selfish
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『あっ、・・・犬飼くん来てますか?』 バネの重い部室のドアが勢い良く開けられると、 その間から辰羅川が尋ねた。 4時間目開始5分、時計にして11時15分。 陽は高く昇り、風は吹き抜けて涼しく、雲一つない良い天気。 あの放浪癖のある犬飼は勿論の事、その犬飼の行方を問いかけられた猿野だってさぼってたいと言う物だ。 『・・・知らねぇ〜・・・』 雑誌から目を一時も離さず、しかし辰羅川を無視するでもなく、猿野がやる気なさそうに答えた。 『あ・・・そうですか』 気落ちしたような声で、しかしせわしない口調で、辰羅川は猿野の返答を受け取る。 『何、またユクエフメェ?』 閉じようとしたドアが、猿野の問いかけに止まる。 「また」と言うのも、こう言った事はよくあるから。 犬飼がさぼる。 辰羅川がそれを探しに来る(勿論サボりで)。・・・こちらはたまに、だが。 とりあえず便所と部室と屋上。 一通りの場所のいずれかで、どう言うわけだかよく猿野は二人のどちらかに遭遇する。 だから辰羅川の質問は、もう何度もされた。と思う。 『ええ・・・まあ。』 落ち込んだ瞳で、辰羅川が呟く。 『ンなら、あいつ多分下のコンビニ』 ・・・に居る、と言う意味で。坂の下手の方向を、猿野が指さした。 『え?』 猿野の言葉に、辰羅川が弾かれる。 『今日アレ出たろ、「愛犬の生活」』 『あ・・・』 犬飼が唯一毎号購入している雑誌の、今日は発売日だ。 題名どおり、犬情報と犬グラビアと犬4コマと犬投書の雑誌。 部数は多くないが、高校近くのコンビニには何故か販売されている。 犬飼は発売日になると居ても立ってもいられなくなり、そのコンビニへ買いに走る。 そうした時それを立ち読みする彼の邪魔は、たとえ辰羅川でもする事は出来ない。 『そう・・・でしたね・・・』 そうかと言う納得と、猿野の方が先に気付いた事への嫉妬が入り交じった表情で、辰羅川は目を泳がせた。 その瞳を見て、猿野は雑誌を閉じる。 『つか、お前もサボり?』 知っているが。 『・・・はは、まあ、そうですね』 『なら此処居れば。戻ってもホレ、気まずい?つーの?』 トイレに立ったりした際、注目を浴びる例のあの感じの事を言っているのだろう。 『・・・そう、ですね・・・』 辰羅川は腕時計の蓋を開け中をちらりと見て、ドアを後ろ手にゆっくり閉じた。 視線云々はさておき、もう今から行っても欠課、よくて遅刻だろう。 無駄な事はあまり好まない。 辰羅川はそのままロッカーへと足を運ぶと、中から小難しそうな本を一冊取り出して読み始めた。 『・・・「私は貝になりたい」』 『え?』 『や、題名。』 ベンチに寝転がった猿野が、辰羅川の本を指さす。 『あ、題名。そうですよ。』 『貸して』 猿野が手を差し延べる。 『読めませんよ?』 微笑いながら辰羅川がハードカヴァーの本を手渡す。 意地悪い言葉を添えて。 『うわっ!虐めかよ!猿野様をなめんなよ?これでも中学時だ・・・ ・・・うん。読めねぇ。』 内容を一瞥して、猿野は直ぐに本を閉じた。 途端、辰羅川が弾かれたように笑い出した。 『何だよ!読めなきゃ悪いンかよ!!』 『いえ、いえ・・・はは、あははっ・・・面白くて!』 顔を羞恥心に紅潮させて、猿野がその笑う顔を見上げた。 ふと猿野の目が、木に停まった虫を見つけた少年のような光をともした。 『・・・』 『ぅわ!何、何するんです!!』 普段もみ上げと称されているサイドの髪を、猿野の指がぐっとひっぱった。 ベンチに寝そべったままの猿野の体重が、そのまま辰羅川にかかる。 整えられた(と本人は思っている)髪型が、猿野のそれによって重力のままに下へと垂れる。 『・・・うん。』 サイドの髪をつまんだまま、猿野が何かに納得する。 『何、ちょっ、と・・・離して下さい!』 『お前、さ、こっちのんが似合う。あと、』 猿野の指が、メガネのつるにのびる。 辰羅川が防ごうとしたが、少し遅かった。 かちゃ、と金属的プラスチック的摩擦音を立ててそれが外される。 『やっぱこの方がいい』 猿野の瞳が、虫を捕まえた事を知らせる。 虫かごの中に虫を入れて。 それをしけしげと眺める子供の目。 楽しそうに、細められて。 けれど虫はたまったものじゃない。 可哀想に、脚を無様にばたつかせて。 『ちょ・・・返して下さい!見えないんですから・・・』 辰羅川が、腕2本先の眼鏡を、ぼやけた視界と勘を頼りに取り返そうと手を延ばす。 『やーだよ。お前この機会にコンタクトにしたら?その方が・・・』 片手に持った眼鏡を、辰羅川の延びてきた腕から更に遠ざけた・・・瞬間。 とさっ、とか。 ぽすっ、とか。 そう言う音だと思う。 (これが犬飼ならもっと無骨な音がしただろうなと猿野は思った) 『・・・あっ・・・・・・ご、ごめんなさい!』 辰羅川の体が起こされる。 上げた顔は真っ赤。 『・・・辰っつんてば 大っ胆〜〜〜・・・』 仰向けの体勢のまま呆気にとられつつも、猿野がぼそりと冗談を言う。 『ば・・・バカ言わないで下さい!!偶然ですよ!』 真っ赤、に拍車がかかる。 それ以上、猿野は何も言えなくなる。 当然、辰羅川も何も返せなくなる。 乗った体重は思ったよりも随分軽くて。 触れた唇は、思ってたよりも随分柔らかくて。 途端、静寂を破って終業のチャイムが鳴る。 『あ・・・じゃ、じゃあ放課後。』 素直に渡された眼鏡を急いで耳に掛けて、辰羅川はいそいそと部室を後にした。 『・・・応。』 閉じた扉に、猿野が低い声で返事をした。 唇に触れる。 感じるのは先刻の感触。 (犬飼の奴、いつもこんなキスされてるのかな・・) (犬飼君、いつもこんなキスされてるんでしょうかね・・・) 少しだけ 嫉妬をした。 |
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辰羅川は実質受け。 以上。 ・・・じゃなくて。 猿辰はいいですよ。 チンピラ×インテリ。 因みに辰犬はインテリ×ヤンキーです。 前の猿犬の時はヘタレ攻めでしたが、今回は爽やか鬼畜で。 隠しCPとして辰犬猿犬。 最後の1行を深読みして下さい。 しかし「愛犬の生活」・・・本当に存在してそうで・・・。 もしも在ったなら関係者様すみません。 2002.07.23. |
| モドル |