Start line 〜レースをしよう〜



子供たちは仲良く遊んでいた。
お兄さんの方の子供が弟に本を読んでやっている。微笑ましい光景だ。
1年の差はまだ大きい年頃の子供たち、でもいつも一緒にいるのが当たり前の双子みたいな兄弟。
「なあ、たまには父さんと一緒に散歩に行こうか?」
幼い二人の子供に父親は声をかけた。
「「うん!」」
元気良く声を合わせた返事が返ってきた。


公園を駆け回って遊ぶ子供たちを見ながら父親は日向ぼっこしている。

キュイィーン

モーターの音が足元を走り抜ける。
「何だ・・・?」
父親は音のしたものを見る。
同じように子供たちも走り抜けて行ったものを見た。
F-1のミニチュアの様なおもちゃ、でもラジコンじゃない。
小学生の高学年くらいの子供だろうか、そのおもちゃを一旦止めて止めて向きを変えて走らせる。
弟の子供はお兄さんの方の子供の手を引っ張ってそのおもちゃの持ち主のところに走って行く。
「ねえ、それ何?」
お兄さんの方の子供が赤い大きな瞳を見開いて興奮した様子で聞いてくる。その隣で弟の方も青い瞳を輝かせながら答えを待っていた。
持ち主は二人を見てしょうがないなと言ったようにため息を吐いた。
「これはね、ミニ4駆って言うんだよ」
でも答えたその顔は嬉しそうに微笑んでいた。
「「ミニ4駆・・・」」
子供たちはその言葉を反芻してミニ4駆を見た。
「ねえ、もっと走らせてよ!」
弟の方の子供がせがむと、持ち主はミニ4駆のスイッチをONにした。
「じゃあ、走らせるからね」
言ってミニ4駆を地面に置くとそれは素早く走り出した。
「「いっけー!」」
子供たちの声が元気良く公園に響き渡る。

父親はミニ4駆を追って走り回る子供たちを嬉しそうに見ながら、内心ではこの後せがまれる事を覚悟しながら苦笑していた。


「「買って買って、あれ買って〜!」」
二人の子供にせがまれて、おもちゃ屋のショーウィンドウを覗き込む。
「ちゃんと作れるのか?」
覚悟はしていたものの、やはりまだ幼いのではないかと不安になって子供たちに尋ねてみる。
「「大丈夫だよ!」」
子供たちは声を揃えて答えた。
「な?」
お兄さんの方の子供が弟に同意を求める。
「うん」
弟は相づちをうった。
そして「お願い」と書いた顔をして父親を見上げる。
即答で返ってきた和音と自信有り気な様子に少し驚いたが、その後の兄弟のやりとりに「二人なら大丈夫かな?」と納得して買う事に決める。
兄弟助け合ってなんとかするだろう、そんな事を思いながら父親は店の中に子供たちを連れて入っていった。


「いらっしゃい」
三人にかけられた声、声のした方向を見ると気の良さそうな店員と、その横に兄弟と同じくらいの年の女の子がいた。


買ってもらったミニ4駆を早速組み立てて、木枯らしが吹く公園を寒さなんて気にせずに元気良く駆け回る。
「いっけー!」
「そこだー!」
大声を出しながら無邪気にミニ4駆を走らせる兄弟の様子を父親は満足そうに眺めていた。
また公園に戻って来てしまったなぁ。
寒さを堪えながらそんな思いを抱きつつ、兄弟の喜ぶ顔が嬉しくて心が体を温めてくれるような錯覚をする。

しかし冬場の日は短い。
夕焼けを仰いで兄弟に声をかける。
「おーい! 烈〜! 豪〜! そろそろ家に帰るぞ〜!」
兄弟は足を止めて父親を見た。
「はーい!」
兄の方・・・烈は大きな声で返事を返す。
「ちぇ・・・もう終りかぁ」
弟の方・・・豪はミニ4駆を止めて夕焼けの赤と夜の紺色が交じり合う空を見上げた。
名残惜しそうな豪の様子に苦笑しながら
「また明日一緒に走らせよう」
烈は豪に微笑んで提案する。
豪はぱっと顔を輝かせながら
「絶対だぞ!」
と念を押す事だけは忘れなかった。
「ああ、絶対にな。豪の方こそ忘れるなよ」
「忘れるわけないだろ!」
ぷんと膨れながらもその嬉しそうな足取りでしっかりと気持ちを表に現す豪を促して、笑いを押さえながら父親の方へ駆けて行く。

