bless wind

注意:これは「やさしくなるとき」の続きです。
「やさしくなるとき」を読んでいない方は先にそちらをお読みになった方が、
話が分かりやすくなると思われます。



・・・彼は頭を抱えてしまいたかった。

でも、彼の性格上そんな事が出来るはずもなく、

彼はその不機嫌さを押し殺す。



彼女が病院で手当てを受けている時、彼はその時の事を彼女から聞き出していた。
『それだけなのか?』
と彼は彼女に尋ねた。
『そうよ、それが何?』
彼女はそう答えたのだ。しかも、満面の笑みを浮かべて。

彼は彼女の嬉しそうな笑顔を壊さないように相づちをうってその場から離れた。
しかし彼女の笑顔をもってしても、彼の憤りは止む事はなかった。
逆に怒りが大きくなるのを自覚しながらいつも口癖の様に言っている言葉を呟く。
「クールに・・・」
そして彼は問題の人物との会話を思い出す。



あの時のあの遣り取りで・・・!
彼の怒りの矛先は鷹羽リョウという。
別に気にした風もない彼女をジョーという。
彼・・・ブレット・アスティアの所属チームの紅一点とそのライバルチームの一人である。



鷹羽リョウのキャンプ地の近くでジョーが怪我をした。
彼女を探し出し、助けてくれた事には素直に感謝している。
しかし! それだけなのだ。
今更ながら、あの時ジョーを助けに行く事を任せたと思われているんじゃないだろうかと不安なる。
「好きの一言くらい言えないのか・・・」
思わず言葉に出している事に彼は気づいていない。



ビクトリーズ対アストロレンジャーズ戦が行われる会場。
レース前のセッティングの息抜きにジョーは会場内を散歩する。
その足は自分では気づかないうちにビクトリーズのトランスポーターの方へと向かっていた。

向こうから誰か歩いて来るのを見て目を凝らす。
「リョウ!」
彼女はリョウを見つけると嬉しそうに駆け寄って行く。
「ジョー・・・」

リョウもジョーに対してまんざらではない様だ。
何せ女の子の名前をあまり覚えていない、と言うか覚えようとしていないのにジョーはちゃんと覚えているのだから。
それに、彼女に対する時の表情が違うという事に気づいている人は何人ぐらいいるのだろうか?

他愛もない会話、でも好きな人と一緒にいるだけで嬉しいと思う。
ジョーはそんな事を思いながらリョウと話を続ける。
そばにジョーがいる事で心臓が早鐘を打つ、平静を装うと気持ちを叱咤する。
俺の言葉はジョーを傷つけたりしていないだろうか?
「怪我はもう良いのか?」
リョウは優しく尋ねてきた。
「ええ、もうすっかり良くなったわ」
彼女も笑顔で答えを返す。
「あの時は本当に・・・ありがとう」
ジョーは照れながら感謝を伝える。ほんのりと顔が赤い。
「いや、大した事じゃない」
その表情にリョウは照れるのを隠すようにさり気なく返す。
リョウの言葉にブレットとの会話を思い出しジョーの笑顔が少し翳った。
彼女に対してはいつも以上に気を使うが故に、ジョーの表情が翳った事を見逃さなかった。



レースが始まる前のミーティングが終わった後、
『あれからリョウとはどうなんだ?』
ブレットは尋ねた。
『別に・・・変わったことはないわ』
ジョーはそのまま答えた。
『彼が好きなんじゃなかったのか?』
そう、私はリョウが好き。でも・・・。
『リョウの事は好きよ、でも、それだけだもの・・・』
事実、リョウは何も言ってない。
それはジョーの気持ちを不安にさせた。
その事がジョーの笑顔に影を落とした。
そしてブレットは忘れていた後悔と怒りを思い出す。



それはレースが始まる少し前の、リョウにしてみれば突然の出来事だった。
「ジョーの事をどう思っているんだ?」
ブレットは前置きもなくそう言った。
レース前、インカムのチェックをしていた時だ。
雑音交じりのインカムから聞こえてきた。
リョウはまだ自分の気持ちが何なのかはっきりと自覚していない。
「どう・・・とは?」
リョウは伺うようにブレットに切り返す。そしてアストロレンジャーズのピットの方を見た。
ブレットがリョウの方を見ている。
「ふざけるな」
淡々とした口調だが怒りが込められているのが分かる。
「ふざけてなどいない!」
押し殺したように言ってリョウはブレットを睨む。
「なら、何故ジョーを不安にさせる? 俺は君にそんな事を頼んだ覚えはない」
リョウはブレットのその言葉に引っかかるものを感じた。
不安・・・? ジョーが?
そういえば・・・と先ほどジョーと話しをしていた時にジョーの表情が暗くなったのを思い出す。
「貴様が何か言ったのか?」
リョウは反対にブレットに尋ねた。
ブレットに意地の悪い考えが浮かぶ。
「何か言った・・・と言ったら?」
くすッ・・・
インカムの向こうでブレットの笑いが聞こえリョウの気持ちを逆なでする。
「貴様がジョーにあんな顔をさせたのか!」
リョウは拳を握りながら低く言い放つ。
「それは君だ!」
不機嫌そうなブレットの声、そのままブレットは続けて言う。
「俺ならジョーを不安にさせたりしない」
「何!」
リョウの握り締めた拳が震える。
「ジョーの事は俺に任せてもらう」
「・・・俺は!」
俺はジョーの事をどう思っているんだ・・・?
リョウはそう自問する。
「君はジョーを何とも思っていないんだろう?」
ブレットの言葉にジョーに対する気持ちが渦巻く。
愛しい、守りたいと思う・・・この気持ちが何なのか俺には分からない。
「俺は・・・」
「リョウ!」
リョウの言葉をジョーの声が遮った。
左のインカムと右の耳から聞こえてきた声。
リョウは声のした方を振り向く。そこにはやはりジョーが立っていた。

