…………嘘…………
こんなの……有りえない……
ううん…今のアスカの状態じゃ…こんな高同調率(ハイ・シンクロ)を出せる筈がない……

「葛城三佐!!大変です!!」
私は喉を絞りながら、声を出す。

 「どうしたの!マヤ!」
「弐号機の同調率が98%に変化しています!!」
「心理グラフも安定しています!!」
「エヴァンゲリオン弐号機!再起動!!」
先程まで倒れていた弐号機が、サーチアイに隠されていた素体の目を光らせながら中腰で立ち上がる。
そして、ゆっくりと顔だけを前に向けると、

 いきなり上体を勢いよく上げ、同時に……背中から翼を広げた。


ヴオォォォォォォォォォッ!!

 「弐号機、肩部の後ろから炎がっ!?」
「…っ!?信じられません!炎の最大温度、7000℃!!」
日向さんと青葉さんが驚くべき事を報告する。
「そんな、バカなっ!?」
「………バーニング・ウイングですか………」
驚く葛城三佐をよそに、武藤三曹は何かをつぶやく。

 メインモニターに映る弐号機は、背中から二枚の巨大な炎の翼を広げた。
「何なの……これって…?先輩がいてくれたなら……」
「解りませんよ、赤木博士でも一目では」
私の言葉に三曹が返答する。
 その返答に、私は少し腹を立てた。

 「使徒!弐号機に急速接近!!」
「弐号機!全く動きません!!」
日向さんと青葉さんの言葉通り、右手を固く握りながら近づく使徒に対して、
弐号機は全くの棒立ちだった。 そして使徒は、自らの右拳を弐号機の頭部へと振り下ろす。

 そのスピードは、音速を越えるか越えないかという程のスピードである。
だが、弐号機は一瞬の内に、目前まで来ていた使徒の右拳を左手で掴み取り、
そのまま使徒の拳を握り潰した!

 弐号機はその左手を引いて、使徒を引き寄せて、
その頭部に右拳を頭の後ろまで振りかぶってから、叩き付けた!

 そこから少し間隔を置いてから、使徒の体が大地を走る。
その際に、多くの建物…兵装ビルが、弐号機に吹き飛ばされた使徒によって粉々にされた。

ドゴォォォォォッ!!

 激しい衝突音と共に、使徒は先程弐号機を最初に吹き飛ばした所…丘の上公園の展望台に衝突する。
使徒は、展望台にめり込んだまま、ピクリとも動かない。

 弐号機は全く動きを止めず、使徒に接近する。
「!!弐号機のスピード、マッハ40!!」
いけない!
あれだけの温度の炎が音速が生みだす衝撃波で飛び散ったら…!

 「弐号機の肩部から出ている炎が、都市全体を炎に…あ、いえ!炎による被害は全くありません!!」
「どうして……」
「う〜ん。遊んでますねぇ…プロミネス・ロンドを発生させるなんて……」
武藤三曹はシンジ君の首を掴んだまま、まるで自分の事の様にしみじみと語る。

 ザァァァァァァ

 突如、弐号機と擦れ違った外部カメラの映像にノイズが走る。
「何!?」
「第14外部カメラ沈黙!」
「第13、11外部カメラも沈黙!」
「翼から発生しているチャフでのジャミングだと思われます!」
「何故、そんな物がエヴァに……!?」
三佐の言う通り、何故だろう?
エヴァに、レーダー等の電子機器を狂わせるチャフなんか付けても意味が無い筈なのに………

 「もう私達には、状況を把握するのが精一杯ね………」
葛城三佐は、疲れた口調で投げ出す様な台詞を言った。

 「使徒!活動を再開!!」
青葉さんの声が発令所に響く。
メインモニターの左上の第三空間映像に映る使徒が動き始めたのだ。

 「弐号機の現在位置を確認!」
「高度、1000m!!右腕部に強烈なエナジー反応!!」
「そのまま使徒に落下していきます!!」
日向さん、青葉さん、そして私の順で、葛城三佐に次々と情報を伝える。

 「あのまま落下して攻撃するつもり!!無茶よッ!!」
「確かにあのままじゃあ…カウンターを食らいますね。絶対」
葛城三佐と三曹が口々に言う。
私には、こういう戦いの専門的な事など理解出来ないけれども、
あの二人の言っている事は確かなんだろう。

 弐号機が上空300mに差し掛かった時、
既に使徒は反撃体勢をとって待ち構えていた。
あのままじゃ、使徒の餌食になってしまう!!
 多分、私だけでなく、他の皆もそう思った時である。


ヴォウッ!!!

