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 セミ鳴き声                     ミーン ミン ミーン
車の音                     ガガガガガガガガ………
笛の音                     ピッピッピッピッピッピッ……
小さいど、何処からかそんな音が聞こえてくる。

 ここは病室。

 白い空間。

 飾り気の無い空間。

 静寂の空間。

 楽しくない空間。

 孤独の空間。

 私は孤独。

 コドクなワタシ。

 ヒトリボッチノワタシ。

 置き去りにされた

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 違うッ!私は人形じゃない!!

 誰にも操られない!

 誰にも利用されない!

 自分で考え、自分で動くの!

 一人で生きるのッ!

 だから私は人形じゃない!

 誰にも甘えない!

 誰も頼らない!

 ヒトリデイキルノ!

 だからもういらない!!

 ミサトもいらない!

 ファーストもいらない!

 バカシンジなんか一番いらない!

 パパもいらない!

 ママもいらない

 みんないらない!

 なにもかもいらないッ!!



































ガラスノヨウニワレル、オサナイアスカ



























ダカラ、ワタシモイラナイ………ッ!












「何も…いらない」
そうつぶやいて、私はシーツをギュッと掴みながら泣いていた。
何故涙なんか流すのか、今の私には理解できなかった。
泣かないって決めた筈だけど、
今は…………泣きたかった。

 私が今いる病室には、私一人しかいない。
でも退屈に思った事とか、誰かにいて欲しいと思った事なんて一度も無い。
たとえこの病室に誰かがいたとしても、
私は話し合うつもりなんてないし、何よりも…一人になりたかった。
正確には、誰にも合いたくなかった。
誰にもこんな弱い私を見せたくなかった。

 ミサトにも、

 司令にも、

 リツコにも、

 マヤにも、

 鈴原や相田にも、

 ヒカリにも、

 ファーストにも!

 バカシンジにも!

 パパにもママにもッ!

 リリィにもッ!!

 「………リリィ」
そうつぶやいて、私は目線を窓に向ける。
私はふと、リリィという少女の事を思い出す。

 アイツの常緑色(エバーグリーン)の目が私の頭の中を通り過ぎる。

 ……バカバカしいッ!
アイツはシンジみたいでムカツくのよッ!
そうして私はリリィを頭の中から消しさる。

 不意に、ドアの向こうから話し声が聞こえてくる。
「どうしました?シンジ君」
「テン…さん」

 ………テン?………生きてたの……アイツ……
ドア越しから聞こえる『テン』という言葉を聞いて、私は昨日の出来事を思い出す。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ………………
生命維持装置の機械音がこの空間に響く。
ベットに横たわっている私の後ろには、シンジが立っていた。

 「ミサトさんも綾波も恐いんだ。…助けて。助けてよ、アスカ」
『一一イヤ』……そう言ってやりたかった。
だけど、聞く事とうっすらと目を開く事しか出来ない私には、口を動かす事すらままならなかった。

 「ねぇ、おきてよぉ。ねえ
そう言って、シンジは私の右肩を揺さぶる。
体をまともに動かす事が出来ない所為もあるが、私は…目を覚ましたくなかった。
こいつの……シンジの顔を見るのが嫌だった。
だから私は眠った振りを続ける。

 「目を覚ましてよ。
ねえ、ねえ!アスカぁアスカ、アスカあ!
アイツは泣きそうな声で、更に激しく私の身体を前後に揺さぶる。

うっうっ…ううっ…うっうっ……助けてよ…助けてよ、助けてよ、助けてよ、助けてよ。
また、いつもの様に僕をバカにしてよ

 首に生温かい感触が伝わる。
コイツ…泣いてるの………?
……イヤなヤツ……

私の心の中に憎悪が噴き上がる。

 「ねェッ!
え?

 プチプチッ!

 いきなり引っ張られたと同時に、何かが私の体から剥がれた。
胸がスースーする……どういう事?
もしかして…見られてるの…?
私の肌…胸が………
こんな奴に………
イヤ…見られたくない
でも、目を開きたくない
アイツの顔なんて見たくない
でもこんな奴に、私の肌を見られるのはイヤ

 ガチャ。

 ジイィィ。

 朦朧とした意識の中で、私の耳から二つの音が聞こえた。
私にはその音の意味をすぐに理解できたが、それでも目を開きたくなかった。

 バキッ!!

