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〜 北斗からの Emergency Call 〜 りりんっ。 りりりりんっ。 古式ゆかしい呼び出し音は、この番号を受ける精霊達の気分で時々変わる。 今現在は夏眠状態にあるバイパーの趣味で風鈴の音だ。 りりり・・・かちゃっ。 「はいもしもし」 いつの時代も変わらない、電話を取っての第一声。 ごく自然にボアはそう言った。 “自然に”とは妙に思う人もいるかもしれない。データウェポンというのはそもそもアルクトスの精霊だからだ。 ・・・が、契約者は完全無比な日本語思考。故に仕草から雰囲気からすっかり染まり切っている。 柔らかな物腰にぴったりで、違和感ないのが素晴らしい。 『もしもしっ、ボアいる?』 「……どうされたのですか、北斗さん。」 やや詰まった様な声。 (珍しいな・・・かけてくるのもそうだが・・・何かあったのか?) 思いながらも耳を傾ける。 『今大丈夫?皆はいる?』 「ええ。相変わらず嬢は寝てますが・・・そろそろ起きる頃ですし、一応全員暇ですよ?」 『じゃあさ、悪いんだけどお願いがあるんだ―――』 「お願い、ですか?」 『うん。急いで水族館前まで来て欲しいんだ。多分僕らだけじゃ収拾つかなさそうで・・・』 「は?」 それはどういう・・・と口にする前に返事が来た。 『えっとね・・・何て言うか、ちょっとそろそろ危険かなぁって・・・』 「???」 疑問符を浮かびまくらせながらも黙って向こうの声を聞く。 ―◆◇◆・†・◆◇◆― しゅんっ。 「はいはいっ♪かき氷四人前ー♪」 電話しているその中へ、ユニコーンが戸口から入ってきた。 自分で宣言した通り、手にはウェイターよろしく四つのかき氷がある。 「こっちに置いておこうな。今電話中だから」 パタパタと手招きして、ブルホーンが自分の前のテーブルを示す。 「はーい・・・って電話?」 「ああ。どうやら北斗の様だぞ」 「いつから?」 「さっきから。という事で私達の勝負は一時停止中なんだ。休憩にはちょうど良いが」 「ほんとだ。進んでない」 かき氷の為に退けられたチェス版、なるほどその布陣はユニコーンが出てから動いていない。 「珍しーねー。レオとドラゴンがいて電話が来るなんて」 「まぁとにかく溶け切る前に終わると良いな。電話」 先にもらってるぞー、と電話中のボアに断ってぱくつくブルホーン。 「僕もお先にー♪」 「おい。バルは起こさなくて良いのか?」 「起きて来たらあげるけど、溶けるまでに起きなかったら残念でしたって事で・・・」 「それ、ボアも同じか?」 「この分だと適用されるかな?」 そう言いボアの方を見る―――と、前髪を梳いて首を振った拍子に――― 「あ゛・・・」 「どうした」 ぱさっ。 二人の眼の前で、結い上げた三つ編みが揺れて落ちた。 「あーあ、せっかく三つ編みにしてからアップしてたのに・・・落ちちゃった」 ユニコーンが近づいて残念そうにつつく。 夏だし暑いしという事で、今の自分の髪型―――バイパーの結い方を真似てボアの髪を編ませてもらったのだ。 本人、会心の作だったのだが・・・まだまだまだまだ緩かった様である。 三つ編み本体は生き残っているのだが。 「やっぱしバイパーみたいにいかないなぁ・・・」 「そりゃあ比べる方が無理だろう?」 「むう・・・修行が足らなかったか・・・」 「なんか銀河っぽい言い回しだな。今の」 プレーンかき氷をはや半分食べきり、楽しげに感想を言うブルホーンの目前で――― 「・・・そんな事になっているんですか・・・確かに困ってしまいますねぇそれは・・・」 ―――確かに、僅かだが確実に、気のせいでも何でもなく空気が変わった。 「「・・・・・」」 氷をざくざく突き崩しかけたまま、ユニコーンの手が止まる。 音を立てない様にブルホーンは氷を噛み下す。 身じろぎするのも憚られる鋭さ。下手に動いたら―――自分に向かっているんじゃないのに―――切られそうな。 ((な・・・何事・・・?)) 「判りました。北斗さん達はその場で動かないでいて下さい。すぐに参ります」 『ありがとうボア!』 「いえいえ。それと一応・・・介入しようなどとは絶対に思わないで下さいね?危険ですから」 『うん。じゃあね!』 「はい」 かちゃんっ。 「―――あのバカ共っ・・・!」 