葛城ミサトは、メインオペレーターの一人、日向マコト二尉から既に第一級極秘計画の一つである、
『福音改造計画』。略称、ECP(Evangelion customize Project)の一部を知らされていた。
とは言えども、ガードが厳重なのか、日向から聞いた情報でも、
せいぜい、現在、完成したのは八号機と弐号機だという事と、
ネルフの司令と副司令クラスが知っている位である。
現在、その弐号機はケイジにいるが、
黒い糸で『極炎』と大きく刺繍された赤い布にその上を被せられて、
誰かが外さない限り、布の向こう側を見ることは出来なかった。
「ねえ…どうして、エヴァにあんな大きい布が被せられている訳?」
「何でも、誰かの命令で、『出撃時になるまで外してはいけない』と、
第二支部からエヴァを運んで来た輸送船パイロットが言ってたんですよ」
マコトの返答を聞いてか、ミサトは右手の人さし指と中指をこめかみに当てながら引きつった顔になる。
「……直に見てみる必要がありそうねぇ…。付いてきてくれる?日向君」
「え、だ、駄目ですよ。さっきの話を聞いてなかったんですか?」
ミサトの囁きの内容に、マコトは慌てる。
「……そう、じゃ、私だけでも行くわ」
発令所のドアが開く。
他のオペレーター達に急務があると告げたミサトは、 不機嫌そうな顔でこの発令所を後にする。
「あ、ちょっと待って下さいよ!葛城三佐!」
マコトも慌てながらミサトの後に続いて、発令所を出る。
またもドアが開き、閉じた。
「だから、葛城三佐!駄目ですってば!」
「どうしてよ、もう弐号機は本部に入ってるんだから、見たってバチ当たりゃしないわよ。」
今だに不機嫌そうな声でミサトは言う。
「実は輸送船パイロットに『布を外してはならない』って命令したのはECPの責任者なんですよ」
「…つまり……あんなふざけた命令を出したのは…ECPを提唱した科学者って訳ね……」
ミサトは早足で歩いていた足を止めて、そうつぶやく。
「はい、そうです。……葛城三佐?…!!」
マコトは、ミサトの顔を覗いた途端、強烈な恐怖を覚えた。
ミサトはまるで、鳥を一睨みで落とすかの様な目で、前方を睨んでいた。
「付いてらっしゃい。日向君」
「いえ、僕はこれから初号機の……グッ!!」
逃げ出そうとするマコトにヘッドロックを決める。
「そんな事くらい青葉君や伊吹さんで充分よ、来なさい…!」
「は、は……い……。わっ、わかり……まぢだがら……は…ずして下さい…。い、息が…」
「外したら逃げるでしょうが…。いいから来なさい……!」
逃げられない! ミサトに首を引っぱられたまま、マコトはそう思った。
一一一エヴァ格納庫一一一。
名前の通り、エヴァを収容する格納庫である。
別名、エヴァケイジ、またはケイジと呼ばれている。
ケイジは、エヴァ一体に一つの部屋を使い、構造は赤いLCLが張られている。
エヴァは、そのLCLの海の中に、首まで浸されている。
現在ミサト達がいるのは、弐号機を収容している第二格納庫のコントロールルームである。
「じゃ、日向君…お願い」
「知りませんよ、どうなっても」
「責任は私が持つわ…」
マコトは端末のRETURNキーを押す。
ウイィィィィィン
それと同時に、天井にあるクレーンが、真下にある『赤い布』に向かって降りてくる。
「さて、あんな布で隠すことだから、どんな醜い姿になってるのかしらねぇ……」
