記憶のかけら

遠くから聞こえてくる笛と太鼓の音。 人のざわめきと焦げるソースの匂い。 真っ暗な空と対照的な目に突き刺さるような裸電球の光。 そっか、もう夏祭りの季節か・・・ ・・・・って、ちょっとまて?今は冬じゃなかったか? ついこの前、清美姉さんと一緒にクリスマスイブを過ごしたばっかりだ。 いきなり夏祭りの季節になるわけないじゃないか。 ふむ、ということはコレは夢か。 夢の中で夢だということに気づけるなんて、 俺もずいぶん現実的になったもんだ。 せっかくだ。自分の夢を楽しむことにするか。 ・・・・・・・ 『はい、翔子ちゃん。』 『わぁ、ありがとぉ!』 『うわぁ、いいなぁ・・・わたしも欲しい・・・』 出店に集まる3人の子供。 裸電球の下でしか良いものに見えない雑貨類の並べられた店。 どれもこれも値段は三百円前後という微妙な値段。 大抵、次の日になると『何でこんなもの』と思ってしまうものばっかりなのに、 この奇妙な空間の中では光り輝く素晴らしいものに見えてしまう。 これがお祭りの魔法というヤツだ。 『ねぇ、わたしも欲しい。』 『でも・・・もうお小遣いなくなっちゃうから無理だよ』 そうだ。この頃から俺は常に貧乏だった。 ・・・いや、幼少期の俺を弁護するために言わせてもらうが、 あまり親父が小遣いをくれなかったのだ。 おかげで金のやりくりはうまくなった気がするが。 『何で翔子ちゃんばっかり・・・』 『そんな事言われても・・・』 『うわぁい!ゆびわ、ゆびわ!こんやくゆびわ!!』 せがまれてしまっても困るのだ。 この後、金魚すくい、射的、型抜きというお祭りゴールデンコースが予定されている。 親父にせがんで何とかせしめた千円だけではこれすら危うい。 ただでさえ予定外の翔子ちゃんへのプレゼント(250円)で企画倒れになろうとしている。 ここでもう一つ指輪を買うことになったりしたら大変なことになるのだ。 『祐介くん、わたしのこと嫌いなんだ。だから翔子ちゃんにだけあげるんだ』 『違うよ、そんなことないよ、さとみちゃん』 『わぁい!ゆびわ、ゆびわ!けっこんゆびわ!』 いつの間にか婚約から結婚に話が進展している翔子ちゃんはさておき、 幼少時の俺とさとみの間では火花が散らんばかりの静かな戦いが繰り広げられていた。 一番の解決方法は同じものをさとみにも買ってあげることだった。 しかし、俺にも予定というものがあるのだ。譲れない、譲りたくない。 『ひっ、ひっく、うわぁぁぁん・・・』 ・・・最悪だ。さとみが泣き出してしまった。 それにしても、幼少期の俺はどうやってこの状態を乗り切るのだろう? 今の俺の視点は3人の子供を完全に客観的に見ている。 さっきから見ている限り、あの俺の思考は俺とは独立して動いているようだ。 なんだか興味がわいてきた。言うなればぷちタイムマシン体験だものな。 『さとみちゃん、泣かないでよぉ、ひっ、ひっく、うわぁぁぁん・・・』 ・・・さいあくだ。 思わずひらがなで思ってしまうぐらい。 つられて泣き出しやがった。あのガキ。 ろくな大人にならんぞ、まったく。 『おやおや、ボク、大丈夫かい?その年で三角関係っていうのも大変だねぇ』 見かねた出店のおっさんが声をかけてきた。 店の前で子供に泣かれちゃ商売あがったりである。 子供を泣かせる極悪人と思われたら最後、客足が遠のいてしまう。 声をかけるのも当たり前といえば当たり前といえる。 『ゆびわ、ゆびわぁ!』 『おかね、おかねぇ!』 さとみと幼少期の俺は単語だけでおっさんに状況を伝えようとする。 必要最低限の単語のみを用いるという高度なテクニックだ。 『なるほど、おじさんよぉ〜くわかった。 ボク、いまいくら持ってるんだい?』 ポケットに手を突っ込み、手に着いてきたお金だけをつかんでおっさんに見せる。 急いだこともあって、手の中に握られたのは四百円だった。 『よぉし、じゃあ、おじさんはここから百円だけもらおう。 ほら、そこのお嬢ちゃん、欲しい指輪はどれだい?』 『これぇ、この赤いの・・・』 『よぉし、この赤いのだね、ほら、どうぞ』 『うわぁい!ゆびわだぁ!うわぁい!』 子供っていう生き物はとことん現金なものである。 女っていう生き物はとことん現金な生き物である。 つまり、子供で女となると、とんでもなく現金な生き物だということだ。 さっき泣いたカラスがもう笑っている。おっさんもちょっと苦笑していた。 強い風が吹いた。ふと気づくと、周囲は夏祭りではなくなっていた。 そこは高校の屋上。子供のさとみと俺が二人だけ立っていた。 さすがは夢。急展開である。 『祐介くん、大切にするね、この指輪。』 『うん』 『絶対大切にするから、絶対結婚してね。』 『うん』 一陣の風が吹き、子供の姿だったさとみが高校生になっていた。 忘れもしない、あのときのさとみの姿だ。 『・・・ごめんなさいってことか?』 『・・・・・・・ごめんなさい』 ・・・せっかく夢だって分かってるんだから、 もうちょっと自分に都合のいいように事実をねじ曲げろよな、俺。 まったく、なんて正直な若者なんだ、俺は。 ・・・・・・・・ うっすらと目を開ける。目の前に有るのは白い・・・枕。 