走ってくる子供たちを見ながら父親はふと豪の目を見た。
「豪、その目はどうしたんだい?」
赤く充血した目。
「埃が目に入ってさぁ、大丈夫だよ」
と言いつつ目を擦る。
「お前、もっと赤くなってウサギみたいな目になっても知らないぞ」
烈は脅しかけるように言うが豪にはあまり効き目が無い様だ。
「烈兄貴だって似たようなもんじゃんか」
ブチッと何かが切れる音が聞こえた気がした。
「豪! お前って奴はー!!」
憤怒の形相で豪を見下ろす烈の、その剣幕に圧倒されじりじりと後退する豪。
「そ、そんなに怒んなくたってさ・・・」
苦笑しつつなんとか宥めようと必死になる。
「俺はお前の為に言ってやってるのに・・・それなのにお前はーー!!」
その烈の叫びと共に逃げ出す豪。もちろん追いかける烈。
「人が気にしてる事を・・・云々」「そんなに気にする事ねーだろ・・・云々」と叫び声が聞こえる。
髪をバサバサにさせながら豪を追いかける烈と束ねた後ろ髪がウサギのしっぽみたいに跳ねる豪を見ながら、帰るのはまだだなぁと父親は呟きながら子供たちを楽しそうに見ていた。



次の日も同じように、その次の日も公園でミニ4駆を走らせる烈と豪の姿があった。
でも少しずつ違って行く所があった。
「今日も俺の勝ちだな、豪」
勝ち誇った烈の態度に悔しさを思いっきりぶちまけて地団駄を踏む。
「ちっくしょー! なんで負けるんだよ!」
そう、この頃豪は烈に勝てた事がない。
「何かズルしてるんじゃないのか?」
思わず口から出て来る言葉、烈を怒らせるには十分な一言。
腹立たしさを押え込み、
「あーあ、豪みたいに弱いのが相手だと張り合いなくすなぁ」
何気ない様でいて刺のある言葉が返される。
ストレートに豪の心に突き刺さるそれは、悔しくて、悲しい。
でも負けず嫌いな豪を奮い起こすには十分な言葉。
本気で言わない意図した言葉。
「烈兄貴のへっぽこぴー! 見てろよ、絶対に勝ってやる!」
烈に対して舌を出し、それだけ言い残すと公園から走り去って行く。
思った通りの言葉の効力に満足しつつも苦笑を浮かべ、走り去って行く豪を見送る。
「これで少しは速くなるかなぁ」
速く追いつけよ・・・継ぎ足しかけた言葉を心の中で反芻する。
「そう簡単に負けてやれないけどな」
烈はマシンのスイッチをONにして走らせる。
負けないように、簡単に追いつかれない様に。


「あ〜あ、なんで勝てないんだろう」
そんな呟きとともに、豪にしては珍しく考えながら歩いていた。
当然まわりに気を使う余裕なんてない。
「何、ぶつぶつ言ってんのよ」
いきなり横からかけられた声、
「おわあ!」
驚いて相手を見る。
「そんなに驚かなくても良いじゃない」
ふっくらした頬をもっと膨れさせて豪を見る。
「なんだよジュンか、驚かすなよ」
胸をなで下ろす、いかにもびっくりしましたとでも言うような態度はジュンの言葉を聞いていない証明。
「あのねえ、少しは人の話を聞きなさいよ」
頭を抱えたくなる のを堪えて言う。
ふと「烈兄ちゃんはいつもこんな感じなんだろうか?」と他愛ない疑問が頭を掠める。
「なんだよ、俺は今考え事をしてるの!」
考えているうちに帰ってきた豪の返答、
「珍しいわね、豪が考え事なんて」
止める間もなく口から出てしまった感想に我に返って豪を見た。
こめかみのあたりが痙攣しているように見えるのは気のせいだろうか?
恐る恐る豪の顔を覗き込む。
良く見ると握り締めた手も震えてる様な・・・。
「豪・・・?」
ジュンが声をかけた瞬間、がばりと顔を上げて喚き出す。
「どうせ俺は烈兄貴に負けてばっかりで勝てないし、マシンも全然速くならないし、やる気無くすかもしんないけど・・・俺だって・・・俺・・・」
後半になって勢いが落ちてぐすんと鼻をすする。
目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
どうして良いのか分からないジュンは困った顔で豪を見ていた。

