屋上


冥の日課と言えば、授業をサボって昼寝を嗜むこと。
今日も今日とて教室を抜け出し、屋上の日陰に腰を落とす。

5月とは言え、もう汗ばむほどに暑い。
日陰は心地よく冥の体を迎えてくれるが、入りきらずはみ出した足先は刺すように暑かった。
屋上出口の建物の、丁度ドアと裏側の壁に背を預け、冥は目を閉じた。
下の階から、校庭から、授業の開始を告げるチャイムが聞こえる。
わずかに聞こえていた生徒たちの笑い声話し声は、途端に途絶えた。

一閃の光のように風が通る。
冥の灰色の髪はそれになびき、そしてまた重力に従う。
この心地よい眠気を眠りへと昇華させるには、絶好の気候だった。

授業が始まって1分もしないだろうか。
冥がうとうととし始めた頃、ガチャリ、と背中のほうでドアノブのまわる音がした。
(・・・教師?)
冥が警戒するかのように体を起こし身構える。
足音は徐々に近づく。

『犬?』
影より後に目に飛び込んだ人影は、天国だった。
『あ・・・』
なんだ、と言う風に冥が再び腰を降ろし、壁によりかかる。
『何してんのお前?授業は?』
そう言う猿野の片手には、どう見ても漫画本が握られている。
どう考えたって冥と同じ目的だ。
『お前こそ。つーか人の安眠妨げやがって。死ね』
猿野と分かれば態度はひとつだ。冥は不機嫌そうに天国に背を向けた。
『ンだとテメェ!マジ泣かすぞ・・・って』
天国は売り言葉に買い言葉、ドスの効いた声で応戦した。
が、その売り言葉を投げかけた当人からは、応戦も無く、ただ寝息だけが聞こえる。
『・・・・(こいつ・・・のび太君て呼んだろか・・・!!)』
それまでの怒りも相まってか、何故か天国の脳からは
『こいつの寝起きのぞちゃる・・・』
と言う良く訳の分からない嫌がらせ的発想が生まれた。
冥の顔から視線をはずし、向けられた背とは逆、つまり冥の顔の側に天国は腰をついた。



『ん・・・』
冥の目が覚める。
目線の直ぐ先にある腕時計はまだ授業中を示していた。
『・・・!?』
冥は自分の体の位置に違和感を覚えた。
あわてて頭を上げると、天国が本を読みながら
『よお、目ぇさめたかー?』
とにやにやとした笑みを浮かべる。
・・・いつの間にかは知らないが、冥は天国の肩に身を預けて眠っていたのだ。
『・・・』
一生の不覚、と思った。辰とかならともかく、寄りによってこいつだ。
どんな事実改ざんのネタにされるか分かったもんじゃない。
『おい猿、誰にも言うなよ・・・』
『は?何をー?』
尚も「いやらしい」としか形容のしようのない笑みをこぼし天国が返す。
わかってるくせに・・・!!と冥は歯ぎしりした。
『俺が今・・・』
『あー、例えば「寝ぼけて俺のこと辰羅川と間違っ・・・」』
そんな事してたのか、と心の中で愕然としたが、この際どうでもいい。
言葉の途中で遮るように、冥の手が天国の胸倉を掴む。
『言うなよ』
冥の顔が鼻先ギリギリまで天国に近づき、凄みを効かせる。
『はーい・・・』
『よし』
制服の布が、冥の手から離れる。天国は軽く咳き込んだ。

『あ、俺パン買い行かなきゃ』
終了2分前。そろそろいわゆる「先発隊」は動き出す時間だ。
早くしないと焼きそばパンなんかは売り切れてしまう。
天国が立ち上がり、小走りに冥から離れる。
『二度と現れんなバカ』
憎まれ口が挨拶と化している。
いつもは同じ様な口を叩く天国だが、今日は振り返って
『ん、ゴチソーサマ』
と手を振った。
『・・・は?』
冥の小声の疑問は届くはずはない。建物の陰に天国が見えなくなる。
『・・・?』
冥も、のそのそと腰を上げた。

『もう犬飼君、何処行ってたんですか?』
辰羅川の声が冥を諫める。
何処かと言うのは全て把握してるだろうに・・・冥が顔をしかめる。
と、辰羅川が冥の胸元に手をかざした。
『!?』
「いつも」の癖か、あわてて冥の身が引ける。
『あ、いえ、犬飼君虫刺されですか?』
『あ?』
辰羅川の指が指す部分、鎖骨の下あたりを冥が見下ろした。

途端、先刻の天国の台詞の謎が結びついた。
「俺を辰羅川と間違って」も。
「ごちそうさま」も。
『あの野郎・・・』
顔が赤くなっていくのが自分でも判る。

(だってさー、キスしたら「辰・・・」とか言われて悔しいじゃんよ・・・)
天国は運良く買えたメロンパンを頬張りながら、そんな言い訳を心で反芻した

2001年12月の日記SSです。
辰犬を含みつつ猿犬に挑戦してみましたが
まあテーマには添えましたが・・・文章が大分変です・・・。

要するに冥ちゃんの寝込みを襲ったら、抵抗もなしに
「辰・・・」とか言ってすりついてきたわけですね。
男・猿野もさすがに腹立って、なにくそと
まだ跡の無い部分にちゅうしたら
今度は何も言わないので満足したというわけです。
独占欲満たしまくり。・・・くだらねぇ!

次はバトミスやるぞー おー。

2002.1.1.再編集

辰犬派って言ってるのに