story




カチャカチャ・・・
少しキーボードを叩いてお目当てのデータを引き出して彼はそれを見る。
じっ・・・とその経歴に目を通して薄く笑う。
「4人兄弟の2人目で『ジョセフィーヌ』? まるで物語だな・・・」
彼以外に誰もいない部屋で、楽し気な響きを含ませた声が発せられた時、
キュィィィィィン
廊下に響いていたモーター音が鳴り止んだ。
パタン
コツコツコツコツ・・・
程なく、扉が閉じられる音と遠ざかる足音を聞く。
足音が聞こえなくなると、彼は立ち上がり先程モーター音の響いてきた部屋へと移動する。
キュィィィィィン
そして新たにモーター音が響き渡る。



学年が違うせいで入所した年度が違うのは仕方が無い。
しかしこなすカリキュラムによって同じ時に同じカリキュラムを受ける事がある。
だから二人にはある程度の面識があった。彼女は目立つ存在だった。
女の子が他にいなかった訳ではない、彼女がその中で突出していたと言う事実がそうさせただけ。
それ以上に目立つ存在がもう一人、彼は現段階で常にトップの成績をとり続けていた。
ジョセフィーヌ・グッドウィンとブレット・アスティア、宇宙飛行士の卵たちの中で最も注目されている二人である。
お互いの印象はそんなに良かった訳でもない。
「男なんか・・・」
それが彼女ジョセフィーヌことジョーの口癖だったから。
「それがどうかしたか?」
と彼が言うところのクールな対応は彼女の感情を逆なでしたから。
一方的なライバル関係でしかない二人の印象は良いとは言えない。


1日のカリキュラムが終わって寄宿舎に帰る途中だった。
「ジョー!」
彼女を呼び止めたのはエッジ、赤い髪と垂れ目が印象的で愛想が良いと女の子に評判の・・・。
「何か用?」
彼に愛想良くするとろくな事が無いと経験が告げる。ジョーは素っ気無く返事を返した。
「つれないねぇ〜」
口笛を鳴らして彼女の方に寄ってくる。
「自分の胸に聞いてみなさいよ」
ため息を一つ吐くと諦めた様に彼に向き直る。
「こんなに友好的になのに?」
自分に合ったおどけた仕種、彼は自分自身を良く知っている、だからこその対応をする。
彼の事を特に嫌っている訳ではない。唯・・・彼に対しての他の女の子からの相談事が絶えないのだ、この愛想の良さが災いして。
「今までその愛想の良さで何人の女の子を泣かしたのかしら?」
思い出したら腹立たしくなってきたらしく嫌みを含んで微笑んだ。
「おやまぁ・・・きついお言葉」
エッジは苦笑しつつも効果はない。
「面倒に巻き込まれるのはごめんだわ」
事のついでとばかりに彼女の方も言葉を追加してきた。
「これでも感謝してます」
お手上げとばかりに両手を広げる。
この問答はエッジの降参としておいてあげようとジョーの方も表情を改める。
「それで?」
真面目な顔で改めて呼び止めた理由を尋ねる。
「そうそう、ミニ4駆のカリキュラムあっただろ?」
ポンと手を叩いて思い出したように嬉しそうに喋る。ジョーは頷いて次の言葉を待った。
「そのミニ4駆の大会のメンバー候補に挙がってるからミーティングルームに集合ってデニス監督から・・・」
エッジは気づいたように腕時計を見て顔色を変えた。
「ヤバ・・・」
「どうかしたの?」
様子が変わったエッジを訝しむと焦った顔のエッジと目が合う。
「集合時間過ぎてた・・・」
瞬間、ジョーはエッジの襟を掴んで走り出した。

