夢を見た。
それは、幻。それは、仮想。夢幻の中でのみ起こりうる、淡い空想。
叶ってはいけない夢、現実になってはいけない夢想。
それは夢、一夜だけの幻。
目を覚ます。
悪夢のような心地いい夢から身を翻す。
目の前に、見慣れた光景が広がるのを確認し、シオンはため息をついた。
しかし、そのような夢が己の中に巣くうことに、目をそらせるはずもなかった。
「ああ」
シオンがいつもの通り、皇太子の執務室に現れると、そこにはすでにセイリオスがいて、午前中のまだ早い時間だというのに執務用の衣装をきっちり着込み、机の前に立っていた。
「早いな。今日は、まだ誰も来ていない」
「お前こそ」
シオンは笑うと、セイリオスは肩をすくめて照れ笑いを浮かべる。
「……目が、覚めてしまったんだ」
今日の目覚めが早かったのは、シオンも同じだった。夢を見た。そのあまりの強さに驚き、まだ薄暗いうちから寝台の上に座っていた。その夢の残り香を失いたくなくて、日が昇りきるまで、そうしていた。
「何か、夢でも見た?」
からかい口調でそう言った。
「いい夢?」
「……」
セイリオスは黙って、シオンを見た。そして、薄く微笑む。
「お前こそ」
「俺は」
話すわけにいかない夢のことを思いだし、それを目の前の影と重ねる。そして、慌てて首を振った。
「別に、話すほどのことじゃない」
「私もだ」
二人は目を見合わせて、笑った。言えない言葉がある。言ってはいけない言葉がある。シオンは、それをそっと胸の内に押し隠した。
何度も夢を見た。願望が強くなるたびに、その思いが押さえきれなくなるたびに。シオンの夢には彼が現れて、彼が望む言葉を口にした。シオンが願うことをやってみせた。そして、それらが彼にはあまりにも似付かわしくなく、それでいてひどく扇情的なのに、汗をかいた。目覚めれば、夜着の背中はしっとりと汗ばんでいた。
視線をそらし、見慣れた執務室を見回した。見知ったそれらの光景が、シオンを安堵させた。
セイリオスは、どのような夢を見たというのだろうか。 |