stage1>>彼の人は何を思う

  出席番号10番 椎名 
 
 
 
  




「翼ッ!!」
建物を出たところで、小声だが確かに誰だか分かる声で自分を呼ぶ者がいた。
その声はいつもよく聞くもので、この異質な状況の中でそれだけが酷く日常のものであった。
「柾輝・・・!?」
辺りは薄暗く、建物の周りは木や草で覆われていている。
その茂みが動くかと思うと、ひょっこりと浅黒い肌の少年が顔を出した。
いつもと同じ、何も変わらないこいつの顔。
「・・・元気?」
俺はいつもの余裕の笑みを浮かべ、軽い口調でそう言った。
(不思議なもんだよな、殺し合いの場なはずなのにコイツが現れた途端にこの場所が日常のものになる)
俺の言葉にククッと笑う柾輝を目にして、俺も笑う。
「・・・次の次が渋沢だったよな」
柾輝と同じ立ち位置にすばやく移動しながら(ここで立っているのは危険だと判断した。ったく、玲も「待ち伏せがあるかもしれないから 気をつけてね」なんて言ったせいで、皆俄然やる気出ただろうなぁ!殺らなきゃ殺られるってねッ!!)、聞いているというより自分で 確認するために声を出した。
「渋沢に声掛けるのか?」
「・・・あいつは他のヤツみたいにトチ狂ったりしてないだろうし、何かここを脱出できる方法も知ってるかもしれない。 それに、やつがいると割増し攻撃してくるヤツも回避できると思うぜ?」
武蔵森の守護神様の人望はすごいからな。この殺しのゲームに参加したやつで、あいつを知らないやつはいない。
それに・・・もし何かあったとしても俺にはちゃんとした武器もある(渋沢が何を持っているか分からないが)。
そう思っているとざっと音がして、ビクリと身体が反応する。
俺の次のやつ(設楽とか言ったか。知らない顔だった)が建物から出てきて、猛スピードでそこから離れていくのが見えた。
声を掛ける気にはなれなかった。知らない者と行動を共にするのは避けたかったからだ。危険性もあるが、何より気分の問題。
「・・・翼、ここ逃げる気なのか?」
設楽を見送りながら、柾輝が聞いてくる。
何も言わなくても柾輝も同じ気持ちだったのだろう。設楽については何も言ってこなかった。
「当たり前。何?柾輝はやる気なのか?」
ふっと笑って俺は柾輝を見る。
「んなわけねぇだろ!だったらお前に声なんか掛けねぇよ」
「いいや分からないね。油断させといてぐさってのはこのゲームじゃ当たり前な事だしな」
「・・・そうなのか?」
「そ。せいぜい気をつけな・・・でも僕は人殺す前に、人殺さないでこのゲームに勝ってみせる。 人間が作ったゲームなんてな、絶対どっか抜け穴があるんだよ。そこを見付けてやるのが俺の今の勝利手段」
建物の入り口を見ながらそう言う。口調が強くなるのが自分でも分かった。
「それでもだめなら、後どうするかはその時考える。もしかしたらお前を殺すかもしれない・・・どうだ?どっちのゲームにのる?」
不敵な笑みを柾輝に向ける。聞かなくても、もう答えは分かっていた。
「CB(センターバック)の言う事に異議はないぜ。俺をどう使うかは、お前の力量だからな」
「ああ、まあ見てろよ」
まるで、サッカーを楽しんでいるような会話だった。
そうだ。本当なら今頃は選抜の合宿場にでも着いているころだ。本当になんで僕らが選ばれたんだろう。
当たる確立なんて、宝くじ一等よりかちょっと低いくらいの割合なんじゃなかったっけ?
「翼、渋沢が出てきた」
はっとする。
いけない。
さっきからこの非日常な場と、柾輝がいるいつもの日常の差がないせいか、緊張感が欠如しているような気がする。
まるでここが、無人島ではなく飛葉中のグラウンドのような錯覚だ。
柾輝がいるせいで。
・・・・いや、柾輝のおかげか。
だが、嫌でもこの場が殺し合いだと感じる出来事が、まさに起こった。
パンッと軽い音が間近で聞こえた。
「渋沢!!??」
柾輝の声。
なんだ?
入り口に出てきて、周りを警戒しながら歩いていた渋沢がいきなり後ろに倒れる。
ように見えた。
そして、すぐに右に身体を捻る。とまたパンッと音がする。
さっきまで渋沢が倒れていた場所に弾丸が撃ち込まれたのが見えた。
そう、弾丸だ!!
渋沢はかなり早いスピードで、建物の中に再び入った。
まだほんの数歩歩いただけの距離なら、俺達がいる茂みよりもその建物に入ったほうが早い。咄嗟に判断したんだろう。
しかし確かに銃からは逃れられるが、再度建物の中に入るということは政府の連中に撃たれる危険性もある。
玲が言っていた。
廊下に立ち止まっている者は撃つ、と。
また銃声。入り口近くにいるだろう渋沢に向けて再度撃ってくる。
コンクリートの壁に銃弾がめり込んだ。
「誰だ!?誰が撃ってる!?」
隣にいる柾輝が動揺の声を上げる。
「さあ?誰だろうね・・・・」
そう言って僕は支給された袋から武器を取り出した。