ミサトは何の根拠もなく、そんな事をつぶやいた。
しかし、布の向こう側から現われた弐号機を見た瞬間、
ミサトとマコトは、意識が飛ばされるかの様な恐怖心を覚えた。
「あーあーあーあーあー♪」
「…………シンジ君。……君はいつまで、そうやってウジウジしているんですか?」
「何ですか?その目は…それに、僕の態度がどうして…どうして皆に関係あるんですか!!?」
「答えは簡単です」
「あーあーあーあーあー♪」
テンさんは、ガードレールの上に右足を乗せながら、
丘の下から見える、第三新東京市の全景に向かって発声練習をする。
そんなテンさんを、僕は呆れた目で見ることしか出来なかった。
「テンさん、歌ってないで、何が言いたいのか言って下さいよ」
このままじゃ、永遠に歌い続けそうなので、僕はテンさんに話し掛ける。
「えっ?」
さっきとは違うテンさんの口調に、僕は戸惑う。
「いつまで、フィフスの少年…渚カヲル君が死んだからって、そうやってウジウジしているのか?と、聞いているんです」
「そんなの…テンさんには関係ないじゃないですか……!」
テンさんの言葉に、僕は少し腹が立った。
「理由は関係ないにせよ、今の君の態度自体が、皆に関係あるんです」
言いながらテンさんは、僕の方に振り返る。
今のテンさんの顔は、病院で見た、だらけた顔ではなく、鋭い目つきで僕を見ていた。
その目は、獲物を狙う狩人の様だった。
僕はテンさんに向かって大声を張り上げる。
「!?」
「『使徒』は……まだ現われます」
テンさんの言葉と同時に、激しい爆発音が僕の耳を貫いた。
僕とテンさんは慌てて音のした方向に顔を向ける。
爆発が起った場所…双子山の中から、真紅の使徒が現われた。
「…使徒…?」
僕は開いた口が塞がらなかった。
「シンジ君!!何やってるんですか!?早く乗りなさい!!」
「……えっ?……」
「ああ、もう!!じれったいっ!!」
言いながらテンさんは、僕を自分のワゴンの助手席に押し込める。
そして、既に運転席に座っていたテンさんは、アクセルとブレーキを思い切り踏み込んだまま、
車のエンジンを掛ける。
…と同時に、ハンドルを思い切り左に回す。
ギュギュギュギュッギュギュギュギュッギュゥゥゥッッッ!!
擦り付ける音と共に、ワゴンがその場で後ろに向く。
「うわ、うわあぁぁァァァッッ!!」
余りにも唐突な動きに、僕は助手席のドアに押し付けられた。
「全力で走りますから、シートベルトをしておいて下さい!!」
テンさんはそう言って、ブレーキペダルを放し、ワゴンを走らせる。
ネルフ本部へと一一一一一。
「使徒の姿をモニターに映して!!」
その姿に、俺は錯覚を覚えた………。
「山脈内部から未確認物体出現!!」
「パターン青!!使徒ですっ!!!」
「…あの少年が最後の使徒じゃなかったの…?」
俺とマコト達が情報を伝えている中、
葛城三佐は、表にこそ出さないが…驚愕した感じで最な疑問をつぶやく。
俺も、新たな使徒が現われた事、
更に『使徒が来る』という自分のカンが当たった事で意識が飛びそうになったが、
『任務』という二文字が、飛びそうな俺の意識を保たしていた。
「ハイッ!モニターに映します!!」
既に平静を取り戻した葛城三佐の命令に応えながら、マヤちゃんはかなりのスピードで端末を動かす。
そして、オーロラビジョンのメインモニターから、使徒の姿が映し出される。
多分、他の皆もだろう。