 ……………バキ……?
そんな音がこの部屋に響いた。
だが私は今だに目を閉じている為、その音が何なのか解らなかった。
物質をプレスで潰す様な音は、今だに続いている。

 ミキ…ミキ…ビキッ!ビキッ!………………バキンッ!!……ガチャ

 今の大きな音の後に出てきた音を察するに、病室のドアが開いたのだろう。
だけど病室の向こう側に何があるのかは、目をつむってる為解らなかった。
「静かな病室で二人きり。女の子は眠れる森の美女。……まさに、絶好のシチュエーションです」

 眠れる森の美女って……私………?
私は今時言わない言葉に、半ば呆れた。
「だが、君は三つのミスを犯した」

 ……三つ?、ミス?、何言ってるのコイツ?
「一つ、女の子にすがるその態度。
これは『男』として、お世辞にも良い態度とは言えません。
二つ、君が今やろうとしていた自慰行為。
僕が止めなかったら、結果的に君と女の子は更に傷つく事になっていました」

 ……やっぱりコイツは私をオカズにしようとしてたんだ……
……本当にイヤなヤツ…
でも…言ってる男の方もさっぱりだわ…
あんなのは私が傷ついてアイツが楽しむだけなのに、
何でアイツまで傷つくのよ………!

私はそう思うと、シンジと喋ってる男に嫌悪感を覚える。

 「そして、最後の三つ目…………」
…まだあるの…………?
「ここに監視カメラがあるという事だぁ!!」

参拾秒沈黙

 ……………あの男……何言ってんの…………
バカ?と付け加えて、私は呆れていた。

 バツンッ!バサァ。

 「申し遅れました、碇シンジ君。僕の名前は、武藤テンといいます」
今迄シンジと話してた男は、やっと自分の名前を紹介する。
でも『武藤』ってどっかで………
私は必死で思い出そうとする。

 「君の事は有名ですよ」
「えっ?」
「なんせ、人類最大の『敵』と言われる使徒を数多く倒した、スーパーパイロットですからね」
私は今の言葉を聞いて、思い出すのを止めた。

 ……スーパーパイロット……?
シンジが………?
そう……そうなのね……!
もう誰も私なんて、見てくれないのね……!
みんな私じゃ無く、
あのバカシンジを見ているのね………ッ!

 孤独、絶望、憎悪……………そんな言葉が私の心を突き刺す。
そんな事を言った男を、憎悪の対象としてこの目に焼き付けようと思ったのか、
私はシンジ達に気付かれない程度(今のアスカにはこれが限界)に目を開ける。

 「…………………………シンジ君」
…………シンジ…?
朦朧とした意識の所為か、私は一瞬、錯覚を覚えた。
瞳に映ったものは、うつむくシンジの後ろ姿と、
そのシンジの肩に手を置いている『シンジ』だった。

 ううん、違う
あれはシンジじゃない
あの『シンジ』は、髪が茶色だし、
瞳が……………

 どこからか話し声が聞こえる。
その声と同時に、シンジみたいな顔をしていたテンという男は、いきなり顔面蒼白になった。
どういう事?

 「シ、シンジ君。明日もまた、また、びょ、病院で会いましょう。
ア、アスカちゃんのお見舞は、これからま、毎日、欠かさずず、行きましょうね。
さ、さよならぁぁぁぁぁっっっ!!!」
 叫びながらテンは、病室の入口から私を通り過ぎる。
多分、入口の向かいにあるこの部屋の窓へと走り出したんだろう。

 廊下からも叫び声が聞こえたが、何を言ってるのか解らなかった。
何にしても煩い。

 「テ、テンさん!ここ、三階ですよ!」
シンジも声を上げた。
「あ、言い忘れてましたシンジ君!さっきの言葉、あれは『約束』ですよ。分かりましたか!?」
「え、あ、はい」
「よろしい!とお!」
「あっ!」

