〜プロローグ〜

荒れ狂う荒野。回りにはただひたすらの騒音、悲鳴。
次々と死んでいく仲間達。
今の俺には彼等に黙祷を捧げる事すら許されない。
仲間の屍を超えて俺はひたすら歩み続けた。






I am Ghost −−−





輸送船DropShipに乗り込もうとする、
指揮官の声が蘇ってくる。
「いいな。死んでも奴等に一矢報いるんだ」
俺は思わず苦笑した。
これだけ親しい命が霧散していくのを見ていると、
「死んでも」なんて言葉に重みが感じられなくなる。
そんな台詞を吐けるのは、彼が死に直接触れない、
上層部の人間だからだ。
彼にとって、下層部の兵隊の死は・・・そう、ポイントを一点取られる、
ただそれだけの事なのだから。
俺の親しい友人もたくさんいたMarine部隊。
彼にとっては、ただの駒に過ぎない。
俺の命に多少の重みを見出せたのも、俺が奴等に対して一矢報いる事のできる、
最後の頼みの綱だからだろう。
そうでなければ、俺も駒の一人に過ぎないのだ。


奴等・・・そう、奴等はZergと言う、一種の宇宙怪物。
ここ、俺の故郷惑星アルフェに突然飛来し、都市を壊滅させ、
街行く人々を引き裂いて行った。
アルフェの軍隊も応戦したが、一ヶ月の戦いの末、資源は無くなり、
人員は無くなり、完全に占領されるのも時間の問題となった。
上層部の連中は輸送船に乗り、他の惑星に逃げるらしい。

そして、最後の戦いの名の元に、上層部の連中が逃げるための時間稼ぎをする者達の名前が挙げられ、その中には俺の名も、
親友のジーグの名もあった。
残されたのは、まだアルフェ軍隊に配属されたばかりの若いMarine12名。
同じく配属されたばかりのSCV2名。
来年には定年引退を迎えるハズだった、ベテランのTank操縦士アルじいさん。
−彼は定年したら、孫と犬とゆっくり釣りでもしながら余生を送りたいと、
常々言っていた。−
そして、アルフェ軍特殊精鋭部隊Ghostの中で唯一生き残った俺と、
エリート士官で、MatrixShieldと言うバリアとIradiateと言う毒霧を操る、
小型空母ScienceVesselを操縦する俺の親友ジーグ。
ただそれだけだった。

上層部の連中が言うには、やりようによっては生きて帰れるらしい。
その時には昇進を約束するそうだ。

・・・笑わせる。奴等は俺等に生き残れる可能性がないことを知っている。
俺等も生き残れないであろうことを自分でわかっている。
そして奴等は俺等がわかっていることを知っているのだ。

それでも儀礼上、暗黙の了解を交わした上で、今俺等はここにこうして立っている。
仮に逃げ出せば、俺等は裏切り者として手配され、親族は肩身の狭い思いをしつつ、
一生を生きていく事になる。見えない鎖で俺等を拘束しているのだ。

・・・愚痴を言っても仕方が無い。年老いた親父やお袋はきっと政府が面倒を見てくれるだろう。他の連中も俺も覚悟を決めている。

最後の作戦、それは最終兵器であるNuclearStrikeをZergの指揮官・・・と、言うか、
母親的存在である、OverMindのいる、奴等の基地、「Hive」に落とす事だ。
確かにそれに成功すれば、まだ光はある。
成功の後、本国に通信を入れれば、制圧部隊が来る手筈なのだ。
・・・成功すれば・・・。これがどれだけ希望的観測であるかは、
俺が重々良くわかっている。NuclearStrikeを落とすには、
視界の確保、Lockon、更に10秒間のコントロール時間を要する。
OverMindのいるところなんて、一番防衛が硬いところだ。
現実問題として不可能だろう。
でもやるしかない。やるしかないんだ。

そして今。
残っているMarineは3人。
SCVの2人は、Zerglingの鋭い爪に引き裂かれて死んでしまった。
奴等の本陣まであと少し。
見つからない場所で休憩を取ることにした。
ジーグが俺に話しかける。
「なぁなんでお前がこんな作戦に残されたんだろうな、優秀なGhostなのに」
俺は笑って応える。
「Nuclearはお前等じゃ落とせないからな。ジーグ、お前がここに残された理由はわかるか?」
ジーグは首をかしげ、
「さぁな。ついてないとしかいいようがないぜ」
「お前は優秀過ぎたんだよ。上層部のジジイ共に煙たがられてたんだ」
「ハッ、嬉しい事言ってくれるね。生きて帰れたら一杯奢るよ」
「あぁ・・・生きて帰れたらな」
場の雰囲気が少し暗くなってしまった。
それを取り去るかのように、アルじいさんが声を上げる。
「なぁに、ワシも今まで何度もこういう修羅場をくぐってきたが、
ほれ、こうして生きてるぞ。諦めなければきっと大丈夫だ。
ワシは孫に釣りを教える約束をしてるからな。絶対に生きて帰ってやるさ!!」
ジーグは少し微笑んで、
「そうですね、頑張りましょう」
Marineの連中−「サリス、トム、ジェト」も、疲弊しきりながらも、
弱々しい笑みを浮かべている。
挫けそうな自分を必死に励ましているのだろう。
そして、俺等は最後かも知れない眠りに入った。


