「PRIDE」
ちょっと寒い、冬・・・ね。
ああでも、空気が澄んでるわ。
埃やゴミが水分と一緒に地面に降りて。
星が綺麗に見えるから、寒さなんてどうでも良い。
東京は・・・宇宙から見ても明るく見えるらしい。
太陽の当たらない時間でも自らの力で明るくあるから。
海や大陸の様に暗くない。
宇宙から見た月の様な地球の中で仄かに輝く場所。
だから星は見え難いらしい。
地上にある星は良く見えるのに。
高台にある寄宿舎のベランダから見下ろせば眼下には地球の星たち。
東京のネオン。
「負けてしまったのよね」
ぽつりと呟くと声と一緒に出てきた息が白い。
たかがミニ四駆発祥の地だからという理由でWGP開催国になったチームに。
エキジビジョンとはいえミニ四駆のレベルも私たちよりも下の筈のチームに。
負けたのは私。
「4位ね・・・」
3位の表彰台には自分の姿のはなかった。
本来ならあの場所に自分がいるはずだったのに。
代わりにいたのは東洋の少年。
黒く長い髪と鋭い目のサムライ。
そんなに嬉しいのかと思う程喜んでいたっけ。
「鷹羽リョウ」
変なやつ。
敵なのに自分が怪我をするのも構わず助けるなんて。
アメリカの男の子でもそんな子いなかった。
私より強い子なんてそうはいなかった。
・・・・・・。
胸が痛い。
会いたい。
名前を呟いただけなのに、せつない。
コンッコンッ
軽くガラスを叩く音がする。
思考を遮られ振り向くとブレットが窓に凭れていた。
「明日からファイナルステージだ。そんな寒い所に長居してると風邪ひくぞ」
振り向いた私に相変わらずゴーグルで表情の見えない顔とクールな口調で忠告してくる。
でも心配してくれてるのは長年の付き合いでなんとなく分かった。
「ブレット」
呼ぶ訳でもない、ただ名前を言う、それだけの事。
それは自分の中で確認する為のもの。
リョウの名を呟いた時の様な想いは沸いてこない。
「不思議よね、会った時間なんて少しだけでプライベートもほとんど知らないのに」
「負かされた相手に恋でもしたのか?」
知ってるくせに、相手だって分かってるくせに、今更何を言っているんだろうこの男は。
言い返す口調に刺を含めたところでこの冷血男は気にしないんだろうな。
だから無駄な事はしない。
「負けたくらいで恋になんて落ちないわ、ブレットには負けてるって認めてるのよ」
第一、負ける度に恋いなんてしていたらキリがないもの。
言わなくても雰囲気から続く言葉。
「でも俺の事はそんな風に思わなかったんだろ」
「そうね」
「身近にこんなイイ男がいるのに勿体無い」
クスっ・・・・
ブレットにしては珍しい冗談に、違うわね。ブレットが珍しく冗談を言った事に小さく笑う。
「エッジに感化されたの?」
「そう思うのか?」
それは冗談にされた事に対しての言葉のだとゴーグルの奥にある瞳が告げる。
真っ直ぐにゴーグルなしで言って欲しい。
だから、気づかない振り。
「元から、とでも? それとも、ビクトリーズのせいとか?」
言ってからそれが一番しっくり来る事に気づく。
「難しい質問だな」
そう言いながら緩んだ口元がブレットもその事を認めているのだろう。
満足な答えを得て気持ちが落ち着いてしまった。
ベランダから室内に戻る、ブレットとすれ違う瞬間。
「そろそろ寝るわ」
おやすみの言葉の代わりと気遣いのお礼に頬に軽くキスをする。
触れたその瞬間に伝わった冷たさ。
いったいいつからそこにいたのだろう。
だから冗談のままに出来なくなる。
「ねえ、ブレット」
「どうした?」
「私、彼を好きなった事に誇りを持ってるの。絶対に後悔しないわ」
少し困ったような瞳がゴーグルの端から見える。
「そう思うなら、明日から全力で挑めるように早く寝ろ」
それはどんな思いで紡がれた言葉だろう。
「そうするわ。・・・ありがとう」
もう無言で自室へと歩き出していたブレットの背中にを見送る。
そして今度は夜空を見上げる。
リョウも、どこかでこの空を見ているのかしら?
男なんかに負けないと思っていた。
男に勝つ事が目標だった。
けど、今は・・・。
自分が負けを認めた男を好きになった事。
貴方を好きになった事。
貴方を好きでいる事。
貴方のライバルでいる事。
それが私のPRIDE。
自室に戻ってドアを閉める。
ふぅ・・・
自分のため息がやけに大きく聞こえる。
ジョーはどう思っただろうか?
黙って立ち去った俺の事を。
何も、言う事はない。
言い聞かせると自分の中にある小さな感情が揺れる。
何もなかった様に振る舞える。
Coolでいよう。
レースの事に集中しよう。
言いきかせて実行する。
それがオレのPRIDE。
良く寝ているな。
二郎丸の寝顔を見て明日からのレースに思いを馳せる。
ドイツのアイゼンヴォルフ、イタリアのロッソストラーダ、アメリカのアストロレンジャーズ。
「アストロレンジャーズ・・・」
メンバーの中の紅一点、どこか惹かれるものがある。
一生懸命で、強い。
星空を見上げて深呼吸する。
いつかこの空の彼方に行くんだろうか?
あの仲間達と共に。
俺は一緒に行けないけど、見守る事はできるだろうか?
見守れるだけの強さを持つ事。
ジョーの手を引く為に、ライバルとしてあり続ける事。
その為には、負けられない。
負けない事。
それが俺のプライド。
これにて決着の「Story」の続編。
ジョーとブレットについては結構大人な恋愛を目指してみました(笑)
とはいえ可哀相なブレットには変わりないのですけどね。
可哀相だと思うからブレットの中では恋未満で、
やっぱり仲間なままにしてしまうのはトモの逃げなのかもしれません。
タイトルは「PRIDE」。
何人ぐらいの方が気づいてくれたでしょうか?
今井美樹の「PRIDE」をイメージした話だったんです。
ちなみにリョウはチャゲ&飛鳥の「PRIDE」のイメージです。
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