 さっきシンジが三階って言ってたわよね………
まさか……飛び降り………

「うぎゃぁああああっっ!!」

 ……た様ね……
三階から落ちたって事は………運が悪ければ死んでるわね………

私は何の感情も込めず、そう思った。
だって、あいつが死んでも、私には何の関係もないんだから。

 「ちょっと貴方…何やってるの…?」
病室の入口から女の声が聞こえた、入口にいたのはナースだった。
ナースは私をチラチラ見ながらシンジに問いかけてきた。

 「え?……いや、これはその………」
シンジも私の方を見て、なにか言い訳を始める。
そこで私は今の自分の格好を思い出す。
疑われるのも無理ないか……
だからといって、私はシンジを助ける気なんか毛頭なかった。

シンジとナースの話し声を聞きながら、私は本当の眠りについた。


 シンジは昨日テンが言った通りに今日も私の所に来ていた。
さっき来た場合はただ花を入れ替えたりとかしていただけだったけど。
私はその時も、眠ったフリを続けていた。

 既に私は三日前から目覚めていた。
でも意識は今だにぼう、としていた。

 不意に私は、病室の窓の方に目を向ける。
その窓に映る空の景色には、
小さく黒い飛行機と、赤い十字架があった。






 「リョウ。出発よ」
私はそう言って、リョウの部屋のドアを開ける。
そこには、少し散らかった部屋の真ん中でテレビゲームをしているリョウがいた。

 「へ?出発?」
リョウは返事をするが、今だにゲームを止めない。
リョウの態度と散らかった部屋を見て頭にきた私は、まだゲームに夢中になっているリョウに近づく。
リョウはゲームに夢中になってる所為で、私が近づいて来る事に気付いていない。

 「げえぇぇッ!!そこで一撃必殺…ゲボォッ!!」
リョウの言葉が言い終るよりも早く、私の右回し蹴りがリョウの後頭部にめり込み、
そのまま勢いを殺さず、リョウの頭をテレビに衝突させる。

 ガシャン!!

 リョウの頭がテレビに突っ込んだと同時に、私はすぐさま右足を引く。
引いた直後、テレビに突っ込んだリョウの体が、激しい音と共に痙攣を始めた。

 ビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!

 「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁぁああーー!!」
体に強烈な電流が流れている所為か、リョウは悲鳴を上げる。
まあ、使用中のテレビに突っ込んだら、感電するのも当り前か…
感電しているリョウを見ながら、私は冷静にそう思った。

 シュゥゥゥゥゥ。

 感電を始めてから二十秒、リョウの体はそれに至って痙攣が収まった。
しかしリョウは、頭をテレビに突っ込んだまま、ピクリとも動かない。

「流石に死んだかしら……?」
などと私は常識的な心配もしてみる。

五秒沈黙

 「くふぁッ!!こっ、殺す気かぁぁぁぁぁぁああああッッ!!!」
リョウは叫びと共に勢いよくテレビから顔を出す。
「!!く、くふふふ…ッ!は、腹がよじれ……フフ……」
テレビから出たリョウの顔を見て、私は思わず笑い出す。

 「あ?何笑ってんだ?あんた」
リョウは必死で笑いを押さえようとする私を見てしかめっ面になる。
どうやらリョウは今の自分の髪形に気付いていないらしい。

 「ちょ…くく、自分の…髪みっ…うぉ、見てて…みなすすすす……くくくく」
私は必死で堪えているが、腹がよじれる程リョウの髪形が可笑しかった為、笑いを押さえきれない。
「変なの」
リョウはそうつぶやいて、洗面所へと消える。

その後、部屋中に響く程のリョウの叫び声を聞いて、私は大笑いした。






 「ったく、えらい目にあったぜ」
リョウは疲れた顔でレナの家の地下にあるガレージに向かいながらそうつぶやく。

 「頭をテレビに突っ込むからよ…くく」
レナはまた思い出したのか、笑いを堪えていた。
「誰の所為だよッ!俺がテレビに突っ込んじまったのはッ!!」
「貴方の所為よ」
「はぁッ!?」
レナのきっぱりとした返答にリョウの頭に血が上る。

