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「覚えてゆく事」
命令ばかり言われて毎日を過ごす。したい事も出来ない、ただ強いミニ4駆を作る為にだけ必要とされる自我のない日々から差し伸べられた腕を取った時、本当にミニ4駆が好きなのだと気付いた。
「いつもご苦労様」
土屋研究所に来て博士の手伝いをする、そんな時に何気なく一言をかけてくれる研究員の人たち。
土屋博士を手伝う事は楽しい。無理して何かをさせられると云う訳ではないから辛い事もない。だから「ご苦労さま」と言われる事にはなかなか慣れない。
そんな言葉をかけてもらった事もないから……。
「そんな事は……」
そう答えると彼等は微笑んで少し困った顔をする。
「ごめんなさい」
困らせたい訳じゃないからと慌てて謝るともっと困った顔になる。
「どうして謝るんだい? 君は何も悪い事をしていないのに……」
どうして?
「だって……困らせてるから……」
そう言うと彼等はまた微笑んで言う。
「どうしたら分かってくれるのかな、君は。僕たちが困った顔をしているのは君のせいじゃないんだ」
「でも……」
「そうだね、君が過ごしてきた時間というものに困っていると言うのかな」
僕は首を傾げた。言われている意味が掴めない。
「そのうちで良いから、君が何も言わずに僕たちの言葉を受け取ってくれるようになって欲しいだけなんだよ」
「はい……」
意味がわからないまま、僕は返事をするしかなかった。
烈君と豪君はよく土屋研究所に来る。その大半は土屋博士からの用事がなくても来ている事が多い。研究所のコースは大きくて設備もしっかりしているからと云うのが理由だと言うけれど、それは僕も嬉しいから一緒にプロトセイバーを走らせる。
走っているマシンを見るのは好き。マシンを走らせるのはもっと好き。だから研究の為にマシンを走らせる手伝いをするのは楽しい。でもプロトセイバーJBは土屋博士が開発したマシンじゃないから……。
「プロトセイバーJBは良いマシンだね」
烈君と豪君、そして僕でそれぞれマシンをセッティングをしていると烈君はそう言ってくれた。
でも、みんなのマシンを傷つけたこのマシンが良いマシンだと思って良いのかな?
僕はそんな思いから作業する手を止めてプロトセイバーJBを見つめる。
「Jくん?」
呼ばれて顔を上げると、手を止めて黙り込んでしまったから烈君が心配そうな顔で僕を見ていた。
「どうかした?」
「大丈夫、なんでもないから」
僕は慌てて手を振った。
「そう?」
「うん……」
僕がそう言った時、豪君が大きな声でマシンのセッティングが終わった事を叫んだ。
「出来たー! 早速走らせようぜ、烈兄貴、J!」
そしてコースのスタートラインで嬉しそうにマシンを持って手を振っていた。
「まったく、あいつは……Jくんまだセッティング終わってないよね?」
「でも、豪君が待てるから」
僕は手早くセッティングを終える。
「そのセッティングで良いの? プロトセイバーJBなら……」
烈君は不思議そうな顔をした。もう少しセッティングする時間が欲しいと思ったのは本当だけど、それ以上に一緒にレースをしたいから。
「大丈夫だから。ほらっ、豪君が待てる」
「うん……」
僕は烈君を急かしてスタートラインに走って行く。烈君はどこか納得しきれていない様子で一緒にスタートラインへ急いだ。
「おっせーぞ! 烈兄貴! J!」
豪君は腰に手をあててご立腹だとでも云う様に言った。
「悪かったな」
「ごめんね、豪君」
烈君と僕は豪君に謝った。
「さ、レースしようぜ!」
すると豪君は満面の笑顔でスタートラインにマシンを並べる。
「そうだな」
「うん」
僕も同じようにマシンを並べた。
「じゃあ行くぜ! 3、2、1、GO!」
豪君の掛け声と共に3台のマシンが走り出す。
「いっけー! マグナム!」
「負けるなソニック!」
「行け、プロトセイバー!」
僕たちはマシンを追って走り出す。
スタートラインから続く最初のコースは直線、豪君のマグナムがトップに立ち、続いてソニックとプロトセイバー。ロングストレートから続く最初のコーナー……スピードの乗ったマシンがコーナーに差し掛かる。
マグナムがコースアウトすれすれでコーナーをクリアしかける隙にソニックがマグナムを抜いた。プロトセイバーも続いてコーナーをクリアしたけれど、何かが違う? 何だろう?
