「えっ、ちょっと寄りたい所がある?」
「え、ええ・・・・」
祐介の言葉に雪子ははにかみながら答える。
或る晴れた昼下がり、今日は本来二人とも、キャロットでのバイトのはずだったのだが、シフトの都合で二人が余ってしまい、予定外のデートをしている二人だった。
「どうしたの、今日の買い物はこれで終わりだって言ってたのに」
祐介の手には雪子の画材とコスプレ衣装の材料がごっそり入っている紙袋がぶら下がっていた。
「ええ、そのつもりだったんですけど・・・一つ思い出しちゃって」
「そう言えば、何か恥ずかしがっているけど、買う物ってそんなにヘンな物なの?」
「い、いえ。別に変な物でも何でもない、普通の洋服なんですけど、ただ・・・」
「ただ?」
ますます真っ赤になって言う雪子に祐介はちょっとした悪戯心が入ったのか、更に追求していく。
「口じゃあ言えません。ですから、付き合って下さい!」
「あっ、雪子ちゃんっっ!」
真っ赤にした顔をちょっとプッと膨らせると、雪子は裕介の手を取って歩きだす。その勢いに振られた祐介は荷物を落とすまいと必死でバランスを取りながら雪子に引っ張られて行った。
「で、これが雪子ちやんの欲しい洋服?」
「ええ・・・」
二人は或るお店のショーウインドウの前に立っていた。ガラスの向こうにはピンクのレースとフリルの一杯付いたブラウス、ベスト、スカートのセットアップが飾ってあった。
「実はね、このまえキャロットでの休憩時間中に・・・・」
雪子はショーウインドウをのぞき込みながら祐介に話し出した。
「ねえねえ雪子さん、こんな洋服カワイクないですかぁ〜」
一緒に休憩していた翔子が不意に雪子にファッション雑誌の1ページを雪子に見せる。
「えっ?どれですか」
「これですぅ、すっごく女の子らしいですよね」
「うあーっ、リボンが可愛いわね」
雑誌を覗き込んだ雪子は声を上げる。
「翔子が着たら子供っぽく見えそうですけど、雪子さんが着たらカワイイんじゃないですかぁ」
「えっ、あ、私?翔子ちゃんっダメダメっ!私こういうのって着たこと無いし、逆に翔子ちゃんの方が似合うわよ」
「そうですかぁ?着たらカワイイっておもうんですけどぉ〜・・・先輩だってそう言ってましたよ」
「えっ、祐介さんが?」
「うん。さっき先輩にききましたよ。おんなじページ見せたら、『二人とも似合うんじゃないか』ってね♪うふっっ!」
「・・・・」
「うーーん・・・・・」
祐介は翔子との会話を思い出していた。確かにそう言った。だが、まさか雪子が実際に着るとは思っていなったのだ。
「祐介さん、実はね。私も以前からこういう服を着てみたかったの。でも、自分に似合わないんじゃ無いかって思ってて、ちょっと抵抗があって・・・」
「大丈夫、きっと似合うよ」
「祐介さん・・・」
祐介はそっとショーウインドウを見ている雪子の手を握った。雪子の表情がぱっと明るくなったのをウインドウのガラスが映していた・・・。
「祐介さん、おはようございます」
「あっ、雪子ちゃん!やっぱり着て来たんだね」
「うふふっ、どうです」
「うん。似合ってるよ」
祐介の答えに雪子は笑みを見せた。奇麗なロングスカートで、リボンとフリルの一杯ついた服を着ている雪子の姿はまるでどこかの絵本から出て来た女の子のようだった。
「あーーっ、雪子さんカワイイっっ!」
出勤して来た翔子が一目見るなり雪子の方へ飛びついて来た。
「ねえねえさとみお姉さん。さっき話してた通り、やっぱり似合うでしょ」
「本当、翔子の言う通りね」
一緒に出勤して来たさとみがうなづく。どうやらさっきまでこの洋服の話題をしていたらしい。
「この服、さとみじゃあ持て余すかもな」
「ち、ちょっと祐介、それどう言う意味よ!」
「何でも無いよ。さっ仕事仕事っ」
祐介がぼそっと呟いた一言にすかさずさとみが反応する。慌てて事務所の方に入って行く祐介をさとみが追いかけて行く。
「祐介さんったら・・・・さぁ私たちも仕事しましょう」
雪子はくすっと笑うと翔子に声を掛ける。
「はいっ」
翔子と雪子は事務所に入っていった。雪子はふと自動ドアに写った自分の姿を見る。そしてにっこりと満足そうな笑みを浮かべながらドアをくぐって行った。
−fin−