 突如、叫びと共に弐号機の手首から、紅蓮の炎が吹き上がる!
またもや黒く変色した使徒は、今度は壁を発生させ、弐号機の炎を防ぐ。
「使徒!ATFを展開!!」
「無駄です」

 私の言葉の後に、武藤三曹が突発的な事を言う。
「あのフレア・バスターにも、同じようにATFが張られています。
いくらATFで防ごうが、弐号機のATFで中和され、確実に当たります」
どういう事? 私は急いであの炎の分析を始めた。

 「葛城三佐!!あの炎の周りに、ATFを確認!!」
私は驚きながら葛城三佐にその事を伝える。
「あれは……炎の様なエナジー体すらも包み込むことが出来るの……!?」
「ATFの現在の中和率!48%!!」
「弐号機と使徒との距離間!177!!」
驚く葛城三佐を尻目に、青葉さんと日向さんが、口々に現状を伝える。
「距離50までに、ATFを完全に中和させないと、使徒を倒すことは出来ません」
「どういう事かしら?」
三曹の台詞に、葛城三佐が尋ねる。
「弐号機が使徒を倒す決め手を持っているのは、一つだけです。
だが、その決め手は、今出しているフレア・バスターではありません。」

 「…武藤君。もし弐号機が、距離50mまでに、ATFを中和できなかったら?」
いつの間にか葛城三佐は武藤三曹に質問をしている、飲まれていない。
この『誰も予測出来ない筈の事態』の中でも。今や、三曹はこの場の主導権すら握っている様に思えた。

 「その時は、弐号機の負けです」
三曹は、とんでもない事を口走った。
弐号機が負ければ、初号機の出せない今、ネルフは事実上敗北となり、サードインパクトを起こされて……
この世界が……終るの………?
そう思うと、とてつもない不安と恐怖が私を襲った。

 「でも、今の弐号機なら、絶対に勝てます。何せ、『彼女の魂』が完全に目覚めているのですから……」
彼女の魂?確かフィフスの少年もそんな事を言ってた様な…………

 「距離50!!ATFの中和率100%!!完全に中和しましたッ!!」
青葉さんの言葉で、表に出さずとも、私は安堵のため息を吐く。
多分それは、私だけでは無いだろう。
だが、後ろを目だけを動かして見てみると、
一瞬だったが、武藤三曹が悲しそうな目で戦況を見ていた。






 「………ギリギリ…セーフですね……」
僕は安堵の息を漏らす。
僕はふと、手に掴んでいるシンジ君を見る。
シンジ君は信じられない様な目で、メインモニターに映る弐号機を見ていた。

 ……無理もない……
さっきまでアスカちゃんの事を凄い凄いとか言っても、
泣きじゃくってたアスカちゃんを見れば、勝つことなんて難しいと、解っていたんだ。
それが、今や圧倒的有利に進んでいるんだから、シンジ君にとっては信じ難い事なのだろう。

 だが、そう考えれば…解っていた筈なのに、さっきの様な言い逃れの台詞が出てきたという事は……
逃げたかったんだな……使徒と戦う事から、
カヲル君が使徒だと解り、そして殺したから、
使徒がカヲル君に見えて、もう使徒と戦いたくない……だから今、逃げているんだな…『こいつ』は。

そう思ってシンジ君を見ると、僕は余りにも『情けなく』感じた。

 だけど、エヴァ自身が怖いと言ったことは、本当の事だろう。
それは、僕も同じだから。

ドゴォォォォォッ!!

 僕はすぐさま音のした方に振り向く。

 弐号機の手首から発せられた、円柱に近い形の炎…フレアバスターが、
使徒を飲み込み、そのまま都市に激突したのだ。
その直後、激突地点である丘の上公園展望台に、
紅蓮の炎が地面から噴き上がった!