分からないままレースは続く。次のコースはカーブの連続するテクニカルコースへ、多分この間は烈君がトップを維持する、プロトセイバーもマグナムに追いつくか抜ければ良いんだけれど……。
「行けー! ソニック!」
「マグナーム!」
「頑張れプロトセイバー!」
テクニカルコースのトップは依然ソニック、そしてマグナムと続いている。プロトセイバーが追いつけないでいる。
烈君が少し僕の方を見た。
「やっぱり……セッティングが不十分なんだ」
「烈君?」
僕たちは走りながらプロトセイバーを見た。
コーナーをクリアしていく毎にプロトセイバーがコースアウトぎりぎりの走りになっていく。不安になった瞬間にそれは起こった。
「プロトセイバーJB!」
プロトセイバーJBがコースアウトした。
僕はマシンを受け止めようと走った。手を伸ばしマシンへと飛び込む。
「J!」
「Jくん!」
烈君と豪君の声が聞こえたけれど、マシンしか見えない。
「くそっ!」
豪君の声が聞こえたような気がした。
「届いて! プロトセイバーJB!」
誰が作ったのかなんて関係ない。僕のマシン、プロトセイバーJB、僕はこのマシンが好き、だから……届いて!
願いながら伸ばした指の先をマシンが掠めてゆく。
「プロトセイバー!」
その時、視界の端から青い影が過ぎる。
「豪!」
「え? 豪くん?!」
「プロトセイバー!」
豪君が僕の届かなかったプロトセイバーを受け止めて転がる。
「豪君!」
僕は豪君の元へと走って行った。
「豪! 大丈夫か?」
「いてててて……」
豪君は起き上がるとプロトセイバーJBを僕に差し出した。
「ほら、J」
僕はマシンを受け取った。
「ありがとう豪君」
「何も大した事してねぇって」
僕がお礼を言うと豪君はそう言った。
「でも……」
「だってさ、ミニ4駆が好きな仲間だろ? 当然じゃん」
「豪君……」
当然の事をしただけ、だから礼はいらないのだと言う。でも言いたい気持ち、知って欲しい気持ち、伝えたい気持ち、ありがとうと云う言葉。
「でも、ありがとう」
豪君は笑った。
「いいって言ってんのに」
「僕が言いたいだけだから……」
「そうそう、元はと言えば豪が急かしたからちゃんとプロトセイバーJBのセッティングが出来なかったのが原因なんだからさ」
「何だよ。それじゃあ俺のせいみたいじゃないか」
「お前のせいなの! プロトセイバーJBは高速にもテクニカルにも対応できるオールラウンドタイプなんだ。だからこそしっかりセッティングが必要なの! それをお前は……」
烈君と豪君が言い合っている。
「烈君も豪君も、今度はコースアウトしないようにちゃんとセッティングするから……だからまたレースしよう」
烈君と豪君は僕を見た。
「そうだな」
「そうだね」
「うん」
作ったのは大神博士でも今走らせているのは僕なんだ。プロトセイバーJBは僕の大切なマシン。だから僕は一生懸命にセッティングした、もうコースアウトさせたりしないように。
そして受け取って欲しいと思う言葉がある、それは唯伝えたいから言う言葉。自分の気持ちを分かっていて欲しいと思うだけ。
これからは少しだけ素直に、博士や研究員の言葉を受け取れそうな気がした。
HPに来てくれる皆様に感謝の気持ちを伝えたいと思って書きました。
近頃別の作品のお話を書く機会があったのですがそれがどうやらリハビリになった様です。
レツゴーが書きたいという気持ちが強くなりました。
秋には忙しくなるので時間がある時に書けるだけ書きたいですね。
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