永久の戦意
注:ビデオを見直す事をオススメします(^^;)
色褪せない文化。
其処に連なるのは消えない思いと熱い心。
続ける事の出来る強さを持つ街。
そこで強く生きてきた事。
彼はその街を象徴していた。
ぎりっ・・・
モニターを見ながら噛み締めていた。
「カルロ・・・」
ついて出た言葉はチームリーダーの名前。
ワールドグランプリファイナルセクション第2ステージ、ロッソストラーダからはカルロのみの出場。
レース前にカルロを心配して言った時、
『レースは一人でするもんだ!』
その言葉と迫力に押されて、あたし達は何も言えなかった。
確かにカルロは一人でも十分強い。チーム走行じゃない方が生き生きしているようにも見える。
急カーブの連続する坂道を走り降りる時、カルロは楽しそうに・・・。
あたし達は邪魔なの?
それでも一人で走る姿が映し出される度に沸き上がる後悔は一緒に走れば良かったと思う。
順位を少しずつトップから引き離されて行くカルロを見る度に大きくなる。
必要ないとされているのに、そんな事を思うのは何故?
あたし達は心配をしているの?
何の心配?
あたし達はカルロの心配をしているの?
モニターに映し出されるのはトップ争いをする2人であり、カルロの姿はない。
もうトップは肉眼でも確認出来る。モニターは後方集団に切り替わった。
映し出されたのはTRFビクトリーズとアストロレンジャーズ、アイゼンウォルフのみ、カルロの姿はない。
ため息にも似た吐息が漏れてモニターから目の前のコースへと視線を移す。
トップが最終コーナーをクリアしてストレートを走っていた。もう順位は決まったと思った時、視界の角に入った赤い色。
「まさかね」
願いすぎて幻覚でも見えたのかと頭を振る。それでも耳に届いたモーター音が次第に大きくなってくる。
しかもこのモーター音がディオスパーダの音だなんて都合良すぎるんじゃない?
自嘲しようとした時、意識に割り込んでくるファイターの騒がしい声。
「来たー!
紅の閃光ディオスパーダとカルロくんが来たー!」
弾かれたようにコースを見る。
「カルロ!」
驚きなのか声援なのか分からない自分の声、それに続く他者の驚きの声。
その中で意外そうな顔が自分を見た。
文句を言いかけて止める。お互い今はそんな時じゃない。
カルロは今トップが射程圏内にある。ここで1位を確実にするには・・・
「チャンスよ、カルロ!
アディオ・ダンツァを!」
さっきの視線の主が睨むのが分かったけど直ぐにその顔は途方に暮れるのよ。
聞こえていたはずなんだからきっと仕掛ける、今までもそうだったじゃない。
高揚感にも似た期待する気持ち。
バスターソニックにディオスパーダが並ぶアディオ・ダンツァを仕掛ける瞬間。
「烈兄貴!」
その声が届いた訳じゃないはずなのにカルロは躊躇した。
そしてそのままソニックを追い越してゴール・・・。
ズキン・・・
カルロの叫びが聞こえた。
全身で何かを訴える、いつもの蔑んだ作り物の喜びじゃないカルロはどこか遠くの出来事の様に思えた。
カルロは勝ったのよ?
これであたし達が有利になったし優勝にも近づいた。
ボスからの賞金は約束された様なものじゃない。
だったら・・・どうして素直に喜べないの?
雨が上がった。
雲間から零れ落ちた光がカルロの手によって天に掲げられたディオスパーダに反射する。
赤い光沢を放つマシンと勝ち誇ったカルロの顔。
「カルロが勝って嬉しくないのかよ」
見透かすように無遠慮に問う声はさっきから何かと反応を返してきたマグナム野郎。
「さっきから鬱陶しいわね、何か文句でもあるって言うの?」
のうのうとミニ4駆を走らせてきたのだと分かる真っ直ぐな眼差し、癇に障る存在。
「チームメイトが勝ったんだから一緒に喜んでやれって言ってんだろ。別に理由があるなら文句なんてねーよ」
明らかに不満顔で言ってくる。不満と言うよりは怒りに近い。
そして打てば響くほどに返ってくる反応は相変わらず短気でからかい甲斐がありそうなのに・・・何故だろうそんな気になれないのは。
いつもの様に鬱陶しいし目障りなはずなのに、いつもの余裕が持てない。
「自分の兄弟が負けたからってむきにならないで欲しいわね。嬉しくないですって?
のうのうと走ってきた奴等が負けたのよ、嬉しいに決まってるじゃない」
同じように勝ち上がる事で生きてきたカルロが勝ったんだから嬉しいに決まってる。
カルロの勝ちはチーム全体の報酬にも繋がるんだから。
「カルロは卑怯な手を使わずに烈兄貴に勝った。正々堂々勝負して勝った奴に俺は文句なんて言わない!」
ズキン・・・
カルロがゴールした時にも感じた痛み。
「カルロが追い上げてきた時は嬉しそうな顔をしてたくせに、カルロが勝ったのに辛気臭い顔してんじゃねー!」
辛気臭い顔? そんな顔してたの?
