魔法の科学的活用元年。超自然エネルギーの無限活用を開発。
だが、発見者の名前が明かされる事はなかった。
これにより科学による環境破壊の停止宣言をすると共に、国連の形態が強化されることになる。
また、一切の兵器の保有、生産も禁止されることになった。
西暦、2014:
人類の生態強化計画(通称GEAR計画)に着手。
その計画は一般に公表されなかったため、その内容は知られてはいない。
西暦、2074:
某先進国はGEARにより他国の制圧を計画。
だが自らの意識と強大な力を持ったGEAR「ジャスティス」が誕生し、
「あの男」の予定通り、他のGEARはジャスティスの支配下となり、人類に反旗を翻した。
同年、GEARの攻撃で日本列島は消滅。
これに対し人類は聖騎士団を結成、この先100年にも及ぶ聖戦の始まりである。
まだ日本と呼ばれた国があった頃が舞台となる。
魔法の力で空を飛び、魔法の力で地を駆ける機械達。
だが、遥か上空から見下ろしたならば、大地は20世紀後半と変わりなく、光のラインで彩られている。
ここは日本。
現在GEARの苛烈な攻撃により、滅びへと向かっている国家である。
突然降って湧いた凶事に国外へ逃げ出そうとする者や、地下深く隠れる者。
だがGEARと呼ばれる生態兵器はそんな人々を逃しはせず、確実に消去していった。
人々は荒み、やがて訪れる自らの死に怯え、助かる方法を模索した。
だが、そんなものは現在、存在しなかった。
GEARの蹂躙がはじまってよりまだ三日。
しかし、既に日本は後数日もつ程度の戦力しか有していない。
滅びへのカウントダウンは始まっていた一一一。
街の灯がまだ存在するある街の、地下深い酒場で一人の少女が叫んでいた。
酒場は薄暗く、猥雑で、人間が本来持つ暗黒の活気に溢れていた。
その店の奥まった席にどっかりと一人座った男の前にその少女はいた。
少女はその可愛らしい顔を歪め、これ以上ないくらいに声を張り上げて、
目の前の座っている男を責めたてているが、
当の本人は全く意に介さずに、薄笑いすら浮かべていた。
男の身体は戦闘用の筋肉でがっしりと肉付けられ、ふんぞり返ってソファーに座っているだけだと言うのに、
圧倒的で高圧的、更に脅迫的というか…。
いやむしろ一つの言葉で語るよりも、その手の言葉を全てひっくるめて、圧縮した様な気配が満ちている。
何より特筆し、注目したいのが男の目だった。
何人も寄せつけず、しかし全ての者を魅了し、捕えて離さないその瞳。
もしこの男が自分が身にまとっている剣呑な、そう極めて危うげなその気配を絶ち、
にこやかに笑って見せたなら、一体どれほどの女性が虜になり、騙されるのだろうか…。
だが今はただの恐ろしい男としか映り様が無かった。
その目は凶悪にして狂暴、美にして狂、邪にして悪。
ありとあらゆる言葉を用いても、決して褒める事は不可能にも思える。
そんな男のソファーの後ろでは、
どう好意的に見たとしてもガラの悪い男達一一一座っている男の部下だろうか一一一が、
ニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべている。
「だから…遊びだったっつってんだろ」
椅子に座っている男がようやく返事を返した。
