空色の自信
次のレースの事を考えなければいけないはずなのに集中力が続かない。
こんな事では他のメンバーに示しがつかない。
思考が悪循環になっている・・・。
自分の状況に苦笑してデータ計算用のパソコンモニターから顔を上げ窓を見上げた。
「青空か・・・」
ふと何かを思い出しそうになって慌ててその考えを打ち消す。
そう言えばまだ日本と云う所を良く見ていないと椅子にかけてあったジャケットを羽織り、外へ足を向けた。
当初の目的を忘れて唯歩いていた。
気の向くままに歩いて、辿り着いた所は見覚えのある公園だった。
「ここは・・・」
言葉と共に口元に浮かんだものは、笑み。
ベンチに腰掛けて公園で遊ぶ子供たちを見る。
「行っけー!」
「頑張れ」
子供たちの声と共に聞こえてくる音。
キュイイイイン・・・
聞きなれた音、時には聞きたくないと思った事もある音。
目を閉じて耳を澄ます。
混沌とした思いと悪循環な思考が蘇ってくる。
目を開けて青空を見上げた。
ゴーグルをずらしてガラス越しの青空ではなく、瞳そのものに映る青空を見る。
「何故・・・?」
自分は何故こんなにも不安になるのだろう。
彼を見ていると自信をなくす。
自分は何処か間違っていたのだろうか?
強い自信に溢れたその真っ直ぐな瞳を見ていると、空に抱く憧憬に似た感情を覚える事さえある。
「ゴウ・セイバ・・・」
自分の自信を揺るがす相手の名をそっと呼んでみる。
「呼んだか?」
すぐ近くから聞こえた声にぎくりと緊張するのが自分でも分かった。
ゴーグルをかけ直して視線を移す。
「よう、ブレット。こんな所で遊んでて良いのかよ」
暗に「明日のレースの練習は良いのか?」と聞いてくる。
満面の笑みを浮かべて自分を見る豪に苛立ちを覚えて視線を外す。
「人の心配をする余裕があるんだな」
「余裕? そんなもんいらねえだろ?」
自分でも嫌みだと分かるそれは、あっけなく躱される。
「何なんだその答えは・・・」
いつも返ってくる意外な答え。今回の答えもまた予想外の答えだった。
怒るかと思った。嫌みで返される可能性も。
「余裕」を「そんなもん」と言える事が余裕なのだ。
そしていつもの予想外な答えも余裕なのか?
「だってさ、そんなもんなくったってレースは出来るだろ?」
言って目の前に回り込んできた。
「何だ?」
不機嫌そうに豪を見る。
「お前さ、人の方見て話せよ」
自分以上に不機嫌と書いた顔がそこにあった。
「唯でさえゴーグルで目が見えないってのに・・・」
真っ直ぐに・・・本当に真っ直ぐに見返すその瞳と目が合ってしまった。
ゴーグル越しに見えるその瞳は、やはり青空の様だ。
直にその瞳を見たいと思った。だから・・・ゴーグルを外す。
瞬間、豪の顔がまた笑顔に変わった。
「お前、その方が良いぜ」
言葉は嬉しそうな響き。
「そうか?」
つられて笑みが浮かぶ。
「でも・・・なんか悩みがあるだろ?」
ビシっと云う擬音が似合いそうな程格好付けて、悪戯っぽく眉間を指差す。
「何故そう思う?」
やはり悪戯っぽく問い返してみる。
「だってお前眉間に皺寄り過ぎ」
今度は真面目な顔。本当にコロコロとよく変わるものだと思う。
見ていて微笑ましい気分になる。
「あんまりさ、堅苦しく考えない方が良いぜ」
優しくかけられた声、また・・・今までとは違った顔。
じっと豪を見つめて豪の言葉を聞く。
「烈兄貴もそうだけど・・・リーダーだからって気負い過ぎなんだよ。
リーダーが迷ってたら皆も迷っちまうってのに」
「お前はいつも自信たっぷりだな」
俺の迷いの原因がお前にあるとは思っていないんだな。
「俺くらいの・・・烈兄貴の代わりに自信持ってる奴がいないと烈兄貴が潰れちゃうだろ?」
踏ん反り返りながら「まあ、うちのメンバーは皆それぞれ自信持ち過ぎなんだろうけど」と付け加える。
「その自信はどこから来る?」
その自信の根拠に興味を覚えたので聞いてみる事にした。
豪は「う〜ん」と考えて唐突に、何かを思い出したように言い放つ。
「レースしようぜ!」
自信と嬉しさをミックスした顔で。
豪につられるまま、曖昧に返事をすると豪は子供たちの方へ駆けて行った。
「おーい! そのミニ4駆貸してくれよ」
豪と子供たちが何か話して・・・豪がミニ4駆を2台持って走ってきた。
「ほら!」
手渡されたミニ4駆は・・・何の変哲も無いセイバー600だった。
「セッティングしようぜ」
そう言ってジャケットのポケットからパーツを取り出す。
何処にそんなにパーツを持っていたのかと思う程の数。
「いつもそんなに持ち歩いてるのか?」
「当り前だろ」
別に自慢するほどの事でもないと返す。それでも手は休めない。
「出来たか?」
豪は俺の手元を覗き込む。
「ああ・・・」
セッティングの終わったマシンを豪に見せる。
「なら走らせようぜ!」
豪はパチンとモーターのスイッチを入れた。
「コースはこの散歩道な」
豪に言われるままマシンを用意させてカウントする。
「・・・2・・・1・・・GO!」
手を放すとマシンは勢い良く走り出した。
それでもグランプリマシンじゃないから容易に追いつく事が出来た。
「いっけー!」
いつもレースで聞く声。豪はやはり嬉しそうな顔だ。
マシンを見てみると豪の方のマシンが少し速い。マシン性能の差はないはずなのに?
