第二章『幼なじみの祝福』


祐介:・・・あ・・・しまった。
さとみ:あっきれたぁ、ほんとに忘れてたの?祐介。
祐介:ほんとに・・・申し訳ない。

12月25日、Piaキャロットで一番始めの会話はこんな調子だった。
いきなり怒られて、いきなり謝罪。
昨日の今日でこれって言うのはあまりに落差がありすぎだよな。

翔子:さとみお姉さん、もういいですよぉ。
   翔子は全然怒ってませんし、先輩だって用事があったから
   これなかったわけですし。ね、先輩?
さとみ:翔子はだまってて。こう言うときははっきりいわなきゃダメなの。
    だいたいねぇ、祐介はそういう配慮のなさが問題なのよ。
祐介:わかったって、ほんとに悪いと思ってるからさ、
   許してくれよ。償いはするからさ。
さとみ:償いって言ったって、翔子の誕生日はこの先丸一年無いんだからね!
祐介:いや、そういう事じゃなくて。
   ・・いや、それはそうなんだけど

昨日、12月24日はクリスマスイブ。
清美姉さんと俺との関係を親父と留美に話した、とても大事な日。
でも、もう一つ、俺が決して忘れてはならない日でもあった。
昨日は翔子ちゃんの誕生日で、
俺は誕生パーティーに誘われていたんだった。
もとはといえば我が家でのパーティーを途中で抜け出して
翔子ちゃんの家に行き、合流するはずだったんだけど・・・。
自分の事ばっかり考えていて、すっかり記憶から抜け落ちていた。
おかげでさとみは朝から怒りっぱなし。
翔子ちゃんは怒るさとみをおどおどした表情のままなだめるばかり。
俺は・・・どういう表情をすればいいのやら。

さとみ:ふぅ、ま、いいわ。当の翔子からお許しが出ているわけだから。
    でも、それ相応の償いはしてもらわないと。ね、翔子?
祐介:翔子ちゃん、本当にゴメン。
   出来る範囲の事だったら何だってするからさ。
翔子:翔子は怒ってないですけど・・・。
   でも、先輩がそう言って下さるなら、一つお願いがあります。
祐介:何かな?
翔子:今晩、お時間をいただけますか?
   翔子のために時間をあけてもらえますか?
   翔子、先輩にどうしてもお聞きしたいことがあるんです。
   お願いします。先輩の夜を翔子に下さい!

何も知らない人が聞いていたら、
とんでもない思い違いを起こしてしまいそうな
翔子ちゃんのお願い。
無論、俺やさとみは翔子ちゃんの言葉が
彼女の素直な心から出たものだと分かっている。
そして、俺には彼女の申し出を理由はなく、
ついでにいえば・・・断れるような資格もない。

祐介:もちろん。それぐらいの事だったら、喜んで。
翔子:ほ、本当ですか?
祐介:良く考えてごらんよ。
   俺が翔子ちゃんにうそを付いたことが今までにあった?
翔子:いえ!一度もありません!!
さとみ:・・・こらこら翔子(汗)
    昨日こいつに嘘つかれたばっかりじゃないの。

3人で盛り上がっていると、
おどおどした一人の女性の声が割って入った。

ゆかりの声:すっすいません・・・、どなたか手の空いてる方・・・。
      キャ・・キャッシャーをお願いします・・。
      わ、わたし・・ディッシュしかやったことが無いものですから・・。

祐介:あ、いけね。今、俺が入るよ。
翔子:せぇんぱい、いいですよぉ。翔子がいきますから。
   じゃ、先輩。お仕事が終わった後、待ってますからね!

