| 「Treasure Hunter」 宝を探してどれくらいの遺跡を巡ったかなんて、そんな事もう覚えちゃいない。どこがどんな遺跡だったかすらも定かではない。 遺跡なんて何処も同じ様なもので、宝も見つかる事はなくて一々覚えてはいなかったのに、今でも鮮明に覚えている。 バン……。 お前に出会った遺跡だけはきっと忘れない。 各地に不規則に存在する遺跡。砂漠の中にあるそれは時に恐ろしい存在でもあり安らぎの存在にも成り得る。そして好奇心旺盛な子供達にとっては楽しみな存在でもあった。 「バン! フィーネ! あんまり無茶な事しちゃ駄目よ!」 「分かってる!」 「はーい!」 ムンベイが野営の準備をしながらジークと共に探検へと繰り出そうとしているバンとフィーネに声をかけ、2人と1匹は元気よく返事をして遺跡の中へ駆けて行った。 元々遺跡を巡ると云うのはこの2人にとって当初の目的通りであり多少遊び心があったとしても否とは言えない。 ゾイドイブ。 それが何なのかすら分からないのに探さなくてはならない、そんな気の遠くなるような旅の中で、楽しみながら探せると言うのは良い事だと思う。 但し、それが遺跡の恐ろしさを知っている場合に限る。 バンはウィンドコロニーの近くの遺跡を遊び場として育ったから大丈夫だと言うが、その遺跡はバンが生まれる前に既に探索されて殆んど危険がない状態だったはずだ。 フィーネ、遺跡の文字から何かを感じ取る事は出来ても危険を察知する事は出来ない。 「アーバイン」 子供2人が見えなくなった時、ムンベイが俺の名を呼ぶ。視線を向けるとムンベイが意味あり気に俺を見ていた。その意図は簡単に読み取れるもので俺は溜め息が出た。 「へいへい。分かってます、っと」 ムンベイに生返事を返すと立ち上がって遺跡の方を見た。アイツ等は一体この遺跡の何処に行ったのやら、問題だけは起さないでくれと無理だと分かっていても願ってしまった自分に自嘲の笑みが浮かぶ。 「笑ってないでさっさと行った行った!」 ムンベイはさして面白くもないと云う風情で俺を追い立て俺は特にやる気もなく遺跡へと歩いてゆく。走って追いかける程の事ではない。まだ声は聞こえている。 さて、どうしたものだろう。堂々とアイツ等に付き添っても良いのだが、そんな事をすればアイツ等の探検は興ざめだ。 仕方がないと溜め息が出た。 そして俺は目を閉じ気持ちを切り替える。 気配を消し精神を集中させる。 再び目を開けた時のそれは、盗賊の顔。 声のする方向へと、遺跡の奥の部屋へと足音を忍ばせて近づいて様子を見る。 「なんか思い出せそうなもんってあるか?」 バンは周囲に転がる石像や石碑の残骸、壁画を見ながらフィーネに訊いていた。フィーネはゆっくりと遺跡を見て回るが残念そうに首を横に振るだけだった。 「そっか。フィーネの時みたいにどこかの隠し部屋とかでないと駄目なのかな」 そう言ってバンは辺りを叩く。 「バン、無闇に触ったら危ないってアーバイン言ってたわ」 フィーネがそれとなくバンに注意をするとバンは面白くないとばかりに膨れっ面で叩くのを止めた。バンは比較的フィーネの言う事は聞く。俺が言っても反発するだけで聞く耳を持たないのにと苦笑が漏れそうになる。 「やっぱりアーバインに調べてもらった方が良いんだろうな」 「バン」 フィーネはバンに笑いかける。 「私はバンの事頼りにしてる」 「フィーネ」 途端にバンは嬉しそうな顔をする。現金な奴だと思うが分からなくもない。男なら誰かに、ましてや子供とはいえ女に頼られると嬉しいものだ。本当は素直な奴なのに時折反発するわ頑固になるわ、どう見ても敵愾心剥き出しで、それでもその感情そのものはかなり真っ直ぐなものだ。 「もう遅くなるから、ムンベイ達の所へ戻ろうか」 「うん」 少しだけ吹っ切れたようにバンはフィーネとジークを伴って戻る方向へと歩いて来る。俺は崩れた壁を越えてその陰でバン達が過ぎるのをやり過ごす。 そしてバン達にがいなくなったその部屋に足を踏み込んで周囲に注意を払い盗賊としての経験からそこに見つけた物。 「ま、お子様には分からないだろうよ」 呟いて調べた場所は壁画の一部、拳程の嵌め込まれた1つの石。フィーネやジークの瞳の色のようなその赤い石は艶を消されて上手く壁画と馴染んではいるものの壁画と違って明らかに色褪せていない。 何故そこにだけカモフラージュして嵌め込まれているのか。 