似ているのだ、初めて第三新東京に現われた、第三の使徒と……。
いや、違う。
よく見てみれば、肩部の大きさや形も違うし、
何より、体の色が第三使徒の様な黒みを帯びたグリーンではなく、真紅の体じゃないか。
俺がそう確信すると同時に、葛城三佐が俺に話しかける。
「シンジ君を初号機に待機させて!!」
命令をきながら、俺は本部内の全監視カメラを使って、シンジ君を探した。
その直後、俺は驚きながら、葛城三佐に検索結果を伝えた。
「……何ですって……?」
驚愕の言葉を発した葛城三佐を始め、マコトとマヤちゃんも驚いた顔で俺を見る。
「現時刻よりあの使徒を第18使徒とする。総員、第一種戦闘配置。だが、それ以降の行動は認めん。」
俺を含めて、全員が今の声の主……ネルフ司令、碇ゲンドウに視線を向ける。
ピーピーピー
突然の機械音に俺はすぐに目線を端末に戻す。
「第4区画(ブロック)に異常発生!モニターに映します!」
俺は葛城三佐にそう伝えて、自分の端末のモニターで、第4区画の全景を映す。
モニターには、壁に衝突して壊れたワゴン車と、
そこから10メートル右に離れた所に大穴を開けられた壁が映った。
その光景は、余りにも奇怪なものだった。
「何だ…これ?」
「青葉君。それを調べるのは後にして。今は出来るだけ多くの情報を集めて頂戴」
葛城三佐の言葉で、俺はその奇怪な光景について考える事をやめ、
すぐにMAGIを使って使徒に関する情報を集める作業に取りかかる。
「第18使徒!!動き始めました!!」
使徒の動きを観察していたマヤちゃんが声を張り上げる。
俺達はすぐさまメインモニターの方に顔を向ける。
現在、使徒は上半身のみ、双子山山中からその姿を現わしていた。
その使徒が今、山の中に隠れている下半身すらも露にしようとしていた。
ズズズズズズズズ…………ズルッ
使徒は突き破るのではなく、山から染み出る水の様に山から完全に抜け出た。
あの使徒は山の一部なのか?俺はそんな事を考えた。
「葛城三佐!!先程、戦闘指揮権を得た、
国連軍のメーサータンク大隊と、飛行大隊が使徒に攻撃を仕掛けて来ますっ!!」
ネルフは今、初号機と弐号機が不稼働という理由で、戦闘指揮権を一時的に国連へと委託していたのだ。
しかし、国連軍の兵器では使徒を倒せない事は、ここにいる誰もが解っている事だ。
せいぜい、3rdチルドレン……碇シンジ君が初号機で出撃するまでの時間稼ぎだろう。
俺と高木は今、国連空軍の兵器の一つ、強襲型高速戦闘機『ツヴァイフライト』に乗っていた。
ガキの頃は「アレに乗って悪いヤツらをやっつけてやる!」なんてバカな事を言ってたけど、
しかし、実際見てみると凄まじいものがある。
『高度1020mに上がって、鋭角陣形(アキュート・フォーメーション)で攻撃する。以上だ』
『ツヴァイフライト』を動かすのは、ハンドルレバーではない。
「レーダー補足!!何時でも撃てるぜッ!」
グォォォォォ……ン…
「ん?」
『敵!!こちらに来ました!!うわあぁぁぁぁッ!!』
ガゴオォォォォォォォォン!!
「比樹ぃ!!」
そう言いながら、俺は『ツヴァイフライト』の通常兵器のセーフティロックを外し、
「違う、今まで出てきた『化け物』と」
!! 速い!!俺達がそう感じ取るよりも早く、
何故だ?俺はそう思いながら爆発した所に目を向ける。
「う、腕を…伸びた腕を強引に曲げたのか…?」
ピバシィィィィィン!!