 その炎は、使徒との衝突地点を中心に、十字を切る形で、地面をほと走り、
四方の長さは、全て1・5kmまで伸びた。
「…1・5キロ内が全て炎と化したか……フルパワーはやり過ぎだ…」
言って舌打ちしてから、僕はすぐに周りにいるミサトさん達の方を見渡す。

 僕の右後方にいるミサトさんは、かなり驚愕した表情で、
メインモニターに映る『戦場でない戦場』を凝視し、
日向さん、青葉さん、マヤさん、そして下層にいるオペレーター達も、 まるで恐ろしいものでも見るかの様な目で、噴き上がる炎の十字架の中心に入る弐号機を見た。
だが、ミサトさんの更に後方にいる、碇『司令』と冬月さんは、
モニターに映る異様な空間を平然とした態度で見ていた。

 ……多分、笑っていやがるな…あの男は……
そう思うと僕は、髭を生やしたサングラスの男を一瞬だけ睨み、
そのまま踵を返してモニターの方を向いた。

 ボオォォォォォォォォ……。

 やがて、激しく噴き上げた炎の十字架も消え、
十字架の中心に現われたのは……。
使徒の腹部を右腕で貫いたエヴァ弐号機だった。
使徒は、背中から弐号機の手首までが現われている程に腹部を貫かれていた。

 「……凄い……」
「いえ、まだです。まだ終わっていません」
マヤさんが驚きの声を上げたと同時に、僕はモニターを指差す。

 「見てください。弐号機が貫いた所は、腹部とはいえ、生命核(コア)の向かって右上の位置です。
あのままでは再生の際に、弐号機の右腕は千切れます」
僕はそう言いながら、モニターに映る弐号機の右腕を指差す。

 「弐号機の右腕部損傷率!15%!!」
「使徒の肉体が再生を始めています!!」
「同時に、弐号機の右腕内部に先程と同じ…いえッ!それ以上のエナジー反応を確認!!」
「今迄不稼働だったナパームビットの内の四つが、使徒の両側面に周り込みました!!」
青葉さんと日向さんが交互に声を上げる。

 確かに日向さんの言った通り、四つのナパームビットはそれぞれ、
使徒の左肩の少し離れた左横、
左脇腹の少し斜め下、
右肩の斜め上、
右腰の斜め下に移動した。

 「一体…何が起こるって言うの……?」
ミサトさんは不安混じりの声を漏らす。
他の皆もそうだろう……例外を除いて。

 だが、僕は知っている……………。
これから何が起こるのかを……。



ドウッ!!

 激しい音と共に、使徒の左脇、左脇腹、右肩、そして右腰から炎の柱が噴き上がった。
真直ぐに飛ぶ炎の柱は、そのまま『ナパームビット』に衝突する。
だが、『ナパームビット』は炎の柱を受けても壊れる事はなく、
むしろその炎を吸収していた。

 その四つの炎の軌道は、繋げれば×(クロス)の形をとっていた。
「右腕部に蓄積されたエナジーが放出され、使徒の体を貫いています!!」
「MAGIの調査の結果、弐号機の腕から四つの筒状の物が出てきて、そこから噴き出した様です!!」
「四つの炎の最大温度は全て約10000℃です!!」
「そんな……そんな事って………」
オペレーター達の報告に、ミサトさんの声は少なからず震えていた。

 「これが、エヴァンゲリオン弐号機の対使徒専用一撃必殺兵器…『クロス・フレア』です」
同時にミサトさんは僕を不思議そうに見る。
……調子に乗って、ネタバレしすぎたかな?

 「使徒の体組織、第二火傷まで達しています!」
「使徒、今だに活動可能です!!」
あれだけダメェジを受けてもまだ動けるとは………やるな…!
僕は少し歯噛みをする。
だが、『クロス・フレア』の仕上げがまだ残ってるぜ…『化け物』

 「『クロス・フレア』が突如上昇を始めました!!」
「葛城三佐!MAGIにより『ナパームビット』は、
『クロス・フレア』のエナジーを吸収していたと判明しました!!」
今更解ったのかよ……僕は内心毒づきながら、モニターに映る高度500へと上昇した『ナパームビット』を見た。

 上空500mで止まった『ナパームビット』は、三角錐の形をした全体の内、
青いラウンドレンズの付いた底面を使徒に向ける。
そして、レンズから発射された直径10m位の火炎玉が、空を走る。

 「最終舞台(ラストステェジ)…『ナパームロンド』…………」

 ドォォォン!!
   ドウンッ!!  ズゥォッ!!
   ボォォォォォン!!