自分の部屋だった。やっぱりな、あれは夢だったって訳だ。 俺ってば冷静?クール?現実派?モネ?・・・は違うか。 そんなどうでもいい一人漫才やってる間にどんどん目が冴えてくる。 窓から差し込む光は弱いが、充分朝と言い切れる光だ。起きてしまおう。 あんな夢を見たのはきっと、このところの悩みのせいだ。 俺ひとりだけが幸せになると、今まで一緒だった幼なじみをおいていってしまう。 例え意図したことでなくても、結果的にそうなってしまう。 解決のしようのない悩みだった。きっと時間だけが解決してくれる問題だった。 『お兄ちゃん、起きてるぅ?』 『ん?あぁ、今起きたところだ。』 『ちょっと、入ってもいい?』 『なんだよ、いつもは勝手に入ってくるくせに。』 『あはは、じゃ、入るね♪』 入ってきた留美は珍しくパジャマ姿だった。 大抵俺の部屋に乗り込んでくるときは着替えた後なんだがな。 まぁ、パジャマ姿なんて朝飯の時に毎朝見てるので驚きもしないが。 『えっとね、ついさっき重役会議で決まった事をお知らせしま〜す!』 『重役会議って・・・親父はともかく、お前も重役?』 『えっとぉ、今日のキャロットはお休み!』 『・・・はぁ?この年末に?いきなり?何で?』 『こらこら、下っ端社員は会議の決定に意義を言わな〜い!』 『だって、変だろ?こんな掻き入れ時に休むなんて。』 『いいからいいから、とにかく今日はお休みなの! お兄ちゃんはぼけーっと勉強でもしててね♪』 ぼけーっと勉強って・・・我が妹ながらすごいボキャブラリーだ。 そんなこんなで突然降ってわいた年末の休日。 ぼけーっと勉強するのも良いだろうが、 せっかくだ、清美姉さんとどこかに出かけるか。 まぁ、どこかに出かけられなくても、二人でいられるならそれでいい。 いろいろ悩みはつきないが、二人でいられるときは そんなことを忘れていたいからな。 ・・・・・ 『・・・なんでせっかくの休みだって言うのに勉強?しかも俺の部屋?』 『うだうだ言わないでしっかりやりなさい! 前にも言ったでしょ?今のままじゃ卒業も危ういの!』 『うぅ、鬼ぃ・・・』 『終わったらご褒美あげるから、ね。』 『・・・子供じゃないんだから・・・』 結局、叶えられた俺の夢は『二人でいられるならばそれでいい』の 部分だけらしかった。将来を誓った若い二人が狭い部屋に ふたりっきりだというのにいったい何なんだ、この状況は・・・ せめて、ご褒美に凄いものでも請求してやろう。 凄いもの、凄いもの・・・・。 『こらっ!祐介ちゃん、変な事考えてるでしょ?』 見抜かれた。 『だいたい、何で俺の部屋なのさ。 わざわざ清美姉さんの部屋にまで出かけたのに。』 『あ、えっとぉ、それは・・・』 『ま、まさか清美姉さん、俺というものがありながら、 他の男を部屋にあげていたのではっ? それでやむなく俺を連れだして・・・』 ごつっっ 『違いますっ、叩くわよ!』 『・・・』 今の一連の流れにいろいろと不満な点もあったが、 とりあえず黙っておくことにした。もちろん、自分の命を守るためだ。 さっきのが叩いていない部類にはいるのだとしたら、 清美姉さんの言う所の『叩く』がどの程度のものか計りかねる。 『最近、部屋のお掃除を全然してなくて、ひどい状態で、 雑誌とか学校の書類とかいろいろ散らかってて・・』 『へぇ、きれい好きな清美姉さんが?珍しいね』 『だからあんまり祐介ちゃんに見せたくなくて・・・』 『気にしないのになぁ、俺。』 『私が気にするの。』 『ま、すぐそばに清美姉さんがいてくれるなら、 どこだっていいんだけどさ。』 『あっ、こらっ!やめっ!』 さすがに勉強にも飽きてきたので清美姉さんにちょっかいを出す。 ちょうど留美も親父も家にいないからな・・・ムフフ。 『こらっっ!ダメだってば、祐介ちゃん!』 『気にしないのになぁ、俺。』 『少しは気にしなさい!!』 るるるるっるるるるっっるるるるっるるるるっっ・・・・ 『ちっ、電話か。命拾いしたな、先生よぉ!』 『ノリノリね、祐介ちゃん(汗)』 『はい、もしもし。木ノ下ですが』 「あ、お兄ちゃん?留美だよ!」 『どうした?』 「今からキャロットに来て!」 『ん?、あぁ、かまわないけど。 ・・・って、今日はキャロット休みだろ?』 「へっへぇ〜、それがね、違うんだよ!」 『ま、いいや、なんだか良く分かんないけど行く。』 「うん、じゃ、待ってるね♪」 『あ、そうだ、清美姉さんもこっちにいるんだけど、 一緒に連れてくぞ?』 ・・・・ツーツーツー 切れてるし。我が妹ながら自分勝手この上ないな。 まったく、ろくな大人にならないぞ。 さてと、じゃ、行くか。 待たせると留美がどんな行動に出るか予想がつかないからな。 俺は自分の部屋の方へ顔を向けて呼びかける。 『清美姉さ〜ん!一緒にキャロットに行こう!』 ・ ・ ・ 次回こそ最終回(^^;;『12月の卒業式』 初の選択式文章出現の予定! ついに終わる、っていうか、今回で終わるはずだったのに・・・(T^T)

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