「翼、おい、これでどうする気だよ・・・」
「どうするもなにも、あれじゃあ渋沢に限らず誰も出てこれない事になるぜ。だからおっぱらうのさ」
言いながら、静かに場所を移動する。相手が撃ってきた時にそなえて身を隠す必要があった。
「だけど翼、お前、銃なんて使えんのか?」
柾輝も先程撃った相手に悟られないように、移動。俺とは左隣になる木に隠れた。
「僕を誰だと思ってんのさ、銃くらい撃てる・・・でも、言っとくけど威嚇だぜ。 このままほっておいたら、渋沢に限らず後のヤツらも出るに出られない。顔も知らないヤツもいるけど、政府のヤツらに蜂の巣にされ るのは確実だ。それじゃあ、あんまりだろ?」
五助や六助もまだだ。それに、政府の連中の好きにはさせたくなかった。
「それに撃たれるのが分かってて飛び出してきたやつが、あの銃に殺られるのも見たくない」
助けたい、という気持ちではなかった。ただ、自分の見える範囲で人が死ぬのは見たくなかっただけ。ただ、それだけだった。
「・・・・・・僕は、僕が思う、できる限りの事をする」
「翼・・・・」
柾輝が俺を食い入るように見つめた。
その視線を心地良く感じながら、辺りに気を配る。
銃の音がしたのは3発。渋沢を狙った一発目は反れたか、当たっても致命傷ではなかったらしい。渋沢は元気(?)に走っていた。
だが2発目は見事に渋沢がいた場所を狙ってきた。命中率が上がっている。
今度、ここを出てきたやつは一発で仕留められるかもしれない。
「翼、俺は何をすればいい?」
「できるだけ、身、隠してな。僕が撃ったら相手は何発か手当たり次第に撃ってくるはずだ」
「分かった。気を付けろよ」
一瞬、視線を交わす。ああ、やっぱり柾輝がいてくれてよかった。
お前がさっきここにいて、ここで俺を待っていてくれたから俺は今こういう行動を取れてるんだ。
もしお前がここにいなかったら、あの渋沢を狙ったやつと同じ事をしてるかもしれない。
玲の助言どおり、ここで待ち伏せをして殺しておけば後は随分楽だから。
俺は心を落ち着かせるように、深く息を吸う。
―――――― よし。
コルトガバメント45口径を両手で構え、音がした方向に向かって俺は初めて、人に向けて銃を撃った。
2発続けて撃つと、素早く身体を木に隠す。
すると間髪入れずに、相手が撃ってきた。
相手もこちらと同じく勘らしいが、俺が隠れている木を銃弾が掠める。
計5発ほど撃ち、銃声が鳴り止んだ。
弾切れか。
俺は駄目押しに、また身を乗り出して1発だけ撃った。
とっととビビって逃げろっての。
そう思って撃った。
「ぅぁッ!」
ここからでも、小さな悲鳴が聞こえた(誰なのかも分からなかったが)。
まさか、当ったのか?
ガサガサと音がして、相手が慌ててこの場を去って行くのが分かる。
威嚇のつもりだったのに、当るとは。
「・・・・・・渋沢!椎名だ、相手は追っ払ったぜ」
俺は聞こえるように大きな声を発した。危険だが仕方ない。
銃を撃った相手が俺じゃないという保証はどこにもないが、俺を疑うか信用するかは渋沢次第だ。
そんな俺の懸念も無用だったようで、何秒も経たないうちに渋沢が出てきた。
「渋沢、こっちだ!」
柾輝が誘導する。
渋沢は素早く走って、俺達のいる茂みへと入ってくる。
今度は何も妨害はなかった。
「大丈夫か?」
「・・・・・・ああ」
渋沢の身長は高く、俺の背丈では顔をかなり上に上げなければならない。
俺の問いに渋沢は頷くが、心持ち顔は青褪め、肩で息をしていた。
「弾は当ったのか?」
「いや・・・」
普段とは違い、明確で細やかな答えはなかった。
・・・仕方ないのかもしれない。いきなり命の危険に遭遇したのだ。
しかも相手は渋沢だ。俺とは違い、人を殺そうだなんてこれっぽっちも考えていなかったのだろう。
それを当たり前だと思って、周りにもその当たり前を望んでいたはず。
だが、現実はこれだ。
確実に、人を殺そうとしている人間がいるのだ。それを身を持って体験した。
「・・・・・とにかく、ここはもう危険だし。どっか落ち着いた場所に移動する」
渋沢にとっても、それは必要だと俺は判断する。
「待てよ翼。五助達は・・・」
「大丈夫。C−5にある工場でおちあう予定になってる」
教室で頻りに俺の方を見ていた五助達に、手で合図を送った。
表しやすい「C」に、黒板に張ってあった地図を見て廃工場がある「5」のエリアを選んだ。
そう説明して、とにかく俺達はそこに向かった。

気になったのは将のこと。
あいつは絶対人なんて殺さない。殺せない。
だが、このゲームではそれは殺されるだけのただの存在だ。
大丈夫。あいつは運もいいし、ここってとこでしっかりやれるやつだ。
生きていたら、また会える。
そう、思うことにした。





だが、風祭に会う前に椎名は息絶えることになる。