その声はがっしりとした体格と違い、まるで変声期途中の少年の声だった。
男は口の端を大きく吊り上げると、目の前で立ち尽くす少女に言った。
「別れるっつてんだよ………どーせあと何日もこの国は保たないんだ、テメェも新しく抱いてくれる男でも見つけるんだな………」
男の残酷とも言える言葉に拳を握り締め、じっと耐えていた少女だったが、ついに踵を返すと、
ろくな死に方しないよ! と言葉と涙を残し、去っていった。
それに対し男は自信に満ち溢れた表情でこう言った。
「オレは死なねぇよ………。何故なら、オレは最強だからだ」
酒場がにわかに静まりそして一一一。
「なんてな!」
と後ろに控えている部下達に付け足す男の言葉で、10人近くの笑い声が響いた。
ひとしきり男達は笑った後、一人の部下が提案した。
「じゃあ、最強のリーダー? 一走りいこうか!?」
フッと男は軽く自嘲めいた笑いを漏らした。
彼等の言う走りとは、バイクを駆り、いつGEARと出会うともしれぬ街を走る事。
男はそのスリルが楽しいのだ、いやリーダーと呼ばれるこの男だけではない、
この場にいる8名全てが命懸けのスリルを楽しんでいるのだ。
明日滅びるともしれないこの国で。
「よぉし!いくぜテメェら!!!!」
彼の声に勝どきの声にも似た歓声が響いた……。
闇を光が切り裂く。
空気中のエーテル粒子を吸い込み、エンジンに該当する部分で推進力に転換、そして放熱。
そうしてバイクは漆黒の闇を走る。
エンジンが超自然エネルギーを使用する以外は、何ら昔のバイクと変わり無い組み上げをしているマシン達。
多くの若者を魅了したその形の魅力はこの時代においても廃れてはいない。
どれほどの時間を走っただろうか?
男の部下の一人は訳の分からない感傷に浸っていた。
さっきの別れ話と言うには余りにも酷なシーンを見たからかもしれない。
彼は先程の眉目秀麗とも言える少女をいとも簡単にフってのけた男一一一リーダー一一一の事を思う。
「一本木勇、14才…か。 ガキとは思えないガタイと知略、そしてなみいるGEARを薙ぎ払い、オレ達を救ってきたリーダー………。 まさにバケモノだ」
彼の前方ではリーダー、すなわち一本木が高出力の噴出機関を使い、ジグザグに加速している。
「高出力エネルギー転換装置(バーニア)まで積んでんのか……リーダーは」
「着いていけねぇよ……。 あのスピードにゃあ…。 Gを感じて無いんじゃないか?」
「まさか、腕力と脚力でマシンを押さえ込んでんだろ? どちらにせよ、バケモノだけどな」
先程の男とは別に、殿をつとめる二人の男が何とか会話できるスピードで走っている。
彼等も先程の男と意見同じくして、一本木にある種の恐れを抱いている様だ。
その後も彼等はチームの最後尾で一本木の話題で盛り上がっていたが、
ふと自分達の横がパッときらめいたのを見て、思わず停止する。
一一一GEARか?一一一
そんな不安がエンジンを目一杯ふかしてしまいそうにする。
だが、次の瞬間彼等二人の目に映ったのは、この峠の道路から一望出来る範囲全てが炎上する都市だった。
「ま、街が……燃えてる……」
「リーダー! 街がっ!」
片方の一人がメット横に付けられたマイクに向かって叫んだ。
すると、2秒もたたない内に一つの光が近づいてき、猛烈な風と共に去って行った。
ゴォォォォッッ!!!
