−prologue−
病院は、嫌い。
消毒液の匂いが嫌い。
笑いながらお注射をしてくる男の先生が嫌い。
苦いお薬が嫌い。
甘いお薬は好きなのに。
いつも笑っている看護婦のお姉さんが好き。
赤い髪のお姉さんはいつも僕に飴をくれる。
だから好き。
青い髪のお姉さんはいつも僕に絵本を読んでくれる。
だから好き。
いつも笑っているママがとても悲しそうな顔をする。
だから、僕は病院が嫌い。
いつも悲しい顔をしているおばさんがいて、
ママはその人と会うと、とっても悲しい顔をする。
ママを悲しませる、おばさんが嫌い。
おばさんはいつもひとり。
いつもあの白い部屋にひとり。
ひとりきりなのに、いつも誰かと話している。
ママとおばちゃんが話している間、
僕は何もする事がない。
早く家に帰って遊びたいのに。
だから、あのおばちゃんが嫌い。
『ねぇ、ママ』
『なぁに?悟(さとる)』
『僕、あのおばちゃん、嫌い』
『そんなことを言う子は悪い子だぞ』
『・・うぅ・・ごめんなさい・・・』
『あの人はね、とっても優しい人なの』
『・・・』
『ママはあの人のようになれなかったの。
とっても優しい人なの・・・』
『・・・』
『だからね、悟。あの人を嫌いにならないで』
『・・・うん、分かった。』
『よし、良い子良い子♪』
ママが僕の頭をなでてくれた。
僕は少しだけ嬉しくなった。
振り向くと、あのおばちゃんが僕を見ていた。
泣きそうな、とっても悲しそうな顔で。
僕は手を振ってみた。
おばちゃんはとても嬉しそうに手を振り返してくれた。
ずっとずっと、手を振っていた。