 僕のつぶやきと共に、『ナパームビット』から放たれた四つの火炎玉は、
『クロス・フレア』でボロボロになっていた使徒をとどめとばかりに激突した。

 「使徒、完全に沈黙」
「火傷レヴェル。第二から第三へ変化」
下にいるオペレーター達が使徒の生命反応が消えた事を伝える。

 ……しかし『クロス・フレア』から『ナパームロンド』へと繋ぐ、
『フェニックスコンビネーション』を受けても原形を留めるとは…黒焦げだけど……

 そんな事を思うと、僕は思わずいらんことを口にする。
「ウェルダン……美味しそうですね…………………………………冗談です」
僕はミサトさんの、まるで病弱な老人を発狂死させるかの様な目を見て、慌てて最後の一言を付け足した。

 「………何にしても、今回は助かったわね。」
ミサトさんはため息をついてから、そうつぶやく。

 「…ハ、ハハ…やっぱりアスカは凄いや……ハハ……」
…………………………………………

 余りにも情けない言葉に苛立った俺は、シンジ君の首を掴んでいる左手に力を込める。
「かッ!…はっ!な…何するんでず…かはッ!」
かすれた声を出しながら、シンジ君は訴える様な目で俺を見る。

 「言っておくが…さっき俺が言った『残酷な結果』は、これから起こるんだ。メインモニターを良く見てろ…」
俺の威圧に近い台詞を聞いてか、シンジ君はピクリとも動かなくなった。

 「ただ今をもって作戦を終了。第一種戦闘体勢から第二種警戒体勢に移行。」
ミサトさんの通告を聞いてか、オペレーター全員に安堵の息が漏れる。

 「弐号機をケイジに戻して」
「ハイ」
ミサトさんの指示で青葉さんが端末を動かす。
だが、弐号機は右手を使徒の体に突っ込んだまま、全く動かなかった。

 「どうしたの、青葉君」
「……弐号機が…信号を受け付けません」
青葉さんは、震えた声で返答する。

 「………え?…」
ミサトさんは、半ば呆然の表情で固まる。
「しかし、依然として同調率は高同調のままです。活動状態も正常です」
マヤさんが青葉さんの言葉に続く。
「どういう……」

ブチブチッ!

 ミサトさんの言葉が終るよりも早く、弐号機の左腕が、使徒の右腕を引き千切った。
「「「「!!?」」」」
皆は、弐号機の突然の行為に驚愕する。
弐号機は引き千切った右腕を街の中に放り捨て、
今度は使徒の体を貫いている自分の右腕を引き抜く。

 「アスカッ!何をやってるの!やめなさいッ!!」
「駄目です!!通信も受け付けません!!」
「……まさか、暴走なの!?」
「いえ!心理グラフは正常です!!」
ざわめいてゆく発令所を除いて、ネルフ作戦指令室は静まり返っていた。

 皆、驚愕しているのだ。
やっている事が違うとはいえ、あの弐号機の残酷な行為は、
紛れもなく、第14使徒を捕食したエヴァンゲリオン初号機と似ているのだ。
マヤさんなんかそれを思いだしてか、ハンカチで口元を押さえて呻いていた。

 弐号機は既に、左腕、腹部、両足を、楽しむかの様に、そして乱暴に引き千切っていた。
弐号機は、仕上げとばかりに、右腕で使徒の頭を掴む。

ブチッ!ズルズルズル…

 引きずる音と共に、使徒の頭と、くっついている頸椎が体からヘビの様に出てくる。
「ううッ!!」
同時にマヤさんが一際大きく呻く。
「…アスカ?…アスカ?…あれは…アスカがやってるの……」
「『嘘だ』とは言わせないぞ」
僕の言葉を聞いて、シンジ君の体がピクンと動く。

