いつまでトモダチ?
この状況の二人は、周囲の人の目にどのように映るのだろうか?
単調な揺れを繰り返す夕暮れの電車の中、一人の女性が俺の肩に頭を預けて眠っている。
俺はその女性を良く知っているし、この様な状況下にあっても
これと言って起こす理由もないので寝かしたままにしている。
ついさっきまで元気に話していた彼女は完全に熟睡してしまったようだ。
正直なところ俺自身も非常に眠い。どうにかして眠気をとばそうとするのだが
身動きの制限されるこの状況下では大した打開策もできない。
とりあえず、今自分にとって問題となるような事を考えて眠気をとばそうとする。
眠気が意識の半分以上を占めている今の頭では考えがまとまりそうもない。
大体、眠くないときに考えても解決するような問題ではないのだ。
視界を防ごうとする瞼の動きをどうにかして押さえつつ、電車が目的地に着くのを待つ。
はやく、はやく着いてくれ。とにかく眠いんだ。
ここで・・寝てしまったら乗り越・してしま・・う・・・・・だ・・め・・・だ。
電車がゆっくりと加速を始めたのを感じた。
肩に乗った重みを忘れて思わず体を大きく動かす。
視界の縁に入った駅の名前は目的の駅の一つ前だったので
ほっと胸をなで下ろした。
・・・が、肩に乗っていた頭は重力の導くまま、
俺の腿(もも)の上にまで移動していた。
『あいっ・・たぁ・・・・』
『あ、悪い。乗り越したかと焦っちまって』
『え?乗り越しちゃったの?』
『いや、大丈夫だったよ。
でも、もう次の駅だからさとみもちゃんと起きてろよな。』
『うん。・・ゴメンね、また私だけ寝ちゃって』
起きがけのとろんとした目のままで謝るさとみの顔を見て
変に意識してしまった俺はちょっとそっぽを向いてしまった。
『別に気にして無いって。眠いときはねむっちまうのが一番だからな。』
『ちゃんと夜は寝てるのに・・なんでこんなに眠くなっちゃうんだろう?』
『電車の中って単調な音しかないから眠くなるらしいよ』
『へぇ、そうなんだ・・・』
感心したような返事をして、一呼吸おいてからさとみはまた俺の肩に頭を預けた。
『でもね・・祐介と電車に乗ったときが一番眠くなるかな。』
『・・・なんだよそれ?』
『・・・一番・・安心出来るってこと』
・・・周囲から見たら俺達二人はどういう風に見えるんだろうか。
自分で言うのは変だけど、やっぱり恋人同士に見えるだろうな。
でも、少なくとも俺達二人はそうは思っていない。
もっと正確にいえば思わないようにしている。
俺達はあくまで仲のいいトモダチなのだ。
たとえ周囲からどのように思われていたとしたとしても。
でも、俺達はいつまでもトモダチでなくてはいけないのだろうか。
ここの所このことばっかり考えている。
俺がさとみとトモダチでいることを不文律で決めたのはあの夏の日からだ。
瞬時に思考が夏休み最後の日に飛ぶ。
『あ〜、さとみお姉さんずるい!!』
『ふふっ、今日だけは特別よ』
一年前のあの日。夏休み最後の思い出。
翔子ちゃん、さとみと俺の3人で行った遊園地。
俺は夏休み中に誰に対しても自分の気持ちを伝えることは出来なかったけど、
二人は今までと変わらず俺の近くにいてくれた。
あの夏休みは間違いなく今までとはちょっと違う思い出を俺にくれたけど、
それは別にあの夏休み中に何かの答えを出さなくてはいけない、
ということではなかったのだ。俺はそう信じている。
その証拠に今までと変わらず俺の周りの空気は流れている。
ほんの少しだけ環境が変わったことと言えば、
俺とさとみが大学に進学したことだ。
親父としてはすぐさま店の方に来て欲しかったみたいだが、
俺の決めたことに大した反対もしなかった。もともと子供の意見を最優先させる人だ。
裏を返せば俺のことを信用してくれてると言うことなのかな。
俺としてはその親父の信用に一方的に頼るわけにもいかないので
大学にいっている以外の空き時間はすべて店の方に割くようにしている。
なんでも近いうちにPiaキャロット二号店を作る計画があるとかで
事務的な処理が山のようにあり、これを片づけるのが当面の俺の仕事だ。
もちろん、ウェイター、キャッシャー、倉庫整理となんでもござれの状態だが。
ほんの少しだが、親父が家で見せていた疲れの表情の意味が分かった、・・かな。
そうそう、大学はさとみといっしょだ。
もともと卒業さえ危ういと思われていた俺がさとみと同じ大学に入れたのは
なにも俺が死ぬほどの勉強をしたから、と言うわけではない。
さとみが『たまたま』俺と同じ大学を目指していたからだ。
頭脳明晰のさとみの頭だったらもっといいところにもいけたんだろうけど、
本人曰く『近場が一番環境がよかったのよ』だそうだ。
実は、同じ大学を目指していることを知ったのは願書提出の日だった。
その時、俺がこのことをさとみに言ったら彼女は悪戯っぽい笑いをしながら
『ここまで来ると「腐れ縁」とだけは言い切れないわね』
と言ったっけ。
あの時、本当は言いたかった言葉があった。
『「腐れ縁」なんかで片づけないでくれよな。』
たったこれだけのことが言えなかったんだろう。
・・・・・・そこまで考えてふと、気づく。
