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・ 平日の午後 ・ 「つまんない」 端正な容姿の青年が、雰囲気にそぐわない言葉を発する。 「どうしたのユニコーン?」 「・・・・・」 契約者にして大好きな友達であり仲間の言葉にも、ユニコーンは黙したまま。 尋常ならざる暇の持て余しぶりに、北斗はネットサーフィンを止めた。 「銀河の方に行ってみる?ドラゴンは下の手伝いしてるからしょうがないけど・・・・・」 隣ならレオ達もいるだろうし、と遊び案を提示するが・・・・・ 「皆は会ってるから良い・・・・・」 「え、じゃあ・・・?」 俯いたユニコーンの髪が、淡く光りながらぱさりと落ちる。 ちょっと前から無作為状態なユニコーンの藍色の髪。室内では紺色にも見える。 実は解いている方が珍しい。だから気分転換かなと北斗は思っていた。 思っていたが・・・・・ 「・・・・・バイパーが遊んでくれない」 (成程・・・・・) お目当ての人物がいなければ楽しさも半減するというもの。 北斗はユニコーンの倦怠に、のろのろと額を押さえた。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「バイパーじゃなきゃ駄目なの?」 「だってもう一週間も会ってないんだよ!?」 「ギアコマンダーの中は?」 「自分の部屋にこもってる。寒いの嫌なんだって」 「まるで冬眠みたいだねー」 「そう。冬眠」 「え?」 ごろんと北斗のベッドに転がり、投げやり全開でユニコーンは答える。 「寒いのと熱いのは嫌なんだって。室内のヒーターも好みがあるらしいよ」 「・・・そ、そぉ・・・」 据わった眼が見えて北斗は後ずさる。 (うわぁ・・・話には聞いてたけど・・・・・) ≪ユニコーンはデータウェポンの中では"末っ子"≫ ドラゴンの言葉を思い出す。 自分たちを血族に見立てた場合、そうなるのだと。 加えて≪信頼≫を象徴に持つユニコーンは、好意を持つもの全般に心を預けまくる傾向がある。 ―――――平たく言えば、甘えっ子なのだと。 「遊んでくれない〜!かまってくれない〜!髪いじってくれない〜!!」 じたばたじたばたじたばたじたばた・・・・・・・・ 長身の青年がひらひらした服のまま、ベッドの上を巻き寿司状態で往復している。 ある意味妙な趣だが―――――やはりいまいち格好がつかない。自堕落の典型にしか見えない。 これがデータウェポンと言ったら・・・・・どれだけの人間が信じるだろうか。 (・・・・・困ったなぁ・・・・・) 音にもならない深い溜息をつき、北斗はカチカチとギアコマンダーのダイヤルを回した。 しゅんっ、と微かな音がしてバイパーの紋章が浮き上がる。 「呼んでみようか?バイパーの事」 「え!?」 がばっと起き上がるユニコーン。 きらきらと眼を輝かせるユニコーンの前で、ケーブルを取り出してパソコンに繋ぐ。 エリスから教えてもらった手順をたどる―――――と、チャット画面に似た窓が開いた。 「できるの!?」 「一応呼び出してみるけどねー・・・・・起きてたら返事位は返してもらえると思うんだ」 バイパーの性格上、本気で寝てでもいない限り無視はしないでしょ? そう言って北斗はにっと笑った。 「・・・・・そっか。北斗の言葉なら・・・・・」 独り言の様にユニコーンが言う。 多分、いや絶対に出てくるだろう。バイパーはそういう性格だ。 「ありがとう北斗!大好きっ!」 「・・・・・ユニコーン、ちょっと重い・・・・・」 笑顔のままで後ろから腕を回すユニコーン。 風もないのに服がひらひらと揺れる。 さっきまでのどんより気分はどこへやら。 その様は『浮き足立つ』を体現したと言っても差し支えなかった。