「後で調べに来るか」 バン達が戻ったのだから早く戻らなければまた煩く何か言うに決まっている。 お楽しみを後に取っておくのも悪くないと俺はそこを離れて野営地点へと戻る事にした。 案の定バンとフィーネは先に戻っていた。 「アーバイン遅い!」 そんなに待たせた訳ではないだろうに、それでもバンは怒って言ってくる。 「どこかに行ってたの?」 いなかったのだからどこかに行っていたと分かるだろうに、どこに行っていたのか、ではなくどこかに行っていたのかとフィーネは聞いてくる。 「ちょっとな」 「ふ〜ん」 聞いてくる割に曖昧な答えをしても問い詰めない、だからフィーネは良く分からない。 「それでアンタ達、何か手がかりはあったのかい?」 話を変えたムンベイの、それは助け舟だろうが様子見に行かせたのはムンベイなのだから当然だと思う。 「ああ壁画とかはあったんだけどさ、それ以上分かんなかったしフィーネも分かんないって言うからまた明日でも見に行って良いかな?」 ムンベイに伺いをたてるバンはこの通りと拝む仕草をした。 「今度はアタシ達もついて行くからね」 「分かってる」 勝手な事をするんじゃないわよと念を押されていてもバンにはまた遺跡の中に行けるという喜びの方が大きいのだろう、全くといって良いほど聞いちゃいない。 さて、これで早めに調べなければならないがこの状態で抜け出すとまた何やら煩い事になりそうだ。 ならば……寝静まった頃にでも行かせて貰おうか。 盗賊の顔で毛布を抜け出す。 規則正しい寝息が聞こえてくるだけで他に動く気配がない事を確認すると俺はゆっくりと遺跡の中へと入って行った。 眼帯に仕込まれた暗視スコープによる視界は明かりなど必要なく、遺跡の中を難なく目的の場所へと辿り着く。 そこで目にしたものは僅かな月明かりが差し込む薄暗い部屋の中で仄かに赤く発光している1つの石。天井に設けられた明り取りによって昼の間に蓄光していたのだろう、夜見ると明らかにこれだけが異質。 鬼が出るか蛇が出るか。 その石へと手を伸ばした時、後方に人の気配がした。 「くそっ」 聞こえてくる、近づいてくるのは子供の足音と懐中電灯の明かり。 「バンか……」 このままこの石に触れて何か仕掛けが起きれば巻き込みかねない。 「一先ずどこかに隠れて様子を見るか」 バンと鉢合わせをするから戻る事は出来ない。懐中電灯程度の明かりなら気配さえ殺せばなんとかやり過ごせるだろう、バンの死角になる石像の陰へと身を潜めた。 出入り口の様子を窺うと丁度バンが懐中電灯で足元を照らしながら室内へと入って来た。 「確かこの部屋だったんだよな」 周囲を照らしながらその光の先を見る。照らされた部分しか見ない、しかも前と左右。後ろを確認する気配さえ見せない。 内心、そんなんで見つかる訳ないだろうと呆れたくなった。 「やっぱり何もないのかな?」 バンはそれでも諦めまいと何度も壁を照らして壁画や石碑を見てゆく。光が宛てられるが故にかき消されて、石の放つ光に気付く事もない。 「だからってアーバインに助けられるのもなぁ……」 そして大きく溜め息をつくとその場所に寝転んだ。 目を閉じ、懐中電灯を消すとバンは空へと手を伸ばし何かを掴むようにその手を握った。 再び目を開けた時、バンはゆっくりと握った手を開いてゆく。 「やっぱり何も掴めねぇ……掴める訳ないか……」 聞き取れるかどうかの声で呟いて、手の中を確認して腕を下ろし空を見上げた。 その顔はいつもの子供じみた膨れっ面ではなく自分の力不足を悔しがっていて、ガキだと思っていたのに、いつの間に一丁前に男の顔をする様になったのか。 バンは暫らく空を見ていた。 諦めて帰るのかと思った。それは有り難いがバンらしくないと複雑な気分になった時、バンの声が聞こえた。 「いや、まだ諦めねぇ!」 バンは起き上がり気合を入れる。 「よし! 探すぞ!」 言って壁画を見て、そしてバンは壁画を凝視する。 「あれ? こんなんあったけ?」 バンの真正面にはあの発光している石があった。興味津々と石に近づくバンに無闇に触るんじゃねぇと願いつつもその願いは無駄に終る事になった。 「何だこれ? 押せるのかな?」 疑問符を並べながらバンはその石に触れ、押した。 「バン!」 思わず石像の陰から飛び出してバンを止めるが石は押された後で……嫌な予感がした。 「アーバイン?!」 嫌な予感ほど当たるもので、驚いて振り返ったバンの床が抜け落ちる。 