しょうねんは、ゆうじんに、もたれかかった。
かろうじて いきぬいた ふたつのいのちは、
その、きえいりそうなまでにびじゃくな おたがいのそんざいを
たしかめあうように よりそった。

けんこうに、まぶたをとざして。


『犬・・・かい・・・?』
天国が深く生い茂る森を抜けた瞬間。
壮絶な光景を、彼は目の当たりにした。
『・・・猿・・・』
消え入りそうなほど小さな声で、冥はその呼びかけに応えた。

絵を見ているようだった。
悪趣味で、美しい絵。
長身の、どう口を曲げても綺麗としか言いようのない芸術作品の様な少年。
その足元に転がる無数の(いや、実際には4〜5体程の)死体。
血と涙を流しながら立ちつくす少年の頭上には、満月が輝く。
・・・大聖堂の正面、一番華やかな場所にありそうだ。
天国に絵を愛でる趣味などありはしないが、素直にそう感じた。


『辰が・・・辰が』
冥の持っていた鎌が、からりと乾いた音を立てて舗装道路の上に落ちる。
『・・・辰が、ころされた』
ふら、と冥のからだが天国の方に近づく。

天国はその言葉にドキっとした。
ほんの1日前に北の灯台で逢った辰羅川は健康そのものだった。
頭ではそう言うことが普通にあり得る事だと言うのは分かっている。
どんな人間だって突然死ぬことはある物だ。この状況ならば、なおのこと。
・・・でも、死の影などなかった。
どうして?まだ生きているだろうに。だって死んだ所を見ていない。
道理を成さない理屈が、天国の頭の中をぐるぐると駆け回る。


瞬間、死体の山の中に見覚えのある顔を見る。
他の死体に比べてずっと丁寧に、姿勢も服装もきちんとされて、汚れも落とされて。・・・他の死体とは、離されて。
『辰・・・羅、・・・川・・・?』
一瞬判らなかった。
彼は確かに其処に横たわっていた。
近づけば、寝息でも聞こえそうなほどの。
けれど微かに目は窪み、顔色は正常のそれではない。
彼はもう、とうに肉塊となっていた。

天国の足下に崩れた冥に、天国はしゃがみこみ、戸惑ったように言う。
『・・・辰羅川以外は、・・・・・・・お前が殺したのか?』
冥が辰羅川に引導を渡すことはあっても、真の意味で殺したりはしないだろう。
無神経ではあるが、そう訊くしかなかった。
『・・・』
無言のまま、冥がうなづく。
『辰・・・辰、最後まで武器使わなかったんだ・・・
 最後、最後・・・俺庇って・・・そこ、一番原型とどめてねぇ奴に・・・』
冥が指さした方向を天国が言われるまま見る。
それは、顔こそ見えないが(見たくもないが)、骨はあさっての方に曲がり、こそげ落ちた肉から白く突き出している。脳と脳しょうは混ざり合いながら地面に飛び散り、最早別の何かにすら見えた。
天国は気分が悪くなった。
『・・・お前が?』
解っていることだが。
自分だってもし沢松や凪を目の前で殺されていたなら、同じ事をしただろう。
『ああ・・・ 気味悪いか?』
普段の気丈な憎まれ口叩きの面影など微塵もなく、冥が弱々しく笑う。

『いや、・・・・・・ ・・・』
言葉がつまる。
何て言えばいいか分からない。
冥の気味が悪いなんて事はないことだけは確かだ。

けれど、今彼を何て?
何て言う言葉で慰めることが出来る?
「正しい」なんて無責任。
「わかる」だなんて自意識過剰。
「可哀想に」・・・誰、が?
『・・・』
冥が、天国の次の言葉を待つように瞼を伏せる。

『・・・ ・・・・・・・・・・・・綺麗』

口を吐いて出た。
『・・・!』
言ってから、天国はあわてて訂正するかのように口許を抑えた。

何て言った?
今自分の口から何て言葉が出た?


『・・・わりい・・・』
天国が、しゃがみこんでいた体を起こす。
冥はその一瞬の天国の動きに酷く敏感に反応し、不安に顔を染めた。
口より手が先に出る。
『・・・っ』
未だ半分曲げられてる天国の膝を、冥は鷲掴みにした。
『犬?』
『・・・・何で!』
涙で枯れた声が、裂けるような叫びをあげる。
『何でお前まで辰と同じ事言うんだよ!!!』
せきを切ったように、冥の喉から呻き混じりの嗚咽が漏れだした。
『お願いだから・・・お前まで居なくなるな・・・・!』
   無神経だった。
天国は、今自分の去ろうとしていた事を酷く憎んだ。
見た目気丈そうな彼の顔つきのお陰か、あまりショックを受けてない様に見えていた。
本当は潰された心で尚も、ただただ自分の前だけでは気丈で居ただけで。
今の今まで、この場所で死体に囲まれたまま親友の死を独り、気が触れそうになりながら見届けていたのに。

いま誰かがいなくなる恐怖がどれだけの物か、もう知っているはずだったのに。

『・・・わかった・・・わかったから。ここにいるから・・・』
(ここにいるだけしかできない)
天国はしゃがみなおした。
嗚咽の続く冥が、その肩に顔を埋める。
子供をあやすように、不器用に天国は冥の頭を抱えた。
途端、嗚咽は叫ぶような泣き声に変わる。
微弱な、あまりに微弱なその叫び。
二度と開かない双瞼のために流れる涙。
天国は、自分がそれを受け止めている実感を、微塵も感じなかった。
・・・あまりに月は明るく、この世の光景には思えずにいたから。
もしかしたら、既に此処は「てんごく」と呼ばれる場所なのではないかと錯覚 すらした。



永久の子供たち。
たった2人だけしかいないせかい。
そう感じる。
この場所をこの世と呼ぶには、あまりに静かだ。
この時をこの世の物と言うには、あまりに、それはゆったりと流れている。
今日に疲れて眠ってしまった冥の瞼は、しっかりと閉ざされて何も映してはいない。
けれど、その指は不安そうに天国の手に添えられている。
だからこそ眠ったのだろうけれど。
・・・もうあとこの島の高校生は、自分たち2人しか居ない。
この首輪の機能など、子津の必死のコンピュータ介入のお陰で止める事は容易 だ。でなければ、こんなに冷静では居られない。

・・・けれども、或いは2人で死んでしまうのも一興かも知れない。


明日、この隣で寝息を立てて居る人はなんて言うだろう?

生きたい?
それとも 死にたい?








冥の左胸に、天国は目を閉じながら耳をつけた。
呼吸の音に混じって心音が響く。正しくて健気な鼓動。
何故か、今まで一滴も溢れなかった涙がこぼれ落ちた。


・・・たしかめあうように よりそった。

けんこうに、まぶたをとざして。


最後の二人と言う設定で、猿犬バトミス。
えらい駄作です。ある意味史上最強・・・。
読んだことすら後悔されているのでは・・・。
つか冥ちゃん別人28号やーん・・・。

裏設定として、辰羅川死に話の場合
私の辰は100%殺しをしません。
逆に冥死に話の場合は辰っつん殺人鬼率60%越。

基本的に私は結末まで書かず最後に突き放してしまう方が
小説と言う、ある種読み手が殆どを握る表現方法に
合っていると思うのです。
と言うわけでこんな事にしてみたんですが・・・ダメダメですね・・・。
2001.12.21.

帰っちゃ駄目?