「ジョー・・・」
リョウは呆然とジョーを見つめた。
「聞いていたのか?」
ジョーはその言葉に無言で頷く。
「そうか・・・」
リョウは何か諦めるように、吹っ切るように呟いた。
そしてジョーを真っ直ぐみ見つめる。
「俺は・・・」

「なあ、ブレットってジョーの事好きじゃなかったのか?」

不意にリョウの台詞が別の声に遮られた。
尋ねられたブレットは声の主を探す。その声はインカムと足元から聞こえた。
ブレットが足元を見ると青い髪と空を映した大きな瞳が見上げている。
「豪!!!」
「「豪くん・・・」」
続けてインカムから烈の声が聞こえた。
小さく呆れたように聞こえてきたのは藤吉とJの声。
ブレットがビクトリーズの方を見るとばつが悪そうに顔を背けた面々が目に入る。
ピット内を見回してもビクトリーズと同様の様子のメンバーがいた。
再び豪を見ると、明らかに「しまった!」という顔をしてブレットを見上げる。
そんな周囲の様子に苦笑してからブレットはリョウ達の方を見て言った。
「ああ、仲間としてな」
そのブレットの顔は悪戯っぽく笑っていた。
「ふ〜ん」
ブレットを見上げて怒られなかった事に安堵しつつ、納得したのかしていないのか分からない反応をして、豪もまたリョウ達を見た。
その瞬間、まわりの者達のインカムからぷつりと小さな音がした。

一連の周囲の様子を黙って聞いていたリョウはインカムを切った。
ジョーを見ると真っ赤になって俯いている。
「ジョー・・・」
リョウは優しく呼びかける。
ジョーは顔を上げてリョウを見た。
「ごめんなさい・・・」
ジョーの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「よく、謝るな・・・」
リョウは苦笑した。
「だって・・・」
ジョーは何かを言い返そうとしたが言葉にならない。
「ジョーは何もしてないんだから謝る必要なんてないだろ? それとも、謝り癖でもついたのか?」
「そんな事ないわよ」
ジョーは目元の涙を拭うと少し膨れっ面を作って笑った。

ジョーが笑顔になったのを確認してリョウは空を仰ぎ見て言葉を吐く。
「俺は恋だとか恋愛だとかそんな事は考えた事なかった」
リョウのその言葉を聞いてまたジョーの笑顔が沈む。
「そして俺は・・・ジョーにそんな顔をさせたくないし、させるつもりもなかった」
リョウはジョーも見て言葉を続ける。
「ただ、ずっと笑顔でいて欲しいと思ってる。不安にさせたくないし、君を守りたいと思ってる」
ジョーはリョウの顔を見た。赤くなったリョウの顔。
その照れていても真面目な顔を見つめる。
「これが恋だとかいうのならそうなんだろうな」
赤い顔の笑顔をジョーに向ける。「俺には分からないが・・・」と口の中で続けた言葉は声になっていなかった。
「リョウ・・・」
ジョーは涙を浮かべてリョウに微笑んだ。
リョウは泣かれた事と自分の言った言葉に対する恥ずかしさで戸惑いながら、少しよれたハンカチを差し出した。


「「良いなぁ、若いって」」
「か、監督!」
「は、博士!」
どこからか聞こえてきたアストロレンジャーズの監督と土屋博士の声。
続けて聞こえてきたのは慌てたエッジとJの声。
ジョーは左の耳に視線を走らせる。リョウもジョーのインカムを見た。
「ご、ごめんなさい!」
ジョーは慌ててインカムを切った。
リョウが苦笑してその様子を見ている。
「なぜ謝る?」
「そうよね、もう・・・遅いわよね。ごめんなさい」
ジョーは少し悲しそうな顔をする。
「本当に、謝り癖でもついたのか?」
リョウは優しく笑って言った。
「別にそんな事ないわよ!」
ジョーもむきになって言い返す。もう、悲しそうな顔はしていなかった。
「その方が良い」
リョウは言ってからまた顔を赤くした。
ジョーもつられて顔を真っ赤にさせる。
赤くなった顔を見合わせると二人微笑みを交わした。




ビクトリーズのメンバーもアストロレンジャーズのメンバーも
二人を優しく見守っていた。


暖かい気持ちが二人をとりまく。


祝福の風が吹いていた。











えー・・・「やさしくなるとき」の続きです
かなり少女漫画してます
本当は続かせようなんて思ってなかったんですけど
何故か、続きを書いてしまいました
そのくせ何度も書き直してましたからねぇ
なんでこんなに書き直したんでしょうと思うくらいです
書き直す度に短くなりましたが、それでもこの長さ・・・(^^;)
ブレットのインカム割り込み・・・やってみたかったんです
ジョーのあやまり癖もですね
後半照れ隠しにおちゃらけ入ってます、自分の限界を見た!
ダッシュ!!!!!(書き逃げ)