「夢のしずく」

 初めて見たゾイドの死。
 それはコマンドウルフと一人の軍人の最期……そして再び与えられるはずだったぬくもりを奪っていった。

 デススティンガーの荷電粒子砲で傷だらけになったジェノブレイカー、何処に行くかなんて目的はなかった。ただ通信スイッチをオンにした時に聞こえてきたのは雑音にかき消されそうなバンの声だった。
 バンと戦った時のままにしていたから……。
「お前は無事だったんだな」
 聞こえてきた声は切羽詰っているけれど無事だと分かってホッとした。
 初めて会った時、会った事はないはずなのに、何故か懐かしい印象と悲しい記憶を呼び起こしたバン。
「ゾイドなんて嫌いだ」
 そう言ったらむきになったから、その反応が楽しかったのだと今は思う。誰かと喧嘩した事すらなくて、本当はそんな他愛もない事がしたかった。
 記憶の中に封じ込めた願いは溢れ出してくる。
「バン……ゾイドはね、僕に悲しい事ばかり運んできたんだ……」
 今はいつも傍にいるはずのシャドーもいない。
「ほら、やっぱり悲しい事ばっかりだ……」
 気付けば、バンのいる戦場へとジェノブレイカーを向けていた。
 オープンになっている通信。徐々にクリアになってくる声、隠す必要のない会話は互いを励ますもの。
 遠くに見えるのは戦場を離れて行く共和国のゾイドたち、たった一機戦場に残ったブレードライガー。通信モニターをオンにするとバンの映像が映し出される。
『ウォォォォォ!』
 絶叫とともにヒルツの配下のゾイドの中へと突っ込んでゆく。誰かを助ける為に自分を犠牲にしようとしているその顔。
 ゾクリ……。心の奥にある何かとダブる、沸き起こる恐怖。
「バァァァーン!」
 止めなければ……助けなければと操縦桿を握る手に力が入る。ヒルツの配下に向かって荷電粒子砲を撃ち放つ。本来の力の出せていない荷電粒子砲はヒルツの配下の半数も倒せない。
『レイヴン?』
 荷電粒子砲に被るように聞こえてきた声は自分を呼びかけて……。
『無事だったのか?』
 問われて、震えそうになる指で通信スイッチをオンにする。
「バン……」
『ああ、無事だったんだな。良かった……』
 ブレードライガーを操縦しているはずなのにそんな素振りがないくらい、モニターに映るバンは戦闘中とは思えないほど穏やかな顔をした。
「お前の方こそブレードライガーが傷だらけだぞ」
『ジェノブレイカーもな』
 ふっといつものように笑う事が出来た。
「お前を倒すのは俺だ。こんな奴等にやられるなんて許さない」
『分かっている。俺たちの決着はまだ着いていない』
 それは俺たちの喧嘩の続きをしようと言っているみたいに聞こえた。
「俺は俺たちの決着の邪魔をした奴を倒しに行く」
『そうか……分かった』
 お互いに勝率の悪い戦いだと分かっていてもそうしないと気がすまない。
『俺もきっと追いつくから……』
「アテになどしていない。でも……必ず来い!」
『ああ、そしてきっと決着をつけようぜ!』
 俺はバンの声を聞きながらその戦場を背にした。バンの仲間ならここで生き延びろとか言うのかもしれない。でもそんな言葉はいらない。
 昔出会った軍人は命と引き換えにしても良いと思っていたかもしれない。でもバンは似ているけど違う。残される者の痛みを知っているかのように、どんな状況にあっても生き延びようとする、そして生き延びてきた。
 後ろ髪を引かれる思いを無視して通信スイッチをオフにする。もうバンには自分の声も映像も届かない。そしてバンの声も聞こえない。
「バン……」
 呟いた声と共に頬をすべり落ちた涙。
 それは溢れ出る夢のしずく。











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