TABOO−タブー−
一年、もちろんのことだけど365日。
考えてみるととんでもなく長い時間が過ぎ去っているはずなのに、
いざ、こうして時間が経ってみるとあっという間だ。
彼女と初めてあって、一年が過ぎていろんな事が間違いなく動いている。
でも・・。何か変わったのかな?
最近、変なことばっかり考えている自分がいる。
『ねぇ、お兄さん?いまってお仕事お休みだよね?』
弾むような声が俺の耳に入ってくる。
でも、俺は彼女と顔を合わせることができなくてちょっとそっぽを向く。
『うん、もう休憩時間だけど。』
ともみちゃんがキャロットのバイトを初めてもうすぐ二ヶ月。
はじめの数週間は皿を割ったり転んだりといろいろやってたけど、
今ではずいぶん仕事にも慣れたみたいだ。
明らかにともみちゃん目当ての客もちらほら見られるようになったし、
彼氏としては・・・嬉しいような、ちょっと複雑な気分だ。
とにかくちょっとでも長くいっしょにいられるのは嬉しい。
嬉しいんだけど。
『ね、お兄さん。一緒に事務所でお休みしよう、ね?』
『そうだね、そうしよっか。』
そう考えながら本当は心のどこかで拒否しようとしてる自分がいる。
キャロットのみんなには公認の仲だから、他の人の目が気になる訳じゃない。
こう考えてしまうのはちょっと人にはいえない理由があるわけで・・。
『あ、耕治さ〜ん、申し訳ないんですけど
キャッシャーの方にまわっていただけますか?』
『あ、オッケー。すぐ行くよ。
ごめんね、ともみちゃん。先に休憩に行っててもらえる?
すぐに俺も行くから。』
『うん!』
はっきり言って助かった。
遠くから聞こえた美奈ちゃんの声がまさに助け船だ。
今、この状態でともみちゃんとふたりっきりになったら
何をしでかしてしまうか分からない。
ともみちゃんには悪いけど休憩時間が終わるまで
キャッシャーにまわらせてもらっちゃおう。
『ごめんなさい、耕治さん。もう休憩時間だったんですよね。
一区切りついたら私かお姉ちゃんが代わりますから。』
『大丈夫大丈夫。俺のことは気にしないで』
軽く挨拶を交わして列ができつつあるキャッシャーに向かう。
う〜ん・・・思ったほど人数はいないな。
これだとすぐに休憩時間に入れてしまうじゃないか・・。
『ありがとうございました〜。またご利用ください・・・・っと。』
最後の一人の会計を終え、店内を見渡す。
お客さんはみんな食事中で誰も席を立ちそうにない。
参ったな。休憩時間ができてしまった。
誰もいないレジの前でぼ〜っと立ってるのもなんだしなぁ。
しかしあれだな。こんな気持ちのまんまじゃ、
ともみちゃんと顔を合わせられないよなぁ。
どうにかしないと・・・どうすりゃいいんだ?
『おつかれさま、ごめんね、休憩時間だったのに。』
『ん?・・・あぁ、日野森。気にするなよ。』
『どうしたの?ぼぉ〜っとしちゃって。
あ、やっぱりちょっと無理させちゃった?』
『いや、そういう訳じゃないよ。ちょっと考え事。』
『ふぅ〜ん、・・ふふっ・・・何か変なことでも考えてた?』
『・・・何言ってんだよ(汗)』
『なんてね、愛しのともみちゃんが休憩室で待ってるんじゃない?』
『・・・・・・・・ん?、あぁ、そうだな。
あ、そうだ、日野森も休憩なしで仕事してるんだろ?