あたしは再びカルロを見た。今度は現実感を伴ってそこに贈られる賞賛が聞こえる。
今までの、不満そうな、懐疑的な賞賛とは違うその歓声に苛立ちが増す。
「あんたには関係ないじゃない!」
逃げる訳じゃないと自分に言い聞かせながらマグナム野郎に背を向ける。
でも逃げた様に見えると本当は分かっているけど、それは悔しいけど、今は早くそこから離れたかった。
「どうした、豪?」
後ろでビクトリーズのリーダーの声が聞こえた。
その声音は負けたのに悔しそうじゃない。
「烈兄貴・・・」
遠ざかっているはずなのに聞こえてくる、良く通るまだ高い声。
「惜しかったな」
「まあね。でもさすがはカルロくんだよ、あの状態から勝つんだもん」
言う言葉と声からはやっぱり怒りや不満は聞き取れない。
「なあ烈兄貴」
「なんだ?」
「あの時さ、もし・・・カルロにアディオ・ダンツァでマシンを壊されて負けたとしても、今と同じ様にカルロの事をさすがって思えたか?」
少しの間が空く、聞こえなくなったのかと何を言っているのかと気が逸れない。
「さあね、でもあれはちゃんとレースして負けたからね、悔しいけど文句なし、カルロくんは凄いよ」
「うん、俺もそう思う」
「でも次ぎは負けないよ」
挑戦的に、言い聞かせるように届く声。
「俺、早くカルロと走りたくなった」
「最終ステージ、カルロくん大丈夫かな?」
「来るよ。カルロは来る、絶対に!
そして正々堂々勝負するんだからな」
聞こえてきた自信満々の答えに、立ち止まって振り返る。
聞いていたのを分かっていたと云う顔と目が合う。
その瞳は距離を無視して意志を伝えてきていた。
宿舎に着いてからのカルロはどこか苛ついていた。
それと同時にWGPが始まってから少しずつあった変化が大きくなったのじゃないかと思う。
何が変わった?
何が・・・
『アディオ・ダンツァを使えば無敵ね』
その言葉に示した過剰反応。
常のカルロだったら、以前のカルロだったら相槌を打ったはず。
確かに、始めからカルロにはアディオ・ダンツァは必要なかったし進んで使うような事も無かった。
ラフプレーは勝つ為の手段。
他を蹴散らして自分だけが残る事が一番安全で確実な勝利の方法。
生きていく為には勝たなければならない、這い上がる事しかしらない生き方は勝利への執着も一入だったけど、レースをする度に自分とは走りを見せつけられる。
でもそれは生き方が違うから。
そのはずなのに・・・アディオ・ダンツァを使う事への躊躇いとその苛つきの原因、今日のカルロの様子。
『レースで勝つよりも大切な事があるでげすよ』
ビクトリーズのあのぼっちゃんの言葉に何を思ったの?
小さく返した嘲りは、自分もそう思いはじめている事を認めたくないから、自分の心を偽りたいからにしか見えない。
甘い考え・・・。
その甘さが、カルロの変化が、あたし達を・・・あの惨めなところに戻さない事を願って部屋から出て行くカルロを見送った。
自分に割り当てられた部屋に戻るとルームランプすら灯っていないはずなのに部屋の中は明るかった。
光源は窓、静かだと思う。
惹かれる様に窓へと近づく。
「雪か・・・」
一度降り止んだ雨が、今度は雪となって降り積もっている。
「チッ」
その穏やかな白さが自分とは合わなくて、窓から離れてベットに寝転ぶ。
何も聞こえない事が心を落ち着かせる。
雨に濡れる惨めさは帰るべき家もなく食べる事にも困っていた惨めさと似ているから嫌いだった。
雨の音は雑音の様に鬱陶しい、そして昔の惨めな自分を思い出させる。
静かだ・・・。
でもその方がいい。
今は何も考えたくない。
サクっサクっと雪を踏みしめる音が静かな白い世界から聞こえる。
静けさを破るように騒ぐ声。
騒がしさをもたらした存在に不快な気持ちになる。
「マグナム野郎か」
そしてその声の持ち主を認識すると不快感は一層増し、苛立ちが加わる。
聞いていたくなくて、部屋を出た。
何故自分からその場を離れたのか、部屋から出る事より外のやつらを追い払えば良かった筈なのに。
部屋を出てから改めてそう思うと余計に苛ついてきた。
どこに行くつもりもなく、行き場もないのに部屋を出て、何処に行こうと云うんだ?
