朝の日課
『・・ガチャリ』
何度も何度も行ってきたいつもの仕事。
Piaキャロット二号店の朝は、いつも祐介が鍵を開けるこの音から始まる。
店内、従業員控え室の室内灯のスイッチを入れ、椅子に座る。
粗方の仕事は昨日のうちに双葉マネージャーが終わらせてしまっているので
これといって仕事らしい仕事はない。「仕事らしくない仕事」がただ一つあるだけだ。
『・・・・あとちょっと・・』
電話に向かって呟く。
この時間にかかってくる電話を受けることが、祐介の朝の日課なのである。
多少手持ちぶさたな時間が出来てしまったので控え室を見回してみる。
あともうちょっと時間が経つとここに他の従業員が入ってきて騒がしくなるのだが、
この時間帯はまだ祐介一人の部屋である。
祐介に次いで来るのは大抵の場合双葉マネージャー。
そうそう、このところ前田耕治も早く来ることが多い。
正規の社員となってからは一段と気合いが入ったようだ。
高校卒業と共に結婚、その時点で二歳の娘まで出来てしまったわけだから
働きまくるよりしょうがないだろう。
バイトに来た時点の彼からは予想も付かないほど、今の彼はしっかりしている。
夏休みのバイトが彼をそこまで変えたのか、それ以外に何かがあったのか。
ふとその考えの視点を自分に向けてみる。
やっぱり俺はあの夏休みで変わったのかな?
俺自身は何がどう変わったのかはさっぱり分からないけれど、
良く留美やら大介やらがそう言ってくるのだからそうなのだろう。
トゥルルルルルルルッ・・・・トゥルルルルルルルッ・・
どうでも良いようなことに思いを巡らせているうちに
業務用電話特有の控えめな呼び出し音が部屋の中に響く。
かちゃ
『はい、Piaキャロット二号店です。』
『おはようございます、こちらPiaキャロット一号店です』
電話の向こうから元気の良い女性の声が響いてくる。
いつも聞き慣れているはずなのになぜかいつも新鮮に聞こえる声。
今日の朝、家を出る前にも彼女の声を聞いているはずなのに。
自然と祐介の顔に笑いが浮かんでくる。
『今日も一日頑張ろうな、さとみ』
『うん、祐介もね。でも、あんまり無理しちゃダメよ』
『今日はなるべく早く帰れるようにするからさ』
『じゃあ、夕食に祐介の食べたいもの作ってあげる。何食べたい?』
『おいおい、そんなに時間あるのか?さとみだって忙しいだろ?』
『大丈夫大丈夫、昔の私だったら一つの料理作るのに凄く時間かかっちゃってたけどね。
ね、何食べたい?』
『そうだなぁ・・・・あ、そうだ、久しぶりにあれ食べたいな・・・・』
『何?』
『あ、そうそう、チキンドリア。昔作ってくれただろ?』
『チキンドリア?私そんなの作ったことあった?』
『あれ?覚えてないか?』
『最近のことじゃないわよね・・』
『結婚前だよ。あの夏休みに作ってくれたろ?ちょっと味の薄いチキンドリア』
『あ〜、うん、作った作った!・・でも、なんで「味の薄かった」ことまでいうわけ?
どうも一言多いのよねぇ、祐介って。
そんなデリカシー無いこと言ってると女の子に嫌われちゃうわよ』
『だんだんさとみに似てきたのさ』
『もう、すぐそういうこと言うんだから。』
『ははっ、ゴメン』
『じゃあチキンドリアね。美味しいのつくるから楽しみにしてて』
『今度はちゃんと味見してくれよな。』
『意地悪!もぉ、ちゃんと帰る前に電話してくれないと先に食べちゃうから♪』
『あはは、じゃ、またな、さとみ。』
『うん、バイバイ、祐介。』
・・・かちゃ
受話器を置いたそのままの姿勢で祐介は心の中で
先ほどまでの電話の相手に向けて呟く
『・・・愛してるよ、さとみ』
とてもじゃないけど恥ずかしくて電話口では言えない言葉。
普段の生活でだってちゃんと言った事なんて数えるぐらいしかない。
でも、毎日、毎朝、こうして呟いている。
口にださなきゃ、行動に出なきゃ伝わらない想いがあることは十分知っている。
でも、敢えて口に出さなくても伝わる想いがあることもあの時に知った。
確かにあの夏休みがなかったらこんなこと、分からなかっただろう。
やっぱり俺はあの時、少し変われたのかも知れないな。
そんな思いを巡らせつつ、目を瞑り、深く息を吸う。
この朝の電話のあとはどうしても表情に出てしまうからだ。
二度目の息を吸う。ゆっくり目を開けると・・
『店長、どうしたんですかぁ?顔がにやけてますよ?』
『ま・・、前田君!ど、どうしたんだい?今日はやけに早いじゃないか?』
『いや、ちょっと片づけておきたいことがあったものですから。
五分ほど前からお邪魔させていただいてましたが。』
『ご、五分前から??』
時間的にさっきの電話と完全に重なっている。
まさか人が入ってきたのに気づかないほど電話に夢中になってしまうとは・・
気恥ずかしさから顔が瞬間的に熱くなる。
『あぁ、そのぉ、なんというか・・前田君。このことは・・』
『大丈夫ですよ、男同士の秘密にしておきましょう。』
『よ、宜しく頼むよ。』
『まかせて下さいって。数少ない男どうしですからね。
しっかりと約束は守ります。』
『頼むよ、前田君』
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次の日の朝、なぜかPiaキャロット関係者のほとんどが
にやけた顔の店長を見るために早朝から出勤していたという。
男同士の秘密なんてこんなもんか・・・
〜おしまい〜
お風呂の中で思いついたの。
フォローストーリーじゃなくて
ショートストーリーになっちゃった(^^;;
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