…当たってたか…予想はついていたが……
ため息と共に気がついてみたら、既にミサトさんも含めて全員が、
残された使徒の胴体を揉みくちゃにしている弐号機の様子を呆然と見ていた。
うつむいて吐きかけているマヤさんと、冷静に見ている司令と副司令を除いて。

 僕はモニターに映る弐号機の残酷な行為に見かねて、
シンジ君の首を掴んだまま、マヤさんの席まで向かう。
「伊吹二尉。端末を借りますよ」
言ういなや、僕はマヤさんの席にある、端末のキーボードを素早く叩く。
ミサトさんがその様子にすぐさま気付く。
「ちょっと貴方。何をやって……」

 カタタタタタタタタ

 「葛城三佐。今パスコードで、弐号機との通信を可能にしました。いつでも通信できます」
「………………わ、わかったわ…有難う…」
僕のタイピングの早さで呆然としたのか、ミサトさんは反応の遅い返事をする。

 「日向君。通信を開いて」
「!…ハ…ハイ」
ミサトさんに言われて、日向さんは端末を動かす。
「……しっかりと見ておけ…」
「…………………………………………」

 僕はそう言いながら、シンジ君を強引にモニターに向けさせる。
モニターに映ったものは、僕の『予想していた結果』であり、

『残酷な結果』の一つであった。

 「ウフ…ウフ、ウフ……アハハハハハハハハ」
通信画像に変わったメインモニターに映ったものは、
純粋無垢な幼子の様に屈託なく笑うアスカちゃんだった。

 「ねぇママァ。このお人形、壊れちゃったぁ。新しいのちょうだぁい」
多分、モニターに映っていない弐号機は、アスカちゃんのおねだりの返事する変わりに、目を光らしているだろう。

 「あ…あれが…アスカ…?」
シンジ君は、口を笑っているかの様に歪ませ、目を大きく見開きながらつぶやく。

 「ママァ。買ってよぉ。いいでしょぉ」
アスカちゃんはそう言って口を尖らせる。

 「アスカ……」              「えっ!買ってくれるっ!嬉しい!」
ミサトさんの開いた口が塞がらない。
他のオペレーター達は声すらも上げられない状態だった。
僕は今のアスカちゃんを見て震えているシンジ君の首を放す。

 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 途端にシンジ君は、耳を塞ぎ、叫びながら逃げ出した。
「!!待ちなさいシンジく……」
シンジ君の後を追おうとするミサトさんを、僕は右手で制す。
「何をするの武藤君!!」
既にシンジ君はこの発令所から姿を消していた。

 「今、作戦部長である貴女が飛び出したら、誰があの状況を対応できるんですか?」
ミサトさんは、そこでハッとし、押し黙る。
モニターに振り向く時に一瞬不思議そうに僕を見たが、
その後は目を合わせなかった。

 あの惨状の対応は、司令席にいる司令か副司令でもできるが、
今、ミサトさんにシンジ君を追いかけさせる訳にはいかなかったのだ。
『レナ』さんの計画の為に……。
シンジ君を強くする為に………。
そして、『僕達の願い』の為に……。
これから、更に過酷な『結果』が、この第三新東京市に起こってくる。
もう、シンジ君を甘やかしては駄目なのだ……。
彼が『全ての要』なのだから…………。

 「ママ大好き!」
アスカちゃんのその台詞を聞いて、僕は少し歯噛みをした。
そして僕は、逃げ出す様に発令所を後にした。


 「エヴァンゲリオン弐号機改…BURNING EVANGELION(バーニング・エヴァンゲリオン)……」
僕は廊下を歩きながら、先程の弐号機の名をつぶやく。

 「あの『アスカ』こそが…貴女の求めたカタチなんですか………キョウコさん……」
今度は『アスカ』のお母さんの名をつぶやいた。
僕は無性に悲しくなった。






あれはアスカじゃない

あれはアスカじゃない。
あれはアスカじゃない。
あれはアスカじゃない。
あれはアスカじゃない!

