stage1>>彼の人は何を思う
出席番号09番 桜庭
ちきしょう!!ちきしょう!!ちきしょう!!
なんで俺がこんな事になってるんだ!?
選抜に呼ばれて、やる気十分受かる気十分だったのに、なんで今俺はここにいるんだよっ!
桜庭は痛む右肩を押さえながら、木に凭れ座っていた。
辺りはすっかり暗くなっていて、虫の鳴き声が夜の静寂を遮っている。
ズキズキと肩は痛みを訴え、それは収まるどころか酷くなる一方だ。
(ああ、いてぇ)
気を散らすように空を仰ぎ見る。
木々の間から見える空に、星は見当たらない。明日は雨かもしれなかった。
(雨だったら、いいのにな)
桜庭は思った。
水がもう、ペットボトル1本しか残っていない。それも今日の夜のうちに飲んでしまうだろう。
雨なら水が得られる。民家に忍び込むのは最終手段だと思っていた。誰かに会いそうだったから。
先程までとはうって代わって、弱気になっている自分。
銃は持っていても、この腕ではもう撃てない。
撃ったとしても狙いは大きく逸れるだろう。
・・・簡単に考え過ぎていた。
待ち伏せは有効な手段だと思ったが、まさか他のやつらが撃ってくるとは思わなかった。
しかも自分は誰一人として、傷つけられずに(渋沢には当たったと思ったが、出血も何もなかった)自分が武器を扱えない致命傷を受ける事になるとは。
俺ってやっぱ短絡的?
これじゃあ、鳴海と一緒だよな。あいつはあの監督に刃向かって左足を撃たれた。今頃はどうしている事やら。
左手に握ったコルトパイソンの感触だけが、使えないと分かっていても俺を安心させる。
ほっと息を吐いた。
吐く息は熱いように感じる。身体中が火照っている感じ。
この傷が熱を引き起こしているのかもしれなかった。
喉が無性に乾いて、銃を足元に置いてペットボトルに手を伸ばす。
と、声がした。
「・・・・誰かいるのか?」
この時の俺の行動は素早かった。実際には遅かったのかもしれないが、この熱のある身体で瞬時に銃を手に取り、声のした方に向けて撃った。
何発か撃つつもりだったが1発で止めた。いや、止めざる終えなかった。
銃を撃った反動が思ったよりも傷に衝撃を与えて、痛みで撃つ事ができない。
しかも相手を狙って撃ったつもりだったのに支える手の力がないせいか、その弾丸は見当違いの方向に虚しく空を切るだけだった。
「・・・・っちきしょう!」
罵倒する。そして後ろをくるりと振り返って俺はそこから逃げた。
攻撃も出来ないのなら、逃げるしかない。
銃以外の食料と水は諦めるしかなかった。殺されるより、今、自分が生きる手段を選ぶ。
待ち伏せしたのも、銃を撃つのも、逃げるのも。ただ、それだけのためだ。
俺は、生きる。死ぬなんてごめんだ。
「待てっ!そっちには行くな!!」
後ろを追ってくる気配にゾッとした。
だが、もしかすると相手は銃を持っていない?
持っていたなら今、俺を撃つ事は可能なはずだ。
「・・・持ってなくても結局は同じだよな!」
ザッと勢いをつけて大きな岩を飛び越える。うまく着地したつもりだったが、ぐらりと身体が揺れて膝が地面に付いた。
ちょっと走っただけで、息が上がり汗が吹き出る。
この熱のある身体では、例え相手が銃を持っていないという事を考慮しても勝てない。
取っ組み合いになっても俺には多分、相手を殴る力もない。
全身に力が入らないのだ。
しかも相手は何か銃以外の武器を持ってるかもしれない。刃物とか持ち出されたら、避け切れる自信もなかった。
ぐっと力を振り絞って立ち上がる。
くらりと頭が朦朧として立ちくらみを起こすが、そんな事に構っていられない。
早く、逃げなければ。
だるく重い足を1歩、踏み出す。
しかし、その歩みを遮るように自分に声が掛かった。
「待て!」
声のした後ろを恐る恐る振りかえると、暗闇で見えにくかったが岩の天辺に誰かがいた。
俺には誰だろうとどうでも良かった。誰であっても、結果は同じ。殺すか殺されるか。
ただ気になるのは相手の武器。しかし暗闇にいる相手の手には武器らしくものは何も見えない。
制服に隠しているのかもしれなかったが、それでも、ホンの少しでも出すのに時間がかかるはず。
俺はくるりと相手に背を向け、岩を飛び越えたそこから50Mほど先にある木まで全速力で走った。
50Mは、通常の状態なら7秒12だ。それも今日で6秒台に突入せんばかりの気迫のこもった走りをどうぞご覧あれ。
腕の傷なんてなんのその。腕を振って足を上げて。
木に到着したら、そして相手が近付いてきたら。どうする?
もう一度銃を撃つ。当たらなくても相手への威嚇だ。
そして、次はどうする?
自分が助かるにはどうすればいい?
どんな手段がある?
最も良い選択をしなければ、自分はゲームオーバーだ。
リセットなんてない。
「待てっ!!行くな!」
誰が待つか。
俺は今、選択をしたんだ。攻撃できないのなら、ひたすら逃げてやる。
誰からも殺されないよう、逃げる。
今の俺にとって最善の選択だろう?
もう少しだ。もう少しで辿り付く。着いたら、まず銃を構える。近付いてきたヤツを撃つ。当たれば、もう言う事なしだ。
「待て!・・・・待」
ヤツの声は、俺の耳に最後まで聞こえなかった。
首に何かが引っ掛かり、走っていた俺はいきなり後ろから地面へと倒れた。
俺の視界は、目指した木から星の見当たらない空へ、突然変わった。
「え・・・?」
全速力で走った勢いをそのまま、背中の強打へと変換された痛み。俺はそれを感じ取れなかった。
その痛みよりも、首が。喉が。
焼けるように熱かった。
「あ・・・が・・・?」
声を出していたのだろうけれど、それは声にはならず。
そのまま、意識は途絶えた。
「・・・・これは俺が殺した事になるのか?」
不破は桜庭が死んだ事を確認してから、こう発した。
星の見えない空の下、不破が張ったワイヤーロープにて桜庭はゲームを終えた。