気づいた時には階段の前まで来てしまっていた。
どうしようかと立ち止まった時、呼びかけられて振り返る。
「カルロくん」
にこにこと、甘い考えでいつも笑っているヤツ。
ビクトリーズのリーダー、マグナム野郎の兄、甘ちゃん集団のリーダーだけあって一番の甘ちゃん、星馬烈。
こいつに対しての認識なんてそんなもんだ。
話したいとは思わない、とりあえず無視して階段を降りる。
「カルロくん!」
無視されている事には構わず呼び続け、後を追うように一緒に階段を降りる。
俺は諦めて立ち止まる。
振り返る事はしない。
「カルロくん・・・」
星馬烈も後を追って来た時と同じ間隔で立ち止まる。
息を吐いて深呼吸する気配がした。
そして自分に向けられる視線。
「今日のレース、凄かったね。まさか逆転されるとは思わなかったよ」
振り返れば多分いつもの笑い顔なんだと思う。
「でもそれがカルロくんの実力なんだね」
素直に感心するとは、やはりこいつ等は甘い。明日のレースで俺がまたお前等をぶっ潰すとは思わないのか?
理由の分からない憤りに拳を握り締める。
「今日のレースで僕たちのマシンはもうぼろぼろで、多分チームのサポートになると思うけど悔いが残らないように頑張ろう!
そして完走できたら良いね」
悔いが残らないようにだと?
完走だと?
「へッ!
甘っちょろい事言ってんじゃねーよ」
やっぱりてめえらを見ていると虫唾が走る。
立ち止まって聞くなんてお人好しな事するもんじゃない。
俺は再び階段を降りる。
「カルロくん!」
呼びかける声。
「今日のカルロくん、ミニ4駆を走らせる事を楽しんでたのは気のせいじゃないよね!」
そんな訳じゃないと心が叫ぶ。
邪魔な奴等がいなくて、一人で走る事が気楽だっただけ。
『今』から落ちないように必死にもがいていた。
「カルロくん達みたいに生きていく為にミニ4駆をやって来た訳じゃないから、カルロくん達から見れば僕たちは甘いかもしれないけど、それでも一緒にミニ4駆を楽しむ事が出来るよね!」
言葉が何処かに突き刺さる。
「ミニ4駆は・・・楽しむ為にあるんだから」
あいつ等が来てしまう!
あいつ等には負けられない!
苛立ちから仕掛けたアディオ・ダンツァが失敗してクラッシュ、へまをした。
このままあいつ等に抜かれるとあいつ等に大きな顔をさせるだけだ。
それまでに何とかしないと・・・。
焦りが大きくなってゆく。
それ以上に、リタイヤだと?
このまま、俺はここで終るのか?
レースは終ってないのに、走り切らずに、負けになるのか?
俺はそんな事望んじゃいねぇ!
絶対に勝ってやる!
可能性があるかぎり諦めねぇ!
「カルロ?!」
リタイヤはしてないみたいだけど、あの様子じゃあもう優勝は無理と、通り過ぎながら察する。
「カルロにもう望みはねぇ」
ゾーラの言葉に頷くしかない。
だから、カルロのわだかまりも無かった事にして今まで通りのレースをしよう。
唯・・・カルロはまだ諦めてない。
『止める訳にはいかねぇ!』
何故?
もう無理じゃない。
今まで散々他のマシンをリタイアさせて来て自分だけリタイヤしたくないとでも言うのかしら。
あいつ等にも抜かれた。
誰が見てもこの差から優勝は絶望的にしかみえない筈だ。
そんな事、俺だって分からない訳じゃない。
じゃあ何故俺はこうして走ろうとしているんだ?
『レースは一人じゃできない』
『レースを楽しもうぜ』
甘いんだよ。
勝者は1人しかいない、最後に残った奴が勝者だ。
後は潰すマシンだけ。
『マシンと一緒に思い切り走って、それで勝てれば最高!』
琴線に触れて響く様に、波紋の様に、心の中に広がって染み入る言葉。
ファイナルステージ第2セクション。
惨めな場所に戻りたくなかった。その必死な思い。
無心に走らせる事が出来た。
マシンを走らせる事は嫌いじゃない。
マシンは信用できる。
たとえ、他の誰をも信用できなくても。
いつもゴールした瞬間にあった、割り切って当たり前になっていても引っかかるように残っていたほんの小さな罪悪感のない勝利。
まだ罪悪感なんて残っていたのかと自嘲する。
あの瞬間、確かに最高だった。
マシンを壊して順位を上げていくよりも、マシンを抜いて順位を上げて行く方が・・・確かに楽しいと感じた。
「DIOSPADA」
ゆっくりと噛み締める様に母国の発音でマシンを呼ぶ。
修理の終ったマシンのスイッチを入れる。
最後まで走るぞ。
「行くぞ! ディオスパーダ!」
走り出したマシンと共に再スタートを切る。
本当の、再スタート。
ゾーラに遅れが出た。
アイゼンヴォルフ、アストロレンジャーズ、そしてビクトリーズの優勝争いとの差が開きすぎている。もうあたし達の勝ちはない。
でも止める事は出来ない、ここでマシンを止めたら今までの苦労が水の泡になる。
あたし達が全員がリタイアなんてみっともない真似はもう出来ない。
そしてチームとしての意地、少しでも順位を上げておく事。
前のビクトリーズの連中は見えているのに距離が縮まらない。
追い抜きたい!