青白い光が俺達の視界の中を通りすぎた。
「今のは…噂に聞く…エヴァがやったのか…?」
「5000m…以上も、離れたヤツを…狙ったの…か?」
あのメーサータンクも、『ツヴァイフライト』や『ディヴァイス』を制作した科学者が作った物だ。
どうやら、『ツヴァイフライト』のレーダーは従来のものとは違い、球体のホログラフで構成されている。
レーダーの反応距離も今迄のレーダーとは段違いの高性能で、
レーダーの距離表示はレーダーの上の位置にある、
……確か、『ツヴァイフライト』の最大速度は、マッハ14だったな……。
使徒は先程のメーサー攻撃で、双子山と防衛線の中間に落ちていて、やっと起き上がった所だ。
『化け物』やエヴァのみが持っているというバリア……。
それがある限り、俺達は完全に捨て駒になると思っていた。
使徒の体が変色したのだ…真紅の様な赤から漆黒の黒へと…。
「何っ!!」
「今更かよっ!!」
いきなり使徒は、頭の上に両手を組む。
そうこう言っている内に、使徒は三つのエナジーボールを放った。
そして、使徒の放ったエナジーボールが、俺達から50m位まで差し掛かった時だった。
「何だとぉ!!」
……捨て駒だな……俺はそう思った。
「どした?式嶋」
「いや、何でもねぇよ」
俺が物思いにふけっている中、同僚の高木が声をかける。
「頼むよぉ。お前がそんなんじゃ、当たる弾も当たらねぇよ」
「当たっても、あの『化け物』にゃダメージにもなんねぇよ。『化け物』独特のバリアがある限りな……」
この戦闘機は、ある科学者の『簡単な操縦と多彩なシステム、そして美しさ』
というコンセプトで生まれた代物だ。
そんな無茶苦茶な事を考える科学者は何者かは不明だが(単なる一兵卒が解るわけないが)、
その科学者が作った戦闘機自体は、今迄の戦闘機の性能を、全てにおいて凌駕しているのだ。
しかも、格納庫でよく見かける重装爆撃機みたいに武骨なのとは違い、
まるでガキの頃見てたロボットアニメの戦闘機……『鳳凰』と見間違えさせる様な美しい姿だった。
…今になってそんなものに乗るとは思わなかった。
シャープに刻まれた先端部分に、グラヴィティーバリア付きの芸術的な曲線の胴体。
2タイプに変形可能な軟性金属…レアメタル製の翼部で構成されているのだ。
そう言って、俺達二人のモニターに映る上司は通信を切った。
「さーてと、いっちょやりますか」
「あまり力み過ぎるなよ。高木」
「おめーこそ」
そんな言葉を交しながら高木は『ツヴァイフライト』4号機を上昇させた。
コクピット内の四つの機械とそれぞれ一本ずつ繋がっているコードを取り付けた左右一対のラバーグローブと、
足元にあるアクセルペダルで動かしている。
右のグローブは、機体を上や下に向ける機能を持つ機械のコードが、
左のグローブは、機体を左や右に向ける機能を持つ機械のコードと2本ずつ取り付けられている。
『ツヴァイフライト』のコクピットには、他にも多くのシステムが搭載されているが、
マニュアルにも載っていないシステムが多々あって、完全に理解出来ない。
……実戦で理解するしかねぇ…俺はそう思った。
「命令が来るまで撃てねぇよ」
異様に燃えている高木に対し、俺は冷静に突っ込みを入れる。
『大変です!!小隊長!!』
「どうした!比樹三曹!!」
部下から通信が入る。
『山の上で棒立ちしていた使徒が、いきなり我々と同じ高度に現われて……』
「落ち着いて話せ!それで!」
『先発隊…第1小隊が全滅…そして、最後方の部隊にいた『ディヴァイス』が落とされました…。』
『ディヴァイス』とは、指揮・情報収集能力を重視した女神の様な美しい機体で、
主に大隊長クラスがこれに搭乗する。
「何だっ…て?…」
「お、おい、式嶋、今迄シュミレートしてきた奴等と全然……」
いきなり指揮者がやられた事で、高木は少し動揺する
「式嶋ぁ!!敵だけを見ろ!!」
「解ってる!!」
高木は機体を、左前方にいる使徒の方に向ける。
そして俺達は、とんでもない光景を目のあたりにするのだ。
使徒は、確かに俺達と同じ高さにいた。
だが、奴はさっき聞いた様に一瞬で高度1020まで飛んだのだ。
しかも、全く落ちる気配すらない。
俺がそうつぶやいたと同時に真紅の魔人は、
俺達の左後方にある重装爆撃機に向かって右腕を伸ばした!
