リボンと炎



彼は誰だろう・・・?
パパの研究所で見た彼は誰?

あいつが追いかけているその中の
あれは研究所で見た彼?

あの時の彼と今の彼
あの違いは何?

人はそんなに変われるの?





パパの研究所、パパの研究室。
好きな場所、ミニ4駆のコースが見える場所。
ガラス張りの壁に顔を付けてコースを見る。
あんなに小さいのにあんなに速い。
あ! あのマシン速い!
「パパ! あのマシンは?」
振り返って後ろでデータを取っているパパを見る。
どんなに忙しくてもパパは顔を上げてあたしを見てくれる。
「どのマシンだい?」
そう言ってパパはあたしの横に並ぶ。
「あのマシン」
あたしは1台のマシンを指差した。
紺色のマシン。
「あれはプロトセイバーJBだ」
「プロトセイバーJB・・・」
何故あんな風に動くんだろう・・・?
一人の少年がマシンを止める。
褐色の肌に金色の髪、紺色の服を着ている。
彼があのマシンを走らせていたの?
「J! もう上がって良い」
いつのまにか後ろに行ったパパがマイクで彼に何か言っている。
彼はJと云うの?
彼はこっちを見た。
きつい目でパパを見ている。
パパが何かしたんだろうか?
あたしはパパを見た。
でもパパは彼の視線に気が付いていない?
あたしはもう一度彼を見る。彼はもうそこにいなかった。



まだパパは研究をしている。あの紺色のマシンの調整・・・?
あたしは研究所の中を見て回る。
この研究所は山の中にあるから時々しか連れてきてもらえない。
だからまだ知らない場所が沢山あるから面白い。
この辺は何処だろう?
研究所内は同じように見えるところが多いから迷いそうだ。
「でも・・・ここ何処・・・?」
本当に自分が何処に居るのか分からない・・・。
「どうしよう・・・」
立ち止まって辺りを見る。
等間隔に扉が並んでいる。その扉の一つから灯が漏れている。
あたしは扉に近づいた。
かちゃかちゃと音が聞こえる。
「ここ、なんだろう?」
言ってそっと扉から中を覗く。
机に向かう後ろ姿に見覚えがあった。
あれは・・・
「J・・・?」
カチャ!
手を動かす音が止まる。
「誰!」
彼は振り向いてあたしを見た。
「あたし・・・」
あたしはその声の鋭さに驚き後ろに下がろうとして足が絡む。
ドシンッ
あたしは尻餅をついて座り込んでしまった。
彼はそんなあたしを見ても表情を変えない。
でも彼はあたしの方に来て手を差し伸べてくれた。
「ありがとう・・・」
あたしは彼の手を取って立ち上がる。
「あたしはマリナ、大神マリナ。あなたJでしょ」
言って彼に笑いかける。彼、Jはこくりとうなづく。
「良かった、迷って困ってたの」
研究室への行き方が分からないと言うとJは廊下を歩き出した。
「送る」
相変わらずの無表情で歩き出すJを追う様にあたしも歩き出す。
開いたままのドアから机の上の壊れた古いおもちゃの車が見えた。



あたしはJに並んで歩いていた。
「あの机の上にあった車のおもちゃ、Jの?」
不意にあたしは聞いてみた。Jはうなづいてくれた。
「死んだパパから貰った」
歩みを止める事無くJは答える。
「大切なものなんだね」
Jははっきりとうなづいた。
壊れても大切に持っているもの。
「このリボン見て!」
左右の髪に結ばれた黄色いリボンをJに示す。
「あたしもこのリボン、パパから貰ったの」
「大切?」
Jが聞き返した。
「うん」
あたしの答えに、少しJが微笑んだような気がした。



他愛の無い話をしながら歩く。
Jは相変わらずうなづくか一言二言返すだけだったけど。
「あなたのマシン早いね」
あたしがそう言うとJは嫌そうな顔をした様な気がする。
「僕のマシンじゃない」
Jは早足になる。
「待って!」
あたしはJを呼び止めた。Jはもう一度あたしを見る。
「何?」
ぞくりとする冷たい声だった。そしてパパに向けたような鋭い眼差し。
青緑の瞳は冷たい印象であたしを射すくめた。
向けられる憎悪の訳は分からない。あたしはその場から走り出していた。



パパ!
あたしは無我夢中で走っていた。
廊下の先に光が見えた。
「パパ!」
あたしはそう叫んで廊下を出た。
目前に広がった光景はあたしの知っているものではなかった。
「暑い・・・」
溶岩の熱と排気口の風に髪が煽られる。
「ここは何処・・・?」
あたしはただそこに佇んでいた。



タッタッタッタ・・・
足音が聞こえてきた。
「誰だろう・・・?」
あたしが振り返るとJが走って来るのが見えた。
「J・・・」
Jは少しだけ息を切らせてあたしの前まで走って来て止まる。
「ここ、危ない」
相変わらず表情は変わらないけどその言葉はあたしを心配してくれているのが分かった。
あたしはうなづいてからもう一度火口を見た。