 「貴方が部屋を散らかすからいけないのよ」
「何ぃッ!?ふざけた事言ってっとぉ、殺(バラ)すぞッ!!」
リョウはかなり物騒な事を言う。

 「まあいいじゃない。そんな過ぎた事。アフロも直った……くくくく…ことだし」
レナはそう言って、話をまとめる。
だがリョウにとっては全然まとまっていなかった。
「あんた……いつか動けなくして、娼婦館に売り飛ばしてやる」
リョウはまたもや危ない台詞を口走った。
「あら、そんな事するの?じゃあ今日中に貴方を富士の火口に放り込まないとね」
レナも鉄で出来たガレージのドアを開けながら物騒な事を口走った。
それを聞いてリョウは渋顔になる。

 「……じゃあダチュラを使って、正常な思考を奪ってやる」
「私がそれを中和する薬を持ってないとでも思ったの?」
レナは馬鹿にするかの様な口調で語る。

 ……この女には絶対勝てねぇ………
リョウはそう思った。

 車の整備工場の様なガレージの中には、四台の自動車があった。
向かって左からフェラーリF40、GT500、小型車のミラ、大型車のワゴンがあった。
これらは全てレーシング様にセッティングされてる。

 フェラーリから少し離れた左の壁には、タイヤ、ホイール、バッテリー、エンジンなどのパーツが並んでいた。

 リョウ達のいる入口のすぐ右には、距離50メートル位の通路があり、
その先にはシャッターがあった。
通路自体の幅も、車1・5台分はある。

  「さ、乗るわよ」
そう言って、レナはホワイトカラーのワゴンのドアを開ける。
「え、乗るって…コブラじゃねえのか?」
リョウはそう言って、ブラックカラーのGT500を指差す。
「今日の『炎のお祭り』には、荷物を持って見にいくからよ。
あ、そうそう、貴方は荷物が割れない様に、後ろの座席に座って押さえといて」
レナはそう言って運転席に座る。

 「荷物?一体どんな荷物なんだ?」
リョウはそうつぶやいて後ろのドアを開ける。
そして後ろの座席にある荷物を見た途端、リョウは目眩がした。

 ワゴンの後ろには、フランス貴族が使う様な白いチェアーとテーブルが一組、
立てられたテーブルの上には、白磁で出来た洋風のティーカップ一式が入っているダンボール箱と、
テーブルの下には、紅茶に使うハーブやポット、紅茶を作る道具等があった。
これらはお世辞にも外出時に持っていく物ではない。

 「これは…これは何々だぁぁぁあああッッッ!!!レナさん!!?」
リョウは、振り向き様にレナに向かって吠える。
レナの方は、さして気にした様子もなく、車のキーを捻る。
「何って…見た通りじゃない。何言ってるの?頭大丈夫?」

 キュィイイイイッ!!

 レナがリョウの問いに答えたと同時に、ワゴンからの甲高い悲鳴がガレージ全体に響く。
「どぉおおッ!?何だこの音はぁぁああッ!!」
突然の悲鳴に驚いたリョウは、慌てて耳を塞ぐ。

 「また変な改造をしやがったなッ!レナさん!!」
車に乗ったリョウは、ドアを閉めながら再度吠える。
「違うわ、改造なんてしてないわ。私はただオリジナルエンジンを組み込んだだけよ」
「同じだぁッ!!」
レナの冷静な返答に、リョウは声を荒げる。

 「同じじゃないわよ。で、聞きたい事ってそれ?」
 リョウはそこで後ろの白い物体の存在を思い出す。
「そうじゃねぇ!!後ろのあれは何々だッ!!?」
リョウがそう言って、レナはバックミラーに映る物体を見る。
「何って、ティーセットじゃない。そんな事も解らないの?」
レナはそう言って、侮辱するかの様なまなざしでリョウを見る。
「ああそうだ!ティーセットだっ!で、何でそんなモンが車ン中にあるんだ!ああ!?」
リョウはケンカ腰で吠え続ける。
「勿論、これから起こる『悲劇』の一つ、『炎のお祭り』の為に必要だからに決まってるじゃない」
レナは軽快に答える。

 「ほお!あのティーセットがどういう風に必要なんだ!ええ!!?」
「そりゃあもう、『お祭り』を見ながら、紅茶の味を楽しむ為に必要なのよ」
お解り?と、レナは答える。
リョウはそこで額に右人さし指と中指を押さえて考える仕草を取る。