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「・・・・・で?暇つぶしの為だけに、主様まで巻き込んで私を呼び出したのか?」 「いたいってばぁぁ・・・」 びよーんと擬音を書き込みたくなる程、ユニコーンは盛大に頬を伸ばされている。 それでも声は変わりなく出せるのが凄い。 「答えないともっと痛い目に遭わせるが?」 完全無比な無表情で、バイパーがユニコーンの眼を覗きこんだ。 「だって出てきてくれないじゃないかぁぁぁぁっ・・・・・」 「他にも色々あるだろうが、暇つぶしなら」 「あ、それ僕が言った」 北斗が苦笑いながら口を挟む。 バイパーはそんな北斗を見―――抵抗もしない(むしろ何気に楽しそう)ユニコーンへと視線を移す。 「・・・・・」 ややあって手を離し、苦々しげに腕組みした。 「―――――何して欲しいんだ?」 がばっ!! 「重いっ!」 抱きつくユニコーンに真っ直ぐ蹴りを入れ、叫びながら身を起こす。 「ユニコーン・・・・・押し倒すのはまずいと思うよ・・・・・」 「ええっ!?押し倒してなんかないよっ人聞きの悪い!」 蹴り飛ばされたユニコーン、とっさに身体を透過させて室内の家具を守っている。 ひょんっと起きて何もなかったかの様に反論――――― がんっ! 「ごめんなさいぃぃぃっ!僕が悪かったです―――――!!」 「私の許可なしに抱きつこうなど千年早いわぁっ!!」 がっちり後頭部を押さえられ、床にうつ伏せなユニコーンがもがいている。 「・・・・・引きずり倒して押さえ込むのもまずいと思うよ・・・・・バイパー・・・・・」 力の差か立場の意識か、全く持って抜け出す事ができないユニコーン。 長い手足をばたつかせられて、思わずベッドの上に避難した北斗はそう呟いた。 ある冬の、平日の午後――――― 「お前ら暇そうだな?」 その声は・・・・・平和に結ぼうとした顛末を断ち切って入った。 「ドラゴン!」 ドアをすり抜けて現れたのは、ウェイター姿のドラゴン。 ポラールの手伝いをしていた筈では・・・・・? そう北斗が見やると、ちょっと笑って―――――すぐに笑みを消して二人に眼を移す。 「暇そうだな、二人とも―――――暇だよな?」 「えええええっ!!!」 ユニコーンが抗議の声を上げる。聡すぎる先取り予想もこういう時はしたくない。 「僕これからバイパーと遊ぶのに!!」 その抗議を無視して、ドラゴンは淡々と口を開いた。 「今日は丸一日開店してるから、応援してくれると助かるんだが?」 「良いのか、降りても」 「構わんそうだ。人型で髪の色を変えれば」 到って普通にバイパーが聞く。 「中?外?」 「それは彼女に聞かんと判らんが・・・・・髪は上げておいた方が良いな」 「判った」 ユニコーンから手を離したバイパー。“ドラゴンと同じ服で良いのだよな?”とまで言っている。 「バイパー―――――っ!!」 「あ、僕は?」 「今の所、北斗まで出なくても大丈夫だ」 「そう」 「止めてよぅっ!北斗ってば!」 ユニコーンの抗議もむなしく、さくさく話が進んでいく。 「あああああっ・・・・・僕の計画・・・・・」 落ち込むユニコーン。 その様を見ていたドラゴンとバイパーは。 「ユニも下に行くか?」 「と言うか二人いた方が良いのだが」 「ううっ・・・」 なんて追い討ちをかけていたりする。 (ちょっと面白い・・・・・っじゃなくて可哀想かも・・・・・前回は凄かったもんなぁ・・・・・) 以前に三人が出た時を思い出し、北斗は不謹慎な方向に行きかけた思考を戻す。 「ユニコーン、終わったらきっと遊んでくれるよ」 「北斗ぉ・・・」 肩にぽんっと手を置いて言う。深々と諭す様な声音と仕草で。 「少なくとも髪は結ってもらえるんだし、頑張ってね♪」 「・・・・・(泣)」 ・・・・・おおむね平和な、ある冬の、平日の午後。 ≪終わり≫ |