「ウィニング・ラン!」




 模型店の隅、忘れられているように置かれた箱をその手に取って呟いた言葉。
「これしかないのかな」
 昔は模型屋の目立つ所に山積みになって置かれていたそれ。月日は流行と言う一時の熱を冷まして今はその名残が残るのみ。
 数十種類とあったパーツも今は基本の数種類のみ。先を争ったコースも今は片隅で埃を被っている。
「今でもちゃんとレースとか行われてるんだけどな」
 参加者も盛況だったレースも今は減りつづけている。今では公式レースくらいしか行われていないのではないかと思うほど。
 それでもまだ好きなのだ、自分は。
 箱を見つめながら思いに耽っていると小学生の低学年くらいの子だろうか、小さな男の子が自分の持つ箱をじっと見つめている。
 流行っていた頃はまだ幼くて、見てもこれが何か分からないかもしれない。それでも興味を持ってくれた事が事が嬉しくて声をかけてしまう。
「これが、どうかした?」
 その子は箱を指差して言った。
「お兄ちゃん、それ何?」
 聞かれた事が嬉しくて、俺は持っていた箱をその子が良く見えるように少し屈んだ。
「これはな、ミニ4駆って言うんだ」
「ミニ4駆?」
「そう、ミニ4駆」
「どういうおもちゃ?」
「どういうって言われてもなぁ……」
 俺はレジを見て店長がいる事を確認した。
「ちょっと待ってろよ」
 その子に待つように言って俺はレジへ箱と基本パーツを持っていった。元々買うつもりだったのだ気にする事はない。
「少し、場所とコースを借りても良いかな?」
 支払いをしながら問い掛けると店長は快く承諾してくれた。
「最近では誰も使ってくれないからね、使ってくれるならその方が良い」
「ありがと」
 俺は短く礼を言って子供と一緒に埃の被ったコーナーの前に行った。
 俺がその場に座り込んで箱を開けると子供は箱の中を覗き込んだ。
「これがミニ4駆?」
「そう、これから組み立てるんだ」
「ふ〜ん」
 いまいち分からないのだろう。俺は持ち歩いているメンテナンスキットを取り出し組み立て始める。
 その子は興味深げに組み上がってゆくミニ4駆を見ている。
「わぁ……!」
 その瞳に映る輝きは昔自分がミニ4駆を知った時のものと同じ。
「よっと、これで終わりだ」
 パチンとロックしてその子に見せる。
「触ってみても良い?」
「ああ」
 俺はその子にミニ4駆を渡す。
「これをどうするの?」
「そこのコースで走らせるんだ」
 俺はコースを指差した。
「走らせても良い?」
「ああ、俺のと一緒に走らせよう」
 俺はメンテナンスキットに入れていたマシンを取り出す。
「それがお兄ちゃんの?」
「そうだ」
 俺はスイッチをオンにする。モーター音が店内に響く。
 その子もスイッチをオンにした。そしてもう一つモーター音が響く。
 昔はもっとたくさんのモーター音がしていたのに今は2台だけ。
「私がかけ声をかけよう」
 そう言って店長がやって来た。
「おっちゃん……」
「さあ、スタートラインについたついた」
 俺はスタートライン上でマシンを浮かせた。その子も同じようにマシンを持つ。
 それを確認すると店長は、おっちゃんは手を上げた。
「位置について……、レディ……ゴー!」
 俺はマシンを離した。コースを走ってゆくマシン。
 その子も同じように手を離す。マシンがコースを駆け出した。
「すごーい!」
 コースを走るマシンを見ながらその子は手を握り締めた。
「お兄ちゃんのミニ4駆、すごく早いや!」
「まあな」
 俺たちはマシンがゴールするのを見ていた。
「お兄ちゃんの方が速いね。なんか悔しいや」
「もう何年もやってるからな。セッティングとか色々やってさ、お前もずっと走らせてたらもっと速くなるぜ」
「うん!」
 そしてその子は俺の手を引いてスタートラインへと連れてゆく。
「もう一回走らせよう!」
「何回でも良いぜ」
「やった!」
 その子がスタートラインに、マシンを位置につけようとした時だった。
「僕も一緒に走らせて良いかな?」
「烈兄貴……」
 烈兄貴はその手に俺と同じように自分のマシンを持っていた。
「駄目かな?」
 烈兄貴は子供に尋ねた。
「お兄ちゃんも速いの?」
「うん、このお兄ちゃんより速いよ」
「じゃあ一緒に走らせよう!」
「ちょっと待てよ。俺の方が速いぜ!」
 俺は聞き捨てならないとそう言った。
「じゃあ、みんなで走らせよう!」
 その子はそう言った。
「そうだな、走らせて見ればはっきりするし」
「おう! 俺はいつだって負けないからな!」
「僕も負けたくない!」
 そして俺たちはレースをする。
 
 俺たちの前にも流行ったのだという。
 そして同じように月日はミニ4駆を忘れさせたいったのだという。
 それでも忘れずにミニ4駆を好きでいた人たちがいた。
 ずっとミニ4駆を続けた人たちがいた。
 だから俺たちはミニ4駆に出会う事が出来た。
 ミニ4駆が好きだから、次にミニ4駆と出会う誰かの為にずっとミニ4駆を続けよう。
 それが俺たちの、ウィニング・ラン!。





10000HIT記念小説を書こうとして玉砕しました。
このHPの存在している理由、このHPにおけるレツゴーがこの話におけるミニ4駆。
ただそれだけの事なんです。