「The Shooting Star」

 寝ようと思った時、なんとなく見上げた空をふと掠めたもの、それが何なのか気付いて喜んだ時には消えてしまって悔しかったけど、嬉しかったから、誰かに知って欲しくて周りを見回す。
 傍にいるフィーネは確認するまでもなく寝ていて、近くにいるムンベイも寝ているのが分かった。静まり返った周囲は寝静まっているように見えたけど、起きている可能性もあるから毛布を抜け出してアーバインの元へと歩いてゆく。
 離れた場所に蹲るようにしているアーバイン、横にならないそれは直ぐに起き出せるようにしているからだと言う。そして寝ていても直ぐに起きてしまうから本当は起きている可能性よりも起してしまう可能性の方が大きいのだけれども。
 起しても良いから知って欲しかった。
「アーバイン?」
 小さな声で呼びかけてみると時折しか見せてはくれない優しい顔で見上げられた。
「どうした? 眠れないのか?」
 俺は首を振った。
 するとアーバインは優しい顔から怪訝そうな顔に変わる。
「何かあったのか?」
 その声が心配してくれていると分かるものだったから、不謹慎だけど嬉しかった。嬉しい事が続いて自然と顔が綻ぶ。
「流れ星が見えた」
 俺はそう言って空を見上げる。
「願い事をする前に消えちまったけどな」
 残念だったけど見えた事は嬉しいから、それを知って欲しくて一緒に喜んで欲しくて、そう思ってアーバインに視線を戻すと空ではなく自分を見ているアーバインと目が合った。そこでふと思い出す。
「俺もしかしてアーバイン起した?」
 俺は流れ星を見たけれどアーバインは眠っていて流れ星を見ていないかもしれないと云う事。
「いや、起きていた」
「なら良いけど」
 ホッとした時、アーバインが訊ねてきた。
「何か願い事があったのか?」
「願い事ならいっぱいあるぜ」
「例えば?」
「パパオが腹いっぱい食べれますようにとか、ライガーの操縦が上手くなりますようにとか、ゾイドイブが見つかりますようにとか、上げていったらきりがないくらいにな」
「お前の願いの大半はなんとか出来そうなものばかりだろ」
 アーバインは呆れたように云うが事実なので反論はしない。しないけれど、あえて言われると腹は立つ。
「パパオはムンベイに頼んで買ってもらえば良いし、ライガーの操縦はお前の鍛錬だ。ゾイドイブは今探している最中だろうが」
「そんな事分かってる! だから本当に願いたかったのは……」
 そこまで言って口を噤む、思わず本当の願いを喋ってしまいそうになったそれはアーバインには聞かれたくない。
「ほう……、その本当の願いって云うのは俺には言えない事なのか?」
 アーバインの顔が意地悪く笑った。
「アーバインに言っちまったらなんか願いが叶わなくなりそうな気がするから言わねぇ」
 俺はぷいっと横を向く。
「おいおい、えらい言われようだな」
 アーバインの苦笑が聞こえたから、目だけでアーバインの様子を探ってみる。
「まあ流れ星に願うってのはどうしてもなんとか出来ない事だけにしておいた方がいい。自分の力でなんとか出来る事は自分でしろ、そうでないと自分の為になんねぇからな」
 アーバインの発言は願い事は自分の力で叶えてきた者のそれだ。だから聞いてみたくなった。
「アーバインは流れ星に何か願った事はあるのか?」
「願いたいと思った時に見た事はないからな。言ってしまえばないって事になるのか」
 特に考えたり思い出したりする事なく言ったアーバインの言葉、その裏にあるもの重い。
「今は? もし今流れ星を見たら何か願いたい事ってあるのか?」
「今……ね」
 俺はアーバインの返事を待った。
「くしゅん!」
 待っていると思わずくしゃみが出てしまい、アーバインが呆れたように見上げている。
「夜は冷え込むって分かってんだろうが、毛布もなしにいつまでもそんなところにつっ立ってるからだ」
「うー……」
 だからと云って毛布を取りに行こうと云う気も起きずにどうしようかと思っているとアーバインが溜め息をついたのが聞こえた。
「座れ」
「は?」
「いいからここに座れ」
 そう言ってアーバインは自分の隣を叩いた。
「早くしろ」
「うん」
 声に苛立ちが混じってきたので怒鳴られる前に座る事にした。
 俺がアーバインの隣に座るとアーバインは毛布をずらして半分掛けてくれた。
「アーバイン……」
 隣にいるアーバインのぬくもり。暖かい毛布。
「俺の願いなんざ流れ星に願わなくても自力で叶えてみせる。そうでなきゃ意味がねぇ」
 隣から聞こえてきた声はさっきの答え。
「それに自分の手の届かない高みにあって目の前を過ぎていく存在。勝手に願いを押し付けられるってのはどんな気分なんだろうな」
 それは同情にも似ているけれど何か違う。そんな言葉。
「手が届かないから願いたくなるんじゃないのかなぁ」
 手が届かないから届かない何かに願う。
「お前の願いも手が届かないような願いなのか?」
 言われて困った。
「分かんねぇ」
「なんだ、そりゃ」
「自分ひとりでなんとかなる問題じゃねぇし」
「自分だけじゃねぇって、まるで誰かへのお願いみたいだな」
 どくんと心臓が大きくはねた。きっと今のはアーバインに伝わった。からかわれるかもしれない、そう身構えたけど、アーバインはからかわなかった。
「誰かへの願いなら伝えられなくて後悔する前にちゃんと本人に言った方が良いぞ。自分が本当に願っている事なら結果はどうあれ相手もちゃんと答えてくれるはずだ」
 そう言ってアーバインは俺の頭を撫でた。
「子ども扱いすんなよ」
 言ってみたけれどいつもみたいに言葉に力がないから、自分でも今はそれが嬉しいのだと気付く。
「なぁ……」
「どうした?」
「もし俺がアーバインに願い事したらアーバインは叶えてくれるのか?」
 俺はアーバインに少し寄りかかった。甘えてるみたいだなって思う。
「内容にもよるな」
「そっか……」
 寄り添いながら空を見上げる。暗いけど黒い闇じゃないそれは深く青い。
「あ……」
 小さく声を上げた。知らせようと横を見ると空を見上げているアーバインがいた。
「願い事をする暇もなかったな」
 アーバインにも見えたらしい。
「別に俺は願い事なんかないぜ?」
 願えなくて悔しかったと思われたくなくて強がってみる。
「随分変わるじゃねぇか」
「願い事なら自分の力で叶えろって言ったくせに」
「当たり前だ」
 でも本当に流れ星に願う気はなかった。
 この願いは流れ星に願わなくても叶えられる願いなのかもしれないと知っている。だからもう少し勇気を持てたら願ってみたい、流れ星ではなくアーバインに。
 一緒にいてほしいと……。











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