 レナ達の乗っている白いワゴンは、223km/hというハイスピードで、第三新東京市の街並を走っていた。
本来ならば、スピード違反という事でパトカーが追ってきてもおかしくない筈だが、
道路にはパトカーどころか、車 一台…人の気配すらない。

 街の北端にある特別ロープウェイ広場に向かっているワゴンの中の構成が、運転席にレナ。
そして真ん中の席を取り外して広くなった後ろに、リョウとレナのティーセットという組み合わせである。

 レナの服装は、ウエストを強調する黒の変形ロングジャケットと、白のブラウス。
下の方は、黒のスラックスに黒のハイヒールと、黒を基調とした服装で、
装飾品には、両手首に金のリングが一つづつ掛けられている。
リョウの方は、夏という季節を無視したレナの服装と比べて、夏用の学生服というシンプルな物だ。

 「聞くけどレナさん。俺達は今から第三新東京市に行って、『お祭り』を見に行くんだよな?」
さっきから考えてた事が纏まったのか、
リョウはカップの入った箱を抱え、チェアーにもたれながらレナに話しかける。
顔を伏せているので表情は解らない。

 「そうよ」
レナは不機嫌そうな顔で答える。
彼女が不機嫌なのは、車の振動を感じないからである。
リョウは構わず質問を続ける。
「で、その『祭』のカードは、『極炎』と『山脈』で……」
「そ、」
「その『ラムペル』は双子山に現われるんだろ」
「そうそう」
「で、そいつが街に入った後に、俺達が双子山に登る」
「イェス」
「俺達はその戦場を、見通しの良い場所で見物する」
「そうよ」
「で、レナさん。あんたはその戦いを、紅茶を飲みながら見るって事だよな……」
「その通りよ。ちゃんと解ってるじゃない」
レナは、自分に指を差しているリョウに対し、感心したかの様な声を上げる。

五秒沈黙

 「…ふざ…ふざ……ふざけんなぁぁぁぁああっっ!!
レナの言葉に切れたリョウは、叫びながら立ち上がる。

 ゴンッ!!

 その直後、リョウの頭は車の天井にめり込んでいた。
「……ドリフのコント以下ね……」
レナはため息をつきながらつぶやいた。


 ゴオォォォォ……。                                     風の音

 一本の黒い斜線が引かれた大空に、一つのゴンドラが斜線を伝って下へと降下していた。
ブルーカラーのゴンドラの大きさは、ワゴン二台分はあった。
そのゴンドラの真ん中辺りにワゴン、ゴンドラの右端の席にリョウがいた。
リョウは不機嫌そうな顔で空の景色を見ていた。
空は、透き通る様な水色だった。

 「まぁだむくれてるの?」
いつの間にかリョウの後ろにいたレナは、そんな言葉を投げながらリョウの頭を自分の胸に寄せる。
彼女の表情は、子供をあやす母親の様な笑顔だった。

 「あったりめえだ。普通戦場にティーセットなんて持っていかねぇ」
リョウは後頭部でレナの胸にうずくまりながら文句を言う。
「普通はね。でも私達は普通じゃないでしょ?」
レナは笑顔のまま答える。
「そんな極論を吐かれちゃ、反論する言葉が見つからねえな……」
リョウはため息をついた。

 「ん?」
リョウははた、と窓から見える小指の先位の大きさの黒い物体に気付く。
目を凝らして見てみると、それは黒い飛行船が赤い十字架を下げて飛んでいたのだ。

 「あれは…EVA専用輸送船」
レナはリョウを抱き寄せたまま、そうつぶやく。
レナの表情に、笑みは既に消えていた。
「こちらと逆方向って事は、既に『あれ』をネルフ本部に運んだ後ね……」

 「……『ヤツ』か……」
リョウはそう言って、快絶に笑った。






 「……ふう……」
私はメインモニターを見ながらため息をついた。

 「どうしたんですか?」
マヤがそんな私の様子に気付き、声を掛けてきた。
「え?ああ、何でもないわよ」
私は適当に相槌を打つ。

 何でもない訳がない……
あんな恐ろしいモノを見て、
何でもない訳がない…!