スキップ混じりで店内に戻る翔子ちゃん。
どうやらもう許してくれたみたいだな。
・・・というか、怒っていたのはさとみ一人だったような気もする。

そんなことを考えていると、さとみが俺の脇を軽く肘でつついた。
さとみが俺に謝るときに必ずやるしぐさだ。

さとみ:・・・ごめん。一人で怒っちゃって。
    翔子が怒ってないならそれでいいのにね。
祐介:な、なんだよ、さとみ。いきなり謝ったりして。
   まぁどう転がっても悪いのは確実に俺なんだからさ。
   さとみだけでもちゃんと俺のことを叱ってくれないと、
   俺が無罪放免になっちまうぞ。
さとみ:自分の事みたいにムキになっちゃったのはね、
    昨日のパーティーが何となく、寂しかったからなの。
祐介:まさか・・、大介もこなかったのか?
さとみ:ううん、大介君はちゃんと来てくれたよ。
    でも、祐介がいなくて。何となく・・・
    いつものメンバーがそろわなかったのがとても寂しくて。
祐介:そうだよなぁ・・。そういえば小学校の頃から
   ずっとみんなで集まってたもんな。翔子ちゃんの誕生日。
   ・・・・悪かった。
さとみ:そのうち、みんな大人になったら、就職したりしたら
    きっと、こんな風に話せる時間もなくなっちゃうんだろうねって。
    翔子と話してたんだ。『寂しいね』って。
    あ、念のために言っておきますけど
    別に、祐介がいなかったのが寂しかったわけじゃないのよ。
祐介:・・・一言よけいだよ。

でも、確かにそうなんだ。
いつかこういう風には話せなくなるときが来るんだよな。
いっつも一緒だったメンバーが少しずつ離れていく。
考えてみれば・・・寂しいな。
そして、多分、一番始めに距離をとり始めるのは俺になるんだ。
清美姉さんとの結婚を前提にした生活。
Piaキャロットを継ぐことを目的としたバイト。
何となく言い出しにくくて黙っていても
少しずつだけど確実にみんなと俺の歩調がずれていく。

さとみ:どうしたのよ、急に神妙な顔しちゃって?
    ほら、もう次の仕事が山積みよ。
祐介:あ、わりぃ。
さとみ:さてと、今日もあともうちょっと。
    頑張りましょ!
祐介:ああ。

・・・・・・・
午後九時半。閉店作業もほぼ終了。
ふぅ、今日もまぁまずまずの客入りだった。
いつも通り、机から電卓と帳簿を取り出し、
やっぱりいつも通りの足し算と引き算を始める。
膨大な量の計算に始めの内はうんざりしたものだが、
さすがに最近は慣れてきたな。
・・・しかし、高校で習っている微分だの積分だのは
さっぱり今やってる計算に役立って無いぞ・・・。
3年間の勉強って一体何だったんだ?

翔子:せぇんぱい!お仕事まだ終わりませんか?
祐介:あ、ごめん。あともうちょっとかかりそうなんだ。
   よかったら待っててもらえる?
翔子:はい、まってます!
祐介:翔子ちゃん、すっかり言うの忘れちゃってたけど、
   お誕生日おめでとう。
   申し訳ないんだけどまだプレゼントは用意してないんだ。
   もうちょっと待ってもらえるかな。
翔子:先輩の今日の残りの時間を翔子のために使ってくれるのが
   素敵なプレゼントです!翔子、本当に嬉しいんです。
祐介:そんなので良いんだったら良いんだけど(汗)

途中、こんな感じの話を何度か交えながら計算を済ませてしまう。
昔は話をしながら計算をするなんてとても出来なかったけど
今は売り上げの他、配達された品物の伝票まで
まとめられるようになってしまった。
これが俺の実力か?
・・・残念ながら実力というよりは『慣れ』だ。

翔子:さとみお姉さん、昨日『みんなに食べてもらうんだ』って
   いっぱい料理作ってくれたんです。
   本当は一番先輩に食べてもらいたかったんだと思います。
   だから、さとみお姉さんあんなに先輩にいろいろ言ったんだと思います。
   先輩、さとみお姉さんのこと嫌いにならないで下さいね。
祐介:・・・嫌いになんてなるはず無いじゃないか。
   俺が嫌われるんだったらまだ可能性はあるけどさ。

・・・そっか。さとみの料理、喰いたかったな。
最近上手になったって話だし。

祐介:よしっ!終わり!あとは二日酔いのオーナーに任せちゃおう。
   着替えて来ちゃうからまっててね、翔子ちゃん。
翔子:はいっ!!

着替えを急いで終え、店の外に。
翔子ちゃんと店の前で無事合流して
いつも通り駅前に移動・・したんだけど。

祐介:・・・あれ?カラオケじゃないの?
翔子:は、はい。あ、あのぉ〜・・えっとぉ〜・・。
   あ、そうだ、あのお店にしませんか?
祐介:しょ、翔子ちゃん。あれはお酒の出るお店。
   多分、高校生は入っちゃいけないんだ。
翔子:そうなんですか・・。綺麗なお店なのに・・しょぼん
祐介:翔子ちゃん、俺に聞きたいことがあるって言ってたよね。
   じゃあ、どこか静かなところにいこうか。
   俺の知ってる店につれてってあげるよ。
翔子:はっ、はい!翔子うれしい!先輩がエスコートしてくれるんですね!