良かったら先に休憩とれよ。俺はその後でもいいからさ。』
『私は大丈夫だってば。』
『じゃあ美奈ちゃん』
『ミーナはもう先に休憩とった』
『じゃあ・・』
『前田君?どうしたの?休憩とりたくないの?』
『いや、そういう訳じゃないんだけど。』
『あ、分かった〜。ふ〜ん。なるほどねぇ〜。』
急に日野森がにやっとする。
『ともみちゃんと何か気まずいことでもあったんでしょ〜?』
『そういう訳じゃないって。』
『へぇ〜、キャロット1お似合いの二人が喧嘩かぁ〜。
葵さんが好きそうな話じゃない?』
『おいおい、勘弁してくれよ、そういう訳じゃないってば。』
必死に弁解する俺の顔を見て信用してくれたのか、
日野森の顔から薄ら笑いが消える。
『あ、ごめん。ちょっと悪のりしちゃったね。』
『大丈夫、別に気にしてないから。』
『ホントは怒ってない?ホントに?』
『なんか、今日の日野森ってしつこくないか?』
『・・・怒ってないならいいんだけど。ごめんね。』
ホントにすまなそうな顔をして日野森がいうので
なんだか俺が悪いことをしてしまったような気分になってしまった。
出会った頃はあえば喧嘩をするような仲だったけど、
今ではすっかりいい友達関係になった日野森。
いままでいろいろとともみちゃんに関しての相談もしてることだし、
あんまり隠し事をする必要もないかもしれないな。
『あのな、日野森。実は俺、今悩んでることがあってさ・・』
『ん、なに?』
『実は・・』
『お兄さぁ〜ん、遅いよぉ。
ともみの休憩時間、もう終わっちゃったよ。
ずっと待ってたんだよ、もぉ。』
ちょうど悩みをうち明けかけたとき、ともみちゃんの声が割って入ってきた。
タイミングとしては最悪だ。
そして、やっぱり俺は彼女の顔を直視することができない。
『あ、ちょうど今キャッシャーの方も終わったところなんだ。
今から休憩しようと思ってたところだったんだけど。』
『う〜・・・。残念だけどしょうがないね。
お仕事が忙しかったんだもの。』
『じゃ、俺、休憩に入るね。』
『あ、そうだ、前田君。私もちょうど今から休憩なんだ。
さっきの話、休憩しながら聞かせてもらってもいい?』
『あ、そうしてもらうと助かるよ。悪いな、日野森。』
『いいのいいの、私としては興味本位で聞くんだから。くすくす。』
『じゃ、ともみちゃん。俺と日野森は休憩にはいるね。』
『う・・うん。』
二人が休憩室に向かうその後ろ姿を見ながら、
ともみの心の中ではいろんな思いが渦巻いちゃっていた。
・・・なんだろう、このもやもやした気持ち。
二人が話をしながら休憩室に向かってるだけなのに。
もしかして・・妬いてるのかな、私。
そういえば、最近、お兄さん、冷たいような気がする。
ともみの顔、ちゃんと見てくれ無いような気がする。
・・・ともみ、嫌われちゃったのかな?
ううん、きっとそんなこと無い。うん、無い無い。
お兄さん、ともみのこと『好きだ』っていってくれたもの。
ただの考えすぎ。うんうん。
さて、お仕事お仕事♪
・
・
・
『で、悩みって何なの?前田君』
興味津々の顔を近づける日野森。
目のやり場に困るから、あんまり顔を近づけないでくれよ(汗)
『その前に、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。いいか?』
『?』
『女性ってのは男のどのあたりに魅力を感じるんだ?』
『なに?、突然(汗)』
『俺の悩みはここに関わってくるんだよ、
良かったら教えてくれ。な、日野森』
『そ、そうねぇ、人によると思うんだけど・・・
たとえば、やっぱり顔かな。』
『顔、か・・顔の中でもどこだ?』
『どこっていわれても・・・全体じゃないの?』
『・・・そっかぁ、そうだよな。やっぱりそうなんだよな。』
『あとは、背中とか、特に肩が好きだって子も
いるって聞いたことあるわ。』
『肩、肩か。そんな一部分が好きな子もいるんだな、よし。』
『ほら、働いてる人の肩とか、やっぱりたくましく見えるじゃない?
男の人の力強さを感じるんじゃないかな?』
『・・・ちゃんとした理由があるんだな。』
俺は全身の力が抜けてしまった。
やっぱり、女性が男に魅力を感じる場所っていうのは
それなりの理由があるんだ。
理由無く魅力を感じちゃうって事は無いのかな。
『で?これと前田君の悩みとどんな関係があるの?』
『あ、えっとだなぁ。つまり・・』
俺はふと、気になって休憩室奥のロッカーに目をやる。
・・・どうやら誰かが隠れている様子は無い。
なにせ、女性の多い職場だからな。
誰がどこで聞いているか分かったものじゃない。
『変なことを立て続けに聞くけど、許してくれよ。』
『ま、質問によりますけど。くすくす』
『・・日野森、たとえば日野森だったら自分のどこに魅力を感じて欲しい?』
こちらの質問を聞き終えた直後、日野森の顔が朱色に染まる。
・・・あ、確かに女性に聞くのは変な質問だったか。しまった(汗)
真っ赤な顔のまま日野森が目を俺に向ける。
ちょっと潤んでるように見えるけど、気のせいか?
『えっと、あの・・・いわなきゃ駄目かな?』
『無理にとは言わないけど・・聞きたい。』
『お化粧してるときはやっぱり顔を見て欲しい。』
『うんうん。』
『あと、髪もとっても時間がかかってるから見て欲しい。』
『うん』
『あと、その・・女の子はスタイルにも気を使ってるから・・』
『ふむふむ、全身にわたってみて欲しい、と。・・・ん?』
ん?なんだか話が変な方向に向かってないか?