魔人は、自分の腕の軌道上に並んでいた、二つの重装爆撃機の手前の方を、一撃で粉砕し、
そのまま、粉砕された1機の後ろのもう1機を、変わらぬスピードで狙う。
だが、事前に回避運動を行っていた後ろの方の重装爆撃機は、伸びた右腕を辛くも右にかわした。
そう思った矢先に、爆発したのだ…使徒の攻撃をかわした筈の重装爆撃機が。
すると、爆炎の向こう側から……使徒の手があったのだ。
その手を辿っていくと、最初に落ちた重装爆撃機の爆発位置から、100°ぐらい鋭角に曲がった腕があった。
「そうとしか、言え…高木ぃ!!前!!」
「え?」
500m位離れていた筈の使徒は、いつの間にか『ツヴァイフライト』の目の前にいたのだ。
「「あ……」」
死ぬのか?俺と…多分、高木の脳裏にそんな言葉がよぎった時だった。
光は、現われた直後に消え、使徒も目の前から消えていた。
「…………どうやら、違うようだ」
そう言いながら、俺はレーダーの右下方に反応している物体をモニターに映す。
俺達の目の前に出てきた空間映像(ディメイション・モニター)に映った物は、
下の街…第三新東京市の高速道路の上に整然と並べられた、国連陸軍の使用するメーサータンク大隊だった。
高木がかすれた声でつぶやく。
「とんでもねぇ…命中精度だ……。! そうだ!使徒は!『化け物』は何処に!…」
俺はすぐさま空間映像を右下方にいる戦車大隊から、レーダーの左下方に反応している物体を映す。
球体の中心の白い光は自機…つまり俺達の乗っている『ツヴァイフライト』で、
周りの赤い反応は味方、左下方の黄色い反応は敵をあらわす。
球体レーダーは常に『ツヴァイフライト』の向いている方向を球体の奥側に設定している。
だから球体の奥側…白い反応の前方に黄色い反応が表示されると、
実際に『ツヴァイフライト』の前方に敵がいる事が解る。
従来のレーダーの、推定2・314倍はあるという。
三つの黒く小さい横長の長方形の空間映像で表示されている。
一番上の長方形の表示は、km単位。
その下の長方形の表示は、m単位で、一番下の長方形の表示は、cm単位である。
俺は不意に前の座席…高木の座っている操縦席にある速度計の事を思い出した。
出撃時に…それ位出していた筈なのに…良く考えたら、衝撃を全く感じなかった…。
まさか……慣性中和機能ってヤツを積んでいるのか、これ……?
俺がそんな事を考えている内に、モニターはレーダーの左下方の敵反応…使徒を移していた。
「おかしいと…思わねぇか?式嶋」
「確かに…今迄見た限りでも、
N2爆雷食らってビクともしなかった化け物がメーサー砲如きで吹っ飛ぶなんておかしい。」
「メーサーがN2クラス以上の破壊力があるなんてありえねぇしな……」
「……もしかして…バリアが使えねぇタイプじゃないのか?」
確かに、今迄のエヴァと使徒の戦闘でも、
バリアの使う奴と使えない(事実はネルフが隠蔽している)奴がいる。
それは、ATF(Absolute Terror Field)という名の絶対防壁だ。
実際、同じバリアを扱えるエヴァを除いては、いかなる兵器も、通用しないという正体不明のバリア……。
それが、今回の『化け物』にはないって事は……。
「倒せるまでとはいかねぇまでも…抑え込めるって…事だよな…?」
俺が考えた事を高木がつぶやいた。
「ああ、攻撃を食らわねぇ限り、生きて帰れるって事だ……」
俺達にかすかな希望が見えた…そう思えた矢先だった。
それと同時に、使徒の右手から、6000m位の光の剣が現われた。
そして使徒はその右手を自分の遥か前方にあるメーサータンク大隊に向けて横薙ぐ。
その瞬間、国連陸軍のメーサータンク大隊は、剣の光に溶け込む様に消滅した!
