[ラブドラック] 怒りのあまり興奮したジローが向日の前を走り去る。 下を向いていて表情は見えなかったため、怒っているのか泣いているのか分からなかった。 でもきっと後になって、忍足を殴ったことを必ず後悔して悲しむだろう。 教室からジローが出て行く後ろ姿を見て、向日はそう思った。 「・・・・」 再びこの教室は静寂となり、向日と忍足二人になった。 向日は声も掛けずに、忍足を見やる。 ジローに殴られた勢いで、豪快に机や椅子を引っ繰り返して忍足は床に伏していた。 気絶したかも・・・。 ジローの手加減のなさは、周りの被害を見て一目瞭然だ。 向日は忍足に近付き、顔を覗き見る。 と。 「・・・あんま見んなや。金とるで」 「うわっ!起きてた!?」 大げさに驚く向日に、さっきまで完璧イっとったわ・・・と力なく笑う。 しかし実際見えたのは口元だけで、それ以外は中途半端な髪の長さのせいで隠れていた。 唇が切れたのか、口元には血が流れ出て見ているだけでも痛そうだ。 忍足は起き上がる気配もないので、向日は近くに倒れている椅子を立て直し、背もたれを前にして座る。 「一度、言ってやりたい言葉、言っていい?」 椅子から忍足を見下ろしながら、向日はゆっくりと言葉を掛ける。 「・・・なん、や?」 口内が切れて痛むのか、歯切れのよくない忍足の声。 構わず、向日は続ける。 「侑士ってバカだろ?」 沈黙。 「・・・・なんやの、それ」 しばしの時間を置いて忍足が笑う。 教室に響いた、乾いた笑い声。 ああ、哀れだ。 忍足は低く笑いながら髪を掻き上げ、そのまま目元を腕で覆い、結局顔は見れなかった。 (バカ顔、見てやりたかったのに・・・・) 向日は皮肉にもそう思った。 向日の足元に、先ほど読んでいたマンガがふと目に付いた。 開いた状態で転がっている。 読もうか、と思って床に伸ばした手を途中で止めた。 忍足はツボに入ったのか、それとも自分のあの行動に対して自嘲しているのか、まだ声を上げて笑っている。 自分はこの情けない笑い声をBGMに、読書を楽しむような悪趣味な神経ではない。 そうしてその笑いは、じきに震え出した。 いつの間にか、忍足は両腕で顔を覆っている。 泣いている。 嗚呼。 嫌でも想像できる。 拝んでやりたかった、忍足の顔。 きっと大声で泣き出したいのに、でも歯を食いしばって堪えてるんだ。 変わりに自分の愚かさを、嘲笑ってる。 (ほんと、バカだよ・・・・) そんなに欲しいなら、泣いて縋るくらいすればいいのに。 陳腐なプライドも捨てられず、かといって悠然と構えることもできないで。 それも、できずに。 挙げ句、死ぬほど女に嫉妬して。 酷く、滑稽で醜かった。 何度もこの光景を見て、何度も向日はそう思う。 「・・・言えばいいのに、“行かんといて”って」 笑いの絶えない教室で向日はつぶやく。 忍足に聞こえたかどうかは分からなかったが。 いつものように冗談っぽく言えば、そしたらジローも照れながら笑って・・・。 行くのをやめただろうに。 (侑士が思っている以上に、両想いなのになぁ) 大きな溜め息を付く。 向日がそれを教えてやっても、本人がそう感じないと第三者が何を言っても無駄だ。 ≪どうしてそんなに不安なの?≫ ふと、どこかの誰かが歌っていた歌詞のフレーズを思い出す。 (ほんとに、どうして忍足ってこんなに不安がってるんだろう) この世界は男と女が愛し合うのが普通で。 自分も女の子としたいって思うけど。 ジローと忍足は異常・・・なのかも。 でも女の子にも興味があるのは知ってる。 ―――だから忍足は不安がってるんだろうか。 (もしかして、どうしたって女に勝てないって・・・思ってる?) 「・・・・侑士」 笑い声はもう消えていて、掠れた嗚咽が耳に痛い。 「・・・羨ましいって思うよ、お前らのこと」 反応はない。 聞いてるのか分からない。 でも、構わなかった。 何度でも言ってやるよ。 だって、自分は彼らの“想い”を聞いてしまったから。 二人揃えて、こう言ったんだ。 『ジローだから』 『忍足だから』 好きなんだって。 この世界は男と女が愛し合うのが普通だけど。 ジローと忍足は異常かもしれないけど。 でも女の子にも興味があるのは知ってるけど。 え? 両方愛せるって?男も女も? でも二人揃えて、ああ言ったんだ。 「・・・“特別”ってこういうコトを、云うんだよな」 そう呟いたら、泣いていた彼が少し笑ったような気がした。 (俺も、早くお前らみたいな・・・・俺にとっての“特別な人”に逢いたいかも) 言おうと思ったけど、今度は本当に自分が笑われそうで辞めておいた。 end 女々しい忍足、嫉妬しまくる忍足を書いてみたかったのです。 こういう忍足大好きなんですが、いかがでしょう? かなり嫉妬深いんですよ、女と話すだけでも根に持つタイプ(嫌だな、こんなヤツ!←でも可愛いと思うのです。私が) 手紙じゃなくても面と向かって告白しても何でもいいから批判して、女を貶すんですよ!(図々しいヤツや、とか媚びてるわ。とか!)こわーッい! 属性:女ですかね?私の忍足像って。激しく歪んでる・・・? でも可愛いから許す。私が(お前かいッ!) 後編読まれてからもう一度前編読んでもらったら、忍足の嫉妬がまたよく分かります・・・・(笑) 最後のシメは意味不明感があって、ごめんなさい。