「マシンを見せてごらん」
助け船はジュンの後ろから現れた。
「パパ」
「おっちゃん」
屈み込むようにして豪に手を差し伸べる。
豪は黙ってマシンを取り出して渡した。
マシンを見てチェックしていく様子をじっと見る。
「豪、マシンを買った時に一緒に買ったパーツはどうした?」
ジュンの父親・・・佐上模型店の店長ことおっちゃんは豪に尋ねてきた。
「え・・・? ここにあるけど?」
豪はポケットから真新しいパーツを取り出す。どれも開封された跡はない。
「豪、烈のマシンとお前のマシン、全く同じだったか?」
「そういえば・・・」
言われてはじめて烈のマシンが少し豪のと違っていたような気がする。
「タイヤがちょっと大きかったり・・・あといろいろと違うところが幾つか・・・」
もっと他にも違うところがあった気がする。一生懸命に思い出す。
「そうか・・・豪、来てごらん」
おっちゃんは納得したように呟くと豪を中へ招き入れる。
「何?」
豪は好奇心いっぱいの瞳でおっちゃんのあとについて入って行く。
「あ、待ってよ〜」
それに続くようにジュンも後を追った。


おっちゃんは豪のマシンに少し手を加えてスイッチを入れて走らせる。
「え?」
短く豪の驚く声が聞こえた。
「どうだ?」
豪のマシンだけど豪自身が走らせたのより速くて、烈に負けない程の速さで走る。
「なんで・・・俺のマシン、烈兄貴に勝てなかったのに・・・」
呆然とマシンを見つめる豪。
見つめていたマシンを止めて豪に見せる。
「見てごらん」
今度は豪の目の前でパーツを変え走らせた。
先ほどとは違う速さ、コーナーで安定している走り。
「これって・・・」
何かに気づいてマシンを止める。まだ新しいままのパーツの袋を開けて今度は豪自身の手でパーツを変えて走らせてみる。
走り始めたマシンは又違う速さを見せた。
「やっぱり!」
豪はマシンを止め、色んなセッティングを繰り返して走らせる。
自分でセッティングする楽しさと、マシンを速くする楽しさを掴む。
自分らしい速さを、少しずつ見つけて行く。


ジュンたちは豪を残して店内に戻った。
いつからそこにいたのか佇む人影は微笑みを浮かべていた。
「こんにちは」
二人に挨拶はしながらも、その眼差しは豪のいる方、コースのある部屋を見ていた。
「豪、来てるんだ」
「余計な事をしたかな?」
おっちゃんは烈に尋ねてみる。
「いいえ、そんなことないです」
二人に向き直った烈は、本当に嬉しそうな笑顔をしていた。
「多分、僕が言っても聞かなかっただろうし・・・自分から調べるなんて事もしないだろうから」
これぐらいで丁度良いんですとその笑顔は語る。
これで豪も自分と同じラインに立った。
いや、今はまだ自分の方が先に進んでいるけど、追いつかれるのは時間の問題だろう。
でも負けない、負ける訳にはいかない。
「俺も負けてられないないなぁ」
そう呟いて自分のマシンに視線を落とし、決意を固めた。



烈と豪がレースをしない日が続いた。
厳密には、二人別々に走らせていただけ。
「誰かとレースしたいなぁ」
そんな呟きが烈の口から漏れる。
身近に相手はいるのだけど、最近一緒に走らせていない。
豪が何をしているのかは知っているし、それを邪魔するつもりもない。
でも、豪がどのくらい速くなったのか興味があるのだ。

「よっし!」
豪は思わずガッツポーズを作る。
マシンを止めて自分の部屋から隣の部屋へと走って行く。

バタンッ
「烈兄貴! レースしてくれよ!」
大きく扉の開く音と共に聞こえてきた声に嬉しさが込み上げてくるのを隠して鬱陶しそうに振り返る。
「何だよ、騒々しいなぁ。レース? 少しは速くなったのか?」
返ってきた答えにむっとしつつも強気で言い返す。
「今度は絶対に負けない!」
言い切った豪の言葉に「にこり」という言葉が聞こえてきそうな笑みを浮かべる。
そして表情を切り替えてその豪の挑戦を受ける。
「俺だって、お前に負けるつもりはない!」


「レディ・・・ゴー!」
佐上模型店のコースに2台のミニ4駆が疾走する。
立ち上がりは烈の方が速かった。
「絶対に負けない!」
必死で追い縋る豪のマシンが徐々に差を詰め出す。
「行けー!」
並ぶかと思われた時、コーナーで烈が豪を引き離す。
連続するコーナーで烈と豪の差が少しずつ開く。
「負けるなー!」
絶対に烈兄貴に負けない!
そんな豪の気迫を背に心地よく感じながら烈もマシンに呼びかける。
「そのまま頑張るんだ!」
最終コーナーを曲がるとストレートが待っている。ここで差を付けておかないと・・・。
先に烈がコーナーを曲がる。
続いて豪のマシンがコーナーを曲がった。
「行っけー!」
豪の叫びと共にマシンが加速する。
「負けない!」
短く言い放つ烈。
ゴール直前で2台が並ぶ。
「ゴール!」
ジュンの声がゴールを告げた。

