Good night
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肉を抉る音をかき消すように、鋭い銃声が響いた。 鳥が何羽も飛び立つ。 コンクリート造りのその建物は、羽音を反芻させる事無く静寂を戻した。 『辰・・・辰・・・っ、何、処?』 冥の腹の、裂傷にも似た新しい弾痕が、その薄い唇から漏れる言葉すら奪う。 ふらつく足下に、男一人の死体。 首から下がる首飾りと血のはりついた黒く長い髪に見覚えはあるが、冥はそれを誰だか知らない。 少なくとも、銃口を自分に向けるような人物に知り合いはない。 喉を掻き切った感触だけが掌に残る。 『辰・・・』 口から溢れる血は、酷く甘く感じる。 (いつか口にした果肉の様に果汁の様に) 『・・・っ・・・あ・・・』 強い眩暈が、その歩みと言葉とを妨げた。 この地下から外へ通じる階段に、冥は崩れ落ちる。 冥の唇から、それでも尚壊れた玩具の様にひとつの名前が吐かれ続ける。 流れ出す血液と共に。 (さっきまで一緒だったのに) 厭にはっきりした思考で、冥が先刻までを思い出す。 ここに二人で潜んでいた時までは、確かに信二はまるで普通に、傷ひとつなく笑顔で自分に接していた。 蛇神がここに来る直前、水を取りに行くまでは。 (・・・このままあいつの顔も見れないで死ぬのかな) 痛みはただ熱さに変わり、感覚はまるで大地と自分とを遠ざけるように鈍っていく。 目は徐々にその光を失い、断続的な暗闇が冥を覆う。 ・・・まだ昼間なのに。 頭が重くてどうにもならない。見回そうとしても、胃の中がそれを拒否するかの様に気持ち悪い。 『辰・・・』 酷く悲しくなった。 冥にとって、死ぬことなどは特にいとう事ではない。 ただ、信二の顔を最期に見られず死ぬ事に抵抗を覚える。 『早く、帰って・・・来い・・・』 自分が事切れる前に。 『犬飼君』 大好きなトーンの音が頭の上から降ってきた。 『た、つ・・・?』 冥が、伏せていた金の瞳をこじあける。 そこには、確かにいつも隣に居る彼の顔が在った。 『犬飼君・・・済みません、もっと早く帰ってくれば良かった・・・』 悲しそうに信二が目を伏せた。 『・・・ばーか、平気・・・だ、こんなん・・・』 冥が、無理矢理強がる。 少しだけ、わらいながら。 『お前こそ・・・平気・・・か?』 冥の腕が、信二の腕を掴む。 起きあがろうとして居るのか。 階段に座り込んだ信二の体に、強く体重がかかる。 『・・・・ええ』 信二は優しくその腕を外して、代わりにその掌で冥の目を覆う。 ふわ、とした信二の笑顔に、冥が安心したように目を閉じた。 覆う訳は、背中に積もるように刺さった刃物の山。 ・・・命を失うには、あまりに充分の。 『犬飼君』 『・・・ん』 消え入りそうな小さな声で、冥が返事をする。 『おやすみなさい』 『・・・』 返事は無い。 冥の腕がゆっくりと、かけられていた信二の肘からおちた。 掌を退かせば、子供のような愛らしい寝顔。 薄く開かれた唇に、最後の繋がりを示すようにキスを落とす。 この世に在った証拠。ただ純粋に、ふたりがふたりであった証明。 (そこに在るのが、たとえ不毛な愛情だったとしても) 『犬飼、君・・・』 何かの代わりのように、その名前を呼んだ。 その体が崩れ落ちるのを、遠くに感じながら。 |
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はーーーーい。
と言うわけでお絵かき掲示板絵をSS置換してみよう企画。 逆パターンはもうやったのでさておいて。 そろそろ自分の文才の無さに気付いてもいいんじゃないかと言うツッコミを背後に受けながらアップ。 辰犬ですよもう。辰犬。たーつーいーぬー。 自分自身そろそろ疑わしくなってきてます。 いいじゃないですか辰の一人上手なSSだって。 あの人元々一人上手の人種なんだし。(暴言) でも死○と言うツッコミはナシです。マニアックだから。 BGMはUA「petit」。テーマ曲は収録の「温度」で。 ++++++ 因みにこのSSは「バトミス同盟」様に投稿させて戴きました。 最後のキスシーンを不快に感じられた方には申し訳ありませんでした。 しかし表現上外せないシーンであった事をご理解いただければと願います。 同盟様から来られた方は、下の「バトミス同盟へ」をクリックしてお戻り下さい。 じゃないと多分、目がとても腐ります。 2002.1.8.カルマケイ 拝 |
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