『暑いけど恐くない、炎はあたしの味方』

そんな言葉が頭をよぎる。
「君の髪みたい」
Jがぽつりと言ったのが聞こえた。

赤い溶岩と風に靡く赤い髪。

黄色いリボンが火の粉みたいに揺れる。

「あたしも・・・」

言いかけた時、リボンが解けた。
「あ!」
あたしはリボンに手を伸ばす。
「危ない!」
Jがあたしの腕を掴んで後ろに引く。
「きゃぁ!」
あたしは後ろに転げる。
「プロトセイバーJB!」
Jはマシンを取り出して走らせる。あの紺色のマシン。
プロトセイバーJBがリボンを追いかける。
「すごい・・・」
あたしはリボンよりマシンに見入っていた。
その横でJが腕のリモコンでJBを操作する。
「あと・・・少し」
熱風で煽られたリボンは安定感を欠いて舞う。
「行け! プロトセイバーJB!」
段差を利用してプロトセイバーJBがリボンに向かって跳ねる。
「やったー!」
リボンがプロトセイバーJBのウィングに引っかかる。
あたしは思わず叫んでいた。

プロトセイバーJBがリボンを引っかけて戻ってくる。
Jが無言でリボンをあたしに手渡す。
あたしはリボンを受け取ってプロトセイバーJBを見る。
「ありがとう。でも、マシンが・・・」
プロトセイバーJBは所々溶けかけていた。
「耐熱じゃないから」
やっぱりあまりマシンを気にした様子はない。
「リボン、少し焦げてる」
Jはあたしが手にしたリボンを見て言った。
マシンの事を言った時より悲しそうに見えるのは気のせい?
「いいわよ、気にしなくて」
あたしはJに向かって笑いかける。
「パパからの・・・」
大切なものでしょう?
言われなかった言葉に続く言葉。ああそうかとあたしは納得する。
Jの大切な壊れたおもちゃの車とあたしのリボン。
パパからのプレゼント。
「うん、でもいいの」
あたしはJに何でもないような顔をしてみせる。
「あたし決めたの、パパからマシンを貰うわ」
あたしはミニ4駆をする。
「Jみたいにマシンを走らせるの! あたしきっと早く走らせれると思うわ」
「僕にみたいに・・・」
Jは戸惑った顔をする。
「Jはマシンが嫌いなの?」
あたしはJに聞いてみた。Jは横に首を振る。
「嫌いじゃない」
あたしはその答えに満足して言葉を続ける。
「そして、そのマシンを大切にするわ」
Jは少し微笑んで自分のバンダナを外して破く。
「これしかないけど・・・」
そしてあたしの解けた髪をバンダナで束ね直した。

その間あたしはじっとJを見ていた。
その時はまだ分からない事がたくさんあった。
それが分かるのはまだ先の事だったから。

あたしはJが直し終わってから聞いてみた。
「パパ、あたしにもマシンをくれるかな?」
「うん」
Jはうなづく。
「炎みたいなマシンが似合うよ」
「今度は耐熱にしてもらうわ」
あたしはどうやってパパにお願いするか考えていた。

Jがあたしを見る。
「行こ」
あたしはJの腕を引っ張って歩き出す。
リボンにした緑色のバンダナを揺らしながら。




それから暫くしてからだった、パパがJにマシンを壊させていたのは。
何故パパがそんな事をするのか分からなかった。
パパがそんな事をさせているなんて信じたくなかった。


無表情にマシンを壊すJ
その無表情に隠された思いは?


あたしはそんなパパとJを見てはいられなかった

でもJは変わった、プロトセイバーJBを助けて海に飛び込んだ時から

彼らがあなたを変えたの?

違う、彼らはあなたを元に戻しただけ

パパの元から離れていったけど、あたしは怨んだりしない

だってその方がJの為みたいだから


パパも変わった

GJPで負けた時から

でもそれは良い方に変わって行ったのに

そしてボルゾイにミニ4駆界から追放された時から

またパパは変わった


あの時Jと話していた様なマシンをあたしはパパから貰ったの

でもあたしは今のあなたみたいな走りは出来ない

あたしは変わったの

ボルゾイに復讐する為に


でも、いつか今のあなたみたいな走りが出来そうな気がする

あたしも変われそうな気がする


あなたを変えてくれた彼らみたいな存在に

あたしも彼らに出会えたから


いつか一緒に走れたらいいね





マリナとJが出会った事があったとしたら・・・?
それは改心する前のJであり大神研究所かな?
そんな事を考えてしまったが為に書いてしまったこのお話。
レツゴでも違う背景の作品だが接点がある、大神研究所。
レイスティンガーのレイとマリナの会話ってエターナル ウィングスでやってますからね。
Jともあったんですが・・・(苦笑)
私はMAXで大神博士が出てきた回を見ていません。
だからちょっとおかしな所があっても御愛敬ということでお許し下さいませ(^^)