 私は先程ケイジで見た弐号機の姿を思い出す。
思い出す度に背筋がゾクっとする。
私は不意に日向君の方を見ると、
日向君も『あの』弐号機の姿を思い出したのか、端末を動かす手が震えていた。

 「おい、どうしたんだ?」
「い、いや、ちょっと目眩がしただけだ」
青葉君の言葉に、日向君は適当な相槌を打つ。

 どうやら、あの弐号機の姿は、モニターには映らなかったようね…… そこで私は安堵に近いため息を漏らす。

 そう、『あれ』が皆の目に入れば、
全員、『飲み込まれる』ことは確実
いかなる者でも………


 エヴァ格納庫。
その名の通り、エヴァを収容する格納庫である。
ネルフの職員はエヴァケイジ、またはただのケイジと呼んでいる。

 ケイジは、エヴァ一体に一つの部屋を使い、
構造は、床の殆どに赤いLCLが張られている。
エヴァは、そのLCLの海の中に、首まで浸されている。

 私と日向君は、エヴァンゲリオン弐号機を収容している第二格納庫のコントロールルームにいた。
理由は、エヴァ弐号機にあった。

 第二格納庫に収容されている弐号機は、
『極炎』と、黒い糸で大きく染め抜かれた赤い布に被されていた。

 私はその弐号機を見る為に日向君を引っ張りだして、ここに来ていた。

 エヴァ弐号機を運んできた輸送機パイロットから直に聞いた日向君の話だと、
ある科学者の命令で、『出撃時まで外してはいけない』とあったが、
そんな指令も、私は上から伝わってはいなかった。

 碇司令の事だから、そんな私事の入った命令を聞くつもりも無かったのであろう。

 「じゃ、日向君…お願い」
「知りませんよ、どうなっても」
「責任は私が持つわ…」
私がそう言うと、日向君は端末の電子パネルにあるRETURNキーを押す。

 ウイィィィィィン

 それと同時に、ケイジの天井にあったクレーンが、真下にある『赤い布』に向かって降りてくる。
「さて、あんな布で隠すことだから、どんな醜い姿になってるのかしらねぇ……」
私は根拠もなく、そんな事をつぶやいた。
だが、モニターごしから見た『布』の中身を見た瞬間、私は強烈な恐怖感を覚えた。

 「な、何々だ?これは……」
日向君が声を震わせる。
私も、魂が抜けたかの様に呆然としていたが、すぐに正気を取り戻し指示を送る。
「日向君。すぐに布を下ろして……早く…!」
「は、はい……」
日向君は返事と共にパネルを動かす。
途中、何度かコントロールミスが見られたが、それでも日向君は無事、作業を終了する事ができた。

 「あんな『恐ろしい者』、今は皆には見せられないわ」
「ど、同感です」
私のつぶやきに日向君も同意する。
「青葉二尉や伊吹二尉には…」
「黙っていればいいわ」
私のきっぱりとした発言に日向君も同意する。

 私はちらり、とモニターに映る弐号機を見る。
弐号機を覆っている『極炎』と刺繍された布は、今にもずり落ちそうだった。
「あれ、覆うよりも包んだ方がいいわ。日向君。ケイジにある全クレーンを使って……」
「はい。解っています」
私が言い終えるよりも早く、日向君はパネルを操作する。
同時に、ケイジにある全てのクレーンが動き出す。


 「三佐……葛城三佐」
私はそこでハッとする。
すると横にはショートカットの女性…マヤが心配そうな表情で私を見ていた。

 「本当に大丈夫ですか?」
「ほ、本当に大丈夫だって」
私はまた適当な相槌を打つが、声が上ずってる為、やたらと不自然だった。

 マヤは不思議そうに私を見るが、
すぐさま作業に戻った。
「あ、危なかった……」
私はため息をつきながら、誰にも聞こえないつぶやきを発した。

ビィーュンッ!ビィーュンッ!ビィーュンッ!ビィーュンッ!