「まったく・・・」
ぶつぶつと文句を言いながらエッジを引っ張って廊下を走る。
「悪い悪い」
反省の色がない顔で謝られたって時間が戻る訳じゃない。
「もう!」
絶対にあいつに何か言われる! あいつが候補に選ばれてない訳ないんだから!
覚悟を決めて練習場の扉を開ける。
バンッ
勢い良く開かれた扉に候補者の視線が集まる。
「すみませ・・・」
「遅かったな」
謝罪の言葉を遮り冷たい声が響く。
「皆待ちくたびれているぞ」
注がれる冷たい瞳。
「な・・・!」
ジョーは言葉を放った人物を睨んで何か言いかけた時、又も彼女の言葉を遮る声が響いた。
「悪りぃっ! 俺のせい!」
険悪になりかけた空気をものともせずに気楽に割って入ったエッジの声は、その緊張感をもしっかりと壊す。
「「エッジ!」」
非難と安堵の視線が集中する。
「俺がジョーに連絡しなきゃなんねーのに遊んでてさ、連絡するのが遅れてだなぁ・・・」
やはり反省の色は皆無で、その調子に呆れた彼は「もういい」と言って二人を席に就かせた。


候補に挙がった者の中から選考会が行われた。
『このカリキュラムは得意ではない』
普段からそう言っている彼。だからと言って苦手と言う訳でもないく何事も卒無くこなす。
そういう言動が与える影響を考慮した上での発言・・・
「いつもの事ながら頭にくるわね!」
多少なりとも苦手意識のあるカリキュラムだからこそ必死でこなした。
『やっぱり女には向かない』
その言葉を聞かない様に。
その甲斐あって何とか大会のメンバーに選ばれたけど、でも、彼に負けた。
怒りを押さえる事無く早足で歩く彼女の行く先は練習用のコース。
トレーニングルームの扉が見える距離でジョーは足を止めた。
誰かいるのかしら・・・?
窓から漏れる明かりとモーター音に足音を殺す。
個人個人が責任を持って行動するという事でトレーニングルームやコンピュータールームの使用時間に制限はない。
だから必死で練習している姿なんて誰にも見せたくなかったから、いつも夜中に来ていた。
こんな時間に練習する自分以外の酔狂は誰かと中の様子をそっと覗く。
「ブレット・・・」
ジョーは自分以外の酔狂の名前を呟き、意外な人物の意外な行動に呆然と立ち尽くす。
ブレットはマシンのセッティングを変えたり走っているマシンのデータを収集していた。
目を閉じて深呼吸をすると、何故かそんなブレットの姿に安堵を覚えてジョーはその場を後にした。



「調子はどうだ?」
無愛想に尋ねてきたブレット。
「最高ね」
ジョーが柔らかく微笑み返して答えるとその表情は驚きと戸惑いになった。
「アトランティックカップでは最高の走りを期待してて」
ブレットの変化を知りつつ気づかない振り。
「ああ、そうさせてもらう」
無理矢理作った真面目な表情で踵を返す。
逃げるような仕種の、背中に感じた気配はジョーの笑み。
どんな意味の笑みなのか気にはなるが、らしくない自分を隠す事が先走る。
プライド。


控え室に入った途端零れ落ちる涙。
あと少しだったのに、負けた悔しさ。
アトランティックカップの優勝はドイツのアイゼンヴォルフ。アストロレンジャーズは2位。
「悔しい・・・」
呟いた。
ぽんっ
頭に置かれた少し大き目の手。
誰・・・?
見上げるそこに、歯を食いしばって、悔しそうなブレットの顔。
女だから負けたんじゃない。
チームとしての悔しさ。