「え?」 「ったく!」 足場を失い傾いだバンへと手を伸ばす。その手が届きバンの腕を掴んだ時、自分の体も足場を失った。 「なっ……!」 傾く視界の中で周囲を見る。出入り口の横に別の入り口がある事、床は崩れた訳ではなく完全にトラップ、落とし穴。そして落ちて行く先は深く見えないが直ぐ下に横穴が見えた。 掴んだ腕を引き寄せてバンを抱えると壁面を蹴って落下方向を変え横穴に飛び込んだ。 ポチャンと落とし穴の先から水の中に物が落ちる音がした。 何とか無事だな。 体を起して安堵の溜め息をついた。ここはどこなのか通路は続いている。落とし穴を見上げると天井……床がゆっくり閉まり始めていた。 「あそこからは出れなさそうだな」 何となく感想を言って腕の中のバンを見た。 「おいバン、大丈夫か?」 抱えていた腕を解くとバンは黙って俯いていた。 「バン?」 バンの表情が見えないまま床が閉じてしまった。もう月明かりは差し込まない。明かりのないここではバンの表情は見えない。 「何か言わないと何も分かんねぇぞ」 すると少しだけバンが動く気配があった。 「バン」 バンの腕を掴み根気良く呼びかけてみる。 「ごめん……」 その言葉が小さな声で返ってきて、俺は溜め息をついた。 「だから無闇に触るなって言ってるんだ。もうするなよ」 「うん」 言い聞かせるように言うと今度は素直に反応があった。唯、いつもの様に元気な声ではなかったから自己嫌悪でもしてるかもしれない。 「バン、お前懐中電灯はどうした?」 話を変えるように言うと少しの間の後に返事が帰ってきた。 「分かんねぇ」 期待はしていなかったが、これで明かりは得られなくなった。 これで頼りになるのは暗視スコープだけ、となるとバンはこの暗闇の中を動かなければならない。隣にいる人間すら見えない暗闇、今はまだこの掴んだ腕で一人ではないと分かるが離れてしまえば気配だけで他の人間を探す、バンには無理だろう。だからと言って助けを呼びにこの暗闇に一人残して行くのか? 酷だ。 「バン」 「アーバイン?」 俺はバンの腕を引いて立ち上がった。引かれてバンも立ち上がったようだ。 「ここを出る。絶対に手を離すな」 「わかった」 バンが強く返事をすると、掴んでいた手から腕が擦り抜け代わりにバンの手が……手を掴み返す。 繋いだ手を離さないようにその手に力を込めると同じ様に握り返してきた。 「さあ、行くぞ」 「ああ」 俺はバンの手を引きながら暗闇の中を歩き出した。 細心の注意を払いながら先へと進む。 幾つかの分岐があったがそれは全て左へと進んだ。迷路は片方の壁伝いに進めば何れ出口へと辿り着く。右へ曲がる事は左側にいるバンに大回りをさせる。 床は思ったほど段差が無く躓く事はなかったが、それでも足元が見えない暗闇の中で手を引かれるままに歩くと言うのは体力を消耗する。 「大丈夫か?」 「大丈夫だ」 尋ねたところで素直に返事が返ってくるとは思っていないものの、こんな時にまで強がる事はないだろうと思う。 いや、こんな時だから……か。 「無理はするな」 「してない」 帰ってくる口数が少ないのは疲れているからだろう。 俺はそこで立ち止まった。 「どうした? アーバイン」 同じ様にバンも止まるが何も見えない状態では何故立ち止まったのか分からないのだろう、声に不安が滲んでいた。 俺はそれには答えずにバンの手を離した。 「アーバイン!」 悲鳴のようなバンの声。 「大丈夫だ、ここにいる」 宥めるように言ってバンを抱きしめた。 「アーバイン!」 抱き付くようにバンの手が背中に回って服を握り締めるのが分かった。その小さな体が震えている。驚かせようと思って手を離した訳じゃない。 「悪い、怖がらせるつもりじゃなかったのにな」 「馬鹿野郎……」 嗚咽交じりに憎まれ口を叩く。 「結構元気そうじゃねぇか」 「当たり前だ」 軽口で返してやるとバンはまた強がって見せようとした。 「あんまり素直じゃないとまた手を離すぞ」 脅しをかけるとバンは縋るように背中に回した腕に力を込めた。 「本当に素直じゃねぇな、お前は」 思わず苦笑が漏れてバンを抱きしめる。もうバンの震えは止まっていた。 それでもこのまま歩き続けるのは得策じゃない。 「バン、少し休憩だ」 俺は反論を許さない強い口調でバンに言った。 バンを抱えたまま壁に凭れ息をつくと思ったより自分も疲れていたと気付く。