「うわっ! 音と衝撃が後から来たぞ!」
「お………音速? 身体を固定するものも無いのに?」
二人はそのまま立ち尽くしていると、やがて5つの光が近づいて来た。
彼等の仲間が引き返して来たのだ。
「あ、サブリーダー。 なんか、リーダーは街へ行っちゃったんスけど…」
サブリーダーと呼ばれた男はちら、と炎上する街を見下ろし、顔を彼等に向ける。
「この分だと、火は街全体に及んでるな……」
「だったら妹さんだな、一本木の」
「ああ、リーダーの唯一の宝物だ……」
サブリーダーとそのとなりにいた厳つい男が会話する。
そして、サブリーダーが言葉を更に繋げる。
「たしか名前は………………」
「詩織ぃぃぃぃぃっっっっ!!!!!!!!!」
一本木の叫びいや慟哭にも似た声が炎上する都市にこだまする。
彼は瓦礫と炎と人々の断末魔が支配する街をひた走った。
バイクはこの廃虚同然の街では走れそうもなく、街の入口で乗り捨てて来た。
もう数分自宅付近を走り回っているが、一本木は目当ての人物を見つける事は出来なかった。
「…はぁっ、はぁっ! この時間なら詩織は家にいる筈…。 まさか…下敷きか……!?」
そう思うと不安で居ても立っていられなくなる。
一本木は声の限り妹の名を何度も何度も叫び、走り続けた。
そして一本木が望む声が耳に届いたのは折り重なる様に崩れたビル群の傍だった。
「お…………………にぃちゃん…」
「詩織っ!!!!?」
一本木は慌てて立ち止まり、声の主を探して顔を巡らす。
そこにもう一度、確かに妹の声が聞こえた。
「おにぃちゃ……ぁん」
「詩織っ!」
見つけた。
最悪の場所でだ。
彼女は顔だけを倒壊したビルの隙間から出していて、その体は挟まれている訳ではないが、
出すこともできなかった。
うつ伏せに寝ている状態から、何とか首を巡らし一本木を見ると詩織は安堵の息を漏らした。
だが一一一。
「ちっ! 何だこりゃあ……。 なんでこんなにビルが折り重なってんだよ…」
詩織が偶然挟み込まれ、だがわずかな隙間があるその場所は、
三つの高層ビルが三角形に立ち並んでいた場所だった。
三つのビルはそれぞれ右へ、左へ、正面へと倒れ、地面直前でお互いを支え合っている。
詩織が助かったのはまさしく奇蹟だった。
「そう、だめ、なんだ……」
詩織の瞳に絶望が浮かぶ。
一本木は慌てて励ますと、詩織の頭の上の建材を掴む。
一一一そして、何を思ったのか力まかせに三つのビルをひっくり返そうとする。
当然、倒壊したビルはびくともせず、崩れた小さな破片が一本木の頭に降っただけだった。
「やっぱり………、駄目なんだね…」
顔を背ける。
だが、一本木は諦めずに励まし続ける。
「諦めるなって、助けはきっと来る、な?」
「…………ん」
詩織は変わらず目を閉じたままだ。
一本木は励ましがてらにこの惨状の原因を尋ねてみる。
「なぁ、詩織…。なんで街がこうなったか…分かるか?」
一本木の声も苦しげだ、それもそのはず、彼は一度力を加えたことにより、
再び崩壊を始めた建材を両腕のみで支えているからである。
そんな一本木の問いかけにぽつりぽつりと答えはじめる詩織。
「窓の外がピカッて光ったの……、そしたら大きな、大きなGEARが来て……次の瞬間には街中をGEARが暴れてた…………。あの大きなGEAR……あれは……あ、あ………あああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
「詩織っ? しおりっ!!!? しおりぃぃっ! どうしたっ!? おい、しっかりしろ!」
突如として暴れ出した妹に両腕を塞がれ何も出来ない。
だが、これ以上下手に動かれると今自分が支えている建材が今すぐにでも崩れかねない。
「詩織! 詩織! 落ち着けっ! 一体何だってんだよっ! 詩織っ!」
「逃げてっ! 逃げてお兄ちゃんっ!!」
「に、逃げ…? おい詩織っ! 何を言って…!」
「逃げて、逃げて、逃げて、逃げてぇっ!! お兄ちゃん逃げて!」
一本木は混乱する、逃げろ、とは一体なにから?
これだけ切羽詰まった妹の様子を見ていると、逃げなければいけない様にも思える。
だが、今俺が手を離したら一一一。
そう考えると一本木は一歩も動く事は出来ない。
「お兄ちゃん逃げて……あれはまだ近くに……」
「詩織…?」
「あれは………! お兄ちゃん…お願い…逃げて!」
建材が大きく軋み、欠ける。
一一一もう保たない!
一本木が反射的に目を閉じたときだった。
『それ』が風を切る音とともに降ってきたのは。