「よっし!」
豪の声で我に返るといつの間にかゴールしていた。
マシンを止めて手に取って見る。何が違うんだろうか?
「なあブレット、もう1回走らせようぜ。またセッティング変えてさ」
「ああ・・・」
少し熱くなりかけているのが分かる。だがそれを押さえようとは思わなかった。
何度もセッティングを繰り返して走らせるうちに、少しずつ変わって行くマシン。
今のところ豪に負けてばかりだが豪はいつも程勝っても喜んでいない。
「だいぶ追い付いてきたみたいだな」
セッティングしながら豪が話しかけてきた。
「次が本当の勝負だからな」
「何だと?」
その言葉の意味する事、今まで手加減してきたのかと豪を見る。
レースの時の・・・強気な、自信に満ち溢れた眼差しが俺を見ていた。
「GO!」
マシンを走らせる。
「いっけー! マグロク!!」
さぞや真面目な顔をしているのかと思って豪の方を見るが豪は嬉しそうな顔をしているだけだった。
手を抜かれていたのではないかという疑問は何故か打ち消しても良いような気がした。
豪が俺を振り返って見た。意表を衝かれて思わず表情が強張る。
「何変な顔してんだよ、ちゃんとマシン応援してやれよな」
豪の苦笑。
「あ・・・ああ」
取り繕う暇も無く唯返事を返す。
「もうすぐゴールだ! 行けー!」
叫び声を合図にマシンに視線を戻す。
「行かせるかぁ!」
自分の叫びを聞く。
マシンがゴールラインを走り過ぎる。
「ゴール!」
僅かに豪のマシンが速かった。
「やったー!」
豪がいつものレースに勝った時の喜び方で喜ぶ。
「・・・」
悔しいと言うのだろう、この気持ちは。
しかし・・・あの瞬間の気持ちは今の悔しさを包み込む。
「豪」
俺はマシンを豪に返す。
「ああ」
その2台を持って豪はまた子供たちの方に走って行った。
「サンキューな」
また何やら子供たちと話してからミニ4駆を返して戻って来た。
「お待たせ」
息を切らせながら謝る姿からは先程の強気な眼差しは想像できない。
「グランプリマシンとは違うんだな」
子供たちの方を見ながら出てきた素直な感想。
「ああ・・・前は俺たちもあんな風に走らせてた」
限界の無い空の様な瞳で、何処か遠い所でも見るような眼差し。
「ああやって、何度も何度も走らせてセッティングして走らせて強くしていったんだ。
GPチップなんか無いからさ、コースとマシンとセッティングだけでレースしてたんだぜ」
豪が俺を見上げた。
「俺はいつだって手なんか抜いてないし、さっきのだってあのマシンは俺のじゃないから・・・」
必死で弁解しようとしているのを見て、
「知っている」
安心させる様に呟く。
自分のマシンじゃないから、あのマシンでの自分らしい走りを探していた事くらい分かる。
豪の顔と、走っていたマシンが少しづつ速くなっていったのを見れば明らかだ。
「俺だってそうだったから・・・」
俺も走らせながら俺らしいマシンに仕上げようとしていた。
計算でセッティングするのではなく、GPチップに任せて走らせるのでもない。
経験と納得するセッティング。
シュミレーションで完璧に仕上げたという自信じゃない。
自分で掴んだ自信。
自分のマシンを信じる事。
ミニ4駆の基本。
俺たちは何処かで学ぶ順番を間違えたのかも知れない。
「ブレット・・・?」
考え込んでいたらしい、豪が心配そうに見つめていた。
本当によく変わる表情と瞳だ。
「また、レースの相手をしてくれるか?」
自分の言葉と込み上げてくる暖かな何かを素直に表情にあらわせば、それは微笑みになった。
少し驚いた顔をした豪、直ぐにあの強気な、嬉しそうな顔になった。
「当然だろ? またやろうな」
予想通りの・・・期待通りの答えと、
「いつでも挑戦を受け付けてるぜ!」
追加で来た予想外の答えに今度は違う笑いが、苦笑という笑いが浮かぶ。
「お手柔らかに」
「俺は手抜きしねーからな!」
豪の瞳が「覚悟しやがれ!」と訴える。
「そうだったな」
それでこそ負かせ甲斐があるというものだ。
そんな熱い感情とミニ4駆の楽しさを知った。
そして少しだけ・・・ゴウ・セイバ・・・星馬豪の事が分かった気がした。
この話はいつもお世話になっている虎鉄さんに贈呈したお話です
既に虎鉄さんのHPでアップされているので読んだ方・・・
同じ話です、ごめんなさい
豪とブレットなのでカップリングじゃないか!?と思われた方
ライバル同士のほのぼの話ですのでご安心を!
(もう読んで知ってるって?)
私が書いたから・・・っていうのもあるでしょうけど・・・豪がね
やっぱり豪は馬鹿で無茶苦茶で泣き虫で強くてカッコイイ訳です
ブレットに対して(誰に対しても)物怖じしない豪
説明よりもレース
WGP最初の頃のブレットと後半のブレットのビクトリーズに対する見解の変化
色々思うところがある訳です
まあ、豪とブレット版「Start line」と言ったところでしょうか・・・(苦笑)
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