stage1>>彼の人は何を思う

 出席番号13番 杉原 
 
 
 
  



パンッと言う音がして、僕は心臓が跳ね上げる程に驚いた。
「あら、もう撃ってるのね。渋沢君、大丈夫かしら?」
場違いに呑気な女の声がする。
そうだ、撃ってる!
誰かがもうやる気を出して、この監督が言ったとおり建物から出てくる者を撃ってるんだ!
ゾッとした。
何がって・・・・?
切り換えが早く、もう人を殺そうとしている者よりも、子供が死ぬというのに監督の傍観を決め込んだ軽やかな口調よりもなによりも、 次に出て行くのはこの僕だからだ。
また銃の音が、今度は2発響いた。
その後、何も音はしない。
「13番 杉原!」
「・・・・・・はい」
余程青褪めたいたのか、僕の顔を見て西園寺監督はくすりと笑って頑張ってねっと声を掛けた。
どこをどう頑張ればいいと言うのだ。この調子だと渋沢はもうやられているだろう。
そうして僕はこの建物から出られずに、後ろのやつ(背が高く、威圧感のある男。名前は・・確か天城だったかな)に殺されるか、 建物から出て銃で撃たれるか、だ。
例え後ろのやつに殺されなくても、ここに留まる事は政府の連中が許してくれない。この建物から出て行かなければ射殺されるか、 されなくても20分も経てば禁止エリアになって首輪が爆発する。
万が一、うまくこの絶望的状況をどうにか逃れても、僕にはこのゲームで優勝して生きて帰れるのかは自分でも疑問だった。
震える手で、カバンを受け取りドアに手を掛ける。
ああ、ここを開ければ、もう殺し合いが始まるんだ。
―――――― 死にたくなかった。
うっすらと涙が目に浮かぶ。
「早くしなさい!」
無情にも急かされる声で、僕は慌ててドアを開けた。開けざるおえなかった。撃たれるのは嫌だ。
―――――― 死ぬのは嫌だ。
廊下に出て、ドアを閉める。
教室よりも外はひんやりとした空気で、ぶるっと身体を震わせる。
そうだ、武器ッ!
どんなに僕に体力がなくても、自分の身を守れる武器があれば話は違う。
銃ならば、僕より体格の大きな身体のやつでも一発で仕留められる。僕の後ろのやつでも!
MFの能力を活かして、瞬時に周りの状況を確認する。出口とは反対側の突き当たりに部屋が有り、軍服を着た兵士数十人が中にいた。
出てきた生徒を監視しているのか。
立ち止まって撃たれるのも勘弁だ。
僕は出口に向かって歩を進める。怪しまれないようにリュックを前に持って、袋を開ける。
だが、確認した武器は僕の期待を見事に打ち破った。それは何とも頼りない、果物ナイフだった。
一瞬、頭が空白になった。
はは、何だよこれは・・・これでどうやって僕に戦えっていうの?
悲しみを通り越して、むしろ口元に笑みさえ零れそうだった。
―――――― しかしショックを受けている場合ではない。
出口には僕を殺そうとしている者がいるんだ。
果物ナイフをしっかしと手で握る。自分の手が震えているのが分かった。
辺りは薄暗くて、廊下の窓に光はない。視界は晴れなかったが、持っていたナイフがきらりと光って意外と心強かった。
さっきまで自分がいた教室を横切ると、また同じような部屋が隣になっていた。
と、ナイフを眺めていた視線を前へと向き直る。
僕は酷く驚いた(いや、もう今日で何回驚いたか)。てっきり撃たれたと思っていた渋沢が、入り口近くにいたのだ。
入り口の横の壁に凭れて、外を伺っていた。よく政府の連中に撃たれなかったものだ。
ゲーム開始が日の沈むんだ時間で助かったらしい。
政府の連中には出口辺りはよく見えていなかったのだ。
渋沢はまだ僕には気付いていない様で、外の様子を警戒していた。。
腹を左手で抑えていて、息が荒い。やはり撃たれたのか。だが、まだ生きている!
パンッと2回連続して、また銃声がした。
僕の身体はビクリとおもしろいくらい、跳ねた。
(・・・・まだ撃っているのか!渋沢を狙って!?)
教室で聞こえていた音は間近だとうるさいくらいで、おかげで僕に一層“死ぬ”という現実を味合わせた。
そうして、また銃声。今度は何発も連続して鳴り響く。
僕はその音で、僕の身体から急激に体温が下がっていくのを感じた。
近い未来、誰かの銃で僕の身体に穴を開けて、僕は死ぬのか。
あっけなく、誰に看取られる事なく、僕は消えていく。
―――――― 死にたくなかった。
誰にも僕を殺させたくなかった。
ダッと身体は動いて、渋沢を後ろから持っていた果物ナイフで刺した。
だがそのナイフは深く渋沢の身体に埋まる事はなく、何かにつっかえて刀身は半分も刺さらなかった。
「・・・・・杉原?」
その顔を僕は、忘れられるだろうか。
振り返った渋沢は、何が起きたのか何をされたのか分からないようだった。
しかし不思議げな彼の顔が、現状を理解していく様が、僕の目に焼き付いた。
「・・・な・・ぜ・・・」
酷く苦しげな表情を浮かべた。刺さってはいないのに、痛むべきところは何もないのに。
「あ・・ぼ、ぼくは・・・」
自分でも笑えるほどに、動揺の声を上げる。
その声を遮って、明瞭な声が建物の外から聞こえた。
「渋沢!椎名だ、相手は追っ払ったぜ」
椎名?
確か、あの女の子みたいな子か?
その声に反応したのは、呼ばれた渋沢だった。
僕から少しでも早く離れたかったのか、すぐにこの場を走り去った。
途中、僕が刺したナイフを抜き取る後ろ姿を呆然と見ていた。
ただ、見ていた。
いつまでそうしていただろう。ほんの1,2分だったのかもしれない。
頭上から声がした。
「おい、何をしているんだ」
ビクッと身体が反応する。振り返ると、天城がそこに立っていた。
背はやはり高く、僕を見下ろしている。威圧感があった。それが僕には、酷く責められているような錯覚になった。
「ぼ、僕は・・・死にたくなかったんだ。殺されたくなかった・・・だから」
「・・・・杉原だったか?何を言っている?」
怪訝げに僕を見る。
誰に言い訳しているのだろうか。だけど、言わずにはいられなかった。
「早くここから出ろ。政府の連中に撃たれていいのか」
撃たれる?
それは嫌だ。―――――― 相手を傷つけてでも、それでも死にたくなかった。
僕は駆け出した。
この建物から出る。
天城の声がしたような気がしたが、僕にはどうでもよかった。
体力の続く限り、僕は森の中を走った。
ただ何も考えずに走った。
それでも渋沢のあの表情が忘れられず、僕の脳裏に掠めていた。