フラッシュバック(4・5秒)
笑み。
屈託なく笑うアスカ。 幼子。
コクピットの座席に擦りつくアスカ。
残酷
無垢
使徒の体をむしり取る弐号機。 少し不貞腐れるアスカ。
崩壊。
幼子の様な振るまいをするアスカ。

僕の知っているアスカは、強くて、格好良くて、頭が良くって、高飛車な所や我がままな所もあるけど、
すぐ逃げ出す様な僕なんかとは違って、決して逃げたりしないんだ!
フラッシュバック(10・5秒)
悠然。
初めて会った時のアスカ。
自信。
弐号機の頭の上に乗って弐号機を誇らしげに語るアスカ。
天才的操縦技術。
空母の上に乗る弐号機。
ソニックグレイブで第七使徒を切断するアスカ。
壮麗。
空に舞い上がる弐号機。
初号機とユニゾンする弐号機。
女。
シンジの隣に寝るアスカ。
水着姿のアスカ。
バスタオル姿のアスカ。
シンジとキスをするアスカ。
シンジに引っ張られて、はだけるアスカの胸。

あれはアスカじゃない! あれはアスカじゃない! あれはアスカじゃない!
あれはニセモノだ! そうさ!偽物なんだ!
ねえ、アスカ何処!?
返事をしてよぉ!
ねぇ!ねぇ!ねぇっ!アスカ!アスカ!アスカァッ!!
……見せてよ……
僕の前に姿を見せてよ…
僕を助けてよッ!!
ねぇっ!ねぇっ!ねぇっ!ねぇっ!

ねぇッ!!

……………綾波……?
な、なんでそんな目で僕を見るの?
そんな殺す様な目で僕を見ないでよっ!?
僕を殺さないでっ!!
助けてよ…助けてよ…助けてよ…助けてよぉ…………

アスカぁ…………………






 現在の第三新東京市は、エヴァ弐号機改…バーニングの『フレアバスター』によって、一部が炎に包まれていた。

 『フレアバスター』による被害自体は、少ないが、
『フレアバスター』の一端の軌道上に、ミサイル等の爆撃兵器を搭載した兵装ビルが複数あった為、
それの誘爆による被害が多かった。

 その光景を、双子山山中から、20代半ばの女性が電子双眼鏡で見ていた。
そして女性は、手に持っている電子双眼鏡を下ろした。

 女性の顔立ちは、妖精の様な整った顔立ちだった。
少し大きな目。
整った鼻に、肌の色に近い色をした唇。
綺麗な顔立ちである。
これで、髪が赤紫のショートボブではなく、金色や黒のロングだったら、なお美しかったであろう。

 女性の服装は、ウエストを強調した黒のロングジャケットと、白のブラウス。
下の方は、黒のスラックスに黒のハイヒールと、黒を基調とした服装である。
装飾品には、両手首に金のリングが一つづつ掛けられている

 女性の周りは、とても一般の感覚では想像できない物が多々あった。
女性の右隣には、貴族風の白いチェアーとテーブルが一組。
テーブルの上には、白磁で出来た洋風のティーカップ一式が置かれている。

 女性の後ろには、先程使徒によって撃墜された『ツヴァイフライト』があった。
『ツヴァイフライト』は、墜落時の爆発によって、鳳凰の美しさも見る影がなかった。
そこから少し離れた所に、胴体を包帯で巻かれた男がいた。
男の服装は、国連空軍のパイロットスーツだった。

 「予想…以上ね…『ヒートナックル』を使わない内に倒すなんて……」
女性は、澄んだ声でつぶやく。
そして女性は、視線を自分の後ろに向ける。

 振り向いた所には、汚れた大きな犬を撫でている少年がいた。
中学生位に見える、その少年の服装は学生服だった。
「リョウ……………出番よ」
同時に、少年は快絶な笑みを浮かべて見せた。



























つづく


































さらなる精神崩壊を起こし、

自らの時を幼子へと逆行させたアスカ。

その彼女から、そして全てから目をそむけ、

自分の心の殻へと逃げ込む碇シンジ。

使徒が今だに襲いくるという事実に、

心が荒んでいくミサト達。

不安と憎悪が渦巻く中、

第三新東京市に現れた新たなるチルドレン、海馬リョウ。

科学者、泉夜イズミ。

この二人のもたらすものは救いか、それとも……………。

次回




再会、そして…







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