聞きようによってはとんでもないことを女性にいわせているような。
でも、気になるところではあるよな。うん。
『ぜ、全身って、へ、変な意味じゃないんだからね。
エッチな目で見ちゃ駄目なんだから。』
『わ、分かってるよ、そんなこと。』
なんだか二人して真っ赤になってしまった。
ちょっと沈黙してしまうな・・
『・・・で、今の話と前田君の悩みとどう関係あるの?』
『つまり、だなぁ、俺が女性の魅力を感じる部分が変な訳で。』
『・・・変な所じゃないでしょうね?』
『いや、変だと思う。』
『・・・・・・・・・・・どこ?』
『・・・・』
『女の子にいろいろ言わせておいて、
自分の事を言わないなんて卑怯。』
『・・・笑うなよ?』
『答えによるわ。』
ついに言わなきゃいけないところにきたか。
咳払いを何度かする。でも、全然喉がすっきりしない。
ええい、ままよ。
『耳たぶ』
『はぁ??』
日野森の顔、そして頭の周囲1メートルに
『?』マークが飛び回るのが見えた。
『しょ、しょうがないだろ?俺だってなんで
そんなところに魅力を感じちゃうのかさっぱり分からないんだ。
でも、魅力的に見えて見えてしょうがないんだよ。
だから困ってるんだよ!』
『はぁ、なるほどねぇ・・』
まだ日野森の顔には『?』が大きく浮かび上がっている。
『変だろ、変なんだよ。自分でもよく分かってる。
でも、耳たぶなんかに注目しちゃいけない、
もっと彼女の顔をもっと全体を見なきゃいけない
と思えば思うほどかえって耳たぶが・・魅力的に見えるんだ。』
そこまで言い終えると、やっと日野森の顔に
血の気やら生気やらが戻ってきた。
何とか正気に戻ったみたいだ。
『・・・それはあれね、鶴の恩返しの
【開けちゃいけない部屋】みたいなものじゃない?』
『どういうことだ?』
『【やってはいけない】といわれると、
かえってやりたくなっちゃうものでしょ?人って。
前田君の場合、【耳たぶに興味を持っちゃいけない】
って自分に言い聞かせた分だけ、かえって興味がわいちゃったの。』
『なるほど・・確かに、言われてみればそうかも。』
『いっそのこと、触っちゃったら?すっきりしてイイと思うけど』
『そ、そんな事言われたって、普通、女性は変に思うだろ?
いきなり耳たぶさわらせろ、なんて言ったら。』
『事情があれば別。ちゃんとした理由が分かってれば、ね。』
『ひ、日野森?』
『・・・・』
・
・
『ありがとう、日野森。助かったよ。どうにかなりそうな気がしてきた。
相談してなかったら、悩んで悩んで痩せてたかも』
『また何かあったら相談して。ただし・・・高いからね(笑)』
『あはは、覚悟しとくよ。』
・・ばたん
『・・・バカ。悩んで悩んで痩せるくらいだったら、
私なんか去年の夏から痩せっぱなしよ。』
そうつぶやいて、あずさは自分の耳たぶを触れる。
『・・・やっぱり、変な人。』
ちょっとため息。
『そんな奴が気になる私も充分変かな・・はぁ』
いける、いけるぞ。
日野森に伝授してもらったこの作戦なら間違いなしだ。
何の問題もなくともみちゃんの耳たぶにさわれちゃうじゃないか。
背中に翼が生えたように軽い。
ええい、仕事時間よ、さっさと終われ!!
『ともみちゃん!!』
『ほえっ?』
店内を歩くともみちゃんを捕まえて、
半ば無理矢理店の奥に引き込む。
『ど、どうしたの?お兄さん?』
『ともみちゃん、今度のお休み、空いてる?』
『う、うん。あいてるよ?』
『買い物に行こ?』
『う・・うん!』
ともみちゃんが今までで最高の笑顔を俺に向ける。
くぅっ!可愛い!!
『ピアス、似合うと思うんだ。ともみちゃんに。』
そういって手をゆっくり彼女の耳に伸ばす。
なるべく自然に、自然に。
さっき日野森が教えてくれたように。
がんばれ、俺。自然に、自然に。
地球上のみんな、俺に元気をわけてくれ!
やっとさわれた彼女の耳たぶは予想どおりの手触りだった。
でも、さわってみて当然の事に気がついた。
そっか、ともみちゃんだからこんなに気になったんだな。
他の人の耳たぶはちっとも気にならなかったし。
うん。と、なると俺はともみちゃんのすべてが好きで、
だからともみちゃんの耳たぶも好きなんだ。
こんなことしないと分からないなんて全く不器用というかなんというか・・。
『お、おにいさぁん、耳がのびちゃうよぉ〜』
悲鳴に近い声ではっと我に返る。
思わず物思いに耽ってしまった。
『あ、ごめん。』
『でも、良かった。お兄さんに嫌われてたわけじゃなかったんだ。』
『ん?なんのこと?』
『ううん、何でもない!今度のお休み、楽しみだね!』
耳たぶさわり代、及び自分の気持ちに気づくための料金。
合計12000円(税抜き)也。
安い、か?
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