 その直後、緊急警報のランプ音が作戦指令室内に響く!
「何!!?」
「山脈内部から未確認物体出現!!」
「パターン青!!使徒ですっ!!!」

 ………何ですって…… 「…あの少年が最後の使徒じゃなかったの…?」
私は驚きを隠せなかったが、
エヴァが『あんな姿』になって返ってきたのだ。
使徒がまた現われる事位予想できる。
私はすぐに平静を取り戻し、オペレーター達に指示を出す。

 そう、リツコもいない今、呆然としている訳にはいかないのだ。

 




 ギュギギィィィィィッッ!!

 「うわぁぁぁああッッ!!」
「喋ってると舌を噛みまはグああッ!!」
テンさんはそう言って舌を本当に噛んでしまった。
口からは血が滝の様に出ていた。
しかし、そんな事を気にしている余裕など、僕にはなかった。

理由は、テンさんの運転がミサトさん並みに荒っぽいのだ。
さっきのカーブでも、スピードは200km/hは出ていた。
「いやあ〜!特別チューンで助かりました〜!」
テンさんはそう言って口から血、額には汗を同時に流していた。
この人の車には絶対に乗らない事にしよう…… 僕は固く決心した。

 僕とテンさんは、ネルフの施設病院から出て、丘の上公園展望台で、話をしていた。
そして、テンさんの「『使徒』はまだ現われる」という言葉と同時に、使徒が双子山から現われ、
僕達は使徒から逃げる為に、テンさんのワゴンでネルフ本部に向かっていた。

「トンネル、トンネル、トンネル、トンネル、トンネル、トンネル!」
テンさんは『トンネル』と連呼しながら辺りを見回していた。
その所為か、テンさんの運転しているワゴンのスピードは、100km/hになっていた。

 「テンさん…トンネルなんて探し…」
「あー!あったあったあったあったあったぁッッ!!」
僕が言い終えるよりも早く、テンさんがいきなり叫び出した。
「トンネル………って、何もありませんよ!?」
事実、僕にはトンネルの入口すら見えなかった。

 「僕の視力は2・5ッ!しかもここからトンネルまでストレートッ!!
という事で、フルアクセルッ!!
「何がという事…グッ!」
僕の叫びは、いきなりのハイスピードによって途中で切られてしまった。
100km/h前後だったワゴンはいきなり230km/h(max)を出していたのだ。

 「シンジ君!今は黙っておかないと舌をガハァッ!!」
そう言ってテンさんはまた舌を噛んでしまった。
こりない人だなあ……僕はそう思った。

 テンさんのワゴンは緩やかなスピードでトンネルの壁際を走っていた。
どうやらまだ探すものがあるらしい。

 「え〜と、あったあった」
テンさんはそう言って車を止めて窓を開ける。

 壁には手のひら位の大きさの、黒い四角形の機械があった。
真ん中にはカードでも通す様な窪みがあり、
機械の右側には、赤いランプと青いランプがあった。
今は赤いランプが光っていた。

 テンさんは今着ているネルフの制服の胸ポケットから赤いカードを取り出した。
それは、ネルフの職員カードだった。

 「ねえ、テンさん。使徒、こっちに来てません?」
僕は車の後ろから見える使徒を見ながらそうつぶやいた。
心無しか、使徒の姿は段々と大きくなっていた。
「そうかもしれませんね、何せ今迄通っていた道は、使徒の進行通路ですからねえ」
テンさんはそう言いながら、カードを機械に通す。

 「ああ、そうな……テンさんッ!!どうしてそんな道を選んだんですかぁッ!?」
「この道が最短距離だからです!」
悲鳴に近い僕の叫びに対して、テンさんは親指を立てながら自慢気に答える。

 「何ですか!?その立てた親指はぁぁッ!!」
僕は今にも泣きそうだった。
「大丈夫、大丈夫。あ、ランプが変わった」

 ガコン! ギギギギギギギ………

 テンさんがそう言ったと同時に、ワゴンから少し離れた所の壁の一部が横にずれる。
「これは……」
「ネルフ本部の非常用通路です。さ、行きましょう」
そう言ってテンさんはワゴンを動かす。
僕はそこであることに気が付く。
……そうか、テンさんは僕をエヴァに乗せる為に僕をここまで連れてきたんだ…
でも……僕は……………

僕はエヴァに!人を傷つけるだけのモノに乗りたくないッ!!

 その時、『誰か』が『僕』に乗り移った。





後半へ続く…………