私のところへ、彼等が訪れたのは、夏の暑い日だった。
2.酷く、怯えていた。
寮の廊下で突然気を失ったらしく、そのまま倒れていたのを近藤が見付けて、辰巳に頼んで渋沢を部屋へと運んでもらった。
近所の医者を呼んで診てもらったら、軽い疲労だと言って注射を打ち、薬を渡された。
―――――― 俺は酷く、腹が立った。
ヤツが目を覚ましたら、怒鳴ってやろうと思っていた。
(こいつはなんでも一人で無理して抱え込んでぶっ倒れて・・・後で俺らがアタフタしなくちゃならねぇのが分かんねぇのか!)
(そんでもこいつは、『心配かけたな』『大丈夫だ』『平気だ』なんてぬかしやがるッ!)
(平気じゃねぇからぶっ倒れたんだろうがっ!!!―――― ッ心配なんかしてねぇよ!)
(お前が倒れたら、俺や辰巳が大変なんだよ・・・!)
(だから、ちょっとは俺に手伝わせろよ!・・・言っとくけど俺は別にお前の事なんか心配してんじゃねぇからな!)
本音と言い訳がごちゃごちゃに頭を駆け巡る。
それに、また腹が立った。ムカムカする。
(絶対、渋沢が目開けたら文句の一つも言ってやる!そうじゃなきゃ、気がすまねぇ!!)
ここに笠井や近藤がいたら、回れ右をして逃げるような超絶不機嫌な顔の三上がそこに居た。
「うっ・・・ううっ・・・ひっく」
泣いてる・・・誰だ?
美沙?ま〜たお前、誰かに泣かされてんのか?誰だよ?兄ちゃんがやっつけてやるから。
「・・・っ・・・ひっく・・・ごめ・・・ごめんなさい・・・・」
美沙、大丈夫だって。俺がとっちめてやるからな!だから、泣くなよ・・・・。
「・・・な・・くな・・・?」
がばっと身体を起こす。
(夢?)
どうやら机の上で寝てしまっていたらしい。時計を見ると午前1時を過ぎていた。
ぶるり、と身体を震わす。
クーラーが聞いているこの部屋で、毛布も被らずに寝てしまい、身体が冷えてしまったようだ。
こういう時は渋沢が起こしてくれるか、毛布を掛けてくれていた。
(渋沢?)
そうだ、渋沢はベットで寝てるはず。今日倒れて・・・・
「・・・ううっ・・・うっ・・・ひっく」
「渋沢?」
後ろを振り返る。
「どうしたんだ!?しんどいのか?」
渋沢はそこに居た。
ベットの端に、何かに怯えるようにうずくまっていた。
「・・・・具合、悪いのか?」
ただ事じゃない渋沢の雰囲気に、俺は酷く焦った。こんな渋沢は見た事ない。
うずくまる渋沢の肩を掴むと、僅かに震えが伝わってくる。
「渋沢、大丈夫か?おい!?」
幾ら呼びかけても返事はない。
いつもは相手の目をしっかりと見つめている瞳に、今は何も映していない瞳。そこから止めど無く流れ落ちる涙。
『大丈夫だから』
いつもその言葉とあの笑顔で、人に全く頼ろうとしないお前。
「・・・どこが大丈夫なんだよ・・・・っ!」
喉が、締め付けられたように痛い。
自分の頬を伝っていくのが判った。
苦しくて、苦しくて仕方がない。
震える渋沢の肩を、俺はしがみつくように抱き締めた。