「どっちが勝ったんだ?」
息を切らせながら豪がジュンに尋ねる。
「一緒だったわよ」
呆れたようにマシンを渡しながら言う。
「引き分けかぁ」
一気に気が抜けたように苦笑しながらマシンを受け取る。
「くっそー!」
ジュンからマシンを奪い取るように受け取った豪が悔しそうに叫んでいた。
横目でちらりと豪を見ながらため息を吐く。
「負けなかったんだから良いだろ」
烈の言葉にじろりと豪の視線が突き刺さる。
「負けてないけどさぁ・・・ああ、もう! 今度は絶対に勝ってやる!」
意気込む豪。
「そう簡単に勝たせてなんかやらないぞ」
ぼそりと言いつつ自分の言葉に苦笑する。
負けてないけど、追いつかれちゃったかな?
烈はそんな複雑な気持ちがある事に気づいてしまったから。

「明日もまたレースしような!」
先ほどまで悔しがっていたのにもう次のレースの事を考えている豪。
「明日〜」
少し嫌そうに言ってみる烈。
「そう、だって今日から冬休みじゃん」
気にした様子もなく言ってのけた。
その言葉にああそうか、と思う。
「今日から冬休みなんだ」
「何だよ烈兄貴、気づいてなかったのか?」
「そんなことある訳ないだろ、知ってるから今日こうして休んでるんだろ」
ぶ然と言い返す烈に「本当かよ」と豪の目が告げる。
「明日だな?」
豪の視線を無視して確認する。
「ああ!」
返事は嫌に元気に返ってきた。
「じゃあ、それが俺からのクリスマスプレゼントな」
意地悪な笑みを浮かべて豪に告げた。
「なんだよそれ! じゃあ、俺からは兄貴の負けをプレゼントしてやる!」
負けじと言い返す。
横でジュンが呆れながら見ていた。
冬休みは騒がしくなりそうだなぁ、と予測しながら。
「お前の負けがプレゼントの間違いじゃないのか?」
心のどこかで否定しながら、期待しながら言い返す。




レースをしよう

お前がライバルである限り



お前が望むだけレースをプレゼントしよう

だって、お前は俺に最高のライバルをくれたから

俺もレースがしたいから



レースをプレゼントしてくれた烈兄貴

目標をくれたから

だから、俺は強くなる

烈兄貴に追いつく様に、負けない様に、強くなる



ライバルとレースをするのは楽しいから

レースをしよう

ライバルでいよう






クリスマスの夜、眼鏡をかけたサンタクロースが子供達の為に帽子をゴーグルをクリスマスの靴下に忍ばせた。






初めての星馬兄弟のお話ですね(^^)
「豪ファンだ〜」「星馬兄弟が良い!」だとか言いながらHP開設して半年・・・
ようやく星馬兄弟の話がお目見えとなりました(^^;)
書けて良かった・・・(T-T)
クリスマスまでに・・・(爆)

実はこの話のタイトルは書き上がっても付けれませんでした
はじめは「レースをしよう」だったんです
でも何か違う・・・
いつも言いたい事、最後に書いてる事がタイトルになる事が多かったのですが
この話はそれだけじゃないんだって思いがあったんです
タイトルが無いままアップするのもどうかと思ったので
とある二人に相談を持ちかけてしまいました
二人の共通意見としては「『レースをしよう』もいいよね」でした
そして一人は「これって『はじまり』の話だよね」と言ってくれました
ああ、そうなんだと思いました
もう一人は「すべてがはじまるみたいな雰囲気」と言ってくれました
「そんな意味合いを含んだタイトルがついたらなぁ」と付け加えてくれました
この時、何かが頭をよぎり、仕事中ずっとタイトルの事を考えてました
「レースのはじまり」であり「すべてのはじまり」である
『はじまり』の時・・・そう考えた時
「『スタートライン』だよねぇ・・・」と呟いてました
物凄く考えて付いたタイトル
「レースをしよう」をサブタイトルに残しました
あなたの印象は如何だった出しょうか?

遅れましたが助言してくれた二人にこの場にてですが感謝の言葉を贈りたいと思います


「お二人のおかげでタイトルがつきました

本当にありがとう!」


しかし・・・過去最長ではないでしょうか?
ここまで読んで下さった方

お疲れ様でした&ありがとうございました!