ゴムの髪留め

楽しそうにしているお兄ちゃんの顔を見るのは大好き。 大好きなはずなのに、なんで今はこんなにつらいんだろう? お兄ちゃんが楽しそうに電話口で話している。 受話器の向こう側にはずっとお兄ちゃんが想い続けていた女の人がいる。 大好きな留美のお兄ちゃんが大好きなさとみお姉ちゃん。 夏休みが終わってからつき合い始めたんだよね。 でもね、留美はさとみお姉ちゃんが知らないお兄ちゃんの顔を知ってるんだ。 こんな事言ってても何の意味もないことはわかってるんだ。 ・・・・こんな事ぐらいでしかもう勝てないのかな、留美。 『どうした、留美?じっと見て』 受話器を押さえて振り向く祐介。 その祐介の顔が今までにみたことのない様な笑顔に見えて、 何となく悔しくて、何となく悲しくて、 思わず留美の口からは怒ったような声が出てしまった。 『別にっ・・何でもないもん!』 あの顔は留美の知らないお兄ちゃんの顔だ。 さとみお姉ちゃんのためだけに向けられたお兄ちゃんの顔。 もう、留美だけのお兄ちゃんじゃないんだ。 『お、おい、留美?』 止めようとする祐介の声を振り切って自分の部屋へと帰っていく。 本当は「えへへ・・」とか言ってお茶を濁してしまえばよかったのだけど そんな気持ちじゃなかったから、部屋へと走るように帰った。 どさっ・・・ 顔を枕に強く押しつける。別に泣いているわけではない。 ただ、ついさっき自分がとってしまった行動を思い出すのが恥ずかしくて なにも考えないようにしている。 しかし、考えないようにしようとすればするほど考えてしまうものだ。 多くの人がそうであるように、留美の頭の中にも いろんな思いがまるで渦を巻くように取り留めもなく浮かび続けていた。 『・・・何やってるんだろう、私・・』 小さく呟いて、今まで以上に深く枕に頭を押しつける。 ・・・数分経ったか、数十分経ったのか、冷静な考えが頭に浮かび始める。 しばらく薄暗い部屋でじっとしていたせいで落ちついてきたようだ。 ベッドの上に腰掛けて枕を抱きしめたまま、 頭上で淡く光る茶色のライトを見上げる。 私はお兄ちゃんのことをどう思ってるんだろう? ・・・多分、『好き』。 きっと、多分じゃなくて。 でも、その気持ちはさとみお姉ちゃんがお兄ちゃんを想う気持ちと同じなのかな。 比べてみることが出来るわけじゃないからわからないけど・・違うと思う。 多分、『恋』とかとは違う想い。でも、『好き』なのはホント。 子供の頃から朝起きるとすぐ側にいる人だったから その人に対する想いなんてうまく言葉に出来ない。 お兄ちゃんがかっこいいってこと、ずっと昔から知ってた。 「祐介先輩が好き」って留美に言ってきた人はいっぱいいた。 うまくお兄ちゃんに伝えて欲しいって何人にも頼まれたけど そんなときはいつも話をどうにかしてうまく断ってた。 でも、私はお兄ちゃんが誰か彼女を見つけるまでは 誰ともつき合わないんだって決めてたんだ。 やっぱり変だよね。なにか矛盾してる。 勝手に私が決めたことだし、お兄ちゃんは関係ないのに。 やっぱりお兄ちゃんを独占したかったのかな。 留美だけのものにしたかったのかな。 留美の方を向いてもらうために努力はしてたけど、ね。 本人が気づかないんじゃしょうがないよね。 こん・・・こんこん 『おい、留美。留美?』 すぐに言葉を返したかった。けど、 ついさっき自分がとった行動のばつの悪さが先に立って、 言葉を出すのをためらってしまう。 ・・こんこんこん 『留美?寝ちまったのか?』 『・・・まだ寝てないよ。お兄ちゃん。』 ドアを閉めたままの兄妹の会話。 騒々しいことで有名なこの二人の間では滅多にない事だ。 『そのぉ、さっきは、なんだ、何というか・・ 気に障るようなことしちゃったみたいだな、俺。』 『ううん、違うよ。留美が勝手に勘違いして怒っただけだよ。 えへへ、ゴメンね。お兄ちゃん。』 『そっか・・それなら良いんだけどな。』 『うん、ゴメンね。お兄ちゃん。』 思ったよりも素直に言葉が出てくる。不思議な感じ。 本当に言いたいことは言えないけど。でもそれでいいと思う。 ベッドから静かに腰を上げてドアの方に近づく。 顔を会わせない今だったら、きっといつもよりずっと素直になれる。 ドアの向こう側の祐介も同じ事を考えていたようだった。 『考えてみれば、いっつも留美には頼ってばっかりだよな。』 『え?』 『俺は兄貴らしいことなんて何もしてないのにな。 留美の方がずっとしっかりしてるよ。』 『?』 『ほら、研修旅行でさ、俺に言っただろ?覚えてないか?』 『あ・・・』 『あの時、留美が「はっきり決めなきゃ」って言ってくれたから、 もし、あの時お前がああ言ってくれなかったら、 俺は今頃とんでもない後悔をしてただろうな。感謝してるよ、ホント。』 『お兄ちゃん・・・』 『ダメな兄貴だけどさ、これからもよろしく頼む。な、留美。』 『急に改まっちゃって。変なの。えへへっ♪』 口ではそう言っているけど、本当はとっても嬉しい。 留美はお兄ちゃんの恋人にはなれないけど、 お兄ちゃんの妹であることは出来るんだ。 できたら恋人になりたいけど、ね。 お兄ちゃんをさとみお姉ちゃんにけしかけたのは私なんだったっけ。 ・・・・すっかり忘れてたな。 考えてみれば、さとみお姉ちゃんとお兄ちゃん、お似合いだよね。 留美はその横で応援してるのが似合ってるかな。 でも、ほんの少しだけ、ちょっとだけ お兄ちゃんの気を惹くこと、しても良いよね。 さとみお姉ちゃんがやきもちを焼かない程度で。 急いで部屋の明かりをつけて鏡の前に行く。 『じゃ、俺は居間に戻ってるから。』 『あ、お兄ちゃん。ちょっと待ってて。 留美ね、お兄ちゃんにちょっと見て欲しいものがあるんだ。』 ドアの向こうの祐介に言葉を向けながら、髪を結んだ左右の水玉のリボンを外す。 もとはと言えば祐介が好きだったアイドルを真似たものだったんだけど。 ちゃんとリボンの意味に気づいててくれたのかな、お兄ちゃん。 そんな想いを馳せながら、鏡台の中からゴムの髪留めを取り出す。 さとみお姉ちゃんのお下がりのオレンジ色の髪留め。 ブラシもかけずに今まで左右に分けていた髪の毛を後ろで一つに束ねる。 束ねる位置は両耳よりちょっと上。少し中心より右寄り。 知ってるんだ。お兄ちゃんがこの髪型に弱いこと。 さとみお姉ちゃんの真似になっちゃうけど、それでも良いんだ。 留美は一番お兄ちゃんが好きなんだもの。 お兄ちゃんが一番好きな髪型にするの。 がちゃっ 外にいる祐介に当たってしまうぐらい勢いよくドアを開く。 いつも通りの、私の一番の笑顔で。 『お兄ちゃん!どうかな?この髪型?』 〜おしまい〜

よろしければ感想を送って下さいね

1999gygy@mail.goo.ne.jp


『あなかま』に戻る
『全日本Piaキャロット教』ホームに戻る
『愛のフォローストーリー集』に戻る

このページは GeoCitiesです 無料ホームページをどうぞ