ドクン・・・
必死な気持ち。
この気持ちは何なの?
潰したいんじゃない、この思いは・・・何?
後少しでゴール、ビクトリーズの最後尾の1台との距離が少し縮まっていた。
ここでアディオ・ダンツァを使えば!
「やれる!」
そう呟いた時、インカムじゃない本物のカルロの声。
「そのまま行けー!」
そのまま?
アディオ・ダンツァを使わずに?
刹那の戸惑い。
でも・・・さっき思ったのは!
「ディオスパーダ!」
声に答えるようにディオスパーダが加速する。
マシンが並びかけた時、ゴールラインを越えた。
「あ・・・」
負けた。
でも、静かに心が満たされていた。
あの時カルロが思ったのはこれだったのだろうか?
「ほら」
呆然と立ち止まったままだったあたしにマシンが差し出された。
「あ・・・ありがと」
意外と素直に感謝の言葉を言ってマシンを受け取る。
あたしの反応に気を良くしたのか
「やっぱり凄ーよ、お前ら」
満足そうなマグナム野郎の顔。
その視線の先はこれからゴールしてくるやつらの方を見ていた。
「来たぜ」
頷く。
そして、ゴールを越えた。
「カルロ!」
チームのメンバーを迎える為に駆け出していた。
「やったわね、カルロ」
息を整えて勉めていつも通りの調子で言うと、可笑しそうにあたしを見た。
「お前等も良くやった」
そしてあたしの後ろに視線を投げかける。
視線を追うように振り向く。
「ゾーラ、リオーネ」
いつの間に来ていたのかゾーラとリオーネまで揃っている。
「リタイヤしてすまない」
「俺も結局順位を落としちまった」
済まなさそうに二人が言う。
「ふん、来年頑張ればいいさ」
言い方は投げやりに、でも言葉そのものはどこか優しくカルロが答えて歩き出す。
「待ってよ、カルロ」
あたし達はカルロを追って歩き出す。
確実にカルロは変わってきていた。
その余波はあたし達にも訪れて、変化を齎してゆく。
それがどんな変化なのか少しだけ分かった。
でも、その変化は悪いものじゃない。
諦めない事、走り続ける事。
文化を、芸術を廃れる事なく伝える事に似ている。
廃れない思い。
それはイタリアを象徴する。
思いを手に入れた事。
遠いここで故郷を感じる。
イタリアの代表。
カルロ・・・
「ロッソストラーダのリーダー。幼年期に辛酸をなめているため、勝利に対して貪欲。
ナイフを常に持ち歩き、しばしば手入れをしている。
88話で2ヶ月の出場停止を言い渡されて以来走りに変化が見られた。
100話では絶対不利を跳ね返し第2ステージで勝利をおさめている。
102話ではリタイヤかと思われたが完走。
勝利のみを追求する今までの姿勢とは異なった走りを見せた。
ラストアルバムでは町中をマシンとともに疾走する姿が映し出されている」
(トレーディングカードより抜粋)
ごく簡単に「お礼にリクエストききます(^^)」と言った私
「じゃあ・・・カルロとジュリオかロッソストラーダの話を」とのお返事
「はい、良いですよ。頑張ります」と安請け合いした私
元々トレカの文章を読んだ時から102話のあたりの話を書きたいなぁと思っていたのです
ルキノが暗い部屋で、カルロ達は日の当たる場所でのびのびと走ってる
そんな事とかいろいろ・・・
書き始めたのは良いけどカルロ主体にしているとTVのカルロと重複するのと
内面掘り下げるとどんどん暗くなってゆくので嫌になってきて書き直し
ジュリオ達も日の当たる場所で走ってるんだから何か変わったのかなぁっていうのもあるんで
カルロを軸にジュリオ主体にしてみましたけど
やっぱり後半部分には最初に書いたカルロの方も入れて見ました
(だって、まだ救いようがあったんですもん)
出張る星馬兄弟は私のさがでしょう!
まだなんとかダークにならずに済んでますよね?ね?(不安)
人によっていろんな解釈があるから本編筋に介入するような話は避けてたんですけど
今回は個人的解釈による本編補足!
良いのかそれで・・・(爆)
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