今の俺だって、ちょっとした言葉を言えないでいるじゃないか。
大学では周囲の誰もが俺とさとみがつきあっていると思っている。
多分、俺達自身も心のどこかではそう想いあっているはずだ。
少なくとも俺はさとみを世界で一番大切に想っている。
でもそれを口に出せないでいる。
きっと、俺とさとみと翔子ちゃんの3人の関係を崩すのが恐いんだ。
今まで問題なく、仲良くつき合っていられた俺達3人。
俺とさとみがつき合うという事を知ったら翔子ちゃんはどうなるんだろう。
まるで大学に行った俺達二人が翔子ちゃんを置き去りにしたみたいじゃないか。
こんな疑問が俺の小心さをごまかすための言い訳だったとしても
これがまったく問題ではないと言うことは出来ないのだ。
ききぃ〜ききぃ〜〜
甲高い音。続いてさとみが俺を呼ぶ声がする。
『祐介、祐介、着いたわよ。』
『・・・ん?あれ?俺・・寝てたのか?』
『もぉ、人には「寝るな」とか言ってたくせに。
ぐーぐー寝ちゃうんだもの。』
『悪りぃ悪ぃ、まさか俺も寝ちゃうとは思わなかった』
『起こしてあげたんだから、恩に着なさいよ、ふふふ』
『はいはい、恩に着ます。ありがとう御座います、森原さとみ様』
『ふふっ』
口元を押さえながら小さく笑うさとみ。
その横顔を見つめながら俺はまた自分の気持ちを確認する。
・・・・・俺は・・・やっぱり・・さとみが好きだ。
翔子ちゃんと比べて、なんて言い方はおかしいけれど
さとみが世界で一番好きだ。この気持ちに間違いはない。
もう一度だけ、伝えてみよう。
さとみに、いまの俺のこの気持ちを。
高校の時に告白した、あの時の気持ちとはほんの少しだけ違う今の気持ち。
・・・・・・・
駅から公園までの帰り道。
夕刻の太陽は二人の影を長くする。
『これからお仕事だもんね、がんばってね、祐介。』
『・・・・・・』
さとみが話しかけてもなにも答えられない。
もしここで何かをいってしまったらいつも通りの俺達になってしまいそうで。
『どうしたの?ねぇ、祐介?』
『なぁ、さとみ・・』
俺は公園の中程にある噴水で立ち止まった。
赤い太陽に照らされたさとみの顔がいつもよりずっと大人っぽく見える。
俺はその顔をみつめながらさとみの反応を待った。
『ん??』
『俺、さとみに言いたいことがあるんだ』
さとみの顔を見つめ、言葉を続ける。
『なによ、急に改まって』
照れたように笑うさとみ。
『俺は、やっぱりお前が好きだ。』
『えっ・・・!?』
驚きからさとみの目が大きくなる。
その顔を見つめたまま俺は想いを続ける。
『俺、ずっと恐がっていたんだ。
俺と、さとみと、翔子ちゃんの関係が壊れるのが。
・・・だから、どうしても言い出せなかった。
でも、自分の気持ちをどうしても隠せなかった。』
『祐介・・・』
『さとみは、俺のことどう思ってる?』
『・・・・・・』
『高校の時と変わらないか?』
『・・・・』
何とも言えない沈黙が二人を包む。
さとみはうつむいたままだ。
俺は・・またもはやまってしまったのかな?
黙ったままのさとみを見ているのがつらくなってしまった俺は
どうにかこの場を取り繕う言葉を探し始めた。
『さと・・』
『・・・・・・・祐介が・・好き』
『え?』
『私も・・祐介が好き。』
『さ・・とみ?』
『私も・・恐かったの。だから、言えなかった。』
さっきまで地面を見つめていた目は俺の顔をじっと見つめていた。
ただ、その目にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
『祐介の近くにいつもいられて・・嬉しくて・・
何も特別なこと言わなくても・・いいかなって、思って。』
『さとみ・・』
俺は良い言葉が浮かばなくて、でも何もしないではいられなくて
さとみを優しく抱きしめた。
『でも・・やっぱりはっきりしなきゃ・・ダメよね。
それは分かってたの。でも、やっぱり3人の関係が壊れるのが恐くて・・』
今度は俺が沈黙してしまう番だった。
今の俺にはただただ彼女を抱きしめることしかできなかった。
しばらくの沈黙。先に口を開いたのはさとみだった。
『翔子には私から言うね。』
『いや、俺から・・』
胸に顔を埋めていたさとみが顔を上げてその言葉を制する。
『ううん、私から言う。私がいわなきゃいけないの。
いままで自分の心を隠し続けたのは私なんだもの。』
俺は状況も考えず、じっと見つめるその瞳に見入ってしまった。
『今日、翔子のバイト入ってたわよね。』
『あ?・・あぁ。入ってるはずだ。』
『じゃあ、今日言うね、翔子に。
はやく言わないといけない様な気がするの。』
『そっか・・』
『うん、休憩に入る5時半ぐらいに行くから。』
『わかった。それとなく伝えておけば良いか?』
『・・お願い。』
公園でさとみで別れて俺はキャロットへ向かう。
この先どうなるのか。俺には予想も付かない。
でも、だれも傷つかないで済むような、そんな都合のいいことは無い。
それだけは確かだ。
確かなことはそれだけしかないように思えた。
〜続く〜
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