長時間暗視スコープへと集中させていた左眼が乾いている。目を閉じてもその視界は変わらない。 「アーバイン」 「何だ」 「何でアーバインはあそこにいたんだ?」 あそことは遺跡の部屋の事だろう、言ってしまえばまたバンは傷つくかもしれない、俺は溜め息が出た。 「アーバイン?」 それでもこれ以上無茶をして欲しくないのも事実で……。 「下調べだ。お前等がいる時にトラップを作動させない為にな」 「ごめん……」 謝る時だけは結構素直なんだよな。 「気にするな。それに……」 「それに?」 「お前がいると何の変哲もない遺跡もスリルがあって面白いからな」 「誉めてねーよ」 「そうかもな」 膨れっ面が目に浮かぶ。顔が見れないのが残念だ。 そして不意に訊いてみたくなった。 「バン」 「何だよアーバイン」 「お前、俺の事嫌いか?」 「は?」 バンは間の抜けた反応をした。 「何でそうなるんだ?」 「いや、だってお前……俺の事邪険にしてるだろ」 逆に訊き返されて言うに困った。 「邪険にって……結構頼りになる奴だって思ってるし、いくら何でも嫌ってたら一緒に旅なんてしないぜ俺は」 「まあ、そうだよな」 どうやら嫌われてはいないらしい。では何故反発するのか、それはバンの性格から聞かなくても分かってしまってそれ以上は訊かなかったのに、バンはそれでは収まらなかったらしい。 「俺だって分かってる。意地になって反発して、アーバインが言う通りガキだって思ってる。だから邪険にしたつもりはなかった。だからアーバインの事嫌いじゃないから……気にしてたんなら謝る、ごめん」 最後の方はかなり小さな力ないバンの声は、この静寂の中では聞き取るに十分だった。 「気にしてねぇよ」 本当だと笑いかけてやりたかったけれどきっと見えないだろう、代わりに俺はバンを抱きしめた。 「アーバインの事、嫌ってないから……」 何度も繰り返すバンの声。 「分かったって」 軽口を叩く事も笑いあう事も、向けられる笑顔は偽りのないものだった。だから嫌われてはいないと分かっていた。それでもバン自身の口から聞きたかっただけだ。 こんなにもバンを追い詰めるつもりはなかった。だから話を打ち切るようにバンに告げる。 「さあ、バン。そろそろ出発だ」 俺はバンの手を繋いで立ち上がった。 「分かった」 しっかりした声で返事をして、繋いだ手を握り返しバンも立ち上がる。繋いだ手は暗闇の中でも互いの存在を伝えていた。 そして出口へと歩き出す。 半時程歩き続けた頃、階段があった。 「バン、階段だ」 「見えねーよ」 「そうだろうな」 この暗闇で階段を上らせるのは無理だと判断して。 「ちょっと我慢しろよ」 バンを抱き上げた。 「おい、アーバイン!」 慌てるバンは無視してそのまま階段を上ってゆく。 「階段上がれないんだろうが」 「そうだけどさ……。あーもう! 格好悪い!」 諦めたのか落ちない様にしがみ付いて文句を言っている。どうやら自尊心の問題らしい。 階段を上がると行き止まりだった。しかし……曲がりくねった通路はなかった。この暗闇の中でも距離感が正確なら曲がった数と合わせてもそろそろ遺跡のあの部屋近くにいる筈だ。 「バン、しっかり掴まってろよ」 そう言って何かあっても庇えるようにバンを抱きしめ直しその壁を押した。 力を入れなくても壁は動いた。 そして月明かりが差し込む、そこは見覚えのある部屋。 「バン、外だ!」 「やったぜ、アーバイン!」 外に出るとバンは嬉しそうに笑って抱き付いてきた。 バンの喜ぶ顔を見ながらその笑顔が見れて良かったと思う。 「サンキューな、アーバイン」 自分に向けられる笑顔に、迷宮の中から宝物を見つけたような気がした。 遺跡を巡って宝探しをして巡り会う、自分だけの宝。 何の変哲もない遺跡でも、お前と巡った遺跡は忘れない。 さて、夜が明けてから俺たちはムンベイにこってりと小言を食らい、皆でまた遺跡へと戻ってきた。 今度はトラップを回避して俺たちが出て来た壁から中へと入って調べたがフィーネが何か感じるものはなかった。 ここで俺は面白くない思いをする。 壁の隠し階段から中を調べる時に左回りで調べたのだが階段からあまり距離がない位置にその隠し部屋は存在した。そして俺たちが落ちた穴はその隣にあった。 そう、俺とバンは無駄に大回りをしていた事になる。暗闇の中で苦労したと言うのに。 バンの方を見ると、恨みがましい視線を突き刺された。 物語へ戻る |