『総員!通常戦闘機及び、『ツヴァイフライト』、『サンダードラゴン』の封印兵器の使用を許可する!!繰り返す!……』
上司から封印兵器の使用許可が降りる。
「大隊長がいきなりやられたからな、指揮系統が混乱したんだろうな!!」
毒づく高木に俺はフォローを入れる。
その両手を離したと同時に、頭の上に直径30mの、赤く巨大なエナジーの球体が現われる。
離した両手からも直径2m程の少し小さい黄色のエナジーボールが現われた。
「み、見てみろ!!式嶋!!」
「どうした!!」
「『ツヴァイフライト』の質量計算機が自動計算しやがったら…あの巨大なエナジーボール!
『サンダードラゴン』の280mmパワーブラスターと同質量だ!!」
「なっ!あの、沖縄の半分を消滅させる、超危険封印兵器と同質量だって!!」
それは一つに収束し、俺達に向かって飛来する!
「なめてやがんのかっ!いくら強力な攻撃で、驚異的なスピードでも!
20mも満たねぇ内に収束したんじゃ、かわしてくださいって言ってる様なものだぜ!!」
高木はそう笑いとばしながら、回避運動に入る。
周りにいた同僚や部下達も、同じく回避運動に入る。
さっきまで一つに収束していたエナジーボールが、突如、数百本の光の槍に分かれた!
「やべえ!!あの散らばり様とスピードだと大隊全体に当たるぞっ!!」
「なあに、あんだけバラけたんだ。威力は……」
高木が言い終える前に光の槍に当たった、後方の重装爆撃機の(この小隊の)残りが一撃で落とされた。
いや、光の槍によって貫かれたのだ。
重装爆撃機を貫いた光の槍は、そのまま空へと消えていった。
「……変わってねぇ……のか………?」
「高木ぃ!!前!!」
「……へ?……」
ガコォォォォン!!
「うわぁ!!ば、馬鹿野郎!!二度もよそ見をするんじゃ…あれ?…直撃だったはず……」
「…グラヴィティーバリア……」
グラヴィティーバリア…『ツヴァイフライト』や『サンダードラゴン』に搭載されている、超重力波バリア。
俺は科学者じゃねえから、どういう理論で出来たかはわからねぇ、
だが、これを作ったのも、例の科学者だ、
もしかして、この科学者って……狂気科学者(マッドサイエンティスト)なんじゃ……。
「と、とりあえず…助かった」
「だけど、今度は突き破られるぜ」
「え?」
俺の言葉に、高木は気の抜けた声を上げる。
「今の一撃でバリアの出力が70%も低下したからな……」
「まだ…槍は残ってんだぜ……き、来たぁ!」
もう駄目なのか!!俺はそう思って目を閉じた。
……だが、全く静かで、衝撃を感じなかった。
俺は不思議に思い、恐る恐る目を開ける。
すると、目の前には、『ツヴァイフライト』よりも一回り大きい、黄金色の戦闘機があった。
どうやら、あの戦闘機に搭載されているバリアが、接近していた光の槍を防いだらしい。
『その『ツヴァイフライト』に乗っているパイロット!!』
「「は、はい!」」
『バリアに頼るから落とされかけるんだ!!回避運動は常に心がけろ!!』
「「す、すみません!!」」
『生き残っている者全員に伝える!俺が敵の囮になっている間に集結し、敵に対して波状攻撃をかけろ!!』
「「了解!!」」
俺達の返事と同時に黄金色の戦闘機は視界から消えていた。
「なあ、あれって………」
「ああ、間違いねぇよ、高木。あの金の機体にWing of Victory のマーク…」
「『ライトニングカイザー』と、そのパイロット……」
「国連空軍のスーパーエース、榊リュウマ少佐だ……!」
俺達は、いつしか歓喜の声すら上げていた。
あ……よく考えてみたら…軍人らしく……ないな……俺って……。
ふとそんなことが頭によぎった。
高木も同じ事を考えたのか、いつの間にか黙り込んでいた。
「………くだらねぇな……いくぜっ!」