一つの大会が終わって、養成所へと戻って来た。
寝付けなくて、いつもの様にマシンを持ってトレーニングルームへと足を向ける。
キュィィィィィ・・・・ン
いつもの様に響いてくる音。
「まさか!」
焦るように速くなる足。
扉の手前で足を止めて中を見る。
「ジョー!」
小さくても低く響いて届く声に顔を上げる。
「ブレット」
当たり前の様に驚きもせずに見返される瞳。
「来ると思っていたわ」
「知っていたのか?」
ジョーの態度を見れば一目瞭然である。自分が発した愚問に苦虫を噛み潰した顔をする。
「前に・・・」
「そうか」
納得してから自嘲気味の笑みを浮かべる。
「可笑しいか?」
ジョーは不思議そうにブレットを見た。
「なにが可笑しいの?」
「え?」
聞き返された事に逆に驚く。
「私だってずっと・・・こうやって練習してきたのに?」
その穏やかな表情に見蕩れ、聞き返された事に気づかない。
ジョーもブレットの返事を期待していなかったかの様に答えがなくても言葉を綴る。
「ブレットは努力なんてしていないと思ってたのに・・・自分と同じように練習してたんだって知って、安心したんだから」
「安心?」
「そう、安心したの」
真摯な瞳がブレットを捕らえた。
「私ね、私が女だから負けて悔しいんだって思ったの。でもみんながそして同じように悔しんだのを見て気づいたわ、みんなと一緒に勝てなかった事が悔しいんだって・・・」
「ジョー・・・」
「同じように練習して、同じようにレースをして・・・同じ気持ちを共有できる」
噛み締める様に語られる一つ一つの言葉。
「ブレット・・・最高の仲間だわ」
感謝、敬意、信頼、そんな感情の入り交じった、でも強い意志を秘めた表情でブレットを見つめる。
ずっとジョーを見ていた視線が見返すジョーの視線と重なる。
「仲間・・・」
「仲間よ」
「そうだな」
喜びも悔しさも分かち合える存在、仲間。思いを巡らせて微笑みを漏らす。
気持ちを切りかえる様に笑みを変える。いつもの不敵な笑み。
「今度は世界グランプリだな」
「ええ」
「今度こそ優勝するぞ」
「もちろんそのつもりよ」
挑むように、いつもの負けず嫌いな顔。
お互いの顔を見合わせて苦笑する。
同じ気持ちを持つ存在。


キュィィィィィン・・・

「寂しくないか?」
「何が?」
「1年もアメリカを離れる事になるんだぞ?」
「ブレットは寂しいの?」
「いや、俺は嬉しいさ」
「嬉しいの?」
「ああ、世界だからな」
「そして宇宙?」
「そう言う事だ」
「クスッ・・・」
「可笑しいか?」
「ううん」
「・・・」
「クスクス・・・」
「・・・」
「ブレットって、兄みたいね」
「そうか?」
「そうよ」
「俺には姉しかいないから良く分からないな」
「弟にも似てるかもしれないわ」
「それは・・・あまり嬉しくないな」
「そう?」
「そうだ」
「だからみんながいるから・・・」
「みんな?」
「両親や兄弟がいなくてもみんながいるから寂しくないわ」
「兄弟の代わりか?」
「そんな感じもあるかもね」
「ふぅ・・・」
「何?」
「兄弟よりも・・・ちゃんと俺を見て欲しいんだがな」
「じゃあ隣の男の子?」
「恋愛対象になるならそれでも構わないさ」
「考慮するわ」
「そうしてくれ」
「でも今は・・・」
「仲間だろ?」
「最高のね」
「ああ・・・」

2つのモーター音が響く。
そして2人分の話し声が小さく聞こえた。






これは梅桃樹さんに送ったお話です
一応ブレットをリクエストと言われて書いてたんですが
ジョーの方がメインになってしまった(苦笑)
リクエストされたんだから幸せにしてあげれば良いものを
あんまり幸せではないかもしれないブレット・・・
いや、この段階ではまだ幸せなはず!!

若草物語はご存知でしょうか?
4人姉妹の2人目はおてんばなジョーです
アストロレンジャーズのジョーも4人兄弟の2人目です
ブレットはローリーなのでしょうか?
それともその家庭教師なのでしょうか?
ブレットとジョーは若草物語の結末を知っているのでしょうか?

ブレットは初めからジョーの努力と実力を認めていたと思います
ジョーはブレットに対してコンプレックスはなかったのでしょうか?
リョウに対してコンプレックス剥き出しにしたように、あったと思います
でもそれって・・・かなり噛み合わなかったかもしれないという頃のお話。

最初の「4人兄弟の・・・・」と
最後の会話部分が始めに出来たのであとは辻褄合わせる内容を・・・
書きはじめたのですが辻褄なんてあってないですし
逆に書き難かったですね(^^;)