[ラブ・ドラック] 授業が全て終って、部活がもう少しではじまる時間。 忍足と向日は部活にもいかずに、今だ教室にいる。 向日は誰のかは分からない、一番後ろの席に座ってマンガを読みながら、そして忍足は、 その後ろでうろうろと所在なげに教室をうろついている。 教室にはこの二人以外、誰もいない。 窓際に座ったため、天気の良い午後の太陽の光が彼らを照らす。 廊下から聞こえる笑い声や、グランドからの喧騒をBGMにして向日の耳に入ってくる。 適度な騒音は、耳に心地良い。 向日はマンガを読むのに集中していると、彼の神経を逆なでる音が教室に響いた。 ドカっとゴミ箱を蹴る音。 そしてそれが倒れる音が後ろから聞こえる。 向日はうんざりしながら振り向き、教室のゴミ箱を蹴り倒した親友を見る。 いつもは余裕の表情を見せる級友が、今は酷く苛立っていた。 原因は、今、ここにはいない。 向日は盛大な溜め息を付く。 「なぁ、侑士」 マンガを読むのを止めて、忍足に声を掛けた。 しかし、向日が呼びかけても返事は返ってこない。 構わず続ける。 「文句あるなら言えばいいじゃん。物に当たってないで」 そう言うと忍足は 「うるさいわっ!!」 と大声で怒鳴られた。 廊下にまでその声は響く。 荒れる忍足なんて、ほんとに見物。 跡部たちが見たら、かなり驚くだろうな。そうなったらおもしろいかも。と忍足が知ったら殴られそうな事を向日は思った。 向日が良からぬことを考えていると、突然その場の空気を一蹴する気楽な声が聞こえる。 「あっ、待っててくれたんだ・・・・」 声がしてそちらを向けば、ドアの前で佇むジローがいた。 「・・・ジロー」 忍足が小さく呟く。 安堵したような、それでいて不安そうな頼りない声。 (あ、今の侑士の顔、見たくないかも・・・・) きっと、どうしようもなく、稀な顔だ。 「・・・・おっっせーよ!何分待ってたと思ってんだよー」 向日は誤魔化すように、ジローに悪態を付けた。 実際、10分くらいしか経っていないが忍足の状態を見ているとこちらまでが時間を長く感じてしまった。 「先に行ってればよかったのに!」 ジローは笑いながら、俺らに近付く。 屈託無いジローの微笑みは、日に照らされて眩しかった。 向日は座ったまま、ちらりと忍足の方を覗き見る。 (・・・・もしかして、緊張してる?) 眉根を寄せてジローを見ている忍足は一見機嫌が悪そうに見えるが、ぎゅっと握った手が案外力が入っているのだろうことは、 中学3年間付き合った所為で難無く分かってしまう。 向日は普段の自分なら、真っ先に勢いよくジローに問い掛けることができない。 (だって今の忍足見てると、死刑申告くらう前のヤツみたいなんだもんなぁ) 傍から見たなら、ジローがどう応えたのかなんてどんなバカでも分かるはずなのに。 それなのに、忍足は不安がってる。 (恋をすると周りが見えなくなるってホントだったんだ) 向日が喋らないため、少しの沈黙が流れる。 その静寂を崩したのは、忍足だった。 「・・・どうやったん?」 向日が座っている机の隣がジローの席。 忍足は机に置いてある、見た感じ軽そうな鞄を持ちかけていたジローに聞く。 心は気が気でないだろうに、声はいつもどおりの慄然とした響きだった。 (どうせ、答えはNOに決まってんじゃん) 「泣いてたよ」 (ほらね) 即座に切り返したジローに、向日は心の中で拍手を送った。 話を濁したら、忍足がダメになるって知ってるんだ。 頭で分かってるんじゃなくて、本能なんだろう。 でも。 忍足の気持ちは分かっても、忍足がどうしてこんなに不安なのかは理解していないんだ。 「・・・やっぱり断るのってカンタンじゃないね。せっかく、スキだって言ってくれたのに・・・」 ジローは自分が思ったことを、すぐに口にする。 こいつのいいところであり、悪いところでもある。 自分を好きになってくれた人がいることは、単純に嬉しい。 その想いを乗せた手紙は純粋に嬉しい。 その好意を無視せずに、誠意を持って、面と向かって断りに行く。 相手の気持ちを大切にしたジローの行動は、向日も立派だと思う。 だけど。 そうだけど。 向日と同じように捉えることのできない人間だっているんだ。 ジローの一言一言に、右往左往している人間が間近かにいることは自覚してほしい。 「・・・・せやったら、付き合えばよかったやん」 忍足が不機嫌も露わに吐き捨てた。 ―――そう、こういう人間だっているんだ。 「侑士、早くクラブ行こ」 見ていられなくて、向日はこの話を終らせようと立ち上がった。 止められないのは、分かっているけど。 「どうして?オレ、好きな人以外と付き合わないよ?」 向日の思いやった行動も虚しく、忍足の投げやりな言葉にジローが食って掛かった。 ジローの気持ちも分からなくはない。 『付き合っている好きな人』にそんな事を言われたら、こう反論したくなることも。 でも、相手はあの忍足だ。 「じゃあなんで会うん?好きなヤツおるのに?」 忍足の眼は、ジローを見下してるように向日には見えた。 声は剣呑に満ちていて、辺りに重い空気が流れ出す。 「せっかく好きだって言ってくれたんだよ?ちゃんと会って断りたかったから・・・だから」 「そんなんムシすればいいんよ」 氷のような冷たい忍足の声で、ジローの言葉を遮った。 続く、忍足の、感情のこもらない声。 「好きなヤツおるのにわざわざなんで会いに行くん?どうでもいいやんそんな女。勝手にロッカーの中開けて手紙入れて、 相手の都合も考えずに時間指定して会えって?そんな女、ずっと待たせとけばいいやん。ジローがわざわざ行くこともな かったんちゃうん?」 「忍足ッ、言い過ぎ・・・」 向日の言葉も、畳み掛けるような忍足の暴言は止められない。 「せやのにお前は会いに行ったんやで?・・・・その女に何か特別な用事でもあったんか?」 含みのある言い回し。 嘲笑みを浮かべる忍足。 向日は絶句する。 2.3秒たって意味深な台詞を理解したジローが、忍足を殴り飛ばす。 それ光景をを微動だにせずに、向日は見ていた。 岳人サン視点のジロ忍。 痴話喧嘩は周りが大変だ。 こういう忍足サンだいすき。ビバ!黒忍足!!(でも受なんよ)