びくうっっ!!! ユニコーンと、そしてブルホーンまでもが身を竦ませる。 温和で知られる『長兄』の―――そのたった一言の低い呟きに。 (・・・怖いよぅっ・・・今「バカ」ってカタカナだったしっ・・・ちょっと聞いてきてよっっ!) (私に言うなっ!あの状態のボアと普通に喋るなど嬢しか・・・) (じゃあバイパーに聞いてもらおう!) (・・・そうしとこうか。私達の平穏の為にも) 小声で会議し、素早く意見をまとめる。 ユニコーンはチェス板の隣にある北斗のモバイルへ手を入れた。 ギアコマンダーは持ってかれてる為、今日はこっちに仮の寝床を作っているのだ。 そのままちょっとだけ意識を潜らせる。 こつこつ。 こつこつ。 こつ・・・ 『・・・ユニ?』 「バイパー起きてー。ちょっと大変なのー」 (ユニの感覚では)ノックを繰り返す事数回、インターホンを取ったバイパーが半分寝ぼけた様に出てくる。 『・・・大変?』 「うん。あ、イチゴのかき氷も待ってるから早く来てねー?」 『かき氷が大変なのか・・・?』 がばっとしたサマーセーターをすっぽり着て、下はショートパンツという完全夏眠仕様で首を傾げる。 「と・に・か・く!起きて起きて今すぐっっ!!」 『・・・判った判ったちょっと待ってなさい・・・』 多分に寝ぼけながらも、夏でも崩さない生成りの長袖シャツと黒のロングスカートという出で立ちで外へ出て――― 「ああ・・・起きたんですか。おはようバイパー・・・もう朝じゃないですが」 「おはようございま・・・っ!?」 紫の光も引かぬ内からかかる声。 反射的に丁寧に挨拶を返す―――その語尾がぶつんと切れた。 今まさに髪を解き、手を一振りして取り出した帽子をかぶるボアを目前に。 「ボア」 「はい?」 「何事だ・・・?」 茫然と呟く―――声に出せるだけユニとブルより凄い―――バイパー。 本気モードの彼を見るのは、一番近場で自分とレオとの乱闘時以来だ。 「・・・もしかして私が結構寝てたからか?」 確かにここの所ろくに起きていない自覚はあった。あったが・・・ 「あぁ、違いますよ嬢。私はそんな事まで咎めたりしません」 二人みたいに迷惑かけている訳ではないのですから―――というボアの微笑みはとてつもなく剣呑だ。 証拠にがしっ!とユニコーンがバイパーの腕にしがみついてくる。 バイパーもそれをこの場で払うほど無慈悲ではない。 ・・・身長差が20cm以上あるのに、大きい方が隠れてる様はかなり情けないものがあるけれど。 「・・・何があった・・・」 二度目の問い。 この場で唯一電話の中身を知る存在へ、三色の視線が三様に問う。 「聞きたいんですか?」 「私達は受けていないんだ。聞かねば判らん・・・」 ブルが言いつつユニコーンをさり気なく引き剥がして預かる。 「・・・別に、どうという事はないですよ」 ここまで低く声は出せるものなのか、という声でボアが告げたのは。 「レオとドラゴン、どうやら往来で喧嘩してるらしい」 「「「はぁ!?」」」 「だから行くんだよ。公道で揉め事を起こすなという項目、躾のしなおしが必要であろう?」 「「「・・・・・」」」 言葉使いが完全に変わった。 垣間見せたのはほんの一瞬。しかも言葉が崩れるのは仲間内でのみ。 絶対に外でこういう空気をまかないのは判っているけど・・・・・バイパーですら思わず沈黙したのだ。 ブルもユニも平静を保ってはいるが、立ち位置が数歩下がっている。 「・・・と、言う事で皆はどうします?留守番しておきますか?」 「いや、私も行く」 「北斗達もいるんだし、僕達いた方が良いでしょ・・・?」 「同じく」 「まだ暑いけど・・・良いんですか?」 「行く」 一人で行かせられる訳はない。 帰途の間の空気が重くなりまくる事確定である。子供達の精神衛生上絶対に良くない。 あまつさえ二人がボアの地雷に触れようものなら・・・・・やはり、抑え役は必要だろう。 「そうですか・・・では行きは手っ取り早く、路面電車のケーブル伝って行きましょう」 オブラートに包まれた不機嫌をまとい、きゅっと帽子をかぶりなおしてボアは言った。 温和の代名詞にもなれるその笑顔。 一体これからすれ違う何人が、微笑みの下の氷柱を見分けられるのであろうか。 期せずして三人は同じ事を思った。 (((何時間かかるかな・・・この空気が消えるまで・・・))) |