい。
二人がそれを克服すればチームはもっと速くなるはず。
「もう少し様子を見るか」

コースに戻るに連れて聞こえてくるニエミネンの声。
「いっけぇーホワイトナイトー!」
耳障りなくらい大きな声で叫んでいる。叫んだからといってコースアウトしなくなる訳じゃないのに。
「騒がしいわね・・・」
じっとニエミネンのマシンを追う。自分にはない速さ。
そのままのスピードじゃコースアウトすると予想できるスピード。
ガツッ
短い接触音。
ニエミネンのホワイトナイトが中を舞う。「ほらご覧なさい」と心が言い、呆れたように呟く、扇子の内側で自分にしか聞こえない声。
「ホワイトナイトー!」
更にその声を消すような叫び声とホワイトナイトに駆けて行く小さい人影。
落下地点にダイビングするニエミネンの姿。
パシン
「ニエミネン!」
間近で聞こえた叫び声は誰の声?
ニエミネンはマシンをキャッチするとドタンと大きな音を立てて転がった。
「いてててて・・・大丈夫かぁホワイトナイト〜」
情けない様な声でマシンに語りかける。
「大丈夫だったか、ニエミネン」
ニエミネンの周りにはいつの間にかメンバーが駆け寄っていた。
ニエミネンの額に擦り傷が出来ている。また生傷が増えたみたい。
そういえばニエミネンのマシンはコースアウトが多い割にはそれほど壊れていない事に気づく。
「今度こそぶっちぎりでコーナーをクリアしてやる!」
怪我なんて気にしていないその姿。コースアウトした位置も先程より伸びている?
ニエミネンは本当にあのスピードのままコーナーをクリアする様な気がする。
コーナーを恐れないその気持ちは勇気?
形振り構わないその姿勢が少しずつコーナーをクリアしてゆくのかもしれない。
「今度こそコースアウトせずに走りぬいてやるから見てろよ!」
足元からの叫び声。その声の方を向くと息巻いているニエミネンの顔。
「相変わらず良く飛ぶマシンね、今度はその飛距離を伸ばすの間違いじゃないの?」
その声が、先程自分の間近で叫んだ声だと気づく。
自分の声だった・・・そう思うと少し可笑しくなって、少し笑ってしまった。
ニエミネンが驚いた顔をしている、少し赤い?
「何が可笑しいんだー! 絶対にクリアしてやるからな!」
怒りの為に顔を真っ赤にして走り去って行くニエミネンの姿を見送る。
バサ
扇を開いて口元を隠す。
クスッ・・・
扇で笑いを隠しながら思いだす。先程叫んだ自分の姿は周りを気にしていなかった。
それはニエミネンの形振り構わない姿勢と同じかもしれないと。
自分の中にもその姿勢があるのなら、少し勇気を出しても良いかもしれない。
パシン
扇を畳んでマシンのセッティングを変える。
コーナーをクリアするスピードが上がっていた。

「何を笑っているの?」
ワルデガルドは二人の様子を見ていた。
彼は気づいていなかったかもしれない、ずっと笑みを浮かべていた事に。
「ジャネットがようやくニエミネンの事を認めたからな」
だから嬉しいのだとその笑みの説明をする。
「ジャネットは自分が認めていない相手には顔を見せようとしないだろ?」
記憶するジャネットの様子から「そう言えば・・・」と思い当たる節を思い出す。
ジャネットは好きでない相手や実力を認めていない相手と真っ直ぐに話をしなかったり扇で表情を隠す時がある。
そしてニエミネンとジャネットの方を見た。
ジャネットは扇で顔を隠す事をせずにニエミネンと話している、その状態で笑みまで浮かべて。
ニエミネンが顔を赤くするのが分かった。
二人を見ていると何故か笑みが零れた。
「これで少しはチームとしてまとまったかな」
自問するようなワルデガルドの呟き。
横で頷く気配がした。




かなり好きな組合わせ(カップリングとは言わない)ですね
あの二人のどつきあいって見てて楽しくて〜♪

ジャネット姉さんはいつもあの扇子で口元隠してレースしてますよね
ニエミネンを叩く時にあの扇を使ってたりする訳ですが
かなり自分の思い込み入ってます
そんな訳ねーだろってお声が聞こえてきそうです

さてさて、突発(思い付きとか勢い)で書いた話じゃなかったお陰で
内容的には絞り込んでますから短いし楽でしたね
初めからこのシーンとこういうシーンで
時間的には練習の中のちょっとした出来事って決まってましたしね

ジャネットってなんだかんだと言っても
ニエミネンの事を信頼してるといいなぁというそれだけの話です