いきなり何かをつぶやいた高木は、気合いの入った声と共に、『ツヴァイフライト』を動かす。
国連空軍…航空自衛隊の一個大隊も、わずか13機しかなかった。
強襲型高速戦闘機『ツヴァイフライト』……9機。
破壊・駆逐型戦闘機『サンダードラゴン』……3機。
そして、可変型戦闘機『ライトニングカイザー』のみである。
『いいか!『ツヴァイフライト』1〜4号機は、プラズマカノンで『ライトニングカイザー』の援護。
5〜9号機は、我々と共に敵目標との接近戦。以上だ!』
そう言って、『サンダードラゴン』に乗っている四道二尉は、最後の通信を切った。
「接近戦って事は、封印兵器を使うのか?」
「高木……プラズマカノンも封印兵器だ」
高木の馬鹿げた質問に、俺は半ば呆れながら答えた。
「開始時間まで…後20秒、19、18」
「17、16、15、14、13、12、11」
俺と高木は、開始までの秒読みを口で言う。
使徒の前方から3500m離れた所に待機する『ツヴァイフライト』1〜4号機。 「「10」」
尋常じゃないスピードで繰り出される、使徒のパンチをかわす『ライトニングカイザー』。 「「9」」
使徒の頭上を越えて、後ろに回る『サンダードラゴン』と『ツヴァイフライト』。 「「8」」
エナジー充填を開始する、『ツヴァイフライト』の腹部に搭載のプラズマカノンの砲門。 「「7」」
使徒から少し離れながら、人型に変形する『ライトニングカイザー』。 「「6」」
使徒に接近しながら、封印兵器『ハイパーウイング』発動させる『ツヴァイフライト』。 「「5」」
同時に、封印兵器『バーストランス』を発動させる『サンダードラゴン』。 「「4」」
右手のビームサーベルで、使徒の右腕を切り当てる『ライトニングカイザー』。 「「3」」
エナジー充填を完了する、『ツヴァイフライト』。 「「2」」
後ろを振り向く使徒。 「「1」」
ボォォォン!!
ガコォォォン!! ドゴォォォン!!
ガァァァン!!
ドォォォォン!! ボゴォォォン!!
ドウゥゥゥゥゥ!!
ドォォォォン!!
使徒に特攻をかけた『ツヴァイフライト』と『サンダードラゴン』は、
使徒が振り向いた瞬間、一瞬にして爆炎と化した。
何をやったのか、速すぎて全然分からなかった。
「馬鹿な……あいつの物理攻撃は……バリアすらも………?」
「やべぇ!!来たっ!!」
驚愕した俺をよそに、高木は回避運動に入る。
既に空中にいた使徒は、三体に”分身”し、
立ちすくんでいた『ツヴァイフライト』1〜3号機を一撃で葬った。
「接近してきた奴等はともかく……3500mも離れていた俺達の存在気付いて……」
「その上……一瞬で3500mという距離を移動する…なんて…『化け物』だ……」
『ツヴァイフライト』を、フルスピードで急上昇させながら、俺と高木はそうつぶやいた。
「!! 畜生!!もう目の前に廻り込んで来やがったっ!!」
確かに使徒はいつの間にか、俺達の目の前にいた。
「………まさか!あの『化け物』のスピードは、マッハ15以上だってのかっ!!?」
俺は大声を張り上げる。
「なるほどな!それでこうまで簡単に追い付かれちまう訳だ!」
高木は叫びながら、左に旋回する。
ドウッ!!
『ツヴァイフライト』は、使徒の脅威的なスピードから繰り出されるパンチをかわしきれず、
後部を粉砕され、残った前部の壊れた所から炎を吹き上げた。
それは、一瞬の出来事だったが、
俺達には、スローモーションの様に長く感じ取れた。
「ヘヘ……式嶋…もう俺達…おしまいかな……?」
「脱出装置も…壊れたからな…覚悟するしかねぇ」
コクピットも、今の使徒の攻撃で、殆どのシステムがブラックアウトした。
やっぱり、捨て駒は捨て駒だったか……浦和……ごめんな………。
俺は視界に映る双子山の地表を見ながらそんな事を心の中でつぶやいた。
そして俺の視界は真っ暗になった。