Close Resemblance


机についてしまった体液を、丁寧に拭き取る。
『主将、もうそろそろ部室棟にも見回り来ますよ』
辰羅川がその拭き取ったティッシュを几帳面に折り畳んで据え付けのゴミ箱に放ると、何事も無かったかのように牛尾に訊いた。
『そうだね。じゃ、鍵とってくれる?』
『はい』
牛尾がいかにもな好青年の笑顔で、それに振り返り答える。
辰羅川は手元にあった鍵を掴むと、数歩進んで手渡した。

鍵を受け取る瞬間、それを握っていた辰羅川の指も、牛尾はその手袋をした手で覆う。
『・・・さっきは手荒い真似して済まなかったね』
笑顔を浮かべて、辰羅川より高い目線を彼の真黒の瞳に向ける。
『はは。・・・心にも無い事は、言わない方が良いですよ』
同じく笑顔を浮かべて、牛尾の手を丁寧に払いながら辰羅川が答えた。
牛尾はその返答に意外そうな表情で肩をすくめる。
『やっぱり・・・君にはこの言い訳は通じないか』
押しつけられた鍵を手持ち無沙汰に手の上でころがしながら、牛尾が辰羅川の後ろ姿に呟く。
『虎鉄先輩や子津君  犬飼君には通じたのに?』
楽しそうに、・・・或いは苦しそうに、辰羅川が目を細めて笑う。
『・・・そうだね。』
牛尾も、それに呼応するように笑い返した。




『・・・何で私だったんですか?』
鍵を交い、もう今日は誰も使わない部室を背にした。
沈みきった夕日の最後の灯に、2人分の影が出来る。
『分からないかな』
『分かりたくないです』
途中まで同じ帰り道な為、否が応にも「一緒に帰る」事になる。
『君は僕に凄く似てるから。』
『・・・』
『他の誰より似てるよ。多分。・・・2年前の僕にね』
夕日が完全に姿を隠す。
街路樹の脇の薄明るい電灯が、今度は影の方向を支配する。
『ナルシストですね』
『そうだね。僕は誰かを好きになって抱くんじゃないから』
『知ってます。貴方が抱くのは、決まって貴方を愛してる人でしょう?
 そして貴方は「それ」にもう一人の自分を投影してる』
『・・・本当に、何でも感づいてる。』
『仰ったじゃないですか。私と主将とが似ているって。』
『・・・』
『もう一度訊きますけれど。何で、私だったんですか?』
『・・・』
『別に私は貴方を好きでも何でもないのに』
『似てるからだよ』
『それはもう聞きました』
『それ以外何も無いさ。 本当に』


『僕は自分しか好きになれないから』
電灯の間隔が広がっていく。
真っ暗な夜道は、歩みを心許なくさせた。




Y字路に出る。駅に行く道と私道。それぞれの路に着く。
歩みが止まる。
『・・・きっと感覚もいつもと違ったでしょう?』
辰羅川が口の端を上げて笑う。
『うん。まあね』
『どうでした?』
『自分を自分で強姦してるみたいだったよ』
『でしょうね』
少年の様な表情で、二人笑い合う。
まるで悪戯をしたあとの小学生のように。


『惜しいなあ。何で、僕じゃなくて犬飼君なんだろう』
牛尾が小さく呟いた。
『さあ。』
辰羅川も、呟いて返す。
『何で、自分じゃなくて他人なのかな』
誰に言うでもなく、答えを求めるでもなく、空に言葉を吐き出す。
『・・・犬飼君だから。』
吐き出された言葉にわざと厳しく触れるように、辰羅川が返した。
『そんなもの?』
牛尾が悲しそうにわらう。
辰羅川は、それを見なかった。

『そうですよ。そんなものです。
 犬飼君と逢わなかったら、きっと自分を愛していただろうけれど』


『だから貴方と私は似てるんでしょうね』




『私も私以外愛せませんでしたから。』




辰羅川が、電車があるからと言ってその場を去った。
牛尾はその背中を見送って、その場にしゃがみ込む。
誰も通らないほど寂れた道。
小さく笑う。
『そうか、そう。だから似てるんだ』
電車の行く音が、遠くで聞こえた。


病(へい)みんな!自分愛しちゃってるかーい?
と言うわけで、そんな牛尾さんが書きたくてうっかり牛辰SS。某お方が別件トーク時に「牛と辰はヤリ友っぽい」と仰ってたのをまんま持ってきた結果でもあります。裏的要素をムンムンに含んでますが。

でもぶっちゃけこの小説をカップリングで分類するんなら、辰犬なんですよ・・・。いや、自分的には。少なくとも前提は辰犬です。根底には辰犬通してます。あと根底の話をするなら、子津が死ぬほど可哀想な牛子も入ってます。あああ。

このssでは牛尾様総攻ですが、別にカルマは牛尾総攻じゃなきゃ駄目と言うわけでは・・・。何でも食えます牛尾なら。

相手を変えても何をしても、結局見ているところはただ一点と言う辰のお話でした。ああ、そうして愛されてみたいですね。はぁはぁ。(過呼吸)

BGMはヤプーズ「ヤプーズ計画」です。(バレバレですカルマさん)

2002.5.1.(制作:2002.3.10.)

モドル