空のあを


合宿所の裏にある水飲み場に、腰をついた。
コンクリートに含まれた熱が背中に伝わる。
『・・・はぁ・・・』
声に出る程強いため息を吐き、冥は目を閉じた。

さっき天国に言った言葉は自分でも少しきつかったと思う。
けれど本音であり、真実。
・・・言い方には少し問題あるのかも知れないが。
きちんと沈むべき場面で沈まないと、誰も助けてはくれない。
もがけばもがくほど泳ぎは中途半端に上達してしまい
井の中の蛙ではないが、周りからある程度一目置かれるようになる。
・・・大変なのはそこからと言う事を、冥は痛いほど解っていた。
だから言ったのだ。
天国に向かっても。自分自身に向かっても。


『・・・』
ひとりで居るのは心地よい。
冥は喧噪が苦手だとかそう言うのではないが、五月蠅いのは嫌いだ。

ただひとり、いつも隣に居る彼の
独特の低いトーンを除いては。

5月の陽気は明るく、眩暈と痛みすら伴う。
冥はぼーっと空を見上げた。
雲のまばらな、機械的な程青く晴れた空。




キャッチャー用の防具を取って、身軽になった体に呼吸をとめた。
丁寧にそれらを自分の荷物の辺りにまとめ、冥の歩いていった方向を見る。
姿は無い。
『先輩、犬飼君見ませんでした?』
信二はとりあえずと、手近に居た大河に訊いてみる。
『Nnー?ああ、さっき水場の方行ってたZe』
猛臣がすっぽ抜けた暴投球を拾いに行っていて暇なのか、いつもより快く答えが返った。
『ありがとうございます』
一礼して、信二は大河に背を向けた。
こういう嫌味なまでの丁寧さは、大河は嫌いではないが。
『・・・・なぁ・・・』
大河が、信二の背を小声で呼び止める。
『何でしょうか?』


『虎鉄ー!次・・・』
遠くに放り出された白球を取った猛臣が、軽い走りで戻ってきた。
と、大河が一年と話をしているのが見えた。
大河は頭の後ろで手を組んでいる。
・・・遠回しに、誰かに核心を訊く時の癖。
猛臣は、ボールを持ったままそれを黙って見ていた。


『お前あのモンキーと色々喋ってたRo?』
目線も合わせず、先刻の会話を訊く。
『・・・私語を使っていた事ならば、私が謝ります・・・私が始めた事なので』
『や、俺だってやってるかRa、それは別にいーンだけどYo』
大河が、言葉を誤ったかなと頭を掻く。
『では何か?』

大河が、頬に伝う汗を指先でこすりあげる。
『俺は別に、あいつの動機くらいで充分だと思うZe』
いつの間にか訊いていたらしい。
信二の瞼が伏せられる。
『・・・けど、それと努力しないのとは別でしょう。
 私は単に彼をたきつけただけですよ』
怒ったように言い放つ。口調は穏やかなまま。
『・・・にしちゃあ、なんか芯のあり気な言い方だったけDo?』
意地悪げに、大河の口の端が上がる。
『それは・・・』
信二が言葉を詰まらせた。
酷く言いづらい事でもあるのだろうか。
『・・・言いたくなきゃそれで良いんだけどNa』

『いえ・・・。私の方が余程ぜい弱だと思ったから・・・』
小声で、信二が答える。
『え?』
大河も流石にそれは聞き逃してしまったらしい。
信二がもう一度、顔を上げる。
『努力も無く願いが成就されて居る猿野君への、ただの嫉妬ですよ
 ・・・私も彼と同じですから』

『では、失礼します』
もう一礼をして、水場の方へ歩いていく。


『・・・おい猪里Yo』
『ん?』
いつの間にか近づいて聞いていた猛臣に、大河が気付く。
『あいつ、願いが・・・って凪の事だよNa』
『まあ、あの一年(猿野)の事じゃけん。そうじゃなかと?』
『・・・ならあの眼鏡の相手って誰Da・・・?』
『・・・・・・・さぁ・・・・・・』





『犬飼君』
閉じた目の向こう側から、慣れた声が聞こえた。
『・・・』
返事の代わりに、冥がまぶたを上げる。
信二が、いつの間にか傍らに立っていた。
『こんなとこで寝ると、また熱出しますよ』
『・・・寝てねーよ・・・』
言葉とは逆に、眠たげに目をこする。
『・・・今日はもう、練習止めておきましょうか』
そんな冥を愛おしげに見つめながら、隣に腰を下ろす。
『・・・ん』
答えもままならず、また冥の瞼が閉じられる。
『寝てて良いですよ。誰か来たら起こして差し上げますから』
信二の言葉に、冥が体を傾ける。
信二の体にその体重をかけて、小さく寝息を立て始めた。


『・・・私』
冥は深く眠っていて、その言葉に反応する事はない。
『別に、まだ貴方が昔みたいな笑顔みせてくれなくても良いですよ』
昔には帰れなくても。
今は貴方が側にいる。
貴方がただ頼ってくれる。
貴方が私を好きでいてくれる。
それだけで。


『いつか貴方が笑ってくれるなら私
 溺れ死んでも構いませんよ・・・ねぇ』


遠くに太陽がそびえ、その下を幾粒もの空が飛ぶ。
愛してるなんて言葉はそこには余りに無力な気がして
信二は、言葉を止めた。


34話後半あたりの話ですね〜。
猿野がぶんぶんと練習してる時、二人はラヴってました的な。
34話で自由練習1日目は終わってるみたいなので、
勝手気ままに阿呆ノヴェル作成。ごめんね信也。

今回は群像的な部分を強めたかったんですが
どうもただの支離滅裂になってしまいました。

多分ですね、冥たんも辰っつんも、猿野に言った言葉は
全て自分にも言っているのではないかと思ったのですよ。
『溺れ死ね』も『ちっぽけ』もね。

てゆうかね・・・
もうSS大スランプでしてね・・・
変なとこ満載でも許してね・・・
何も言わないでね・・・。

て言うか微・猪虎猪で済みません。
カルマは因みにどちらかと言うと猪虎派です。
そして方言の間違いには目を瞑ってやって下さい。

2002.1.10.

踊らされるのも悪くないですね