俺達が入った店は、外見はいたって普通の喫茶店。
ただ、インテリアがみんな西洋の骨董めいたもので埋め尽くされていて
意外に俺の周囲では人気がある。
とはいえ、実は俺自身、入るのは初めてだったりして。
お店に入ってしばらくは翔子ちゃんも
この店独特の雰囲気を堪能していたようだが、
その内落ちついたらしく、注文した紅茶を一口飲んでから
口を開いた。

翔子:先輩。
祐介:何?
翔子:翔子は先輩のことが大好きです。
   昔から、ずぅっとずぅっと先輩のことが大好きです。

この子は自分の気持ちを包み隠さず言うことが出来る
本当に珍しい子だ。普通だったらこんな言葉を聞いたら
平静ではいられなくなってしまうだろうが
翔子ちゃんの言葉はいつだって正面から受けとめることが出来る。

翔子:先輩、本当のことを教えて下さい。
   先輩は誰が好きですか?
祐介:・・・翔子ちゃん?
翔子:翔子、昨日思ったんです。
   『このままみんなばらばらになっちゃうのは嫌』って。
   最近、先輩がどんどんかっこよくなって、
   どんどん、遠くなっちゃうような気がして。
   先輩のこと、みんなのこと、いっぱい知りたいんです。
   そうしないと先輩が、さとみお姉さんが、大介先輩が
   みんな翔子の前からいなくなってしまいそうな気がして。
   翔子、寂しくて・・・。

いつもの翔子ちゃんだったらもう泣いてしまっている。
でも、今日の翔子ちゃんは違っていた。
何か、こう、強い意志で動いている。そんな気がする。
強い心にはそれに相応する思いで、と反射的に俺は思った。

祐介:・・・翔子ちゃん。驚かないで聞いてね。
翔子:はい。
祐介:俺ね。いま、つき合っている人がいるんだ。
   結婚を前提につき合っている。
翔子:えっ??

さすがの翔子ちゃんも言葉に詰まった。
当然と言えば、当然だ。

翔子:ど、どなたとですか?
   翔子やさとみお姉さんの知らない人ですか?
祐介:いや、二人とも良く知っている人だよ。
   北川清美先生。俺の従姉。
   嘘じゃないんだ。嘘みたいに聞こえるかも知れないけど。
   みるくも・・知ってる。
翔子:あ・・・お・・めで・・とう・・ござい・・ます・・。
祐介:今まで何となくみんなに言えなくて、
   黙ってしまっていたんだ。
   俺達の間で隠し事なんて何もするつもりなかったのに。
   ・・ゴメン。

翔子:・・・・ひっ・・ひっく・・
   お。おめでとう・・ございます、せ・・せんぱい。
祐介:・・ありがとう、翔子ちゃん。

翔子:ひっ・・ひっく・・やっぱり・・先輩は遠くに行っちゃうんですね。
   これが大人になるって事なんですか?
   みんな・・・いつか心がバラバラになっちゃうんですか?
祐介:いつになったって、いつだって俺達は大切な友達同士だよ。
   友達でなくなっちゃうわけじゃないんだよ。翔子ちゃん。
   それにまだ俺自身、大人なんていう立場でも年でもないし。
翔子:・・分かってます・・けど、やっぱりその内変わっちゃいます。
   昔みたいには・・もう話せなくなっちゃう時が来るんですよね。

翔子ちゃんと別れ、家路につく。
別れ際に翔子ちゃんはもう一度、
今度は涙の混じらない笑顔で言ってくれた。
『先輩、ご婚約おめでとうございます』って。
ちょっと気が早いような気もするけど、
やっぱり翔子ちゃんが笑顔で言うと本当に嬉しい。

友達以上に大切に思ってきた、そして思われてきた
大切な幼なじみの一人から受け取ったのは
あまりに優しすぎる祝福の言葉と
今までの友情の形が変わってきていることの告知。

俺は、今日まで気づくことの出来なかった大事な事に
今頃気づき、自分の鈍さを再認識していた。

自分の未来自体に不安は無い。
清美姉さんを幸せにする自信がある。
でも、俺は一人で今まで笑って生きてこれたわけじゃないんだ。
・・・・・・・・・・ふと思ったけど。
・・・一介の高校生が気づくようなテーマじゃないよな。
ちょっと自分の人生に不安が・・・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最終章
『婚約パーティー』
につづく。
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