夢を見た。
作戦に成功し、両親と再会し、、
永遠に続くかと思われる平和の中でまた暮らしていける。
そんな悲しい、夢だった。


最後かも知れない朝は暗雲が立ち込め、
なんとも言えず陰鬱な気分にされた。
雲のせいか不安のせいか、他の皆の顔も暗い。
アルじいさんは、いつも吸っているタバコを吹かしながら、空を眺めていた。

そしてジーグが「行こう」と言ってScienceVesselに乗り込んだ。

行軍中、幾度かZergling、Hydlariskに遭遇した。
3回目の遭遇で、サリスとジェトは、Hydlariskの吐く酸と、Zerglingの鋭い爪に、
殺られてしまった。だが、俺達は彼等のために墓を作ってはやれない。


・・・奴等の本陣が見える位置まで来た。
もう少し近づけばNuclearStrikeを落とせる距離に届く。
「それじゃ、行ってくるぜ」
ジーグ、アルじいさん、トムにそう言い、俺は体を周囲に溶け込ませて見えなくできる
技術、Cloakを纏った。
「一杯奢るからな。それまで死ぬんじゃないぜ」
ジーグは笑顔のままそう言った。

姿を消したまま、本陣に近づく。
回りには大量のHydlariskとZergling。
Cloakを剥いだら、ものの5秒と経たずに俺は赤い肉の塊に化けるだろう。

ドクン  ドクン  ドクン


心臓の鼓動がヤケに耳に響く。
手に汗が滲み、膝が笑う。

Hiveに狙いをつけた。

・・・Nuclear Launch Detected・・・

耳にそう響く。Zergの連中も気づいた筈だ。
Cloakを破る能力を持った、Overlord共の動きが激しくなる。
一匹のOverlordが近づいてきた。その瞬間Zergling達が特攻してくる。
・・・バレた!!
ダメだ。あと8秒かかる。
変な脱力感と解放感を感じた瞬間、雄叫びが聞こえた。
アルじいさんとトムが俺の前に立ちはだかった。
「後は頼みました!!」「ワシの代わりに孫に釣りを教えてやってくれ!!」
同時に叫び、トムは一瞬で引き裂かれ、アルじいさんのTankは爆発した。
俺は涙を流しながらも、必死にNuclearの操作を行う。
Zerglingはすぐにこっちに突撃、あと5秒。
時間がスローモーションで流れてる気がした。
4秒・・・Zergling達に囲まれた。プロテクトスーツが一瞬でボロボロになる。
3秒・・・左手を引き裂かれた。その瞬間上空にScienceVesselの陰が見え、
MatrixShieldが俺の体にかけられて、青白い光が俺の体を守る。
2秒・・・ジーグは大量のHydlariskの群れにIradiateをかけ、行く手を阻んでいる。
1秒・・・ジーグの乗るScienceVesselはHydlariskの酸に溶かされ、爆発した。
俺は声にならない叫び声をあげた。

・・ズ・・・ドォ・・ォォン・・・

耳の鼓膜が破れるんじゃないかと思えるほどの大音響の中、
Hiveは吹き飛び、Overlord、Zergling、Hydlariskは四散した。
もう、ジーグの死体もアルじいさんの死体もトムの死体も、
Zergの物と区別がつかない。

空からひとかけら、ScienceVesselの破片が落ちてきた。

そして、俺は、泣いた。















一頻り泣いた後、本国に連絡をいれるべく、俺は無線機をつけた。
ザザ・・・ザ・・・ザ。
雑音が入り繋がらない。
故障したワケではなさそうだ。
一体どうしたんだろう。
すると、霧がフッと晴れるように、一瞬音声がクリアになった。


その瞬間聞こえてきたのは・・・二度と聞きたくもない、
ZerglingとHydlariskの咆哮、そして、人々の悲鳴だった。



俺 は 狂 っ た よ う に 笑 い 
そ し て 自 分 の 頭 を 打 ち 抜 い た・・・



Fin